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第一章 開業 異世界民泊
最初のお客様~エルフのミリアル~ 2
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俺は公園のベンチに座りながらぼんやりと若いころのことを思い返していた。
――あの頃は、結構遊んだなあ。
新宿が俺の庭だった。庭などと偉そうなことを言うが学生時代は住んでいるわけでもないのにほぼ一日あそこで過ごしていたような時もあったのだから言い過ぎというほどのこともないと思う。
違法なこと以外は色々遊んだ。銃声を聞いたこともあるし、外の風俗店の入ったペンシルビルが雀荘から出てきたら燃え落ちていたなんてことも経験した。何でもありの町、そこが魅力であり、俺を引き付けていたような気がする。幸い命にかかわることは経験しなかったし、やくざに脅されたり、薬いらない? と声を掛けられたことぐらいしか怖い経験はない。それに比べれば最近近所の公園で夜な夜な五月蠅く騒いでいる高校生などかわいいものだ。一度注意したが近所のおばさんに「危ないからやめときな」と言われた。本当に怖い奴は黙って刺す奴だからなあ、などと彼女に伝える必要はないので曖昧に頷いて見せた。本当に怖い人間はあの町に暫くいたらわかるようになる。ただの甘ちゃんか、本気のサイコパスの差は歴然としているのだから。
その経験を生かして物語を書こうと思ったが、実際にそんな機会はなかった。何でも物語の肥やしになるかと言われたら大間違いである。実際に描いたら問題があるのか、需要がないのかはわからないが――。
「――こんばんは」
そんなことを考えていたら声を掛けられた。
「お誘いに応じていただけて嬉しいです。――素敵なお召し物ですね」
返事をして目の前に立つ金髪の美女を観察する。緑がよく似合う。彼女は雑誌の森ガール特集に出てきそうな衣装に身を包み、俺の前に立っている。
「コーディネーターが選んだのよ。こっちに来るときに渡されて……」
彼女は少し苛ついたように顔を顰める。
「それでも、お綺麗ですよ。よく似合ってます」
本当にそう思う。あの糞みたいな性格さえなければ一度ぐらい夜を共にしてもいいかなと思える程度には。
「――あの」
「はい?」
彼女は言い辛そうに俺を上目遣いに睨む。ああ、あれかな?
「差し入れ、お気に召して頂けましたか?」
「! ――ふん、まあまあ、ね」
まだまごまごと口を動かしている。プライドが邪魔してその先が言えないのだろう。
「お気に召されたのでしたらお持ち帰りなさると良いかと。今はもう閉まっておりますが場所は商店街の坂の前で――」
つらつらと店の情報を彼女に与える。顔はそっぽを向いてはいるが、少し赤みを帯びた耳は時折こちらの声にぴくぴくと反応していて見てて非常に滑稽で、可愛らしい。
「――気が向いたらね。気が向いたら買って帰ってもいいかしら、ね。ものの――次いでで」
こちらは笑いをかみ殺すに必死で、多少だが溜飲が下がった。
しかし――まだ足りない。
「菓子程度ではお腹も十分に膨れないでしょうし、今日は私がご飯を奢らせて頂きたいなと思いまして。いえ、初めてのお客様ですし、ちょっとしたサプライズですからお気になされないで下さい」
「――ふん、くだらない店だったらすぐ帰るわよ?」
彼女はまたしても例の冷たい視線を俺にぶつける。いいねえ、じゃじゃ馬なほどやる気が湧いてくるってもんよ。
「こちらです。マドモワゼル」
俺は先立って歩き、横断歩道を渡り、幡ヶ谷六号通り商店街のアーチを潜る。
少し歩くとすぐ横の裏路地に入る。目的地はすぐそこだった。既に多少の列が出来てしまっている。
「ここですが、少しお待ちください」
「――なによ、ここ」
彼女は怪訝そうな顔で俺を睨む。
