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ウチの妹チャン、マジ天使!

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 「おじいちゃんは、光里のなんだよね?」

 嬉しそうに訊ねる光里。

 光里が産まれた時には、父方の祖父はもう他界していた。


 「…そうだな、そうなるな。」

 は光里に聞かせたく無い事も有るので、爺さんより先んじて答えた。

 亀仙人…じゃない、亀太郎さんは小さくうなづいた様に見えたが、

 「じゃあ美海お姉ちゃんは、なんだね!」


 (まぁ確かにのお姉ちゃんだけどな?)

 「うん、そうだよ!

 あれ、ソレだと「三条 明日菜サン」は美海のお姉ちゃんだね!」

 「えっとね、あともう一人お兄ちゃんがいるんだよ、那由多お兄ちゃんって言うの。

 ソレにもうすぐお兄ちゃんのお嫁さんが赤ちゃんを産むんだよ、すごいでしょ!」

 「うん、チョーすごい!」


 まぁこの二人は嬉しそうなんで、しばしそっとしておこう。



 「あの、お義父さん、直ぐ気が付かなくてすいません。

 以前お会いした時から、その、随分お変わりでしたので…」

 なんとか頑張って話している父、頑張ってくれたまえ!

 「ん、まぁそうだね、なんとか生きてる…そんなところだしな?

 直ぐに変わらなくても仕方ない…

 ところで、…?」

 親父に対して、なんとも捉え所のない応対から、母へ声をかけるも、

 「…何?」

 辛うじてこの場に居てくれる母、めっちゃ不機嫌そうだが?


 「…その、なんだ、ひ、曾孫が産まれるそうだな?」

 「…曾孫?

 あぁ、アンタから見てって事?

 アタシの事、認知してないのに?

 急にヅラかい?」




 えっ、認知されてない、そうなの?


 もしかしたらとは思ってたけど、気まずい事この上なく、俺はチラチラ親父の事を見て、助けを求めた。
 
 そしたら、親父も俺をチラチラ見てオタオタしている?

 アンタもかいっ!

 いや、やっぱり親子だね俺たち。


 そこへ、


 「お邪魔しまーす‼︎」

 「あ、あの失礼します!」

 「あ、明日菜お姉ちゃん!
 
 姫姉チャンも?」



 我が姉上サマが俺の婚約者の手を引いて、乱入して来た?


 「初めまして、お祖父様。

 長女の明日菜です、そしてコチラは次男 京多の許嫁の姫乃デス。

 以後、よろしくお願いします。」


 …シーン。


 「…ふ、ふはははぁーっ!」


 堪えきれず大笑いする亀太郎爺さん⁈

 若干、無理矢理とも取れるけどね?


 「アレレ、どうしたの、?」

 急に笑い出したを不思議に思って話しかける光里。

 「いや、なんでもないよ。

 さて、ひかりチャンは幾つになるのかな?」

 「えっとね、女の子に歳を聞くのは違反なんだって!

 咲お姉ちゃんが言ってたよ!」


 「ハハハ、そうかい。

 コレはが、失礼したね⁈

 ごめんごめん。」


 ちょっぴりオマセさんな我が家の愛天使サマのご活躍で、その後なんとか重苦しい空気感は浄化される事となる。




 さて、少々時は進み、


 「皆んな、おはよーん!

 ケイちゃん、姫にゃん、おっはよーん!」

 相変わらずNO天気なウザい子?

 「お、おう、おはよう。」

 「おはようございます、美海サン。」

 あれ以降、は俺たちとのを縮めてきた。


 うん、仕方ないな、なんせ俺と姫乃サンが婚約している事も知られてしまったし。


 「あのね、ビルでニャンコのお渡し会、やってもイイって!」


 「本当ですか?」


 なんと譲渡会の会場に予定していた雑居ビルを買い取っていたのは、 美海の叔父が社長をしている「(株)ラビット」だった。


 スゲー偶然だが、そういう事らしい?

 なんでも自社製品の展示販売を目的として色々改装するつもりなので、その前にどうぞって事らしい?

 「なら、昴サンにもご報告を…」


 「ソレなら昨日、オジさんが昴ンちの本屋サンに言いに行ったよ?」


 だそうだ?

 まぁコレで当初の目的は果たされた様な?


 良かったな、スバルん⁈




 あの日、あの場に姉さんが乱入してからは「姉」の独壇場だった。

 愛くるしい光里の存在を巧みにアピール利用し、やさぐれだ母さんを宥める様に丸め込み、偏屈そうな爺さんの機嫌を取りながら情報を聞き出していた?

 まるで高級クラブのお姉さんの様に、また年末の忘年会幹事の係長の様に場を仕切っていた?

 クラスメイトの俺も知らなかったのだが、美海のご両親は交通事故で十年ほど前に亡くなっているそうで、その後は叔父さん夫婦が彼女の親代わりだそうだ。

 また、叔父夫婦にはお子さん(実子)がいないとかで、施設から蓮クンを養子に迎えたらしい、ので実質会社は美海が継ぐ事になるとか?

