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進学と出会い
19話 再開と教育
しおりを挟む全校生徒がホールに集まり、入学式が始まった。
マリはいつも、こういった行事では、校長や先生がうんちくを話すので聞いてもすぐに
忘れてしまうので、全く関心がなかった。
「それでは、最後に松田理事長あいさつをお願いします」
マリは先ほど、車に乗っていた高齢の女性だと気が付いた。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。この晴れやかで桜が舞う良き日にこの学校で
あいさつができることをうれしく思います。わたくしはこの学校を創設して、今日でちょうど
50年になります。それまで、いろいろな事があり、たくさんの生徒と接し、教育を
行ってまいりました。しかし、何を教えようが、生徒自身が本気になって、何事も取り組まなければ、無意味な時間を過ごすようになります。だから、皆さんには『誇りを持って美しく生きてください』この一言を皆さんに送ります」
あっという間に挨拶が終わり、マリはびっくりした。でも、心に残るその言葉は、マリだけではなく、ここにいる生徒みんなに何かを気づかせたような感じがした。
「理事長、お疲れさまでした。こんなに無理をして、車まで送ります」
マツの息子で校長の竜彦が今日で最後の母の姿を見て、目には涙でいっぱいになっていた。
「ありがとう。竜彦、これから、この学校を頼みますね」
「わかっています」
入学式も終わり、校舎のクラスへ移動するその時、ユウキが
「マリちゃん、ちょっと一緒に来てくれるかな」
そう言ってマリの手をしっかりと握って、校舎外の黒塗りの車がいたところに走っていった。
「ユウキくん、どこに行くの?教室は反対側だよ」
「いいから、着いてきて」
マリは訳が分からず、ユウキについて行った。
「ふ~、間に合ったかな」
先ほどの黒塗りの車の前でユウキは立ち止った。
二人の生徒が車の前で立ち止ったのを車の中にいた運転手の相沢が見て、入学式そうそう
こんなところで、いちゃいちゃしやがってと思い込み、
「ガチャ」
車から出てきた。
「おい、学生さん、こんなところで何をやっているんだ。入学式はどうした」
二人はびっくりした顔で
「すみません。人を待っているんです」
「人?人なんかここには誰もおらんぞ。さぼるにしたって、入学そうそうカップルが
なにをしてるんだ」
相沢はいらいらしてきた。
「え~と、そういうんじゃないんですけど。
それに、そんなに怒らなくてもよろしいんじゃないでしょうか」
「ユウキ君、おじさんの言う通りだよ、早く教室に戻ろう」
「だめだ。もう彼女には時間がない。こんな偶然があるだなんて、僕自身も驚いているけど、マリちゃんには絶対にここで会ってもらう」
「誰に合わせる気なの?」
「マツだよ」
「マツ? だれ?」
「理事長だよ。さっきホールでしゃべってたでしょ」
「理事長?なんで私が会うの?全く知らない人だよ」
「そうだったね。少し慌てていて、ごめん、わけわかんないよね」
「ふ~」
とユウキが一息つき
「マツは今はこの学校の理事長かもしれないけど、かつては日本帝国軍情報局副官だった人で、戦後もその情報局は密かに存在して
この日本を残すために尽力された隠れた英雄の一人なんだ。それはもう、超が付くほど優秀で実力では情報局長官をも、はるかにしのぐ能力を持っていたんだ。だけど、長官には、頭があがらなかった。長官はマツにはあらゆる面で劣っていたかもしれないけど、人を惹きつける力と統率力とリーダシップ力が半端じゃないほどすごかった。マツさんも長官を溺愛というか、かなりメロメロだった・・・・・」
マリは不思議な顔をして
「ユウキくん、もっとわけわかんなくなったんだけど」
その時、息子竜彦につかまり、ゆっくりとマツが歩いてきた。
「マリちゃん、来たよ、マツだ」
「だから、わけわかんないって、聞いてる?ユウキくん」
ユウキはマツに釘付けになり、マリの言葉が耳に入らなかった。
ユウキは春の暖かい太陽の日差しが顔に当たり、心地よい気持ちでマツを見てニコニコと
笑っていた。マツが目の前まできたが、意識がもうろうとしているようで、
校長の竜彦が
「おい、生徒がこんな時間にここで何をしているんだ」
大きい声で二人を怒鳴りつけた。
ユウキは何ですかと言った顔で
「マツ、聞こえるかい?」
「え、気分が悪いわ・・・」