「――美味しい、スープのお店です」
答えている間に一気に客が外に出てきた。よかった、そんなに待たずに入れそうだ。
「どうぞ」
俺の後を彼女はついてきて店の小さな戸を開く。
「豚小屋じゃないの? てか、せっま」
店に入るなり悪態をつき、一瞬満員の店内の空気が凍る。
「味は格別ですから――私が食べれるものを選びますね」
この店は食券制だ。先に購入しなければならない。
「貝――は食べれますか?」
「ええ――肉じゃないなら」
「なら、これで」
俺は今限定でおいてある蛤100%のスープを使用しているというつけ麺をチョイスする。俺のほうはノーマルな醤油を選択する。そう、ここは『ラーメン屋』である。事前に食えるものがあるかどうか昨日来店して調べておいたのだ。この店、ちょくちょく限定メニューを出す。今回は限定ラーメンのほうは一日15食限定なので早めに並ばないと食べられない。あってよかった。
食券を店員に渡して「すいません。こちらの御婦人は肉が駄目なのでチャーシューが入っているなら抜いて頂いても良いですか? もしくは別に盛っていただければ……」と申し出る。店員は了承してくれた。
狭い店内で俺たちは並んで座る。
視線が痛い。主に隣に座っているじゃじゃ馬の、だ。明らかに不満を抱えているのがわかるし、団子程度ではお腹もいうほど膨れなかったろう。空腹によるいら立ちもあるかもしれない。その不満が噴出するかどうかのタイミングで――それは運ばれてきた。
「――どうぞ、お待たせいたしました」
目の前に供されたそれを見て彼女は固まる。
「なにこれ?」
「それはつけ麺といいまして、そちらの練り物を汁につけて食べるのです。美味しいですよ? このように」
俺は自分のもので手本を見せる。
「まず、スープだけでも味をお確かめ下さい。こちらのレンゲ、と呼ばれるもので掬うとよろしいかと」
「……不味かったら、すぐ出るわよ?」
不安は多少あったが、俺は自分の味覚を信じている。ここは旨い、間違いなく。
固唾をのんで彼女がレンゲを口に運ぶのを見届ける。
金髪をかきあげ、覚束ない手つきでそれを薄いピンク色の唇から中に滑り込ませると――。
「――あふぅぅぅぅぅぅ」
もうその表情は最大限に弛緩していた。
一口、また一口とレンゲでスープを啜る。その手は止まらない。
妙な色気が店内にふりまかれ、男性客たちの手も思わず止まる。その視線に気が付いたのか彼女は我に返ったように俺の方を見た。
「どうですか?」
「ま――まあまあ、ね」
耳まで真っ赤にして彼女はそう答える。
「ここの汁はラーメン屋と思えないほど洗練されています。普通このラーメンという食べ物は脂とかいろんな雑味を含んで供されることが多いんですが、ここは真逆です。ここのスタンダードな味はトリプルスープ――三つの味を混ぜて提供されるのですがそのどの味も『雑味』がありません。まるで割烹のように繊細で、一つ一つの味が研ぎ澄まされ感じ取れます。それだけ、洗練されているのです」
いくつか彼女にはわからない単語や表現もあるだろうが、ニュアンスは伝わっている思う。
「そちらは蛤という貝から出汁をとったスープで構成されています。どうぞ、その麺も一緒に食べるとまた違った味わいが楽しめると思います。試されては如何ですか?」
俺は手本とばかりに麺をスープにつけ啜り上げる。その様子を見つめていた彼女は俺と別に盛ってある細麺とスープを順番に3巡くらい見回してしてぽつりと、呟いた。
「――食べさせて」
「は?」
あまりにも予想外の一言につい粗野な言葉の音域で返してしまった。
「わかんないから食べさせなさい! 連れてきたなら責任持ちなさいよ!」
彼女はそう言って俺を睨みつけた。……まあ確かにいきなり箸を使わせるのはレベルが高いかもしれない。しかし――。
