異世界民泊始めました。~異世界からの旅行客を美味しいお店にご案内~

maa坊/中野雅博

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第三章 恋するエルフ

11人目の黒い恋人 3

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 俺たちの悪巧み? は続いていた。

「てか、これ見方を変えたら誘拐だよな?」

「そうなりますねぇ。ま、仕方ないでしょう」

「とはいえ、ミリアルが次に来た時にそのまま逗留させればいいんじゃないの?」

「それがですねえ……」

「何だよ?」

「いま、軟禁状態なんですよね、彼女」

「――え」

「前回抜け出したのやっぱバレちゃってですねえ。親が実力行使に出まして、今エルフの里の奥に幽閉されてまして」

「――おい、ざけんな」

 急に視界が狭まり、頭から血の気が失せる。逆に、冷静になった。

「大丈夫ですよ、遠からず、まあ一か月もしないうちに出られるとは思います。で、色々こっちで小細工しますから、うまく異世界(こっち)に連れてきます」

「――出来るのか? いや、お願い、していいのか?」

「しますよ、当然。言ったでしょ、親族の為に頑張るって」

 嘘くさい笑顔が、逆に頼もしく感じてしまった。ほかに頼れる奴もいない。それに、疑ったところで何も話は進まない。信じて、任せるしかないのだ。協力してくれるというなら、有難く従おう。

「伸介さんはその間の準備をお願いします。必要になったらその都度指示はだしますから」

「うっす」

「――あの」

「ん?」

 申し訳なさそうに、レイが俺たちの傍に寄ってきた。

「何だ?」

「いえ、あの、レイラ様のことで、ちょっと」

「――どうしたの?」

「――ええと、へそを曲げております」

「は?」

「機嫌が悪い、と思われます。先ほど外で待っていらっしゃるのを拝見し、ご挨拶したのですが……怒りの精霊を纏っているように感じられましたので」

「……何かあったんでしょうかねえ?」

「お前の嫁のことだろうが。ちゃんと機嫌取って来いよ」

「いや、機嫌は取ってますよ? さっきのラブラブっぷり見てましたよね?」

「あれは甘えて精神のバランスとってただけだろ? ずっとお前に言いたいこと抱えてるのかもしれんやんけ。というかだな、200年も生きてるのに女心の機微には疎いのか?」

「一言いっておきますが、何年生きようが、女心なんて理解できませんよ?」

「激しく同意」

 過去の女性関係の失言を思い返して俺は頷いてしまった。そう、他人を正しく理解など出来ないのだ。何気なく言った一言がデリカシーがなく、それが元で一瞬で別れたりする、そんなもんである。

「しかし、フォローはいるだろ? てか君たちご夫婦はどんな夫婦生活送ってるのかね?」

 興味本位が十割、心配ゼロ、で俺は質問する。

「普段はお互い生活圏が違いますからね。一緒に住むのはリスクが高いので、通い妻だったり通い夫だったりです」

「じゃあやっぱ寂しいんだろ? 俺のことはもういいから、とっととイチャついてこいよ」

「――本当に、そうなんですかねえ?」

 首を傾げるドリスコルだが、早めにこういうことは解決したほうがいい。

「せっかく俺のことで協力してくれるのにそっちが別れたりしたら寝覚めが悪いわ。俺が協力してやるから、二人でデートでもしてこいよ?」

「――はぁ、その物言いですと、良い場所をご存知で?」

「――まあな」

 ちょうどいい、実はレイも気に入るかもしれないなと思っている場所でもある。

「レイと俺、それとそっち夫婦でダブルデートするか。少し、遠出だけど。今回のお礼も含めて、案内するよ」

「お、いいっすね~」

 よし、今回目指すのは――。

     ◆

 幡ヶ谷から中野駅まで俺達はバスで移動する。そこから中央線に乗りこみ、目的地を目指した。道中、表面上はレイラさんに変化はない。しかし、確かによく見れば常に眉毛が顰めている――ように見えた。何か、思うところがあったのだろうか?

「あ、ここです。降りて下さい」

 俺たちが電車から降り、駅のロータリーに出ると、左手に『高円寺純情商店街』の大きな文字が刻まれたアーチが出向かる。

「こっちです、ちょっと曲がりが多いんで、付いてきてくださいね」

 商店街は人通りが多く、少し離れるとはぐれそうである。相変わらず、高円寺のこの商店街は活気がある。店が常に回転しているイメージが俺の中にある。俺はいくつかの路地を曲がり、目的の通りに出た。

