スマートシステムで異世界革命

小川悟

文字の大きさ
42 / 224
第3章 大賢者の遺産

第10話 教会と交渉

しおりを挟む
教会の馬車は内門を通り、町の奥にある広場に入り、騎士団の詰所などと一緒になっている役場の入口に到着した。

助祭が馬車を降りて役場の入口から中に入って行く。

すぐに助祭は戻って来てワルジオに報告する。

「ほ、本日は領主のハロルド様も同席されるそうです」

そう助祭から聞くとワルジオは顔を顰めた。

ワルジオはハロルドの事を苦手に思っていた。
理性や常識ではなく、感情を優先するようなタイプとは交渉がしにくいし、レベッカを舐め回すように見るのが好きだが、さすがにハロルドが居てはそれも出来ない。

「ポーションは話し合いが終わるまで馬車に置いておけ。ハロルド様があまり無茶な事を言い出したら納品数は減らす。孤児院に薬草を教会に納めるように協力をお願いする。もし、それを拒絶しても納品数を減らす」

元々冒険者ギルドや商業ギルドに割当てを減らすと話して、エルマイスター家に優先的に納品するのである。教会の意向が通らないなら、相手が領主であろうと妥協するつもりはワルジオには無かった。

最悪多少揉めても、どちらかのギルドに納めれば大きく損失が出る訳でもないし、エルマイスター家に教会とどちらの立場が上か、理解させるのに丁度良いとワルジオは考えたのだ。

上手くいけば次回に難癖をつけてやれば、あのレベッカ夫人を思いのままに出来ると、邪な想像をするワルジオだった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


ワルジオが助祭と一緒に応接室に入ると、中にはハロルドとレベッカだけではなく、セバスや行政のトップであるメイベル・アルベイルとその息子、騎士団長のアレンまで揃っていたことに驚いた。

ワルジオは領で何か起きた可能性があり、ポーションの需要が高くなって、これほどの面子が集まっていると思い、更に恩を着せるか、価格を引き上げるか考えるのであった。

対するハロルド側の皆は、いつも高慢な態度をするワルジオがどのような表情をするのか見ようと集まっていたのである。

「ワルジオ司祭、今日はポーションを持って来ていないのかしら?」

レベッカはどうせ買わないので丁度良いと思い。ワルジオは話がし易くなったと思った。

「はい、実は冒険者ギルドからの薬草の納品が、予定より大幅に少なかったので、数を揃えるのに非常に苦労していまして、我々も非常に憂慮すべき状況になっていまして……」

ワルジオは困っていますと表情を作る。
ハロルド達はその演技に笑いそうになるのを必死に我慢する。必死に我慢したことで、ハロルド達が苦しそうな表情になり、それを見てワルジオは相手が戸惑って困っていると勝手に思い込む。

「今回は納品する量を減らして頂けないかと、……すべて納品すると商業ギルドや冒険者ギルドに殆ど納品できなくなります。そうなると町中にポーションが出回らくなり、それはそれで不味い事に………」

ワルジオは説明しながらも、ハロルド達の表情を観察する。
ハロルド達は購入しないと決めているのに、また恩を着せようとあれこれ言うワルジオが、滑稽に見えて余計に笑うのを我慢するのが苦しくなる。

そんな表情を見て、さらに相手が困っていると勘違いしたワルジオは、少しでも高く購入させようと話を続ける。

「教会も数が用意できなかったので、錬金修道士の給金すら難しい状況です。
商業ギルドや冒険者ギルドからは、普段より高く買い取るので少しでも融通して欲しいと申し出もありまして、教会としても、教会でポーションを作る能力を維持しながら、町中への供給も何とかしたいと考えております」

ハロルド達は、値上げ交渉までしようとするワルジオに笑うのを堪えなくなり、顔を伏せて考え込むふりをしながら笑うのであった。

ワルジオは俯く彼らを見て、完全に自分が優位に立っていると勘違いする。

「そこでハロルド様にも相談させて頂きたいのは、教会としては可能なら今回の納品を無くしたいのですが、さすがにそれは難しいと理解しています。そこで、これまでと同じ価格で50本を納品させていただき、それ以上は価格をご相談させて頂きたいと思っています」