こいつが超美人なせいで無駄に注目を集めてしまっているのもあるが、俺は周りの男性客の視線のほうが気になってしまう。無駄に高嶺の花を侍らせた経験がないからこその、ちょっとした優越感と現実の劣等感がないまぜになっているのを自覚する。
「――分かりました。どうぞ」
俺は意を決し箸を取るとそれを軽く透き通ったスープに泳がせて彼女の口元に運ぶ。彼女は少し逡巡した後、先ほど俺がやって見せたように麺啜った。
ちゅるん。
ピンク色の唇の隙間に黄金色の細麺が滑り込む。
またしても悶えるかと構えていたが、意に反してノーリアクションである。気に入ったのかどうかもわからない。ただ無言で咀嚼している。そして――。
「おおぅ……」
もう一度箸を口に運ぼうかと思ったところで、何と彼女は泣き出してしまった。
周囲の視線がこちらに刺さる。特に何もしていないんだが……。
「天の大神よ――私は罪を犯しました」
彼女は虚空を見つめそう言うと、罪の告白を始めてしまった。ちなみにここは狭いが懺悔室じゃない。
「地の恵み――海の旨味、全てが混然となって私の中に取り込まれ――ああ、このようなものを疑ってしまった私の不見識をお嗤い下さい――」
そういうと彼女は俺の手から箸を奪い取るとたどたどしい手つきながらも麺を自分で啜り始めた。
「おふぅ――ずりゅ――うふぅ――はぁ……」
涙と鼻水を垂らしながら美女がラーメンを食べる光景はシュールだ。俺はもう放っておいて自分のほうのつけ麺に集中することにした。一口食べて思う、ああ『旨い』な、と。
美味い、ではなく『旨い』。この食い物はすべての出汁の旨味をどれも殺さず、かつ生かし切っているからこそ出せる味だ。ここのラーメンはいつ食べても後味が最高だ。というか、何も嫌なものが残らない。たいていは脂で胃がもたれるか、過度の匂いが口中にこびりつくものだが、ここのラーメンはまさに高級料亭の繊細さをそのまま閉じ込めた味であり、そこに出されたとしても決して見劣りしないだろうし、むしろこの一杯だけで満足できる分優れているに違いない。
それがこんな町角の路地裏で営業しているのだから面白いなと思う。確か最近ミシュランで星貰ってたような気もするが、そんなものあろうがなかろうが旨いのだからどっちでもいい。
――夜は別の店にもいきたいな。
ここの繊細なラーメンを食べて、夜もラーメンにしようと心に決める。もう一軒、俺は行きつけがあるのだが、そっちはこっちの繊細さとはちょっと毛色が違う。雑味をすべて取り除いたものと違い、雑味を含め――まあいいや、今回の話とは関係ない。また語る機会があったら別のお客にでも教えてあげよう。
気が付けば隣にはぐちゃぐちゃになった顔のエルフと空っぽの器があった。しかも別盛りしてあったはずのチャーシューがない。俺が見ていないうちに食ったのか?
俺は足腰が怪しい彼女の肩を抱いて店を出た。少し歩いた場所にある広場に行って彼女をベンチに座らせる。
「お気に召したようで、良かったです」
「う――うん。あ、ありがとう……おいしかったあ……」
素直な、朴訥な返事が返ってきた。なんか田植え後の田舎娘みたいでちょっとかわいい。
「はっ……ううん! いや、あの、まあまあ! いや、美味しかったけど! あの豚小屋は汚いし! お風呂は狭いし!」
急に我に返ったように悪口を並べ立ててくるが説得力は皆無である。
「本当、この辺りは色々美味しい店が多いんですよ。いらっしゃる機会がありましたら、ご案内致しましょうか?」
彼女は夕刻には帰る予定だ。もう少しいろんな店を案内したいが時間的な限界はあるだろう。しかし俺の誘いに彼女は頷くでもなく、ただ俺をじっと睨み返してきた。
「――来れないわよ」
「え?」
「順番待ち――結構いるのよ。私はおじ様に無理言ってねじ込んでもらったの」
「おじ様?」
「会ったでしょう? ドリスコル叔父様」
身内かよ! てかその話しぶりだと面接もしてないな!?
