上 下
2 / 79

何かカッコいい言葉だけど?

しおりを挟む
 最初聞いた時、トライアルとか、トライアウトとか何かカッコイイと思った。

 ヒーローの変身の掛け声みたいで…


 でも、そんな甘い幻想は吹き飛んだ!


 


 「姉さん、貸してくれ!」


 俺は部屋で漫画を読んでいた姉に土下座して頼み込んでいた。

 「…ソレはセクハラなの?」



 俺は三条 京多、高校生だ。

 なので、色々社会的に制約が有る。


 「ネコを買いたいんだ!」

 「飼えば良いじゃない?

 今更、一匹増えても問題ない無い?」


 そう、この家の守り神とすら言われてるクロネコの「大和やまと」が十年前から自宅警備されてる?

 現在はソイツ一匹だが、その前にも数匹、捨て猫を拾ったり、知り合いの家で産まれた子猫をもらったりと我が家は猫好きの家系らしく、俺が生まれる前から俺以外の家族も猫を連れ帰る事が多い?

 気付けばいつも身近にネコいた、そんな家族だ。

 「いや、未成年者には売ってくれないんだよ?」


 「えっ?

 飼いたいって、そのって事なの?」


 俺の姉さん、三条 明日菜は女子大生で、成人してる。

 

 法的にローンで買い物出来る!



 「あのさ、そのネコ、三十六回払いで何とか購入出来るんだけど、俺未成年だからローン組めなくてさ!」


 「…いくらなん、その子?」


 「八万…八千円(税込)、諸経費別途だけど。」



 「安っ⁈

 え、何なん?

 何かのセールなの?


 でも、君には大金かぁ?」

 姉は友達に誘われて、たまにバイトで読モをしてるらしい?

 その友達が血統書付きのネコを購入した時に自慢されたので、みたいな事は少し知っている様だ。



 俺は姉に事情を話した。


 「分かった、その子猫は私が現金一括で買うわ。

 その方が後々面倒無いしね。」


 「マジか!」

 「その代わり、アンタは私に毎月無理ない金額を払いなさい。

 最低でも三千円くらいね。

 ソレなら二年半で完済でしょ?」


 「ははぁー、お姉様!

 ありがとうごぜいますだー!」



 その後、何故か妹の光里も連れ立って、そのペットショップに向かった俺たち。

 俺は明日でもいいと思っていたのだけど?


 「多分、タイムリミットが迫ってると思ってね。

 早い方がいいでしょ?」


 姉さんは態々、そのペットショップに電話して、今から行くから準備しておけと脅していた…様に見えた。

 親父が乗らないので、ほぼ姉の車状態の軽自動車で店に向かう。


 「なるほど、そういう事ね。」


 俺が心を奪われた子猫を見た姉さんは全て分かった様に、店員さんを恫喝するかの如く事務的な作業を終わらせていった。

 実際、閉店時間を少し過ぎる結果の様で…?


 「ねえねえ、さっき店員さんが言ってた、トライアウトって何?」


 「はそんな事知らなくても、ステキに生きていけるから知らんでも良いのだ!」


 妹には甘い姉が誤魔化しているのを、何か辛い事を言わせたみたいで気持ちがゾワゾワした。



 俺たちがペットショップで購入した子猫は生後4ヶ月のメスのマンチカンだ。

 マンチカンは多産な猫にしては出産数がとても少ないのと、その容姿から可愛いと人気で高額なのだが、姉曰く4ヶ月を過ぎても売れないのって、少しおかしいらしい?

 姉曰く、ペットショップで販売されているのは、ほとんどが生後2~3ヶ月の子犬や子猫だと。

 


 姉が店員さんから聞いた子猫の事情だが、ペットショップに来たばかりの頃、この子はよくお腹を下していて、店の展示ケースではなく、店の奥のケージに安静にしていたとかで、もっとも良く売れる時期に店頭に出す事がなかったらしい?


 この辺の表現は、姉の解釈なので実際の店員さんの言葉はもっとソフトだったに違いない。

 (いや、もしかするとその逆かも?)


 そして、この子が中々売れなかった原因の一つが、子猫がお腹を下す、つまり下痢気味と言う事が、実はかなり深刻な事なんだ。

 消化器官がまだまだ完全に成長していない子猫は大人の猫のエサでは消化はおろか、栄養を効率良く吸収する事が出来ない。


 なので、子猫用のペットフードはほぼジュレ状やお粥の様な柔らかい状態で、しかも栄養価がかなり高いモノがほとんどなんだ。

 よく歯が生え出して、親猫の固形フードをカリカリ齧っている子猫を見て、固形フードが食べたいと勘違いして与えてしまう飼い主がいるが、
 最低でも生後半年以上一年未満は子猫用の半生タイプのフードを与えるべきとおっしゃっる獣医師さんもいるくらいだ。

 大人用の固形フードを与えて、そのカタチの状態で排出される事も有る。

 生まれて三ヶ月ぐらい子猫はたくさんの栄養を必要としている、この間にも、ものすごいスピードで成長しているからだ。


 この子の場合は大事な時期に下痢をしていた事で、充分な栄養を吸収出来ず、成長が遅れている事が不安に思われた事、そして…マンチカンらしからぬ、長くて綺麗な4本の足がこの子の「希少価値」を下げていたのだ?

 後で知ったのだけど、一度買いたいと言う客が居て、色々と説明していると途中でキャンセルされてしまったのだとか?

 たしか、俺が最初にその子猫を見た時は20万円くらいだったのに、15万、12万、9万5千と五日の間に値下がりしていったのだ!

 もし、一般的に認知されてる足が短いマンチカンの子猫、しかもなら40~50万が相場なんだと、姉は言うのだけど?

 「この子、毛が長くて、モフモフしてて、も長くて綺麗で、チョー可愛くない?」


 妹が子猫を、頬擦りしてる。


 「…まるで森の中で動物と戯れる白雪姫の様ね!」

 姉の例えが痛いのはこの際触れないで欲しい。

 妹にはトコトン甘~いスイートシスターなのだよ。


 「白雪姫?

 そうだ、この子の名前はヒメね!」

 妹が名前を決めてしまった!

 俺の猫なのに?

 いや、会計を済ましたのは姉なのだから…いや、姉さんの事だから、光里に決めさせていただろうな?


 「いいジャン、その子にピッタリの可愛い名前じゃない。」

 お姉さま、やはり決定なのですね?


 家に着くと、大和が早速現れ、新入り子猫を値踏みするかの如く、この子の周りをぐるぐる周り始めたが、

 「みーみー!」

 なんと、オスの大和のお腹に飛びついた?


 無論、大和に母乳が出るオッパイは無い⁈

 可哀想だけど二匹を引き離す。

 「ねえ、見て見て!

 ノルウェージャンフォレストキャットだって!

 マンチカンなのにね!」


 光里がスマホの「画像検索」でヒメを調べたらしい?


 やはりマンチカンの定義は短い脚なのだろう?


 「すごいジャン、この子は二つの肩書きが有るって事よ。

 大物ジャン。」

 「まだチビちゃんだよ?」


 
 まぁ何にせよ、無事に家に着いた訳で…




 「あ、お袋にネコ買う事話してないや?」


 
 
しおりを挟む

処理中です...