 別に蓮くんが継いでも良くない?

 もしくは美海の未来の旦那さまという事らしい…が、

 爺さんと母さんが和解仲直りすれば、もしかすると俺たち兄弟にもワンチャンあるかもしれない…らしいとか?

 いや、別に継ぐ気はないけどね。

 まぁそんな感じで、その場はなんとなく光里の存在と姉の機転に助けられた。



 「ねぇねぇ、ケイちゃん?」

 「ん、なんだお?」

 と俺は偶然にも同じ月に産まれていた、ので「お姉ちゃん」扱いすることは無しになり、お互い敬称で呼び合う事になった。

 彼女から見れば、従兄弟とは言え、急に兄と姉と妹が出来て、そのウチ甥か姪が産まれるのだ?

 盆と正月とクリスマスと十三日の金曜日が一緒に来たくらいの大事件だろう?


 「今日、遊びに行っていい?」

 「好きにしろ、その代わり騒ぐなよ。

 母さん、明日の朝までに仕事を仕上げるとか言っていたから。」


 アレから数日経ったが、コイツ頻繁に我が家に遊びに来る様になったんだよ。

 幸い、母さんは美海には冷たい態度は取らないので、正直助かった。

 「うん、分かったの!

 今日はヒカリんとルナちゃんとで枕投げをする予定なんだ!

 姫ちゃんも混ざる?」


 「泊まるんかいっ!

 てか、騒ぐなと言ったろうがっ!」

 「ふふふ、楽しみデス。」

 こんな感じで光里やルナさんとすっかり仲良くなった、「混ぜるな危険」的で毎回大変なのだが、姫乃サンが上手く面倒見てくれている。


 美海はもちろん、光里の事を大変気に入ったらしい爺さんは、先日光里宛てに「文具セット」をたくさん送ってきた。

 まるでふるさと納税の返礼品の様だ?

 無論「ラビット」の商品だ。

 可愛いデザインのノートや筆箱、自社のオリジナルキャラクターやテレビで人気のアニメキャラなどが描かれた文具に、シールセットなどが10ぐらい届けられ、光里はめっちゃ喜んだ!

 「おじいちゃんからのプレゼントだって!」

 あえて現金なんて寄越さないあたり、気が利いてるよな。


 ただ流石に使いきれない量なので(デザインがプリティッシュ過ぎて中学で使うのは子供過ぎるだろうと言う事で。そのくらいたくさんなのだ!)、
 爺さんに了解を貰ってから五十鈴チャンらお友達にも配ったりした、その際に

 「光里のからのプレゼントなんだよ!」

 と、必ず言っていたそうだ。

 相当嬉しかったんだな。





 
 「ケイ君、ちょっと良いかな?」


 帰宅すると咲サンがリビングでオウジを膝に抱いて寛いでいた?

 「あ、ハイ。

 何かありました?」


 以前と違って、我が家の人口密度は爆上がりしている所為か、最近の咲サンはやや遠慮している様に見える?

 「らが来る前に話しておこうかと…

 ウチの者から聴きた話しなんだが…。」


 咲サンの家もかなり手広く商売をしている会社だ、色々と業界の話しなんてのも聞こえてくるらしい?

 「君たちが譲渡会を予定していた例のビルだけど、以前からが狙っていたらしい。」


 「…へ、へぇ?」

 「会社が地上げ屋に依頼していたのか、ソレとも地上げ屋がビルを手に入れてから売り付けたのかはわからないが、かなり強引に動いていたらしい?」

 「…そうですか。」

 「あのラビットと言う会社は同業の中小企業を吸収して大きくなった会社だと聞く、ケイ君のご親戚を悪く言いたくないが、その辺りの事は心に留めて欲しい。」

 「地上げ屋」とか「強引」とかネガティブなワードにちょっと怪しさを感じるが?

 その昔、「鬼の松五郎」と恐れられていた爺さんだ、多分荒っぽい事もやっていたんだろうな?

 昴の祖父ちゃんに聞けば、何か知っているだろう?

 「さて、今日も賑やかな娘は来るのだろう?

 はその前に退散するよ。」

 「なんだ、遠慮しないで夕飯食べていって下さいよ?」

 「…この後、と約束があってね、その前の息抜きに寄らせてもらったんだ。」


 「…そういえば俺、咲サンのお父さんに会った事無いですね?」

 「そのウチ、紹介するさ。

 の可愛い弟だって。」


 そう言って咲サンは帰って行った。


 何か寂しそうだったが、入れ替わりでやって来たお騒がせ娘の来襲でそんな気持ちも吹き飛んでしまった。

 今思えば、あの時もう少し突っ込んで聞き出せばよかった…


 咲サンがお見合い政略結婚させられるとは思いもしなかったからだ。
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