「それに豚小屋なのは変わらないし、もう一回泊まりたいとかあんまり思わないかな」
「――はは」
ちっ、生意気なのは変わらず、か。
「いやあ、お気に召さなかったようで残念です。では、こちらもいらないでしょうね……」
俺は残念そうに肩をすくめ持っていた手提げを隠す仕草をする。
「――なによ、それ」
「いえ、いらなそうなので、やめておこうかと。こちら、お土産のつもりだったのですが……」
「そうね、得体のしれないものを貰っても――」
「昨日のお団子が入っております。みたらし団子というのですが、10本ほど――」
彼女は無言で俺の手の中からそれを奪い取った。あまりの素早さに逆に俺がびっくりした。
「貰ってあげます」
「は? いや、あの――」
「用意されたものを受け取るのは森部の礼儀です。姫たる私がそのような義を欠いては沽券に関わります。仕方ないですが、受け取って差し上げます。ああ、もう本当に仕方ない」
素直じゃねえなあ。まあ、じゃじゃ馬の間抜け顔も見れたからよしとするか。
「――ミリアル」
「え?」
「ミリアル=グラノラ=アリアーテ。グラノラ氏族長が長女の名において、感謝の意を表します。ありがとう」
彼女はそういうと包みの取っ手を両手で持ち顔の前にあげ、顔を赤らめながらそう言った。
彼女が異世界への門である裏口の木戸から帰っていったあと、入れ替わるようにしてドリスコルがやってきた。俺は奴を居間に座らせる。
「いやあ、お疲れさまでした!」
「色々特別請求があるから覚悟しろ?」
俺は彼女が壊した備品やら、お土産代やらの請求書の紙を奴の鼻頭に突き付ける。
「いやあ、お土産は個人的な贈り物でしょう?」
「お前、色々契約違反してるだろうが! 面接通してないだろあの娘」
「あはは~ばれちゃいました?」
「開き直ってんじゃねえ」
「いやあお父様にねじ込まれてしまいましてねえ。あれ、じゃじゃ馬でしょう? お父様も娘馬鹿な方で、本来は別の方が来る予定だったんですが氏族を上げて抗議されちゃうとちょっと……」
この親にして――なパターンか。
「次はもう少しまともなのにしてくれ」
「はい! お手を煩わせてしまい申し訳ございません!」
ドリスコルの笑顔は嘘くさい。謝っている今も表情が一切変わらない。こいつ絶対顔お面だろ。
「まったく、ミリアルみたいなのは一人で十分だわ……」
「え?」
「ん? ミリアルみたいなのは……って何か変なこと言ったか?」
「――いいえ。そうですか、はい」
何だ? 何かちょっとだけドリスコルの顔に思わせぶりな表情が一垣間見えた気がしたが――。
「気になるな、言えよ」
「――はぁ。ええ、まあ、いいですけれども、知らない方がいいこともあるので」
「んだよ、悪いことか?」
「そうでもないんですが――うーん、まあ、いいか」
腕組みをして考え事をするような動作をした後ドリスコルは俺の目を見て少し真剣そうな口ぶりで語りだした。
「エルフの女性というのはですね。高貴な者ほど名を伝えないものなのですよ。名、そのものに言霊が宿る――というような感じで」
「ふうん」
「言霊には力があり、加護があります。藤間様を災いから遠ざけることも叶うでしょう」
何だ、そんな意味合いがあったのか。初対面で名乗らなかったのはちゃんと意味があったのだ。いや、単にあれはあいつの素のような気がするけど。
と、いうことは結構デレてたのかあの娘。ラーメン奢った甲斐があったというものだ。
「ただし――えーと、それが異性だとちょっと――その色々問題もあって、未婚女性が名を伝える行為というのはそれそのものが『お手付き』状態なのです」
「お手付き――っていうと……」
「はい、お婿さん候補、というか、まあそこまでの意味合いではないでしょうけど、あのじゃじゃ馬も単に感謝の意を伝えただけだとは思いますが、そういう言霊の加護が藤間様に乗っている――と思われます」
「つまり?」
嫌な――予感がする。
「他の女性が近付くと、藤間様に災いが降りかかるかも……」
「ざっけんな!」
呪いじゃねえかそれ!
