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らすまえ。温泉に入る、二人で?
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姫乃サンと出逢いしばらく経ち、色々な事が有って色々な人と出逢い、
気がつくと俺たちは、もう大学生になっていた。
そして今、あの温泉に二人だけで来ていた…
成績イマイチな俺は、姫乃さんと同じ大学に行く為に、頑張ってなんとか合格し、楽しくも大変なキャンパスライフを送っている。
元々その大学は以前から受験するつもりでいたが、先に姫乃サンが推薦をもらってしまったので、必死だった。
高校卒業の時に、姫乃さんが立ち上げた【芸能部】はなんとあの拓磨が部長を務めており、盛大に送り出され感激で号泣していた姫乃サン。
そのあとで、拓磨たち兄弟に自宅前で普通に会ってしまう俺たち⁇
まぁご近所だし、健太はほぼ毎日慕っている姫乃サンに会いに来てるし、瑛士は相変わらず【キュウリ】を育ててるし。
(ルナさん、実姉の立場ないな?)
そんなんだから、中々俺と姫乃サンは二人っきりになれない!
そろそろもう一歩、いや二、三歩は進展させたい二人の関係!
そんな時に以前、昴やカズ兄さんと行った温泉旅館から、
【露天風呂をリニューアルしました!】
とのお知らせのお手紙を頂き、決心を固めた!
『京多さん、あ、あの…
末永く、よろしくお願いします。』
『わ、私、いつでもイイので、その時は言って下さいね?』
そう、今がその時なんだ!
「あ、あの姫乃サン!」
「は、はい、なんでしょうか京多さん?」
朝食の準備中に話しかける、今なら周りに家族は居ない⁈
「以前みんなで行った温泉旅館からリニューアルしたってお手紙をもらったんですよ。」
「あ、はい!
実は私もあのバイトの中居さんからメールをいただきました。
『是非お二人で来てください。』
って… ソレでよろしければ…あ、あの…。」
「い、いきましょうか、二人っきりで!
今がその時だと思います!」
「…そ、その時って?
あ、そ、その時って、その時の事デスか?」
姫乃サン、あの時の事を思い出した様だ?
少し頬が朱に染まり可愛い!
「…です、ど、どうでしょうか?」
「…つ、ついに…ぽ♡
行きましょう!
今ですか? 今日ですか?」
あの頃と比べて、精神的にかなり強くなった姫乃サン⁈
「ん…じゃあ、今週末では?」
「だ、大丈夫です!
特に予定は有りませんので!」
実は姫乃サン、複数の会社の社長を務めていたが、やはり大変なのである信頼出来る人物に社長業を委託していたんだ。
まぁ北海道の2社は、あの人だけど、
芸能事務所は咲さんにお願いしていた。
ちなみに光里と拓磨や健太もその事務所にモデルとして所属している。
あと、ヒメとオウジの子猫たちもペットモデルとして所属してる、売れっ子だ⁈
光里は将来【猫カフェ】の開店資金の為に。
ソレはさておき。
「あ、あの誰か連れて行きますか?」
「い、いえ!
【新婚旅行に最適デス!】って有りましたから、本当に二人だけで行きましょう!」
「そ、そうですね!
わかりました!
そうですよね、なんて言っても私たち【婚約者】ですものね!」
「あとこの事は二人の秘密デスよ。
俺は昴と出掛ける事にしますから、姫乃サンも誰かと出掛ける事にしてください!」
「…えっ?
ソレは何故ですか?」
「絶対邪魔して来るに違いないからです!」
あの人とか、あの人とか!
「わ、わかりました…【二人の秘密】ですね、 ちょっと素敵ですね。」
そんなこんなで俺たちの【婚前旅行】が決まったのだ!
「いらっしゃいませ、お久しぶりです、お二方!」
あの中居さんが元気に出迎えてくれた。
以前に比べて健康的な様子で、やや艶やかな肌は血色が良くて、髪を伸ばしているのか、ポニテが本当に馬の尻尾の様に揺れてる。
大人になったね。
若女将も以前来た時より、めっちゃ色気が増し増しだ。
以前から大人っぽい娘だったけど、本当の大人の女性になられた様…
いやいや、俺は姫乃さん一筋だからな!
「ほ、ほらゼンくんもご挨拶して!」
「…いらっしゃいませ、お客様。」
あの子の隣りに本当ダルそうな様子の男が旅館の半纏を着て挨拶してきた?
