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第1章 ーオー・レーモンと隣国ー
漆黒の中で Ⅰ
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「……っがはっ?!」
私は爆風に勢い良く吹き飛ばされレンガを積み上げて出来た王宮壁に背中から激突した。
バルコニーの後ろの廊下に飾ってあった鉄の甲冑もバラバラになり散らばっていった。
じわじわと鈍い痛みが伝わってき、表情を歪める。背中が打ち付けられたことにより、まともに呼吸も出来ず四肢も痛い、視界がチカチカしてたまらない。
「……かっ……ゲホッ、レ、レイラ……!」
王宮は半壊し砂埃が待っている。
私はまだ痛みの残る体に鞭をふるいなんとか立ち上がった。
「?!」
徐々に砂埃の中から浮かび上がってくるエルザの影。
その数は、2人。
「うそ……そんな…」
砂埃を手で一払いし姿を現したのはー
「黒い……翼…… ……」
1人は茶髪をツインテールに結い、頬に黒いペイントがされている少女、1人はくせ毛の黒髪、鼻筋に黒いペイントがされている青年ー。
レイラの見た未来予知は的中した。
肌で感じたことのない悪寒が全身に走る。
茶髪の少女はその鋭い瞳ですぐに私の姿を捕らえた。そして、にぃ、と不気味に口角を三日月型に歪ませる。
「あ~サリアちゃんだよねえ?」
酷く幼い少女の声をしている。
スキップで私に近寄ってくる。
「……何をしにきたわけ?」
私は至って冷静を演じるが咄嗟に背中に隠した左手はガクガクと情けなく震えている。
私の目の前にいる少女は私の投げかけた質問に対し少し悩んでから、何かを口にしようとぱくりと口を開いた。
轟音とともに王宮の床が崩れ始めた。
「?!!」
その轟音からは微かにお父様の魔力が感じられた。
それとほぼ同時にお母様のいた来賓の為開かれたホールの方向から、氷が勢い良く崩れかけた壁や床を張っていく。
「お父様とお母様が、戦っている?!」
「えへへ…そうだよお、サリアちゃん!でもやっぱり国の王様とお妃様は強いねえ。私たちなんかじゃぜーーんせん歯が立たないや!」
全然歯が立たないーそれは……勝算があるってこと……?!
私は黒いエルザの言葉をそう解釈し、ごくりと生唾を飲み込んだ。そして、レイラの見た未来予知を思い出す。
見事レイラの未来予知が的中するとレイラは高確率でこの黒いエルザ達にどこかへ連れ去られてしまう。
お父様とお母様が命をかけて戦っているー私も戦い、レイラと共にこの場を生き延びなければならない。
砂埃が徐々に晴れてきた。また残酷な程美しく輝く満月がその姿を表し始めた。
「……レ、レイラ……?」
不思議と、私達が吹き飛ばされてからレイラは一言も言葉を口にしていない。
衝撃で気絶している?
もしくは既に戦っている?
……いや、それなら戦いに生じる音が聞こえるはず。
「あぁ、レイラちゃん?サリアちゃん、レイラちゃんのこと心配してるの?」
私は眼球だけを黒いエルザに向ける。
全身が逆なでされるような感覚に陥る。
「レイラちゃんならね、あそこだよ!」
黒いエルザはすっと指を指した。
レイラー、私はその名前を呼べなかった。
爆風に飛ばされた勢いでもう1人の黒いエルザによって作られたであろう無数の巨大な茨に背中から突き刺さっている。
既にレイラの真下は大きな血の海を創り出していた。
「サリアちゃん、心配しないでね!レイラちゃんは生きてるからね!生きたままローゼ様に届けるのが私たちの仕事なんだ!」
「あーん……もう時間が無いみたいだから私頑張って手短に説明するね!」
「私はアラベラ!この茶髪、見たらわかると思うけどローズだよ。サリアちゃんと同じ剣術士なんだあ。」
「あれれ?サリアちゃん聞いてるう?」
アラベラーそう名乗った黒いエルザは能天気にそう言っている。
「ふざけないでよ」
「あ、そうそう!サリアちゃんのお父さんとお母さん、すっごくすっごく強かったねえ!!私達の中でいっちばん強い子達を送ったけど、互角ってやつなのかな?『どっちも』死んじゃったんだあ」
仲間が死んだはずのに、アラベラは菓子を貰った子供のような無邪気な顔をしている。