「――レイラさん。平気ですか?」

「――ああ、大丈夫だが」

 様子を伺うつもりで声を掛けるが、返答は少し沈んだ声だった。

「あの、僕ら邪魔なら案内だけして帰りますけど?」

「いてくれて構いませんよ、ねえ、レイラ?」

 ドリスコル、そこは空気読めよ。

「――別に、問題ない」

 ここにきて、俺にも彼女の不機嫌が嘘ではないことがわかる。やはり、何か原因があるのだ。

「さて、着きましたよ」

「――ほう」

 ドリスコルが面白いものを見るような目で、しげしげとその建物を眺める。

「俺が案内する中でも、最も愛らしくて、面白い外観ですかね」

 まるで、絵本の世界から出てきたような、木の家。そう表現するしかないような外観を見ただけでも結構訪れる甲斐はあると思う。

「この木の扉を潜ってください。ちょっと、狭いですけど」

 そう言って可愛らしい店の玄関に俺は手を掛け、中に入る。そう、俺達は物語の中の住人になったような――そんな錯覚を覚えるのだった。


「ほほ、これは確かに愉快ですねえ」

ドリスコルが楽し気な声を上げる。

 絵本に出てきそうな薄緑色の木の家の玄関を潜ると中も一面、木、である。一番下が厨房兼会計で、入ってすぐ左にピザを焼く窯が見えている。真正面に見える狭い階段でらせん状に上がる。二階からが客席なのだ。
 ギシギシ、と鳴る階段を上がり切るとそこには――。

「おお……」

 思わず声が漏れる。声の主はレイラさんだ。

「気に入りました?」

「あ、いや……ま、まあまあかもな」

 来る前からつまらなさそうにしていたレイラさんの瞳に少し元気が出てきたような気がした。
 二階に上がるとそこは『木の空間』だ。机も、椅子も、床も、そして、はしごと――その上のロフトも、だ。

「上がってみます?」

「あそこも客席なのですか?」

「そうだよレイ。なかなか愉快な構造だろう?」

 遊び心満点な店内に否が応でもテンションがあがる。正直、この店は訪れないとその良さが正確に伝わらない。

「奥は……どうなっているのですか?」

「あっちも客席だよ。ちょっと覗いてみようか」

 二階席の奥へと足を踏み入れると――。

「うわあ……」

 レイラさんがいの一番に声を上げた。出迎えたのは壁一面の動物の絵だ。温かみのあるイラストに囲まれ、さながら動物たちとお茶会をしているような気分に浸れる。なかなかないロケーションの空間だ。ここは外も絵本のような――そして中身も絵本のように、そう作られているのだ。
 俺の訪れたことのある店の中で、最も店そのものに拘っていると言えるかもしれない。

「せっかくだからロフトにしましょうかね。これは、上から見たいです」

 ドリスコルが提案し、俺達はそうすることにした。

「気を付けてな、みんな」

 そう言ったものの、一番危なっかしかったのは俺だった。エルフの二人は言わずもがな、レイも器用に登っていった。俺だけ、ちょっと足を外して落ち掛けた。いかんな、運動しよ。

「いやあ、いいですねえここ。住みたいです」

 ドリスコルがロフト席の真ん中に座って笑顔で答える。その横にレイラさんが座り、俺達は対面するように座った。割と開放的な造りになっているので狭さは言うほど感じない。まあ、いきなり立ったら危ないかもしれないが。

「注文はそこの紐を引くと1Fから店員が来ますからそれでします。えーと、メニューはこっちかな……」

 俺はメニュー表を広げる。するとそこには写真付きで可愛らしい食べ物が沢山映っている。皆が目を止めたのは、主にケーキのコーナーだ。

「飯は良い感じ?」

「今は小腹が空いてる感じですから、お茶メニューでよいのでは?」

「ま、それでいいか」

 俺もこの店はお茶で来る方が好きだった。カフェメニューなので分量が大ぐらいの俺には若干合わないのだ。ただ、タコライスや焼きナスのカレードリア自体はたまに食べたいなと思う。タコライスもドリアも主役は野菜だ。野菜の優しい味を活かしたまま、子供の好きな味付けで迫って来る。
 タコライスはチーズと卵、そして振りかけたマヨの味に、アクセントのタコが混じり、さらっと食べれる。サラッとたべれるがゆえに、物足りなく感じてしまう。それはドリアも同様だ。ホワイトソースと焼いた香ばしいなす、そしてホウレンソウがそれに絡み美味しく食べれる。味に雑味が無いからこれもあっという間に平らげてしまう。だからこそこの店のメインは――デザートにあると言える。

「どれも、可愛らしいですね」

 レイが答える。

「そうですねえ、まるでレイさんみたいな小さくてかわいい菓子ばかりで目移りしちゃいますね」

「おい、ドリスコル、口説く相手間違えてるぞ?」

「え、いやお世辞っていうのは身内にするものではないですよね?」

「理屈はそうだけどさ……」

 俺はレイラさんのことを気にしていた。どうも、時折視線が泳ぐのだ。しかもそれは、どうも――レイに向けられているような気がする。

「レイはどれがいい?」

「……決めかねます。どれも、美味しそうです」

 レイの目線は3つの間を目まぐるしく移動している。「ふわふわシフォン」「贅沢生チョコ焼き」「モンブラン」だ。

「じゃあ適当に頼むか、それで好きなのシェアしよう」

「賛成~!」

 乙女っぽい動作でドリスコルが最初に手を挙げた。
 レイラさんは、と言えばその様子を複雑そうな表情で見つめ続けていた。
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