バイトか?
同級生とか?
部屋に通された俺たち、ちょっと新婚気分を感じてる?
「…いいお部屋ですね。」
「部屋の外に【家族用露天風呂】が有りますから、二人っきりで入れますよ!」
「…そうですか、
えっ、二人でお風呂ですか?」
「こ、恋人サンなら当たり前デス!」
あの中居さんが姫乃サンに畳み掛ける様に小さな露天風呂を勧めている?
まだ昼だし、ソレは夜のお楽しみだし!
「…昼間っから入る風呂も、おつですよ、お客様。」
「…そ、そう?」
先程の【ゼンくん】がダルそうに俺に話しかけてきた。
接客として、そのスタイルは大丈夫なの?
「今回は猫ちゃんはお連れにならなかったのですね?
一応、そのご用意もしてありましたが?」
「…夜、落ち着かないといけないので。」
そこまで言うと、なぜか若女将が顔を赤くした?
「…そ、そうですよね、私ったら気が付きませんで失礼したした。
三条様は猫連れのお客様って記憶していたモノですから…」
この若女将のこんな表情が見れて、ちょっと得したかも?
「えっと、頑張ってくださいね、ヒメノさん!」
「ハイ、ありがとうございます、中居サン!」
何か熱い友情の様なモノが生まれていた様で、手を取り励まし合っている二人?
何を頑張るのか、予想は出来るけどそんなにハードルを上げないでくれよ。
ぽんぽん。
ん、俺は肩を叩かれた?
あのバイト君だった?
「…お客様、コレ良かったらどうぞ。」
「あ、ありがとう?」
「始まる1時間前に飲むと良いって、近所の獣医のお兄さんが言ってましたよ?」
なんかドリンク瓶を渡された。
だから、ハードルを上げるなってば!
荷物を置いて、町をぶらぶら探索しに行く。
のんびりデートもしたいのだ、それだけ二人っきりになるのが久しぶりなんですよ!
この温泉地にはアレから数度家族旅行や友人たちと来ていたから、そこそこ詳しくなっているけど、この一年ほどはご無沙汰だったので新しく出来た店などもあった。
ソレにもう成人しているので、今まで入る事の無かった【ワイナリー】とかも寄ってみて、地元のワインとか地酒の試飲とかしてみたり、果樹園近くの森で可愛いウサギと遭遇したり。
観光地デートに浸っていた。
「おかえりなさいませ、夕食のご準備が出来てます。
…今夜の為の【特別メニュー】も有りますから…
あのドリンクもお忘れなく…」
あのバイト君が意味深な事を言ってきた。
なんだよ、特別メニューって?
「うわー、お鍋ですよ?
コレ何のお肉ですか?」
「こ、コチラは【まる鍋】でござりますぅ、こ、コラーゲンたっぷりでお肌にも良いんですよ。」
あの中居サンが目を合わせてくれない?
「へぇ、そうなんですか!
で、まる鍋の【まる】って何のお肉なんですか?」
すっぽんだよな、たしか?
コレはそう言う意味だよって、姫乃サンに言うべきかな?
さすがの姫乃サンも、すっぽんは精力的な食材って知ってるとは思うんだけど?
「美味しかったですね、京多さん。」
「美味しかった…シメの雑炊が絶品でしたね。」
そろそろあのドリンクを飲んでおいた方が…
アレ、どこ置いたかな?
冷蔵庫かな?
「あ、あのそろそろ【お風呂】に入りませんか、京多サン?
湯上がりにコーヒー牛乳も用意してありましたよ?」
「コーヒー? 用意とは?」
「冷蔵庫に入っているのを確認しました。
ソレともお酒が良いですか?」
酔うとアッチがダメになる人もいるそうだ?
「いえ、昼間に結構試飲したんで、コーヒーかフルーツ牛乳が良いです。」
仕方ない、ドリンクは諦めるか?
部屋の外に小さめの【露天風呂】があった。
他の部屋からは見えない様に竹製の囲いで区切られている様だ。
「さぁ京多サン、入りましょう。」
「は、はひ。」
ついに来たか、この時が⁈
俺は先に湯船に浸かっていた、もう心臓は爆発寸前、アッチもドリンクを飲まずとも爆発寸前た!
「うわぁ~、綺麗な月ですね、京多さん?」
姫乃サンが直ぐ横に来た?