「ふざけないでよ!!!!」
私は、叫んだ。
それと同時に今起こっていることの真実が次々と頭の中に流れ込んでくる。
目の前で串刺しにされたレイラー
戦死した父と母ー
私は後に立ててあった甲冑に取り付けられていた剣を手にした。
「私は、この国の名にかけて、あなた達をここで殺します。」
アラベラは『殺す』という言葉を聞き入れた瞬間目の色を変えた。
「えへ、殺せるものなら殺してみなよ?」
その声にはさっきまでの幼さは含まれていなかった。
アラベラは腰に吊るしていた剣をすっと抜く。
震える掌で私は剣を構える。
ふつふつとこみ上げる怒りに身を任せ、砂埃に汚れたドレスのままアラベラの居る方向へと走る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
金属同士が擦れ合い互いを弾く音がバルコニーだった場所に響く。
私は何度もアラベラに剣を振るった。
しかしことごとく私の剣は受け流される。
「あははは!どうしたの?サリアちゃん!焦ってるのかなあ?太刀筋が全然定まってないよ?」
アラベラの表情は、依然、余裕。
奴の言うように私はとても焦っている。
呼吸が荒く、脚まで震えてくる。
「あ、もう時間無いや!」
「?!」
アラベラは少しの余所見の後、私の剣の柄を弾き飛ばした。
バキッという音と共に剣は縁を描きながらバルコニーの向こうへと飛んでいく。
「いっ?!」
人間の力とは思えないほどの力で私の前髪をわしずかむ。
重力に身を任せるように私は頭から床に叩きつけられた。
「……っつ……!!」
意識が朦朧としてくる。
「ここでサリアちゃんにビックニュース!なんと、ローゼ様の欲しいものはレイラちゃんだけじゃありません!!サリアちゃんのね、立派な翼も欲しがってたんだあ。」
なにを、言っているの?
「だからね…… ……」
アラベラはトントン拍子で話を勝手に進めていく。
「翼、貰うね?」
「……はっ、はぁ……?」
アラベラは私の背中に馬乗りになり手馴れた手つきで翼の根元に剣を当てた。
「……い、いやっいやだ……!やめて!……うっ、あっ……」
私の喉が擦り切れ血が出たたが、私は叫び続けた。
背中の、焼ける痛み。
私にはもう何もすることが出来ない。
視界は既にぼんやりとしすぎていて物の原型を留めず、世界がふやけている。
もう1人の黒いエルザが私へと近づいてくる。
私は抵抗することもなくただ、めちゃくちゃに砕けた大理石の床に全体重を預けていた。
もう、無理だ。
レイラは胸を串刺しにー
父も母も死んだー
私もこの様だ。
黒いエルザは私の前でしゃがんだ。
「あーあ、なーんか気の毒になってきちゃうねえ。ま、別に同情はしないけどさ。」
遠くから、アラベラが「シャローム早く~」なんて言っているのが微かに分かる。きっとこの黒いエルザのことを呼んでいるんだろう。
「はあ、はいはい今行きまーすってね…… …… ……おい、まだ生きてんだろ?」
「…… ……!」
私は重すぎる瞼をこじ開け瞳でシャロームと呼ばれる青年を捕らえた。
「時間がないから単刀直入に言うけど、僕達の目的は君の姉、レイラ・オー・レーモンだ。彼女は希少なアイリスであり素晴らしい魔術師の素質を持っている。ローゼ様は、前から彼女が欲しいと仰っていたよ。レイラは殺さない……言いたいことは分かるかな?…… ……取り返したかったら、取り返せるんじゃない?ってことだよ。まあ、これから君が生き延びれたらの話だけどね。」
シャロームはそれだけを言い残し、アラベラの方へと歩いていった。
「うふふふ、ふわふわのアイリスの翼!可愛いなあ~」
「はーい、アラベラちゃん、もうローゼ様のとこに行くよ?」
「ローゼ様の喜ぶ顔みるの楽しみ!…… ……オー・レーモンかあ。なかなか手強かったねえ、シャローム。」
「そうだね、アラベラ。流石はあのパンドラ、アイビスと言ったところだ。正直ここまでこちらも追い詰められるとは思わなかったよ。」
「レイラちゃんだけでも手に入ってよかったね!うふふふ、ローゼ様褒めてくれるかなあ?よし、いくよお、シャローム!」
「はいはい、アラベラちゃん。」
シャロームの肩にはレイラが担がれている。
2人は黒い翼を羽ばたかせる。