「俺のお土産に対する返礼が呪いとかふざけてんのか! 返せ、俺のみたらし!」
「次、こちらにご案内することがあれば、解いて頂けるように善処致します」
「すぐに呼べ! いますぐ連れ帰せ!」
「いやあ――三か月後くらいまで予約が――」
すまん、ばあちゃん。俺の婚期はまだまだ先のようだ。
※※
お店紹介「金色不如帰(こんじきほととぎす)」
幡ヶ谷にかつてあったとても美味しいラーメン屋。その昔 ドラマ版ラーメン大好き小泉さんの一話でも並ばれてたり。
今は新宿御苑傍に移転して行列を作っているので、ご興味があればそちらに行かれるとよいかと。
当時は夜空いている時間に行くのが楽で通ってました。
――あの頃は、結構遊んだなあ。
新宿が俺の庭だった。庭などと偉そうなことを言うが学生時代は住んでいるわけでもないのにほぼ一日あそこで過ごしていたような時もあったのだから言い過ぎというほどのこともないと思う。
違法なこと以外は色々遊んだ。銃声を聞いたこともあるし、外の風俗店の入ったペンシルビルが雀荘から出てきたら燃え落ちていたなんてことも経験した。何でもありの町、そこが魅力であり、俺を引き付けていたような気がする。幸い命にかかわることは経験しなかったし、やくざに脅されたり、薬いらない? と声を掛けられたことぐらいしか怖い経験はない。それに比べれば最近近所の公園で夜な夜な五月蠅く騒いでいる高校生などかわいいものだ。一度注意したが近所のおばさんに「危ないからやめときな」と言われた。本当に怖い奴は黙って刺す奴だからなあ、などと彼女に伝える必要はないので曖昧に頷いて見せた。本当に怖い人間はあの町に暫くいたらわかるようになる。ただの甘ちゃんか、本気のサイコパスの差は歴然としているのだから。
その経験を生かして物語を書こうと思ったが、実際にそんな機会はなかった。何でも物語の肥やしになるかと言われたら大間違いである。実際に描いたら問題があるのか、需要がないのかはわからないが――。
「――こんばんは」
そんなことを考えていたら声を掛けられた。
「お誘いに応じていただけて嬉しいです。――素敵なお召し物ですね」
返事をして目の前に立つ金髪の美女を観察する。緑がよく似合う。彼女は雑誌の森ガール特集に出てきそうな衣装に身を包み、俺の前に立っている。
「コーディネーターが選んだのよ。こっちに来るときに渡されて……」
彼女は少し苛ついたように顔を顰める。
「それでも、お綺麗ですよ。よく似合ってます」
本当にそう思う。あの糞みたいな性格さえなければ一度ぐらい夜を共にしてもいいかなと思える程度には。
「――あの」
「はい?」
彼女は言い辛そうに俺を上目遣いに睨む。ああ、あれかな?
「差し入れ、お気に召して頂けましたか?」
「! ――ふん、まあまあ、ね」
まだまごまごと口を動かしている。プライドが邪魔してその先が言えないのだろう。
「お気に召されたのでしたらお持ち帰りなさると良いかと。今はもう閉まっておりますが場所は商店街の坂の前で――」
つらつらと店の情報を彼女に与える。顔はそっぽを向いてはいるが、少し赤みを帯びた耳は時折こちらの声にぴくぴくと反応していて見てて非常に滑稽で、可愛らしい。
「――気が向いたらね。気が向いたら買って帰ってもいいかしら、ね。ものの――次いでで」
こちらは笑いをかみ殺すに必死で、多少だが溜飲が下がった。
しかし――まだ足りない。
「菓子程度ではお腹も十分に膨れないでしょうし、今日は私がご飯を奢らせて頂きたいなと思いまして。いえ、初めてのお客様ですし、ちょっとしたサプライズですからお気になされないで下さい」
「――ふん、くだらない店だったらすぐ帰るわよ?」
彼女はまたしても例の冷たい視線を俺にぶつける。いいねえ、じゃじゃ馬なほどやる気が湧いてくるってもんよ。
「こちらです。マドモワゼル」
俺は先立って歩き、横断歩道を渡り、幡ヶ谷六号通り商店街のアーチを潜る。
