津軽藩以前

かんから

文字の大きさ
14 / 105
鹿角合戦 永禄十二年(1569)秋

他国者とは 3-3

しおりを挟む
 理右衛門は答えた。

 「“敵を作らないこと” でございましょうか。」

 彼は、持っていた湯呑を茶托に戻した。

「……商売は、相手に嫌われるとやっていけません。私の仕事は、交易によってもたらされる様々な商品を、多くの方々に売ることです。肝心要は……こちらが一歩引いて……実を取るのです。」

 ……町が荒らされるのは一大事。お客様が飢えてしまうのも一大事。幸いにも、万次殿は分をわきまえておられます。……決して取りすぎることをしない。私を潰してしまったら、元も子もないですし。
 理右衛門はそういうと、ニコリとほほ笑んだ。為信は腕組みをしたまま。だまって一つ、うなずいた。

 「それに……これはあくまで私情ですが。」

 ん。為信は頭をあげる。

 「万次殿のお仲間には、多くの他国者がおります。独りでに歩いてやってきた者もあり、船に乗って来たる者もあり……。」

 “奴隷もおりますれば”

 為信は一気に目を開いた。それは真かと問う。

 「はい。ここらの者の中の、常識でございます。」
 驚いている為信をしり目に、理右衛門は飲み干してあった碗に茶を注ぎ足した。平穏そのものである。

 奴隷は……戦争で生まれる。どこかの国がどこかの国に攻め入り、捕虜となす。彼らを人の足りない国に売り、銭に替える。ほかには貧民がわが子を売って、生計を立てる場合もある。

 「……その奴隷を買い取って、自由の身にさせてやっているのが万次殿ですよ。」

 奴隷だった者たちは感謝し、残りの人生を万次のために捧げると誓うという。それが“万次党”の強さである。

 為信はいっそう悩んだ。はたして万次はいい人間なのか悪い人間なのか。……型には決してはまらない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...