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第7章
第12話 右手の悪魔
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あれから数日が過ぎた。私が神殿に行くとイーナさんがメリンダさんと仲良く話している。
この世界はこれまで教会といえば一つしかなかった。だから教会の建物を教会と呼んでいたが、教会とは区別するために加護を受けた神像のある場所を神殿と呼ぶことにした。
これは王子夫妻やハロルド様から提案があってからだ。
ここの神殿もグラスニカと同様に結界で覆い、福祉ギルドの管轄とした。そして、イーナさんには正式に教会の管理者となってもらった。
管理者となったイーナさんには、ルーナさんと一緒に住む家も用意しようとした。しかし、2人は羊のお宿からまだ移りたくないと言うので、そのまま羊のお宿から通うことで落ち着いた。
メリンダ様はジョルジュ様が止めるのも聞かず、福祉ギルドの手伝いを自ら進んで始めた。彼女は子供が本当に好きなようで、孤児院で子供たちに勉強を教えている。
イーナさんとメリンダ様は同じ福祉ギルドの仕事をしているということで、すぐに仲良くなったようだ。秘かにメリンダ様には光の女神像に加護がされていると伝えたので、ちょくちょく教会に来るようにもなっている。
そして神像は光の女神像だけではなく、錬金の神と武の神の像も創った。このエルマイスターを新たな錬金術を学ぶ地にしたかったのと、危険の多い辺境ということもあり武術全般を学べる地にしたかったからである。まあ、予想通り像に加護が付与されてしまった。
これまでは実際に会った時の神様の大きさを参考にして神像を創ったが、それとは別に色々な神の像を50セメル程の高さで作り、その神様の説明をプレートにして飾るようにした。
理由は分からないが、縮小版だと加護が付与できないと神様に文句を言われた。言われ私としてはホッとしていた。神様の事を知って欲しいと思ったが、神罰があるとなると気軽には創れないし、管理も必要になるからだ。
「ア、アタル様、本当にありがとうございます。子供たちがエルマイスターに来れるように順調に話が進んでいるとレベッカ様から聞きました」
ルーナさん達と揉めた日の夜、レベッカ夫人に寝物語で話をした。レベッカ夫人は不思議そうな顔をして「そういうものなの?」と逆に聞かれてしまった。
今回の結婚は、私の獣人に対する危険な行動を抑えられるし、イーナさんにとっても願いが叶えられ、私となら幸せになれると思ったから、躊躇なく話を進めたとレベッカ夫人は言い切った
さらに話を聞くと、貴族では政治的なメリットなど様々な背景が結婚の条件として最優先であり、貴族によってはそれぞれの気持ちなど無視されることも多いということだ。
それでもエルマイスター家やレベッカ夫人の実家の公爵家は、まだ本人の意思を重視していたようだ。
私の結婚に対する感覚と優先順位は違ったが、レベッカ夫人は全員が幸せになれると信じていたのは間違いないようだ。
私はイーナさんに負担にならないようにと気を遣って答える。
「それは私とは関係なく、レベッカ夫人がしてくれていることです。お礼はレベッカ夫人に言えばいいですよ」
イーナさんは恥ずかしそうに話しながらも、ウサ耳がピクピク動いているので、本当に嬉しいのだろう。
くっ、私の右腕の悪魔《ケモナー》が目覚めようとしている!
先日の話し合いから、男の子のケモミミやケモシッポを触ることを封印した。しかし、イーナさんの可愛らしいウサ耳の反応を見ると、右手が疼いてくる。
「大丈夫ですか?」
そんな表情で見つめないでくれぇーーー!
彼女は左手で右手を必死に握り締める私の行動を見て、心配して声を掛けてきた。その彼女の仕草がまた悪魔《ケモナー》の心を鷲掴みする。
コテンと首を傾げ、ウサ耳の片方だけが折れ曲がり、心配そうに私を見つめる真っ赤なルビーのような瞳は吸い込まれそうである。
あぁ、このまま右手の悪魔《ケモナー》を開放すれば……。
「あら、アタルさんどうしたの?」
おうふ、危なかったーーー!
メリンダ様が声を掛けてくれなければ、悪魔《ケモナー》が解き放たれるところだった。
「い、いや、他にもイーナさんの為になることはないかと考えていてね……」
咄嗟に適当な言い訳を話した。
「アタルさんは本当にイーナさんの事を大切に考えているのね?」
メリンダ様がからかうように話した。イーナさんはまたウサ耳の内側を赤くして恥ずかしそうにしている。
いや、違う! 違わないけど、そんなつもりでは言ったんじゃない!
これではイーナさんを口説いているみたいじゃないかぁーーー!