少し歩くとすぐ横の裏路地に入る。目的地はすぐそこだった。既に多少の列が出来てしまっている。
「ここですが、少しお待ちください」
「――なによ、ここ」
彼女は怪訝そうな顔で俺を睨む。
「――美味しい、スープのお店です」
答えている間に一気に客が外に出てきた。よかった、そんなに待たずに入れそうだ。
「どうぞ」
俺の後を彼女はついてきて店の小さな戸を開く。
「豚小屋じゃないの? てか、せっま」
店に入るなり悪態をつき、一瞬満員の店内の空気が凍る。
「味は格別ですから――私が食べれるものを選びますね」
この店は食券制だ。先に購入しなければならない。
「貝――は食べれますか?」
「ええ――肉じゃないなら」
「なら、これで」
俺は今限定でおいてある蛤100%のスープを使用しているというつけ麺をチョイスする。俺のほうはノーマルな醤油を選択する。そう、ここは『ラーメン屋』である。事前に食えるものがあるかどうか昨日来店して調べておいたのだ。この店、ちょくちょく限定メニューを出す。今回は限定ラーメンのほうは一日15食限定なので早めに並ばないと食べられない。あってよかった。
食券を店員に渡して「すいません。こちらの御婦人は肉が駄目なのでチャーシューが入っているなら抜いて頂いても良いですか? もしくは別に盛っていただければ……」と申し出る。店員は了承してくれた。
狭い店内で俺たちは並んで座る。
視線が痛い。主に隣に座っているじゃじゃ馬の、だ。明らかに不満を抱えているのがわかるし、団子程度ではお腹もいうほど膨れなかったろう。空腹によるいら立ちもあるかもしれない。その不満が噴出するかどうかのタイミングで――それは運ばれてきた。
「――どうぞ、お待たせいたしました」
目の前に供されたそれを見て彼女は固まる。
「なにこれ?」
「それはつけ麺といいまして、そちらの練り物を汁につけて食べるのです。美味しいですよ? このように」
俺は自分のもので手本を見せる。
「まず、スープだけでも味をお確かめ下さい。こちらのレンゲ、と呼ばれるもので掬うとよろしいかと」
「……不味かったら、すぐ出るわよ?」
不安は多少あったが、俺は自分の味覚を信じている。ここは旨い、間違いなく。
固唾をのんで彼女がレンゲを口に運ぶのを見届ける。
金髪をかきあげ、覚束ない手つきでそれを薄いピンク色の唇から中に滑り込ませると――。
「――あふぅぅぅぅぅぅ」
もうその表情は最大限に弛緩していた。
一口、また一口とレンゲでスープを啜る。その手は止まらない。
妙な色気が店内にふりまかれ、男性客たちの手も思わず止まる。その視線に気が付いたのか彼女は我に返ったように俺の方を見た。
「どうですか?」
「ま――まあまあ、ね」
耳まで真っ赤にして彼女はそう答える。
「ここの汁はラーメン屋と思えないほど洗練されています。普通このラーメンという食べ物は脂とかいろんな雑味を含んで供されることが多いんですが、ここは真逆です。ここのスタンダードな味はトリプルスープ――三つの味を混ぜて提供されるのですがそのどの味も『雑味』がありません。まるで割烹のように繊細で、一つ一つの味が研ぎ澄まされ感じ取れます。それだけ、洗練されているのです」
いくつか彼女にはわからない単語や表現もあるだろうが、ニュアンスは伝わっている思う。
「そちらは蛤という貝から出汁をとったスープで構成されています。どうぞ、その麺も一緒に食べるとまた違った味わいが楽しめると思います。試されては如何ですか?」
俺は手本とばかりに麺をスープにつけ啜り上げる。その様子を見つめていた彼女は俺と別に盛ってある細麺とスープを順番に3巡くらい見回してしてぽつりと、呟いた。
「――食べさせて」
「は?」
あまりにも予想外の一言につい粗野な言葉の音域で返してしまった。
「わかんないから食べさせなさい! 連れてきたなら責任持ちなさいよ!」
彼女はそう言って俺を睨みつけた。……まあ確かにいきなり箸を使わせるのはレベルが高いかもしれない。しかし――。
