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外伝
成長する獣 1
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「んで、用はなんだドリスコル。あと、なんかもう一人知らん顔がいるな」
異世界民泊宿舎の屋敷、そこに来たのは宿泊客ではなく共同経営者のエルフだった。
こいつが笑顔の時は注意した方が良い。きっと、面倒な話をしてきたに違いないのだから。
その糞笑顔の隣には若干緊張した面持ちのスーツ姿の女性エルフが座っている。
「ご当選、おめでとうございます!」
ほらきた。
「何がご当選おめでとうだ、いらんわ。何を押し付けてに来たんだ?」
「やだなあ、ちょっと穿った見方をし過ぎですよ?」
「穿った見方するような客ばかり連れてくるじゃねーか」
「いやあ、それはそれ、これはこれ、ということわざがありまして」
「お前なあ……」
露骨にため息を零すが、目の前の商売人は涼しい顔を崩さない。
「ま、そういうことは冗談として、今回のはキャンペーンなんですよね」
「キャンペーン?」
「そう、今回は異世界旅行キャンペーンと称して、この地球が選ばれたという栄えある名誉をお伝えに参った次第で」
「いや、そんなこと頼んでねえよ? それに誰がそんなもん決めたんだ?」
「事務局ですね」
「社員は何名?」
「主に私が担当しております」
「やっぱりお前の独断じゃねーか!?」
「そうは言いましてもこれからの異世界民泊は競合他社との生き残りをかけていきませんと。この会社も成長せねばなりませんから」
「競合他社?」
「はい、もう一社新たにこの民泊業に乗り出そうという動きがありまして」
「え?増えるの?」
「はい、もう今月から動き出すはずです」
「ふうん? でも別によくない? 民泊業者なんて沢山あったところで困らないだろうし、こっちにだって常連はいるでしょ?」
「ですが、向こうはなりふり構わずに値段設定しておりまして。しかも、うちよりも圧倒的に大手なのです」
「大手って……どんぐらいよ?」
「少し前まで地球をターゲットにせずに他の異世界で旅行業を営んでいたエルフのグループでして。それがどうやら……」
「地球に目を付けて乗り込んできた……ってこと?」
「そうなります。まあ、アハ〇グループみたいなもんです」
「例えは適切だが、伏字になってるのかそれ?」
でかい旅行会社が携わってくる、か。
「……ううん、でもそんだけでかいなら争っても無駄じゃないの? こっちはこっちで細々とやればいいじゃん」
「そこはそれ、これはこれです」
それを言われちゃおしめえよ。
どうやら引き下がる気はないらしいことがわかったので俺も諦めることにする。
「で、どんなキャンペーンを張るんだ?」
「ええ、それなんですが、今回はこいつに任せようかと」
「ん?」
「お―――お初にお目にかかります! 私は……ドリスコルの姪のディーンと申します」
「あ、初めまして。藤間伸介です――って姪?」
「はい! 私は今回このキャンペーンを企画する任を与えられました!」
「と、いうことなんで後はお任せしますね?」
そういうとドリスコルはおもむろに立ち上がり帰ろうとする。
「おい、無責任ちゃうか?」
「いえいえ、可愛い子には旅させろっていうじゃないですか? 私も老い先長い人生ですから、後継者を作っておかないと」
「長いじゃねーか! 少なくとも俺が生きているうちはお前一人でも十分だと思うぞ?」
「まあまあ、対応できる人員が増えるのは良いことだってわかりますよね? 私も色々手広くやってるんで、大変なんですよ」
――ということで。と言い残して奴は異界の扉を通って帰っていく。
残されたのはリクルートスーツに身を包んだ、栗髪のショートボブのエルフ娘だ。
あと特徴的なことと言えば――なんか、すげー瞳がギラついている。
「――ええと、宜しく?」
「は、はい! よろしくお願いいたします!」
まあいいか、と俺は緊張をほぐすように彼女に優しく質問してみた。
「ところで、どんなものを考えてるんだい?」
ふう――と彼女は息を一つ吐くと、目を見開いて声を張り上げた。
「ええ、新規顧客のためといえば半額キャッシュバックキャンペーン!」
「え」
「さらにアメニティを充実! デザートの団子も常に常備しておもてなし! ポイントカードも導入して5回泊まったら1回タダ!」
「……」
「それでこのキャンペーンを大々的に3か月ほど行って……って聞いてます?」
「アーハイハイ、キイテマスヨー」
「なんですかその気の抜けた返事は!? 私は真面目にこれからのことを考えているんですよ!?」
「ソウダネ。プロテインダネ」
「むっきー! なんなんですか貴方!」
「いやふざけとるのはお前やろがい!」
「え?」
「儲けがないだろ! お前、運営費って知ってる!?」