「…… ……いや、行かないで……レイラ……!」
私の願いは届くはずもなく、2人は満月の夜空へと羽ばたいて行った。
私は爆風に勢い良く吹き飛ばされレンガを積み上げて出来た王宮壁に背中から激突した。
バルコニーの後ろの廊下に飾ってあった鉄の甲冑もバラバラになり散らばっていった。
じわじわと鈍い痛みが伝わってき、表情を歪める。背中が打ち付けられたことにより、まともに呼吸も出来ず四肢も痛い、視界がチカチカしてたまらない。
「……かっ……ゲホッ、レ、レイラ……!」
王宮は半壊し砂埃が待っている。
私はまだ痛みの残る体に鞭をふるいなんとか立ち上がった。
「?!」
徐々に砂埃の中から浮かび上がってくるエルザの影。
その数は、2人。
「うそ……そんな…」
砂埃を手で一払いし姿を現したのはー
「黒い……翼…… ……」
1人は茶髪をツインテールに結い、頬に黒いペイントがされている少女、1人はくせ毛の黒髪、鼻筋に黒いペイントがされている青年ー。
レイラの見た未来予知は的中した。
肌で感じたことのない悪寒が全身に走る。
茶髪の少女はその鋭い瞳ですぐに私の姿を捕らえた。そして、にぃ、と不気味に口角を三日月型に歪ませる。
「あ~サリアちゃんだよねえ?」
酷く幼い少女の声をしている。
スキップで私に近寄ってくる。
「……何をしにきたわけ?」
私は至って冷静を演じるが咄嗟に背中に隠した左手はガクガクと情けなく震えている。
私の目の前にいる少女は私の投げかけた質問に対し少し悩んでから、何かを口にしようとぱくりと口を開いた。
轟音とともに王宮の床が崩れ始めた。
「?!!」
その轟音からは微かにお父様の魔力が感じられた。
それとほぼ同時にお母様のいた来賓の為開かれたホールの方向から、氷が勢い良く崩れかけた壁や床を張っていく。
「お父様とお母様が、戦っている?!」
「えへへ…そうだよお、サリアちゃん!でもやっぱり国の王様とお妃様は強いねえ。私たちなんかじゃぜーーんせん歯が立たないや!」
全然歯が立たないーそれは……勝算があるってこと……?!
私は黒いエルザの言葉をそう解釈し、ごくりと生唾を飲み込んだ。そして、レイラの見た未来予知を思い出す。
見事レイラの未来予知が的中するとレイラは高確率でこの黒いエルザ達にどこかへ連れ去られてしまう。
お父様とお母様が命をかけて戦っているー私も戦い、レイラと共にこの場を生き延びなければならない。
砂埃が徐々に晴れてきた。また残酷な程美しく輝く満月がその姿を表し始めた。
「……レ、レイラ……?」
不思議と、私達が吹き飛ばされてからレイラは一言も言葉を口にしていない。
衝撃で気絶している?
もしくは既に戦っている?
……いや、それなら戦いに生じる音が聞こえるはず。
「あぁ、レイラちゃん?サリアちゃん、レイラちゃんのこと心配してるの?」
私は眼球だけを黒いエルザに向ける。
全身が逆なでされるような感覚に陥る。
「レイラちゃんならね、あそこだよ!」
黒いエルザはすっと指を指した。
レイラー、私はその名前を呼べなかった。
爆風に飛ばされた勢いでもう1人の黒いエルザによって作られたであろう無数の巨大な茨に背中から突き刺さっている。
既にレイラの真下は大きな血の海を創り出していた。
「サリアちゃん、心配しないでね!レイラちゃんは生きてるからね!生きたままローゼ様に届けるのが私たちの仕事なんだ!」
「あーん……もう時間が無いみたいだから私頑張って手短に説明するね!」
「私はアラベラ!この茶髪、見たらわかると思うけどローズだよ。サリアちゃんと同じ剣術士なんだあ。」
「あれれ?サリアちゃん聞いてるう?」
アラベラーそう名乗った黒いエルザは能天気にそう言っている。
「ふざけないでよ」
「あ、そうそう!サリアちゃんのお父さんとお母さん、すっごくすっごく強かったねえ!!私達の中でいっちばん強い子達を送ったけど、互角ってやつなのかな?『どっちも』死んじゃったんだあ」
仲間が死んだはずのに、アラベラは菓子を貰った子供のような無邪気な顔をしている。
「ふざけないでよ!!!!」
私は、叫んだ。
それと同時に今起こっていることの真実が次々と頭の中に流れ込んでくる。
目の前で串刺しにされたレイラー
