異世界民泊始めました。~異世界からの旅行客を美味しいお店にご案内~

maa坊/中野雅博

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第五章 過行く日々の・・・

死なないで主人公! 今死んだらこの小説終わっちゃう! 次回、藤間伸介死す! その1

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「もうすぐですねえ」

「そうね」

 秋も深まり始めた昼下がりの午後、うちやってきたのはこの民泊の共同経営者であるエルフのドリスコルだ。居間の机を挟んで椅子に座り、ミリアルと俺に相対している。

「ようやくですよね」

「ああ、そうだな」

 ドリスコルはにやにやと、いやらしい笑みを浮かべたまま同じような質問を繰り返す。

「結婚までもう……」

「ええい、くどい! 何が言いたい!」

「ええ~それはちょっと直接的には」

 この糞エルフ、しなをつくって、およよ、とそっぽを向く。

 ――やっちゃっていい? とばかりに青筋を立ててミリアルに向けて俺は微笑む。
 
 ミリアルは親指をグッと立てる。

「はいはい、ギブギブ、もう、わかりましたよ。大事な話なのに」

「なにがやねん。人の家にやって来ておいてさっきから延々と同じようなところをループして会話にならんだろうが」

「いつか察して貰えると思ったんですけどねえ……」

 そこでチラ、と彼はミリアルを見つめる。

「さすがに私もわからないわよ、叔父様?」

「……そうですか。それじゃあご説明しましょうか。ええと……お二人のセックスに関してですけど、まだしてないですよね?」

 余りにも直接的な表現をした馬鹿に俺が止める間もなくミリアルの右ストレートが飛んだ。

「ひぐぅ!?」

「なななななな、何言ってんのこの変態!」

「……だからぼかしたのに」

 顔面を抑えて変態エルフがぼやく。

「……いや、流石に失礼じゃないの? 藪から棒に俺達の性生活に踏み込むとか」

「いや、これ大事なことなんですよ? 彼女がまだ未通でおぼこで男の味を知らないってことが……」

 バキッ!

「へぶぅっ!?」

 ミリアルの綺麗な回転後ろ回し蹴りが奴の側頭部を襲う。ドリスコルは昏倒し、床を舐める。

「……あの、これ」

「叩き出しておいて」

「……はい」

 ミリアルさん、笑っているけど顔が超怖い。俺はドリスコルを抱えて家の外に出る。こりゃあ、屋敷にでも寝かすか。今が休業期間で良かった。いや、彼女を怒らせたことは決して良くはないのだが。

「……おい、起きてるだろ?」

 俺が家を出て暫くして、背中に背負ったドリスコルに声を掛ける。

「あれ? ばれました?」

「寝言でわざとらしく『ぐーすか』って言う奴はいねえよ。起きてるならとっとと降りろ」

 俺はドリスコルを道端で下ろす。

「で、どういうつもりだったんだ?」

「大事な話だったんですよ、本当に……できれば彼女に聞かれたくないので」

 ドリスコルは先ほどまでのお道化た口ぶりとは少し変わって、真面目な顔をして俺の方を見る。

「もしかしてそれでわざと怒らせたのか? だったらもう少しちゃんと話せよ。何か真意があったのかもしれんが、あれじゃ逆効果だろうに」

「いやあ、重い話だからこそってありません?」

「そういうのこそ茶化すなよ……で、何か問題なのか?」

「ええまあ」

「わかった。じゃあ屋敷で話そう」

 俺達は屋敷に移動する。いつしか、小雨が降り始めていいた。

      ◆

「じゃあまず上着を脱いで下さい」

 屋敷に着くなり俺はドリスコルに服を脱ぐよう指示される。

「おい、俺にそっちの毛はないぞ?」

「違いますよ。現状を診察させて下さい」

「? 診察って、俺別にどこも……」

「いいから、早くしてください」

 奴に茶化そうという意図は見えないので大人しく指示に従うことにする。
 奴は俺のたるんだ上半身を撫でまわすように触診していく。見ようによっては非常に誤解されそうな光景である。