「儲けの前にまず、お客の確保ですよね!?」
「確保すんのは良いけど、やり過ぎなんだよ! 適正な形でやらんキャンペーンとか借財だけ増えてなんも残らんだろうが!」
「……ぐ、具体的に何がまずいんですか? そりゃ一時的にお金は減るかも知れませんけどリピーターが戻ってくれば……」
「じゃあ言ってやるわ! そもそも相手は大手代理店だろ? こっちが一時的に色々安くしたところで目に見えてんだよ! あっちが同じ期間さげたら体力負けするのは必至なの!」
「う」
「う、じゃねえ! 売り方や経費計算もわかってないのに経営方針だけなんとかしようとしても潰れんだよ! そういう店はしこたま六号通り商店街で見てきたわ!」
「ぐ、具体的な事例を挙げて頂けませんとそれを信じるわけには……」
「よし、挙げてやる。まず、タピオカミルクティー屋が2つ潰れた」
「それは……ブームが去ったからでは?」
「当然そうだ。だけどな、オーナー側が経営ってもんをわかってねえんだよ。まず、バイトが3人も店にいた」
「それの、何が問題なんですか?」
「時給計算をしろ! 一杯売るとして500円だと仮定するよな?」
「え、ええ……」
「一人1200円の時給だった。3人入ったら一時間で3600円。8杯売ってトントンだな? 原価も考えりゃ10杯以上は余裕で売らなきゃダメだ。なのにそのオーナーは売れもしないのにその状況を3か月続けて閉店したわ」
「そ、それは……」
「同じことが幡ヶ谷パンとかいうパン屋にも言える。この店は薄利多売が売りだった。100円以下のミニパンが並び、そこそこ繁盛していたんだが――潰れた」
「ど、どうして?」
「店員が3人以上いたのもそうだが、2号店を出したのが最悪だった。薄利多売がモットーということはある程度数が出る前提だった。なのに需要を超えて同じ商店街内に2店舗構えてしまった。売れると思うか?」
「き、奇跡が起これば?」
「起こらねえよ! 需要がないもんを作ってもすぐ潰れる。なんなら次に潰れる店を言い当ててもいいぞ? 例えばこの間出店してきた高級パンの――」
「それ以上はなんかまずい気がするんで良いです!」
なにかヤバい雰囲気を察したのかディーは俺の言葉を遮る。
「じゃあ――どうすればいいんですか?」
「考えろよ、うちにあったキャンペーンてやつを……ん? そういや飯は食ったのか?」
腹が鳴ったので、彼女に訊ねてみる。
「いえ、まだです」
「じゃあ食いながら話そう。まずはこの幡ヶ谷ってものを知らなきゃ話は始まらないだろ」
――――
外伝です。時系列的には適当です。
ちなみに現在進行形で書いてるので不定期更新コーナーになります。
異世界民泊宿舎の屋敷、そこに来たのは宿泊客ではなく共同経営者のエルフだった。
こいつが笑顔の時は注意した方が良い。きっと、面倒な話をしてきたに違いないのだから。
その糞笑顔の隣には若干緊張した面持ちのスーツ姿の女性エルフが座っている。
「ご当選、おめでとうございます!」
ほらきた。
「何がご当選おめでとうだ、いらんわ。何を押し付けてに来たんだ?」
「やだなあ、ちょっと穿った見方をし過ぎですよ?」
「穿った見方するような客ばかり連れてくるじゃねーか」
「いやあ、それはそれ、これはこれ、ということわざがありまして」
「お前なあ……」
露骨にため息を零すが、目の前の商売人は涼しい顔を崩さない。
「ま、そういうことは冗談として、今回のはキャンペーンなんですよね」
「キャンペーン?」
「そう、今回は異世界旅行キャンペーンと称して、この地球が選ばれたという栄えある名誉をお伝えに参った次第で」
「いや、そんなこと頼んでねえよ? それに誰がそんなもん決めたんだ?」
「事務局ですね」
「社員は何名?」
「主に私が担当しております」
「やっぱりお前の独断じゃねーか!?」
「そうは言いましてもこれからの異世界民泊は競合他社との生き残りをかけていきませんと。この会社も成長せねばなりませんから」
「競合他社?」
「はい、もう一社新たにこの民泊業に乗り出そうという動きがありまして」
「え?増えるの?」
「はい、もう今月から動き出すはずです」
「ふうん? でも別によくない? 民泊業者なんて沢山あったところで困らないだろうし、こっちにだって常連はいるでしょ?」
「ですが、向こうはなりふり構わずに値段設定しておりまして。しかも、うちよりも圧倒的に大手なのです」
「大手って……どんぐらいよ?」
「少し前まで地球をターゲットにせずに他の異世界で旅行業を営んでいたエルフのグループでして。それがどうやら……」
「地球に目を付けて乗り込んできた……ってこと?」
「そうなります。まあ、アハ〇グループみたいなもんです」
「例えは適切だが、伏字になってるのかそれ?」
でかい旅行会社が携わってくる、か。
「……ううん、でもそんだけでかいなら争っても無駄じゃないの? こっちはこっちで細々とやればいいじゃん」