戦死した父と母ー
私は後に立ててあった甲冑に取り付けられていた剣を手にした。
「私は、この国の名にかけて、あなた達をここで殺します。」
アラベラは『殺す』という言葉を聞き入れた瞬間目の色を変えた。
「えへ、殺せるものなら殺してみなよ?」
その声にはさっきまでの幼さは含まれていなかった。
アラベラは腰に吊るしていた剣をすっと抜く。
震える掌で私は剣を構える。
ふつふつとこみ上げる怒りに身を任せ、砂埃に汚れたドレスのままアラベラの居る方向へと走る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
金属同士が擦れ合い互いを弾く音がバルコニーだった場所に響く。
私は何度もアラベラに剣を振るった。
しかしことごとく私の剣は受け流される。
「あははは!どうしたの?サリアちゃん!焦ってるのかなあ?太刀筋が全然定まってないよ?」
アラベラの表情は、依然、余裕。
奴の言うように私はとても焦っている。
呼吸が荒く、脚まで震えてくる。
「あ、もう時間無いや!」
「?!」
アラベラは少しの余所見の後、私の剣の柄を弾き飛ばした。
バキッという音と共に剣は縁を描きながらバルコニーの向こうへと飛んでいく。
「いっ?!」
人間の力とは思えないほどの力で私の前髪をわしずかむ。
重力に身を任せるように私は頭から床に叩きつけられた。
「……っつ……!!」
意識が朦朧としてくる。
「ここでサリアちゃんにビックニュース!なんと、ローゼ様の欲しいものはレイラちゃんだけじゃありません!!サリアちゃんのね、立派な翼も欲しがってたんだあ。」
なにを、言っているの?
「だからね…… ……」
アラベラはトントン拍子で話を勝手に進めていく。
「翼、貰うね?」
「……はっ、はぁ……?」
アラベラは私の背中に馬乗りになり手馴れた手つきで翼の根元に剣を当てた。
「……い、いやっいやだ……!やめて!……うっ、あっ……」
私の喉が擦り切れ血が出たたが、私は叫び続けた。
背中の、焼ける痛み。
私にはもう何もすることが出来ない。
視界は既にぼんやりとしすぎていて物の原型を留めず、世界がふやけている。
もう1人の黒いエルザが私へと近づいてくる。
私は抵抗することもなくただ、めちゃくちゃに砕けた大理石の床に全体重を預けていた。
もう、無理だ。
レイラは胸を串刺しにー
父も母も死んだー
私もこの様だ。
黒いエルザは私の前でしゃがんだ。
「あーあ、なーんか気の毒になってきちゃうねえ。ま、別に同情はしないけどさ。」
遠くから、アラベラが「シャローム早く~」なんて言っているのが微かに分かる。きっとこの黒いエルザのことを呼んでいるんだろう。
「はあ、はいはい今行きまーすってね…… …… ……おい、まだ生きてんだろ?」
「…… ……!」
私は重すぎる瞼をこじ開け瞳でシャロームと呼ばれる青年を捕らえた。
「時間がないから単刀直入に言うけど、僕達の目的は君の姉、レイラ・オー・レーモンだ。彼女は希少なアイリスであり素晴らしい魔術師の素質を持っている。ローゼ様は、前から彼女が欲しいと仰っていたよ。レイラは殺さない……言いたいことは分かるかな?…… ……取り返したかったら、取り返せるんじゃない?ってことだよ。まあ、これから君が生き延びれたらの話だけどね。」
シャロームはそれだけを言い残し、アラベラの方へと歩いていった。
「うふふふ、ふわふわのアイリスの翼!可愛いなあ~」
「はーい、アラベラちゃん、もうローゼ様のとこに行くよ?」
「ローゼ様の喜ぶ顔みるの楽しみ!…… ……オー・レーモンかあ。なかなか手強かったねえ、シャローム。」
「そうだね、アラベラ。流石はあのパンドラ、アイビスと言ったところだ。正直ここまでこちらも追い詰められるとは思わなかったよ。」
「レイラちゃんだけでも手に入ってよかったね!うふふふ、ローゼ様褒めてくれるかなあ?よし、いくよお、シャローム!」
「はいはい、アラベラちゃん。」
シャロームの肩にはレイラが担がれている。
2人は黒い翼を羽ばたかせる。
「…… ……いや、行かないで……レイラ……!」
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