覚醒しようとする右手の悪魔《ケモナー》を感じながら、レベッカ夫人の行動は正しかったのかもしれないと考えるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
その頃、様々な場所でアタルの影響が出始めていた。
王都の教会では大司教デュロスが王宮から戻ってきたのだが、驚くほど憔悴した表情をしていた。
「大司教様、大丈夫ですか?」
大司教は自分の執務室に戻ったが、何処か目の焦点があっていなかった。その様子を見て心配した大司教の側近が声を掛けた。
「大丈夫じゃない……」
大司教は呆然とした表情で呟いた。
王宮に呼び出された大司教デュロスだが、宰相から次々と信じられない話をされたのである。
宰相から、グラスニカの教会関係者とクレイマン司教、クレイマン司教に同行した聖騎士団や関係者のすべてが捕縛されたと言われたのだ。
最初は何かの間違いではないか、どこかの陰謀ではないかと思っていた。しかし、詳細な状況を説明されて、余計に混乱しただけであった。
(神像? 神の加護? 天罰? それに獣人の神だと!)
宰相がからかっているのかと思ったが、そんな雰囲気は微塵もなかった。
そんな世迷言はともかく、グラスニカにいた教会関係者が、領主の管理している土地や建物、神像まで奪おうとしたのは間違いのない事実のようだ。
塩会議に来ていたゼノキア侯爵まで連名で、それが事実であるとする書類が王宮に提出されていたのを見せられたのである。
ゼノキア侯爵は堅物で嘘が嫌いなことは有名である。そんな人物まで連名で書類を出してきているのである。クレイマン司教たちが強引な行動に出たことは事実だと思っていた。
(エルマイスターではなく、グラスニカでクレイマン司教が!?)
だが何となく状況は分かるような気がしていた。聖騎士団は狂信的な信者が多い。獣人の神の像と聞いて、暴走しても不思議ではない。
「おい、グラスニカかエルマイスターから何か連絡はきているか?」
大司教は現実的な対応をしようと、目に光を取り戻して尋ねた。
「じ、実はエルマイスターの司教から先ほど連絡が届きました。ポーションが販売もできず、教会を維持することが難しくなっているとありました。支援が無ければエルマイスターから撤退することになると……」
その報告に大司教は一気に頭に血が上った。しかし、すぐに冷静になり考え込んだ。
全ての始まりはエルマイスターにある。そして塩会議にもエルマイスター辺境伯が参加していた。何もかもエルマイスターがかかわっている。
そして、そのエルマイスターを探らせようと向かわせたクレイマン司教が拘束されたのである。
大司教はすぐに司教に指示を出す。
「すぐにエルマイスターとグラスニカがどうなっているか情報を集めろ。商業ギルドや冒険者ギルドに金を使っても構わん。まずは何が起きているのか把握するのが先だ!」
大司教はそこまで指示を出すと、教会本部への手紙を書き始めた。神など信じてはいないが、神という道具は信じていた。その神という道具を教会ではなく、それ以外の組織が使うことは許せない事実である。
獣人の神という道具を誰かが持ち出したとすれば、それは教会に対する明らかな敵対行為である。
後手に回ってしまった以上、教会本部の手を借りてでも対処しないと危険である。
元々この国は教会に対して敵対的で、獣人を保護してきた経緯もある。今回の事も国が陰で画策しているとも考えられるのだ。
大司教はそれらの事を手紙に書くと、大司教しか入れない秘密の部屋に移動する。そしてある魔道具に手紙を乗せると魔道具を起動した。
手紙は一瞬にしてその場から消えた。
魔道具には魔石を入れる場所があり、大司教はそこを覗くと呟いた。
「この魔道具は便利だが、魔石の消費量が多すぎる」
人の頭ぐらいの魔石を入れる場所には、魔石が数個しか残っていなかった。魔道具を起動したときは魔石で一杯だったのにだ。
「ふぅ~、それでも教会本部にもう届いているはずだ……」
大司教を教会本部まで巻き込んだことで、自分の立場が危ういと感じていた。しかし、ポーションレシピの流出の可能性や、新たな神の像の問題など、すでに自分の手には負えないと判断したのである。
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これは王子夫妻やハロルド様から提案があってからだ。
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そして神像は光の女神像だけではなく、錬金の神と武の神の像も創った。このエルマイスターを新たな錬金術を学ぶ地にしたかったのと、危険の多い辺境ということもあり武術全般を学べる地にしたかったからである。まあ、予想通り像に加護が付与されてしまった。
これまでは実際に会った時の神様の大きさを参考にして神像を創ったが、それとは別に色々な神の像を50セメル程の高さで作り、その神様の説明をプレートにして飾るようにした。
理由は分からないが、縮小版だと加護が付与できないと神様に文句を言われた。言われ私としてはホッとしていた。神様の事を知って欲しいと思ったが、神罰があるとなると気軽には創れないし、管理も必要になるからだ。
「ア、アタル様、本当にありがとうございます。子供たちがエルマイスターに来れるように順調に話が進んでいるとレベッカ様から聞きました」
ルーナさん達と揉めた日の夜、レベッカ夫人に寝物語で話をした。レベッカ夫人は不思議そうな顔をして「そういうものなの?」と逆に聞かれてしまった。
今回の結婚は、私の獣人に対する危険な行動を抑えられるし、イーナさんにとっても願いが叶えられ、私となら幸せになれると思ったから、躊躇なく話を進めたとレベッカ夫人は言い切った
さらに話を聞くと、貴族では政治的なメリットなど様々な背景が結婚の条件として最優先であり、貴族によってはそれぞれの気持ちなど無視されることも多いということだ。
それでもエルマイスター家やレベッカ夫人の実家の公爵家は、まだ本人の意思を重視していたようだ。
私の結婚に対する感覚と優先順位は違ったが、レベッカ夫人は全員が幸せになれると信じていたのは間違いないようだ。
私はイーナさんに負担にならないようにと気を遣って答える。
「それは私とは関係なく、レベッカ夫人がしてくれていることです。お礼はレベッカ夫人に言えばいいですよ」
イーナさんは恥ずかしそうに話しながらも、ウサ耳がピクピク動いているので、本当に嬉しいのだろう。
くっ、私の右腕の悪魔《ケモナー》が目覚めようとしている!