こいつが超美人なせいで無駄に注目を集めてしまっているのもあるが、俺は周りの男性客の視線のほうが気になってしまう。無駄に高嶺の花を侍らせた経験がないからこその、ちょっとした優越感と現実の劣等感がないまぜになっているのを自覚する。
「――分かりました。どうぞ」
俺は意を決し箸を取るとそれを軽く透き通ったスープに泳がせて彼女の口元に運ぶ。彼女は少し逡巡した後、先ほど俺がやって見せたように麺啜った。
ちゅるん。
ピンク色の唇の隙間に黄金色の細麺が滑り込む。
またしても悶えるかと構えていたが、意に反してノーリアクションである。気に入ったのかどうかもわからない。ただ無言で咀嚼している。そして――。
「おおぅ……」
もう一度箸を口に運ぼうかと思ったところで、何と彼女は泣き出してしまった。
周囲の視線がこちらに刺さる。特に何もしていないんだが……。
「天の大神よ――私は罪を犯しました」
彼女は虚空を見つめそう言うと、罪の告白を始めてしまった。ちなみにここは狭いが懺悔室じゃない。
「地の恵み――海の旨味、全てが混然となって私の中に取り込まれ――ああ、このようなものを疑ってしまった私の不見識をお嗤い下さい――」
そういうと彼女は俺の手から箸を奪い取るとたどたどしい手つきながらも麺を自分で啜り始めた。
「おふぅ――ずりゅ――うふぅ――はぁ……」
涙と鼻水を垂らしながら美女がラーメンを食べる光景はシュールだ。俺はもう放っておいて自分のほうのつけ麺に集中することにした。一口食べて思う、ああ『旨い』な、と。
美味い、ではなく『旨い』。この食い物はすべての出汁の旨味をどれも殺さず、かつ生かし切っているからこそ出せる味だ。ここのラーメンはいつ食べても後味が最高だ。というか、何も嫌なものが残らない。たいていは脂で胃がもたれるか、過度の匂いが口中にこびりつくものだが、ここのラーメンはまさに高級料亭の繊細さをそのまま閉じ込めた味であり、そこに出されたとしても決して見劣りしないだろうし、むしろこの一杯だけで満足できる分優れているに違いない。
それがこんな町角の路地裏で営業しているのだから面白いなと思う。確か最近ミシュランで星貰ってたような気もするが、そんなものあろうがなかろうが旨いのだからどっちでもいい。
――夜は別の店にもいきたいな。
ここの繊細なラーメンを食べて、夜もラーメンにしようと心に決める。もう一軒、俺は行きつけがあるのだが、そっちはこっちの繊細さとはちょっと毛色が違う。雑味をすべて取り除いたものと違い、雑味を含め――まあいいや、今回の話とは関係ない。また語る機会があったら別のお客にでも教えてあげよう。
気が付けば隣にはぐちゃぐちゃになった顔のエルフと空っぽの器があった。しかも別盛りしてあったはずのチャーシューがない。俺が見ていないうちに食ったのか?
俺は足腰が怪しい彼女の肩を抱いて店を出た。少し歩いた場所にある広場に行って彼女をベンチに座らせる。
「お気に召したようで、良かったです」
「う――うん。あ、ありがとう……おいしかったあ……」
素直な、朴訥な返事が返ってきた。なんか田植え後の田舎娘みたいでちょっとかわいい。
「はっ……ううん! いや、あの、まあまあ! いや、美味しかったけど! あの豚小屋は汚いし! お風呂は狭いし!」
急に我に返ったように悪口を並べ立ててくるが説得力は皆無である。
「本当、この辺りは色々美味しい店が多いんですよ。いらっしゃる機会がありましたら、ご案内致しましょうか?」
彼女は夕刻には帰る予定だ。もう少しいろんな店を案内したいが時間的な限界はあるだろう。しかし俺の誘いに彼女は頷くでもなく、ただ俺をじっと睨み返してきた。
「――来れないわよ」
「え?」
「順番待ち――結構いるのよ。私はおじ様に無理言ってねじ込んでもらったの」
「おじ様?」
「会ったでしょう? ドリスコル叔父様」
身内かよ! てかその話しぶりだと面接もしてないな!?