「き、き、キミの方がとても綺麗ですよょ。」
「…ありがとうございます…。」
なんか緊張してカミカミな俺、そりゃそうだろ?
今、目の前にいる姫乃サンは、バスタオルも巻かず、一糸纏わぬららら裸体なのだ…
あ、アレ?
「…姫乃サン、その傷痕、以前に比べて【綺麗】になってませんか?」
そう、以前俺は姫乃サンの傷痕を見ている。
その時とは明らかに違う、
あの胸に有った下手クソで荒い縫合痕が全く無くなった訳ではないが、今は縫合痕がほとんど目立たないくらい綺麗に縫われている。
ほかの小さな汚い縫合痕も綺麗に縫い治されていた。
これって、もしかしていすずちゃんのお父さんが…
「…あ、あのですね、私が倒れた時に五道先生が縫い直してくれたんです。
『女の子にこの雑な縫い方は気に食わない!』
って、張り切って治してくださって、
この胸の傷の部分も【お尻の皮膚】を移植して、縫い治したんですよ!」
…そうか、あの時なんであんなに長い入院していたのか?
コレが理由だったのか!
【天才外科医】って、本当にいるんだな?
「…本当に綺麗に治したんですね、この部分だけ少し肌の色が違うくらいで…神業だ。」
「あ、あの京多さん!」
つい姫乃サンの胸の傷痕に触れてしまった。
「…なるほど、じゃあこの部分はお尻とお胸のお肉で出来ているんですか?」
「ソレはちょっと違うと思います…
あ、あの、さ、触るのは構わないのデスが、ちょっとその場所は… 感じやすくて、あんッ!」
「あぁ⁈
す、すいません、つい⁈
その、傷痕って他の部分の皮膚より、薄いから感覚が敏感らしいですから…」
や、柔らかい…すべすべ。
「…絶対その知識、漫画かアニメからでしょ、京多サン?」
「はは、そんなところです。」
俺は姫乃サンと湯船の中でしばらく月を見ていた。
さすがに湯船の中でエッチな事をするのはレベルが高い。
湯当たりする前に、部屋に戻りコーヒー牛乳で水分補給した。
よ、よし!
ついに…
あ、アレ?
この瓶はバイト君にもらった…
「あ、ソレ私頂いちゃいました。
お風呂に入る前に、喉が渇いていたので…」
どうやら俺より姫乃サンの方が、準備万端の様?
寝室には一つの布団に二つ枕が並べられて…
あれ、いつの間に?
「京多さん…その、優しくしてください…ね。」
「…わ、わかりました、お、お任せください!」
…まぁそのなんだ、
全年齢なんで、あえて細かい事は言わないけど、
初めて同士、無事に初体験を終えた。
失敗しなくてよかった。
そして、すごく気持ち良かった。
朝、同じ布団の中、隣で寝息を立ててる姫乃さんの寝顔を見ながら昨晩の事を思い出す…
「あ、おはようございます、京多さん。
あ、あのお元気そうですけど、もう一度しますか?」
「…お、お願いします。」
「…あ、おはようございます、お客様。
…遅い朝食ですが…」
「あ、朝風呂に入っていたんだ。」
例のバイト君がダルそうなわりには、真面目に大浴場の掃除をしていた様だ、今は脱衣所にある冷蔵庫に飲み物を補充していた。
「…アレ、効きました?」
「いや、飲んでないし?」
「…なんでも女性にも効くそうですから、好評なんです。」
やけに姫乃サンが積極的だったのはその所為か?
「…あと、あのドリンクって、【子宝の湯】って温泉地で作られているんで、【安産】のご利益も有るとかで…」
「そんなの飲まそうとしたのかよ!」
「あくまでご利益です。
…俺も疲れた時にたまに飲んでますし。」
「飲んでのかよ!」
「彼女が飲んでたんですよ、最初は。
アイツ、以前は疲れやすくて…」
「彼女?」
「あのポニテの中居ですよ、俺たち付き合ってるんで…」
「…何をツッコんでいいやら、わからんよ?」
「…ツッコむなんて?
お客様、朝からお盛んですね?」
「うるさいよ!」
一泊の温泉旅行だったが、随分と内容の濃い旅行だった。
帰る際にあの中居サンと姫乃サンが抱き合って別れを惜しんでおられた。
ゆりゆりかな?
「ノンちゃんも頑張ってくださいね。」
「姫乃サン、また二人っきりで来て下さいね!」
「…俺らもハグしときます?」
「するか!