先日の話し合いから、男の子のケモミミやケモシッポを触ることを封印した。しかし、イーナさんの可愛らしいウサ耳の反応を見ると、右手が疼いてくる。
「大丈夫ですか?」
そんな表情で見つめないでくれぇーーー!
彼女は左手で右手を必死に握り締める私の行動を見て、心配して声を掛けてきた。その彼女の仕草がまた悪魔《ケモナー》の心を鷲掴みする。
コテンと首を傾げ、ウサ耳の片方だけが折れ曲がり、心配そうに私を見つめる真っ赤なルビーのような瞳は吸い込まれそうである。
あぁ、このまま右手の悪魔《ケモナー》を開放すれば……。
「あら、アタルさんどうしたの?」
おうふ、危なかったーーー!
メリンダ様が声を掛けてくれなければ、悪魔《ケモナー》が解き放たれるところだった。
「い、いや、他にもイーナさんの為になることはないかと考えていてね……」
咄嗟に適当な言い訳を話した。
「アタルさんは本当にイーナさんの事を大切に考えているのね?」
メリンダ様がからかうように話した。イーナさんはまたウサ耳の内側を赤くして恥ずかしそうにしている。
いや、違う! 違わないけど、そんなつもりでは言ったんじゃない!
これではイーナさんを口説いているみたいじゃないかぁーーー!
覚醒しようとする右手の悪魔《ケモナー》を感じながら、レベッカ夫人の行動は正しかったのかもしれないと考えるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
その頃、様々な場所でアタルの影響が出始めていた。
王都の教会では大司教デュロスが王宮から戻ってきたのだが、驚くほど憔悴した表情をしていた。
「大司教様、大丈夫ですか?」
大司教は自分の執務室に戻ったが、何処か目の焦点があっていなかった。その様子を見て心配した大司教の側近が声を掛けた。
「大丈夫じゃない……」
大司教は呆然とした表情で呟いた。
王宮に呼び出された大司教デュロスだが、宰相から次々と信じられない話をされたのである。
宰相から、グラスニカの教会関係者とクレイマン司教、クレイマン司教に同行した聖騎士団や関係者のすべてが捕縛されたと言われたのだ。
最初は何かの間違いではないか、どこかの陰謀ではないかと思っていた。しかし、詳細な状況を説明されて、余計に混乱しただけであった。
(神像? 神の加護? 天罰? それに獣人の神だと!)
宰相がからかっているのかと思ったが、そんな雰囲気は微塵もなかった。
そんな世迷言はともかく、グラスニカにいた教会関係者が、領主の管理している土地や建物、神像まで奪おうとしたのは間違いのない事実のようだ。
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(エルマイスターではなく、グラスニカでクレイマン司教が!?)
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その報告に大司教は一気に頭に血が上った。しかし、すぐに冷静になり考え込んだ。
全ての始まりはエルマイスターにある。そして塩会議にもエルマイスター辺境伯が参加していた。何もかもエルマイスターがかかわっている。
そして、そのエルマイスターを探らせようと向かわせたクレイマン司教が拘束されたのである。
大司教はすぐに司教に指示を出す。
「すぐにエルマイスターとグラスニカがどうなっているか情報を集めろ。商業ギルドや冒険者ギルドに金を使っても構わん。まずは何が起きているのか把握するのが先だ!」
大司教はそこまで指示を出すと、教会本部への手紙を書き始めた。神など信じてはいないが、神という道具は信じていた。その神という道具を教会ではなく、それ以外の組織が使うことは許せない事実である。
獣人の神という道具を誰かが持ち出したとすれば、それは教会に対する明らかな敵対行為である。
後手に回ってしまった以上、教会本部の手を借りてでも対処しないと危険である。
元々この国は教会に対して敵対的で、獣人を保護してきた経緯もある。今回の事も国が陰で画策しているとも考えられるのだ。
大司教はそれらの事を手紙に書くと、大司教しか入れない秘密の部屋に移動する。そしてある魔道具に手紙を乗せると魔道具を起動した。
手紙は一瞬にしてその場から消えた。
魔道具には魔石を入れる場所があり、大司教はそこを覗くと呟いた。
「この魔道具は便利だが、魔石の消費量が多すぎる」
人の頭ぐらいの魔石を入れる場所には、魔石が数個しか残っていなかった。魔道具を起動したときは魔石で一杯だったのにだ。
「ふぅ~、それでも教会本部にもう届いているはずだ……」
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