花宝石の箱庭 -彩宴-

琴花翠音

文字の大きさ
6 / 16

6話

しおりを挟む
「……ごめんね、アール。不快な思いをさせてしまったわね」
「いえ……どちらにしても、あいつから聞き出さないといけないことがありますから」

 男が起きないことを確認し、再び光の檻に収監し直しながらセラヴィは謝罪した。アールは未だ険しい表情を崩さず、男を蔑んだ目で睨んだままだ。そんな彼を心配そうに見た後、セラヴィは光の檻に触れながら一言呟いた。男の入った檻は瞬時に消え、部屋には二人だけが残った。

「……アール、もうそんな顔しないで。彼ならもう移したから」
「あっ……すみません。つい……」
「いいのよ、私はあなたの事情も知ってるから。ただ、エレンの前では気をつけた方がいいわね」
「はい……」
「さて、回収してもらった魔珠の状態は、っと」

 セラヴィは、机の上にある特殊な台に魔珠を乗せ、手を翳しながら状態を確認する。「魔珠」とは、フルール・ミロワールにおいて、各地域に点在する魔力資源のようなもの。この世界が神秘的な魔力に満ち、その魔力を生命力として生物が活動しているのも、魔珠の恩恵によるものだ。見た目はただの宝珠と見違えるが、それに蓄えられている魔力量は計り知れない。これらはそれぞれ決まった場所に自生し、その地域の生命力を維持するために注力している。そのため、魔珠を持ち去ることは一つとして決して許されないことだ。
 しかし残念なことに、反政府組織「エデン」による魔珠強奪事件が勃発し、フルール・ミロワール全体の魔力維持のバランスが崩れているため、それを阻止すべくガーデンも忙しく動いているのだった。

「……うん、多少魔力の揺らぎは見られるけど、大事にはなってないわね。アール、これの保護をデルフィノに頼んでおいて」
「え、このまま俺が戻してきても…」
「あなたは休みなさい」
「わ、わかりました……」

 再び任務として外へ行こうとするアールを、有無を言わさない一言で抑えてしまうセラヴィ。彼女の静かな圧には、さすがのアールでも逆らえないようだ。セラヴィが魔珠を持ち上げるなり、薄いヴェールの様に光が巻き付く。それを大事そうにアールに手渡し、仕上げにさらに術を施す。アールの手には、光の箱に収まった魔珠があった。

「それじゃあ、よろしくね。今回も早く終わったからとは言え、任務は任務。あなたはただでさえ出ずっぱりなんだから、休めるときにちゃんと休んでね」
「……はい、ありがとうございます」

 アールの肩を軽く叩きながら、セラヴィは優しく微笑む。その笑顔を見て何かを思い出したのか、アールは少し顔を歪ませた。複雑な表情のまま、礼を言って司令官室を後にする。そんな彼の背中を見送りながら、セラヴィも困ったように微笑むのだった。

「お母さま、早く見つかるといいわね……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...