「そこはそれ、これはこれです」
それを言われちゃおしめえよ。
どうやら引き下がる気はないらしいことがわかったので俺も諦めることにする。
「で、どんなキャンペーンを張るんだ?」
「ええ、それなんですが、今回はこいつに任せようかと」
「ん?」
「お―――お初にお目にかかります! 私は……ドリスコルの姪のディーンと申します」
「あ、初めまして。藤間伸介です――って姪?」
「はい! 私は今回このキャンペーンを企画する任を与えられました!」
「と、いうことなんで後はお任せしますね?」
そういうとドリスコルはおもむろに立ち上がり帰ろうとする。
「おい、無責任ちゃうか?」
「いえいえ、可愛い子には旅させろっていうじゃないですか? 私も老い先長い人生ですから、後継者を作っておかないと」
「長いじゃねーか! 少なくとも俺が生きているうちはお前一人でも十分だと思うぞ?」
「まあまあ、対応できる人員が増えるのは良いことだってわかりますよね? 私も色々手広くやってるんで、大変なんですよ」
――ということで。と言い残して奴は異界の扉を通って帰っていく。
残されたのはリクルートスーツに身を包んだ、栗髪のショートボブのエルフ娘だ。
あと特徴的なことと言えば――なんか、すげー瞳がギラついている。
「――ええと、宜しく?」
「は、はい! よろしくお願いいたします!」
まあいいか、と俺は緊張をほぐすように彼女に優しく質問してみた。
「ところで、どんなものを考えてるんだい?」
ふう――と彼女は息を一つ吐くと、目を見開いて声を張り上げた。
「ええ、新規顧客のためといえば半額キャッシュバックキャンペーン!」
「え」
「さらにアメニティを充実! デザートの団子も常に常備しておもてなし! ポイントカードも導入して5回泊まったら1回タダ!」
「……」
「それでこのキャンペーンを大々的に3か月ほど行って……って聞いてます?」
「アーハイハイ、キイテマスヨー」
「なんですかその気の抜けた返事は!? 私は真面目にこれからのことを考えているんですよ!?」
「ソウダネ。プロテインダネ」
「むっきー! なんなんですか貴方!」
「いやふざけとるのはお前やろがい!」
「え?」
「儲けがないだろ! お前、運営費って知ってる!?」
「儲けの前にまず、お客の確保ですよね!?」
「確保すんのは良いけど、やり過ぎなんだよ! 適正な形でやらんキャンペーンとか借財だけ増えてなんも残らんだろうが!」
「……ぐ、具体的に何がまずいんですか? そりゃ一時的にお金は減るかも知れませんけどリピーターが戻ってくれば……」
「じゃあ言ってやるわ! そもそも相手は大手代理店だろ? こっちが一時的に色々安くしたところで目に見えてんだよ! あっちが同じ期間さげたら体力負けするのは必至なの!」
「う」
「う、じゃねえ! 売り方や経費計算もわかってないのに経営方針だけなんとかしようとしても潰れんだよ! そういう店はしこたま六号通り商店街で見てきたわ!」
「ぐ、具体的な事例を挙げて頂けませんとそれを信じるわけには……」
「よし、挙げてやる。まず、タピオカミルクティー屋が2つ潰れた」
「それは……ブームが去ったからでは?」
「当然そうだ。だけどな、オーナー側が経営ってもんをわかってねえんだよ。まず、バイトが3人も店にいた」
「それの、何が問題なんですか?」
「時給計算をしろ! 一杯売るとして500円だと仮定するよな?」
「え、ええ……」
「一人1200円の時給だった。3人入ったら一時間で3600円。8杯売ってトントンだな? 原価も考えりゃ10杯以上は余裕で売らなきゃダメだ。なのにそのオーナーは売れもしないのにその状況を3か月続けて閉店したわ」
「そ、それは……」
「同じことが幡ヶ谷パンとかいうパン屋にも言える。この店は薄利多売が売りだった。100円以下のミニパンが並び、そこそこ繁盛していたんだが――潰れた」
「ど、どうして?」
「店員が3人以上いたのもそうだが、2号店を出したのが最悪だった。薄利多売がモットーということはある程度数が出る前提だった。なのに需要を超えて同じ商店街内に2店舗構えてしまった。売れると思うか?」
「き、奇跡が起これば?」
「起こらねえよ! 需要がないもんを作ってもすぐ潰れる。なんなら次に潰れる店を言い当ててもいいぞ? 例えばこの間出店してきた高級パンの――」
「それ以上はなんかまずい気がするんで良いです!」
なにかヤバい雰囲気を察したのかディーは俺の言葉を遮る。
「じゃあ――どうすればいいんですか?」
「考えろよ、うちにあったキャンペーンてやつを……ん? そういや飯は食ったのか?」
腹が鳴ったので、彼女に訊ねてみる。
「いえ、まだです」
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