異世界民泊始めました。~異世界からの旅行客を美味しいお店にご案内~

maa坊/中野雅博

文字の大きさ
18 / 89
第二章 異世界からの侵略者

ひとりぼっちのラーメン戦争 3

しおりを挟む

「あ、あの――?」

「やあ人間。名前は藤間伸介くんだったか」

 不動通り裏にあるさくら公園で俺は謎の幼女と対峙している。急に流ちょうにしゃべりだした彼女に俺は混乱している。そもそも名乗った覚えもない。

「ああ、大丈夫だよ。ようやくさっきのショックで『繋がった』からね」

 そう言うと彼女は先ほどまでの無機質さが嘘のように可愛らしくはにかんだ。

「ああ、僕の名前は君の想像の通りさ。××jぎじrjヴぃまrtだよ」

 名前のところは聞き取れなかった。というか、聞き取れるような言語ではなかった。やっぱ『そっち系』じゃねえか!

「こちらに近い言語だと――ニャルラトホテプ、だっけ?」

 這いよる混沌。無貌の神。千の顔を持つ神様――。あらゆる時空に現れる創造主の代行者――そりゃ異界の門なんていらねえよなあ。

「いやあ、あの宇宙一辛いラーメン、本当に宇宙一だったね。僕が保証するよ!」

「は、はあ……」

 よかったな。名実ともにNO1の称号を異界の神様から頂いたぞ……いや別にそんなことはどうでもよくて。

「その辛さのおかげでようやくこの分体とのアクセスが繋がったからね。いやあ神様と言っても広い宇宙、なかなか全部は上手く行かないね」

「……で、その異界の神様がこのような辺鄙な島国になんの御用でございましょうか?」

 正直相手をしたくない。竜だったほうがまだよかった。そもそも神様相手とか気まぐれ一つでとんでもないことになるのは間違いないのだ。そもそも異形の神なんて、どう考えてもドリスコルの手にも余っているに違いない。つまり、助けが期待できない。出来れば早く帰って欲しい。

「帰らないよ?」

 口に出していないのに、答えが返ってきてしまう。ああ、もう『読めちゃう』のね? そういえば名乗ってすらいないのに名前も呼ばれていた。

「あはは。いやだなあ、愚問だなあ、僕ずっと言ってたよね? 繋がり切る前から――」

 ニャルラトホテプはそう言うとその赤い唇を大きく開き言った。

『喰うためさ』

     ◆

「……ちなみに聞きますが、何を、ですか?」

「ラーメン」

「いやいや、ご冗談を?」

「いや、割と本気なんだけどね? あと僕のことはニャル子ちゃんと呼ぶと良いと思うよ?」

「いやそれ、もう前例がありますんで、別の名前でお願いできますか?」

「そうかい? じゃあホプテピ……」

「それも色々危なそうなんで却下で……えーと、ラトさん、でいいですか?」

「ラトね、まあいいか。特に名前にこだわりがあるわけでもないし。でも他人行儀だから敬称はいらないよ? できればラトちゃんぺ、ぐらいに呼んでくれると嬉しいんだけど」

 ドリフネタなんて今の若い奴らにわかんねえだろうに、と心の底で毒づきながら自分の年を顧みて軽くへこむ。きっと奴はこれが狙いに違いない。

「さて、前置きはいいとして、食べに来たのは――『宇宙』だよ」

 宇宙――。その言葉に背筋に悪寒が走る。

「どうして食べようと思ったのか――なんて愚問だよ? 僕はただ『食べてくるように』仰せつかっただけなんだから。本能として、性質として、ただそうプログラムされている。目的は情報収集なのか、単に食欲なのか、僕にもそれは永遠の謎さ」

 ――神に『どうして貴方は存在するのですか?』と聞くようなものか。単に彼らは上位存在としてそこに『いる』だけだ。目的も、使命もありはしない。ただ命令のまま、存在のまましたいことを、するべきことを成すだけなのだろう。

「……じゃあ、この地球を、食べるんですか?」

 俺の問いに、少しだけ、間があった。ラトは俺の瞳を――いやそのはるか先を――見るように語り掛けてくる。

「宇宙を食べろ――その意味は無限だ」

「?」

「例えば視点を変えてみよう。蟻の世界は人間と違って小さい。でも、その世界の中で繰り広げられることも、営みも小さな宇宙だ。そしてそれはもっと小さな微生物やウイルスの世界でもそうだ。違うかね?」

「――ええ、まあ……」

 言ってることはなんとなくわかる。宇宙的視点から見たら人の営みなんて蟻以下だろう。俺たち人類にそこまで遠くの、巨大な何かのことなんてわかりはしないし。しかし、それは確実に存在しているのだ。

「人の営みもそうだね。学校に通う子には学校の中だけの宇宙が存在し、サラリーマンには会社、狭くてどうでもいいこともその宇宙の中では力を持つ。不思議なことにね?」

 いじめや営業成績や、好きな人や嫌な上司や――。周囲から見たらどうでもいい些末なことも、中に入れば立派な一つの世界だ、ということだろう。
 

「つまり、どこにでも宇宙は存在するのさ。さて、ここで問題を戻そうか――」

 俺は思わず身構える。無駄だけど、身構えた。さあ、何を言い出す――。

「つまりラーメンは、宇宙だよね?」

「……へ?」

 たっぷり一分ぐらい、俺は口を開けていた――と思う。

「あの一杯の中にあるのは宇宙だと思うんだよ。甘い、辛い、しょっぱい、旨い、美味い、酸っぱい……それこそどれだけの言葉で表現しても伝えきれない、複雑怪奇な宇宙だよ。まさか僕もただの有機物と無機物の集合体がこれだけのものに変化するとは思わなかった。たった三次元の物でよくぞ練り上げたと感心するよ」

「は、はあ……」

「味の複合体としての評価は次元超越していると言っても差し支えないね。まさに、小さくて大きな宇宙だと僕は思うね。だから――もっと食べたいなあ」

 うっとりとした瞳で彼女は空を見上げる。

「は、ははは。そんなことなら……ええ、喜んで」

 何だ、ビビって損した。そんな簡単なことで満足してくれるなら――。

「『前菜としては』申し分ないからね」

「――」

 え、いま、何つった?

「前菜としては、だよ。当然残りの、太陽系も含め、この辺一帯残らず平らげるに決まっているじゃないか」

 ――甘かった。やっぱいこいつ――話の通じるような奴じゃない。

「――ただ、僕を満足させられるなら、考えて上げてもいいかな?」

「――満足……というと」

「ラーメンでいいよ。でも、一店しか認めない。そこでのラーメン(うちゅう)が僕を満足させられるものだったら、手を引こうじゃないか。どうかね?」

 随分と、お優しいお題だ。と思った瞬間、奴は嗤った。

「そうそう、その顔。一縷の望みをチラつかせたときに見せる知的生命体の顔。いやあ今までいくつの星々で見てきたね。――どれも、美味しかったなあ」

 ラトは昏い瞳で虚空を見つめる。

「そんなもの、全て喰らってあげたよ。絶望ごと。さあ、もう決めてあるんだろう? 案内したまえ」

「――わかった」

 世界は――文字通りラーメンに託された。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...