異世界民泊始めました。~異世界からの旅行客を美味しいお店にご案内~

maa坊/中野雅博

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第四章 エルフの嫁入り

幡ヶ谷 嫁取りカレー戦争 9

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 顔を真っ赤にしたカミルと、それを弄ぶ小悪魔のイチャラブを眼前で見せられた俺は料理で膨れた腹同様、お腹いっぱいになった。

「……ご馳走様でした」

「……誤解だぞ、伸介」

 何か抗議したそうな目でカミルはこちらを見る。

「何のことやら?」

 とりあえず俺はすっとぼけた。

「で、どうだったの、カミル、お味のほうは?」

「……ご、ゴホン! いや、うむ、まあ、美味しかった」

「それは良かったわ」

 シンディは翠色の瞳を煌かせそう言った。

「……そ、それでは最後に質問があるのだが」

 気を取り直したようにカミルは衣を正す。

「ん~なあに?」

「……なぜ、この店を選んだのだ?」

 四たびの質問、全ての女性に訊ねたそれを、カミルはシンディにも問う。

「質問に質問で返すのもあれだと思うんだけど、愚問よねそれ?」

「んが!?」

 カミルは思わずのけ反る。

「い、いやしかしだな。君たちがどういった目的で私を歓待するかはとても大事な、里の今後を左右するかもしれない……」

「貴方を喜ばせるため以外の、何があるって言うの?」

 ため息をついてから、さらっと、彼女はそう言い切った。カミルは目を丸くする。

「何よ、その気付いてませんでした、みたいな顔。複雑な理由が必要だとでもいいたいの? 私はちゃんとリサーチして、一番美味しいと思った店を選んだだけよ」

 彼女に昨日の夜から付き添って店選びをしていた身からすると、彼女の主張に嘘はなかった。彼女が重視したものはほぼ『味』その一点においてのみである。

「し、しかし私が苦手かもしれないものを選んだ理由ぐらい聞かせて貰ってもいいだろう?」

 彼女はこれまた大きなため息をついた。

「自分が美味しいと思ったものを好きな人と共有したいとか思わないの?」

「う、うむ? ああそうだな。それは思うぞ、好きな人と……」

「そうそう、好きな人と……」

 ……。

「「はああああああああ?」」

 シンディのあっけらかんとした返答に俺達は思わず声がはもってしまう。

「え!? 好きだったの!? どこにそんなフラグが?」

「そ、そうだぞシンディ、嘘はよくない……」

 しかしすぐにカミルの顔つきが変わる。それが、嘘でないと彼の守護精霊が見破ったからである。

「別に普通でしょ? カミルは元々エルフの里で一番のイケメンで、氏族一位の跡取り、あの里でカミルに惚れてない女性エルフのほうが珍しいわよ?」

 シンディはこともなげに答える。アイドルに憧れるファン的なあれ、だろうか? まあカミルのスペックだけならお見合いにぶち込んだら全員に告白されそうな見た目も実績もあるとは思うが。……よく考えたらよく勝てたな俺。

「そ、そうなのか……」

「何よ、もっと『らしい』理由がよかったの? 実は昔から憧れて、とか姉の相手としてやってきたときから一目ぼれして、とか」

 ドラマなら、よくある話である。人は、というかエルフでもドラマティックな出会いや恋物語には憧れるだろう。恋物語はいつの世も、語り継がれ、人の心を掴むものである。

「いや、しかしその、好きの度合いというか……。好きと言っても一口に、その……」

「あ~~もう煮え切らない男ね!」

 あ、シンディ怒った。

「そもそも何よ! 好きな理由、結婚するための理由! 納得いけばあんた、付き合って結婚するわけ?! 好きになった相手とするのが一番いいでしょうが!」

 思わず俺とカミルは拍手していた。ド正論である。

「あんたが結婚すべき相手はあんたが一番幸せにしたいと思う女であるべきよ! そんなことでぐだぐだ悩んでいるからこんな『全部のせ』状態になったんでしょうが!」

 シンディの言葉にカミルの顔がハッとなる。彼は空っぽの鉄鍋を思わず見つめた。

「どの娘(ぐ)も美味しかったでしょ? 熱い想いを抱いて食べて貰おうと必死なわけ! あんたがこの『全部のせ』に真摯に向き合える、失礼じゃない方法は誰も文句の言えない好きをぶつけられる相手を決めた時だけよ! ほら、どうするの!?」

 シンディに捲し立てられ、カミルは若干涙ぐんでいるように見えた。もう完全に、迫力に負けてる。

「わ、私は――」

 俺とシンディは次の彼の言葉を静かに待つ。そこから語られた名前は――。
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