マツの具合はかなり悪そうだ
「母さん、今、車に乗せるから」
「ちょっと、待ってください」
ユウキはポケットから丸い球体のような光る物を取り出して、マツにかざした。
「なるほど、これなら、少しはなんとかなるかな」
目を閉じて、球体に力を注ぎこむように念じた。球体が光りだして、その光がマツを包み込んだ。
数秒した、その時、マツは目をぱちぱちさせ、顔には生気が戻り、元気になり、すくっと
自分で立ち上がった。
「マツ、体がアスベストにより、ガンが併発したんだね。30年ぐらい前までにかなりの量を吸い込んだことが原因だね。
でも、ごめん、老衰もあり、たぶんあと3年ぐらいしか生きることができないよ」
マツはその声、しゃべりかた、信じられないといった顔で目には涙であふれそうになり、
「ウウウ・・・ユウキさん・・・」
ユウキも嬉しそうな顔をして
「久しぶりだね。マツ」
二人が約50年ぶりの再会を果たした。
「母に何をしたんだ。だいたい学校に変なものを持ってきて、そんなんで寿命が延びるわけないだろ」
「校長の言う通り、早く教室に戻りな、全く理事長に対して失礼なことばかりしやがって」
校長の竜彦と運転手の相沢がユウキに対して怒っている姿をみてマツは急に怒り出し
「二人とも、おだまり!竜彦! もうここはいいから、早く学校に戻りなさい。
校長がいつまでこんなところにいるんだい、母が死のうがこの学校をまかせたんだ。しっかりおし」
「でも母さん大丈夫かい」
「早く戻れと言ったんだよ」
竜彦はかつての怖い母が脳裏に浮かんできて、走って校舎に戻って行った。
「相沢さんもちょっと車の中で待っていてくれるかい」
そう言われるとすぐに車の中に戻っていった。
どうやら、二人にとってマツは逆らうことのできない偉大な存在らしい。
「は~、やっと邪魔者がいなくなったわ。ユウキさん体、直してくれてありがとう」
「あと3年ほどは生きれると思う。
僕は病気は直せるけど、人間の本来の寿命をのばすことはできないんだ」
「そうよね、知っているわ。一緒に戦った仲間だもの」
「それにしても、50年ほど前に急にいなくなって、また戻ってきたの?
相変わらず、年をとらないからうらやましいわ」
「そうだね。マツ今日はどうしても合わせたい人がいるんだ。僕の使えるべき、平和への使者」
そう言って、ユウキは周りを見渡した、マリは入学そうそう問題を起こしたくなかったのか、
ユウキがマツに気を取られている間に教室に戻ってしまった。
「マツ、ごめん、どうやら教室に戻ってしまったみたいだ。どうもまだ、幼いんだよね」
「次の使者ね、ユウキさんの目を盗んでいなくなるなんて、かなり見込みがあるんじゃない」
マツは笑いながらそう答えた。そして、しばらくして真剣な顔で
「じゃあ、また大戦が近いのかしら」
「そうだね、間違いない、いつとはまだ言えないけど」
「私のところにユウキさんが来たということは、まだこの老婆に鞭を打ちに来たのかしら」
「はあ~、全くマツにはかなわないな、相変わらず、先を読む力も健在だね」
「どういう人かわからないけど、あと3年いただいた寿命でその子を徹底的に鍛えあげるわ、
任せておいて」
「う~ん、でもマツ、その子に厳しくできるかな?」
「何を言ってるの、私は長いこと教育に携わってきたのよ、どんな子でも大丈夫」
「でも、見た目そっくりだから、厳しくっていうのは微妙なところかな」
「言っている意味がわからないけど、そうねえ、今日は入学したばかりだし、
こちらも準備が必要だから、来月そう5月から、教育できる体制を整えるわ、
そうだ、その子は男性?女性?」
「女の子だよ」
「わかったわ。ユウキさんはその子のやる気をうまく引き出して、来月、私のところへ連れてきて」
「う~ん、やる気はねえ、かなりあるというか空回りするぐらいあるんだよね」
ユウキはマツにとりあえずヤエの孫とか似てるとか言うのはこの場ではやめておこうと思った。
「ユウキさん」
「え」
「そろそろ教室、戻らないと、もう授業始まってるわよ、教室に着いたら、
遅れた理由はおなかの調子が悪くてトイレにいましたといえばいいわ。この学校は厳しいんだけど、体の具合が悪い人はどんな理由でも許されるようになっているから」
ユウキは相変わらずマツは気が利くなあとつくづく思った。
「わっかったよ。マツありがとう」
そう言ってユウキは教室に戻っていった。
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