異世界民泊始めました。~異世界からの旅行客を美味しいお店にご案内~

maa坊/中野雅博

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外伝

進化する獣 4

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「これです!」
「んあ!?」

 藪から棒にディーは叫んだ。

「これっすよ! 私が最初から提案していたプラン! ほとんど同じじゃないですか?」
「……旅行キャンペーンの話か?」
「そうですよ! いいじゃないですか! 大手(らーめん屋)に不人気店が挑むところもそっくりだし! ここが成功するなら私のプランも絶対行けますよ!」

 金色の瞳をキラキラさせて彼女は力説する。

「絶対潰れるわ! 止めとけ!」
「何でですか!? この店現に営業出来てるじゃないですか!?」

 ふと、店員のおばちゃんを見ると気まずそうな顔をしている。

「す……すいません、つい、その潰れるだなんて」
「いえ……前ここにあった餃子屋さんも早く潰れちゃいましたしね。そう思われるのも仕方ないかなと」

 物凄く、気まずい。

「こら、店員さんに気を遣わせただろうが!」
「潰れるって言ったの藤間さんですよね!?」
「図星だが、言い出しっぺはお前だろう?」
「それこそ責任転嫁です!」

 俺たちの言い合いは確実に店には迷惑だったに違いない。――混みあっていれば。
 現状店には、やはり俺たちしか客がいなかったので見逃されて貰ったのかもしれない。
 店員さんたちは言い合う俺たちを見ても「良いんですよ、お客様が来て下されば」と暖かい言葉を掛けてくれる始末である。

「「……申し訳ありません」」

余計に情けなくなってきたところで俺たちは謝り店を出て、幡ヶ谷の屋敷で話し合うことになったのである。

    ※

「なんだ今日のあれは」
「いや、藤間さんだって相当ですよ? 潰れるだのなんだの」
「失礼だったのはわかってるよ! でもなあ……一回説明しただろ? 原価率だのなんだの……」

 俺は図に書いてもう一度彼女に説明する。

「な? いくら儲かっても意味はないだろう?」

 だが、どこか彼女は納得いかない顔をしている。

「果たして、本当にそうでしょうか?」
「……いや、話聞いてたか?」
「いえ、わかってますよ? こんな無茶な価格設定していたら、早晩潰れかねないってことも。あの店が流行っていないってことも」
「……なら」
「でもですね! それはちょっと早計ってもんだと思うんですよ!」

 彼女は再び金色の瞳を輝かせながら俺を睨む。

「あの店が今後どうなるか――私3か月ほど見守ります! それで軌道に乗るようだったら、私の提案も一考して下さい!」

 熱い、そしてあまりにも青く若い提案だな、と思う。だが――

「いいぜ、乗った」

実はそういうのは嫌いじゃなかった。人生失敗するからやめろ、なんて言われても人は納得なんてしないのだ。
俺はその熱い思いに若い頃を思い出して、若干共感してしまったのだ。

「どうなるか――見守ろうじゃないか。この、オペレーション『ファントム』を」
「……なんすか? その『ファントム』って?」

 したり顔で言ってみたが、やはり異世界人には通じなかった。
 ミュージカル ファントム とは、オペラ座の怪人の潤色版である。オペラ座の地下にすまう謎の男がヒロインに恋し、彼女が最上の歌姫になるべく、爛れた顔をマスクで隠し師事していくのだ。
 後方から見守る亡霊(ファントム)の如く――。
 
 ――という説明をBDを見せながら説明した。

「め、めっちゃ泣けます! 最高です!」
「だろ~? 宝塚版のだいきほが初見だったんだけどさ~このシーンが良いんだよ! ほら見ろよ! ここ! ここで……」

 こうして、少しだけヅカ友として仲良くなったディーと俺は、この獣肉の店を見守ることになったのだった。

   ◆

 今日も俺たちは『獣』に来ている。あれから一か月、かなりのペースで通っている。

「――ここ、量がおかしいよな」
「ええ……最初はただのサービス精神かと思ってたんですが、おかしいですよね」

 ご飯は五穀米か白米を選べるため五穀米にしている。サラダバーに加え、付け合わせでひじきの煮物やら、その時々で2種類ほどついた上に汁物も出てくる。そして、食べ終わったと思いきや――。

「アイスです~」

 お菓子がついたりする。頼んでないのに。

「うっぷ――」
「無理すんなディー。エルフの腹にはちょっと重いだろ」
「いえ、責任がありますから……食べます」

 今日こいつが頼んでいるのはから揚げ定食だ。
 下味のつけられた鶏ももを香ばしく揚げてある。

「これがまた……結構美味いんだよな」
「藤間さんも食い過ぎですよ?」

 俺はといえば今日の豚肉定食である。それにディーの頼んだから揚げを追加している。一個100円である。
 ニンニクと豚と玉ねぎを醤油で甘辛く炒めた物だが、味が濃く、美味い。さらに……。

「結構な食べ応えがあるんだよな……」
 
 量が結構ある。それにから揚げも付けたもんだからとんでもなく腹に溜まるのだ。

「もう食えんな」
「ええ、今日は何も入らないです……」

 そんなことを言い合う俺たちに、笑顔のおばちゃんが語り掛けてきた。

「今日も来てくださってありがとうございます」
「あ、いえ……」
「おかげさまで少しずつですが、リピーターも増えてるんですよ」
「え、そうなんですか?」
「はい。本当にちょっとずつですけどね」

 見れば、確かに今日は俺達以外の客が2人ほど座っている。

「この調子でいければと思うんですけど……そうそう、それで新メニューを作っているんです」
「へぇ、何ですか?」
「軍鶏らーめんて言うんですけど」
「ははぁ……(下の店を意識したのかな)」
「それでお願いがありまして」
「はい」
「小鉢程度ですけど、アンケート取ってるので試食してもらっていいですか? 勿論タダですけど」
「「……」」

 ディーは無言で俺に訴えかける。無理だ、と。
 だから俺は笑顔で頷いて答えた。

「喜んで、頂きます」

 ファントムは飯(クリスティーヌ)のお願いは断れぬ。

 こうして今日も俺たちの胃は試され続けるのだった。
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