「――おい、ちょっとこそばゆいんだが」

「動かないで……」

 ちょっとまって、そこ俺の敏感ポイント! ああん。

「てめ、誰が好き好んでこんなデブ中年の喘ぎ声を聞きたがると……」

「やっぱり……」

 落胆したような様子でドリスコルは俺の胸から手を放す。

「何がやっぱりなんだよ? 中性脂肪が多すぎるってことか?」

「なら良かったんですけどねえ……」

「おい、はっきり言えよ! さっきから遠回しすぎてな」

「死にます」

「そう、死ぬぞてめ……え?」

「このままだと、やはり死にます」

「え、と、誰が、どのように?」

「貴方ですよ、藤間伸介さん。原因はその身に宿った変質し過ぎた魔力で……だから言い出しづらかったんですよ」

「……冗談、だよね?」

 俺は奴が「嘘ぴょ~ん」と笑い飛ばしてくれることを期待した。しかし、奴は大きなため息をついて俺の肩を叩いた。

「――今後の話をしましょう。何とかしないと、彼女が悲しみますから」

    ◆

「良いですか? いま貴方の身体には2つの魔力が流れています。ヴァンパイアのエリザさんと、サキュバスのエロリンさんの二つです」

 ドリスコルは居間の畳の上で正座している俺に解説を始める。

「これに、僅かですがもう一つの魔力があって、それが貴方自身のものか遺伝なのかよくわかりませんが、それがええと、要するに干渉しあって詰まりかけてます」

「詰まりかける……えーと、結石みたいな感じ?」

「そうです。お互いが干渉しあっていつ、どこでそれが身体を走る魔力の道――龍脈って言うんですが、それを詰まらせる恐れがあります」

「詰まると、どうなるんだ?」

「そりゃ死にますよ。暴発するのと一緒です。普通の人間だって身体の血流が止まったら死にますよね?」

「……確かに」

「で、それを解消したいんですが……」

「したいんですが?」

「……わかりません」

「いや、それ! 一番大事な所だろ!?」

「でもわからないんですよ。これを治療するにはその魔力を取り除くか『融和』させる、しかないんです」

「なら取り除けば……」

「無理ですよ、もう複雑に絡み合って全身に広がってます。そんなの無理に引っぺがしたらそれこそ死にます」

「……じゃあその、融和って言うやつで頼む」

「それが出来たら苦労してないんですが……」

 嫌な沈黙が降りる。いや、降りて終わったらあかん。俺のバラ色の結婚生活が始まる前に終わったらどうすりゃいいのさ!?

「わ、悪い話ばかりじゃなくて、なにかいい話とかないのかよ?」

「ミリアルさんがまだ子作りしてなかったのは幸せかもしれませんよ? エルフ社会に戻っても処女ならほら、貰い手またつきますから」

 て、てめーあの冗談そんなつもりで言ったのかよ?