世話になったな、また来るよ。」
取り敢えず、駅の売店て土産を買ってのんびり家路につく。
「最近は、冷凍みかんって売ってないんだな?」
「ほら京多サン、お土産にコレもらいましたよ。」
あの中居サンがくれたらしいモノ、ソレはあのドリンクだった。
…本当にもう!
「…ったく、何からツッコんでいいやら?」
「…つ、突っ込むなんて!
もぅ、京多サンのエッチ、電車の中ですよ。」
…俺が悪いのかな?
「…でも、コレで京多サンのお嫁さんに一歩近づけました。」
「…ん、何か言いました?」
「いえ、なんでも無いデスよ。
ねぇ京多サン?」
「ハイ?」
「次に来る時は【新婚旅行】でしょうか?」
「えっ?
その前に来ましょうよ、皆んなでとか、猫たちを連れてとか?」
「いえ、二人っきりの旅行って意味ですよ。」
「なら尚更デス!
また、直ぐ来ましょう!
…来月くらいとか?」
今度は俺がドリンクを飲んでおかないとな!
「…えっと、姫乃ちゃん?」
「ハイ、何か異常がありましたか、命先生?」
今日は姫乃サンの定期検診の日だ、いすずちゃんの歳の離れたお姉さんで、姫乃サンの主治医【五道 命】先生が神妙な顔している?
「姫乃ちゃん、アナタ【妊娠】してるわ。
おめでとうって事で良いのかしら?」
「…【妊娠】って、つまり…
赤ちゃん、私、京多サンの赤ちゃんが授かれたんですね!」
「…喜んでばかりはいられないの。
アナタの身体は過去の手術で、無事に出産出来るか…
ソレより順調に胎児が成長出来るか…
もうしばらく様子を見て、判断しましょう。」
「…判断って?
どういう意味ですか?」
「アナタな命の危険がある場合は、堕胎を勧めるわ… 悲しいけど。」
俺がその事を知ったのは、その暫し経ってからだった。
気がつくと俺たちは、もう大学生になっていた。
そして今、あの温泉に二人だけで来ていた…
成績イマイチな俺は、姫乃さんと同じ大学に行く為に、頑張ってなんとか合格し、楽しくも大変なキャンパスライフを送っている。
元々その大学は以前から受験するつもりでいたが、先に姫乃サンが推薦をもらってしまったので、必死だった。
高校卒業の時に、姫乃さんが立ち上げた【芸能部】はなんとあの拓磨が部長を務めており、盛大に送り出され感激で号泣していた姫乃サン。
そのあとで、拓磨たち兄弟に自宅前で普通に会ってしまう俺たち⁇
まぁご近所だし、健太はほぼ毎日慕っている姫乃サンに会いに来てるし、瑛士は相変わらず【キュウリ】を育ててるし。
(ルナさん、実姉の立場ないな?)
そんなんだから、中々俺と姫乃サンは二人っきりになれない!
そろそろもう一歩、いや二、三歩は進展させたい二人の関係!
そんな時に以前、昴やカズ兄さんと行った温泉旅館から、
【露天風呂をリニューアルしました!】
とのお知らせのお手紙を頂き、決心を固めた!
『京多さん、あ、あの…
末永く、よろしくお願いします。』
『わ、私、いつでもイイので、その時は言って下さいね?』
そう、今がその時なんだ!
「あ、あの姫乃サン!」
「は、はい、なんでしょうか京多さん?」
朝食の準備中に話しかける、今なら周りに家族は居ない⁈
「以前みんなで行った温泉旅館からリニューアルしたってお手紙をもらったんですよ。」
「あ、はい!
実は私もあのバイトの中居さんからメールをいただきました。
『是非お二人で来てください。』
って… ソレでよろしければ…あ、あの…。」
「い、いきましょうか、二人っきりで!
今がその時だと思います!」
「…そ、その時って?
あ、そ、その時って、その時の事デスか?」
姫乃サン、あの時の事を思い出した様だ?
少し頬が朱に染まり可愛い!
「…です、ど、どうでしょうか?」
「…つ、ついに…ぽ♡
行きましょう!
今ですか? 今日ですか?」
あの頃と比べて、精神的にかなり強くなった姫乃サン⁈
「ん…じゃあ、今週末では?」
「だ、大丈夫です!