「それに豚小屋なのは変わらないし、もう一回泊まりたいとかあんまり思わないかな」
「――はは」
ちっ、生意気なのは変わらず、か。
「いやあ、お気に召さなかったようで残念です。では、こちらもいらないでしょうね……」
俺は残念そうに肩をすくめ持っていた手提げを隠す仕草をする。
「――なによ、それ」
「いえ、いらなそうなので、やめておこうかと。こちら、お土産のつもりだったのですが……」
「そうね、得体のしれないものを貰っても――」
「昨日のお団子が入っております。みたらし団子というのですが、10本ほど――」
彼女は無言で俺の手の中からそれを奪い取った。あまりの素早さに逆に俺がびっくりした。
「貰ってあげます」
「は? いや、あの――」
「用意されたものを受け取るのは森部の礼儀です。姫たる私がそのような義を欠いては沽券に関わります。仕方ないですが、受け取って差し上げます。ああ、もう本当に仕方ない」
素直じゃねえなあ。まあ、じゃじゃ馬の間抜け顔も見れたからよしとするか。
「――ミリアル」
「え?」
「ミリアル=グラノラ=アリアーテ。グラノラ氏族長が長女の名において、感謝の意を表します。ありがとう」
彼女はそういうと包みの取っ手を両手で持ち顔の前にあげ、顔を赤らめながらそう言った。
彼女が異世界への門である裏口の木戸から帰っていったあと、入れ替わるようにしてドリスコルがやってきた。俺は奴を居間に座らせる。
「いやあ、お疲れさまでした!」
「色々特別請求があるから覚悟しろ?」
俺は彼女が壊した備品やら、お土産代やらの請求書の紙を奴の鼻頭に突き付ける。
「いやあ、お土産は個人的な贈り物でしょう?」
「お前、色々契約違反してるだろうが! 面接通してないだろあの娘」
「あはは~ばれちゃいました?」
「開き直ってんじゃねえ」
「いやあお父様にねじ込まれてしまいましてねえ。あれ、じゃじゃ馬でしょう? お父様も娘馬鹿な方で、本来は別の方が来る予定だったんですが氏族を上げて抗議されちゃうとちょっと……」
この親にして――なパターンか。
「次はもう少しまともなのにしてくれ」
「はい! お手を煩わせてしまい申し訳ございません!」
ドリスコルの笑顔は嘘くさい。謝っている今も表情が一切変わらない。こいつ絶対顔お面だろ。
「まったく、ミリアルみたいなのは一人で十分だわ……」
「え?」
「ん? ミリアルみたいなのは……って何か変なこと言ったか?」
「――いいえ。そうですか、はい」
何だ? 何かちょっとだけドリスコルの顔に思わせぶりな表情が一垣間見えた気がしたが――。
「気になるな、言えよ」
「――はぁ。ええ、まあ、いいですけれども、知らない方がいいこともあるので」
「んだよ、悪いことか?」
「そうでもないんですが――うーん、まあ、いいか」
腕組みをして考え事をするような動作をした後ドリスコルは俺の目を見て少し真剣そうな口ぶりで語りだした。
「エルフの女性というのはですね。高貴な者ほど名を伝えないものなのですよ。名、そのものに言霊が宿る――というような感じで」
「ふうん」
「言霊には力があり、加護があります。藤間様を災いから遠ざけることも叶うでしょう」
何だ、そんな意味合いがあったのか。初対面で名乗らなかったのはちゃんと意味があったのだ。いや、単にあれはあいつの素のような気がするけど。
と、いうことは結構デレてたのかあの娘。ラーメン奢った甲斐があったというものだ。
「ただし――えーと、それが異性だとちょっと――その色々問題もあって、未婚女性が名を伝える行為というのはそれそのものが『お手付き』状態なのです」
「お手付き――っていうと……」
「はい、お婿さん候補、というか、まあそこまでの意味合いではないでしょうけど、あのじゃじゃ馬も単に感謝の意を伝えただけだとは思いますが、そういう言霊の加護が藤間様に乗っている――と思われます」
「つまり?」
嫌な――予感がする。
「他の女性が近付くと、藤間様に災いが降りかかるかも……」
「ざっけんな!」
呪いじゃねえかそれ!
「俺のお土産に対する返礼が呪いとかふざけてんのか! 返せ、俺のみたらし!」
「次、こちらにご案内することがあれば、解いて頂けるように善処致します」
「すぐに呼べ! いますぐ連れ帰せ!」
「いやあ――三か月後くらいまで予約が――」
すまん、ばあちゃん。俺の婚期はまだまだ先のようだ。
※※
お店紹介「金色不如帰(こんじきほととぎす)」
幡ヶ谷にかつてあったとても美味しいラーメン屋。その昔 ドラマ版ラーメン大好き小泉さんの一話でも並ばれてたり。
今は新宿御苑傍に移転して行列を作っているので、ご興味があればそちらに行かれるとよいかと。
当時は夜空いている時間に行くのが楽で通ってました。
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剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
盾の間違った使い方
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その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
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