ワルジオは頭を下げて頼みながら、予定より無謀な要求を言い出す。助祭はワルジオ司祭がここまで強気に出て大丈夫なのか不安になる。

「そ、そうか、儂としても町中にポーションが出回らないのは困るな」

ハロルドは笑うのを堪えながらそう話す。
ワルジオとしては予想外の返答であった。ポーションを減らして良いと言われては困るのである。

それでは教会は儲からないし、領も困るだろうと言いたかった。やはりハロルドは感情で判断して、冷静な判断が出来ていないと思ってしまう。

ワルジオはレベッカやメイベルの方を見て、ハロルドにそれでは領政として困ると言ってくれと願う。

その願いが叶ったのか、レベッカが話を始める。

「お義父様、今回は教会の希望を叶えましょう」

ワルジオは、さすがは公爵家出身のレベッカ夫人だとホッとする。教会の要求する値上げに賛同してくれたと思ったのだ。

レベッカ夫人はワルジオの方を見ると、ニッコリと笑いかける。これから「あなたを追い詰めますわよ」という挑戦的な笑いだったが、ワルジオは交渉次第では、本当にレベッカ夫人を物に出来ると思い込むのだった。

そんなワルジオの思惑を吹っ飛ばすようにハロルドが言い放つ。

「おう、そうじゃな! 今回はポーションの納品は必要ないじゃろう」

ワルジオは信じられない者を見るようにハロルドを見つめてしまった。
直ぐにハロルドが何も考えていない愚か者だと思い出し、溜息を付いてしまう。レベッカ夫人ならこれが非常識な判断だと理解できているはずだと、レベッカ夫人の方を見ると、レベッカ夫人が話をしようとしたので安心する。

「その通りですわ、お義父様。町中にポーションが出回らないのは困りますし、冒険者にポーションが回らないと色々不味い事になりますわ」

ワルジオは、予想外のレベッカ夫人の話に、最悪の方に進んでいると少し焦ったが、すぐにこれが相手の交渉術だと考える。

それならもう少し追い詰めてやろうとワルジオは考えて話をする。

「しかし、状況が良くならないかもしれません。今回納品をお断りになれば、次回以降の納品もどれほど出来るか……」

ワルジオは相手が、ポーションを要らないという可能性など、絶対に無いと思ったいたのだが、それが余計に最悪の結果に話が進んでしまう。

「う~ん、それなら今度必要になったら連絡するわ。その時に納品できる数を確認するようにすれば問題ないわよね?」

レベッカがハロルドと同じような判断をするのがワルジオには信じられなかった。助祭もこの流れでは、我々が追い詰められることになりそうだと顔を青くする。

それでも、何とか教会の威厳を保ったまま、交渉を進めようとワルジオが話をする。

「も、もし、そうなりますと、ご連絡が来ても納品できない可能性も、」

「かまわん! お主も普段から同じような事を言っておったから、エルマイスター家として、教会に迷惑を掛けないように努力してきたのじゃ。本当にそれが間に合って良かったのぅ」

それがどういうことなのかワルジオには理解できなかった。ポーションが必要ないなどと言い出すとは想定に無かったし、何が間に合ったのか理解できない。

ハロルドは普段からのワルジオの言動まで持ち出して、教会の為と言われてしまうと、それ以上ワルジオとしては交渉のしようがない。

呆然とするワルジオと助祭を、応接室から騎士団長のアレンが追い出すと。ハロルド達はそれまで我慢してきた笑いを爆発させる。

ワルジオ達は教会の馬車に移動しながらも、ハロルド達が爆笑するのが聞こえていた。

この時にやっとハロルド達が最初からポーションの購入を断るつもりだったことが、ワルジオにも理解できた。

自分の間の抜けた交渉に恥ずかしくなるワルジオだった。

しかし、こうなってしまうと馬車に戻り教会に戻るしかなかったのだった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


ワルジオ達を応接室から追い出し、普段から教会の横暴な態度に、腹を立てていたハロルド達全員のテンションが上がり、まだ時間が早いというのに酒を出して乾杯するのであった。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...