平和への使者

Daisaku

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フランス日常編

129話 妹の力

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「おい、レナード、ちょっと待てよ。どうやら、葉子もマリと試合をするみたいだぞ、せっかく来たんだ。もう少し見て行ったらどうだ」

「あ、そうですか。それなら見て行きます」

「葉子はマリと朝早くから、ここのところずっと鍛錬をしてきたから、面白い試合になりそうだな」

葉子は師範マリに教えをいただき、自分が強くなったと言われたことがとても嬉しかった。
そして、いつもは様々なことを教えていただいてるが、本当に向き合って試合をするのが初めてのため、とても緊張していた。

「両者前へ」

一礼をして

「はじめ!」

試合が始まった。葉子はマリの教え通り、相手のスキを探った。
師範の教えでは、相手のちょっとした動きや、細かくいうと、目の瞬きする瞬間まで、
相手の動きを探り、一瞬でそこをねらう。葉子は慎重にマリの様子を探った。

しかし、見れば、見るほど、マリの姿が大きく見え、スキどころか、
相手の強さに委縮して、身動きすら取れなくなっていた。
その様子を感じ取ったマリは葉子に正拳を入れてきた。
葉子は少し手加減をしてくれている正拳だと見極め、すかさず手で払いのけた。

「バチン」

「オ~ウ」

試合を見ている者がマリの正拳が目に見えないほどの速さだったのに葉子はそれを払いのけたため、驚いた声がでた。

「イブさん、葉子、結構やりますね。私は以前、局長にあの正拳をくらい、鼻血を出しましたからね」

「いいぞ、面白くなってきたぞ」

そして、葉子が蹴りを突き出した。

「エイ」

その動きはとてもスムーズでまるで、床の上が氷のようにつるつるで横に滑って移動しているように見えた。しかし、マリはなんなくそれをかわした。
それで葉子は攻撃の手を緩めず、空中に飛び体をひねりながら、上部からマリの脳天めがけて、
蹴りを出した。マリは両腕でそれを受け止めた。

マリは試合をしながら、葉子の上達がとてもうれしかった。

葉子はとてもまじめで、教えたことは徹底的に覚えるために何度も何度も練習して、
できなければ、朝の稽古以外の時間や、休日も朝から晩まで必死に鍛錬をしていた。
マリの稽古の時間はあらゆることを教えてもらい、稽古の時間以外に徹底的に練習する。

葉子はマリの弟子になってからは 死に物狂いで頑張ってきたのだ。

かつて、小さい時におばあさまに教えをいただいた時には、ある程度までは上達したが、
15歳ぐらいからは、なかなか武術が上達しなくて、いつもおばあさまのあの冷めた目にいつも自分に劣等感と期待を裏切るような身を切る思いがあった。

だからマリには絶対にそう思わせないように必死に頑張ってきた。
しかし、なぜか師匠マリに教えられると、すぐにできるようになる。
葉子はマリが相手の心を読むことができるすごい人だということも理解し始めていた。
だから、私の悪いところや、なぜ、武術が上達しないのかを瞬時に読み取り、
稽古を受けるたびにめざましく進歩していたのだ。

「葉子!少し本気を出すよ。しっかりついてきなさい」

「はい!師範!」

マリはそういうと体に力を入れ始めた。すると、体が筋肉でふくらみ始めた。
そして、硬直した体はマリの体をひと回りほど大きくした。
マリの変貌ぶりに目を取られていた観客だが、葉子もマリほどではないが、
自分の体に気をためて、少しだが、筋肉が膨れて硬直してきた。

そして、マリは軽く気功波を出した。

「バヒュン」

葉子はそれをよけながら、マリほどではないが同じく気功波を繰り出した。

「ビュン」

見ていた観客は締め切った会場内に正拳を繰り出すたびに起こる風のような空気が
とても不思議な感じだった。
その様子を審判で兄の松田大介は体が震えるように二人の試合を見ていた。

「あ・あれは、松田松濤館流気功波風雷、ウソだろ葉子。父さんや俺だって、全く使うことができなかった秘奥義をお前が使えるなんて」

そして、葉子は同じく、秘奥義蹴風戦を空中に飛び繰り出した。

「ヒユ~バシュン」

マリは葉子の上達が嬉しくて笑いながら、その攻撃をかわした。
そして、葉子が空中から着地した瞬間をねらい、顔面に蹴りを繰り出した。
その蹴りは軽く葉子の顔面にヒットした。

「1本」

マリの勝ちが確定した。マリは笑いながら

「葉子さん、ちょっと高く飛びすぎましたね」

葉子は、マリと戦いながら、

『師範は、こんな試合の時まで、私の力が最大限発揮できるように動いてくれた。
そして、また、私に戦いを通して、悪いところやもっと鍛錬を積むべきところを教えてくれた』

そんなことを考えていたら、葉子は目から涙が出てきた。

「葉子、武道家は人前で泣かない。ほら、そんなところに座りこんじゃだめよ」

マリは葉子に手を差し出して、体を引っ張りあげた。

「ありがとうございます。師範、いつもすみません」

「ほら、もうそんなこといいから、しっかりと立って審判や私に一礼をして」

「はい」

大介を含め、その光景を見ていたものは、師匠としてのマリの想いや弟子としての
恥ずべきことのない前向きな姿勢が見る者の心に伝わり、
皆、言葉も出ず、その姿に見とれていた。

「ユウキ兄さん、今日は、とてもいい試合を見させてもらいました。
長官と見分けがつかないほど、マリはすばらしい人でした。
さすが、フランス治安情報局の局長、皆が慕うわけですね。
ふ~、私もどうやら、年甲斐もなくマリに惹かれてしまいました。
長官の遺志を受けづく飛島マリに残りの人生を捧げてみようと思いました」

「レナード、お前は今頃、そんなことを思ったのか、私なんて、会ってすぐだ。
これから、お前も忙しくなるぞ」

「ハハハ、望むところですよ。もう、農業なんてやっている気分ではなくなりましたよ」
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