「百発ぐらい殴っていいか?」

「……死なれるのでしたら、謹んで」

「……で、でも何か解決方法があるから俺に話をしたんだろ? その融和とか、他の治療方法とか……」

「……すいません、ここからは門外漢なんですよ」

「おい! ふざけんなよ! 俺はまだあいつを幸せにしてないし、俺だってまだあいつと一緒に……」

 やばい。なんか知らないが涙が零れ落ちて止まらない。このままもしかしたら死ぬ? ミリアルの悲しむ顔だけが浮かんでくる。嫌だ、絶対に死ねない。

「なあ、本当に……お前に打つ手はもうないのか?」

「私に出来ることはもうありません」
 ハッキリとした口調でドリスコルは言い切る。俺は……俺は。

「なのでまあ、後は主治医の先生とお話下さい」

「……あ?」

 異世界の扉が光り、誰かが入って来る気配がする。
 そこに居たのは――。

「あんた……どっかで」

 そうだ、思い出した。確かハーフリングの出産のときにいた顔面ツギハギの医者。そいつが今、俺の前に立っていた。

    ◆

「はぁい。ドリちゃんの見立て通り魔力結石だね~。いつ心臓が止まってもおかしくないわ~」

 ツギハギ顔のエルフの女医が胸の空いた白衣を着て俺の目の前でおっぱいを揺らしながら触診していく。谷間見えとるがな。

「……で、治るんですか?」

「う~ん、君次第?」

 そう言うと彼女は俺の顎をその冷たく白い指先でなぞる。

「これ、同意書にサインしてくれる? 治療の際、何があっても私を訴えないっていうやつ。最近多いのよぅ。せっかく治したのにその過程に不満をぶつける奴」

 そう言うと彼女は一枚の羊皮紙のスクロールを取り出す。中を広げると魔法陣が描かれている。

「魔術契約みたいなもんですか?」

「名前を書いて、あなたの血を一滴垂らすだけぇ~。ね、簡単でしょ?」

「選択肢、ないよねえ……」

 俺がドリスコルを見ると、目を逸らされてしまう。

「……後は任せます。何かあったら一報下さい」

「ミリアルのほうにはうまく誤魔化せよ」

 そう言って俺は屋敷を出ていくドリスコルを見送る。

「契約者名……ブラウン=ジャッカルさん、でいいんですかね?」

 渡された羊皮紙の文面を確認する。一応俺にも読める。契約内容は大事である。死んだら検体送りとか魔改造されるとかあったら笑えないし読み込んでおかねば。

「そだよ、ちなみにモグリだから氏族はな~し」

「はいはい、じゃあ藤間伸介、っと……ほれ、これでいいか?」

 俺は彼が出て行ったあとすぐに羊皮紙を手に取り、名前を記入し魔力を宿した爪で皮膚を割き血を垂らす。

「十分ですよん。では……パパらぱっぱぱ~。お薬~。ま、とりあえずこれ飲んで?」

 ジャッカルさんは一本の薬瓶を俺に手渡す。

「飲めば、治るんですか?」

「うう~ん、一時しのぎ? でも飲まないと……」

 彼女は自分の首のあたりを締めるような動作を取る。「死んじゃうよ?」と。
 選択しないじゃん。俺は薬瓶の蓋を開け、それを呷る。

「んぐっ!?」

 飲んだ瞬間から身体が熱くなる。しかも段々と熱が上がっているような――。

「な、なにを飲ませた……」

 白い蒸気が俺の身体から立ち昇り始める。

「魔力を、顕現化させてるのよ?」

「顕現……?」

「そ、君から切り離すのは無理だから、いっそもっと加速させているの、交わりを」

「ど、どういうこと?」

「融和、ってやつ? それを促進してるのよ~」

 そういやドリスコルがそんなことを言ってたな。何だ、薬で簡単に出来るなら最初からやっておけよ……。

「これで……治るんだな?」

「――違うわよ? ここからが、本番」

 怪しく微笑んでいた彼女の顔から笑みが消える。

「出るわよ」

「あ――」

 意識が飛びかける。視界が白く染まる。

「――がッ……」

 何だ――何が起きた?

 全身から力が抜け、腰が立たない。這いつくばったまま意識だけを何とかつなぎとめている。薄れゆく意識の中で、俺は――白い、白い生足を見た。

「――マスター」

 その声だけは、ハッキリと俺の耳に聞こえてきた。

「――は? 誰が……マス……」

「ああ……違う。いや、そうだ。いや……このような豚がマスターであるはずが、ああ……」

 何だ? 滅茶苦茶悪口言われている気がするのだが……。
 何とか意識を保ち俺は顔を上げる。するとそこには半分が白い肌、そしてもう半分が褐色の、黒のSMボンテージ姿の長い黒髪のお姉さまが立っていた。

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