特に予定は有りませんので!」
実は姫乃サン、複数の会社の社長を務めていたが、やはり大変なのである信頼出来る人物に社長業を委託していたんだ。
まぁ北海道の2社は、あの人だけど、
芸能事務所は咲さんにお願いしていた。
ちなみに光里と拓磨や健太もその事務所にモデルとして所属している。
あと、ヒメとオウジの子猫たちもペットモデルとして所属してる、売れっ子だ⁈
光里は将来【猫カフェ】の開店資金の為に。
ソレはさておき。
「あ、あの誰か連れて行きますか?」
「い、いえ!
【新婚旅行に最適デス!】って有りましたから、本当に二人だけで行きましょう!」
「そ、そうですね!
わかりました!
そうですよね、なんて言っても私たち【婚約者】ですものね!」
「あとこの事は二人の秘密デスよ。
俺は昴と出掛ける事にしますから、姫乃サンも誰かと出掛ける事にしてください!」
「…えっ?
ソレは何故ですか?」
「絶対邪魔して来るに違いないからです!」
あの人とか、あの人とか!
「わ、わかりました…【二人の秘密】ですね、 ちょっと素敵ですね。」
そんなこんなで俺たちの【婚前旅行】が決まったのだ!
「いらっしゃいませ、お久しぶりです、お二方!」
あの中居さんが元気に出迎えてくれた。
以前に比べて健康的な様子で、やや艶やかな肌は血色が良くて、髪を伸ばしているのか、ポニテが本当に馬の尻尾の様に揺れてる。
大人になったね。
若女将も以前来た時より、めっちゃ色気が増し増しだ。
以前から大人っぽい娘だったけど、本当の大人の女性になられた様…
いやいや、俺は姫乃さん一筋だからな!
「ほ、ほらゼンくんもご挨拶して!」
「…いらっしゃいませ、お客様。」
あの子の隣りに本当ダルそうな様子の男が旅館の半纏を着て挨拶してきた?
バイトか?
同級生とか?
部屋に通された俺たち、ちょっと新婚気分を感じてる?
「…いいお部屋ですね。」
「部屋の外に【家族用露天風呂】が有りますから、二人っきりで入れますよ!」
「…そうですか、
えっ、二人でお風呂ですか?」
「こ、恋人サンなら当たり前デス!」
あの中居さんが姫乃サンに畳み掛ける様に小さな露天風呂を勧めている?
まだ昼だし、ソレは夜のお楽しみだし!
「…昼間っから入る風呂も、おつですよ、お客様。」
「…そ、そう?」
先程の【ゼンくん】がダルそうに俺に話しかけてきた。
接客として、そのスタイルは大丈夫なの?
「今回は猫ちゃんはお連れにならなかったのですね?
一応、そのご用意もしてありましたが?」
「…夜、落ち着かないといけないので。」
そこまで言うと、なぜか若女将が顔を赤くした?
「…そ、そうですよね、私ったら気が付きませんで失礼したした。
三条様は猫連れのお客様って記憶していたモノですから…」
この若女将のこんな表情が見れて、ちょっと得したかも?
「えっと、頑張ってくださいね、ヒメノさん!」
「ハイ、ありがとうございます、中居サン!」
何か熱い友情の様なモノが生まれていた様で、手を取り励まし合っている二人?
何を頑張るのか、予想は出来るけどそんなにハードルを上げないでくれよ。
ぽんぽん。
ん、俺は肩を叩かれた?
あのバイト君だった?
「…お客様、コレ良かったらどうぞ。」
「あ、ありがとう?」
「始まる1時間前に飲むと良いって、近所の獣医のお兄さんが言ってましたよ?」
なんかドリンク瓶を渡された。
だから、ハードルを上げるなってば!
荷物を置いて、町をぶらぶら探索しに行く。
のんびりデートもしたいのだ、それだけ二人っきりになるのが久しぶりなんですよ!
この温泉地にはアレから数度家族旅行や友人たちと来ていたから、そこそこ詳しくなっているけど、この一年ほどはご無沙汰だったので新しく出来た店などもあった。
ソレにもう成人しているので、今まで入る事の無かった【ワイナリー】とかも寄ってみて、地元のワインとか地酒の試飲とかしてみたり、果樹園近くの森で可愛いウサギと遭遇したり。
観光地デートに浸っていた。
「おかえりなさいませ、夕食のご準備が出来てます。
…今夜の為の【特別メニュー】も有りますから…
あのドリンクもお忘れなく…」
あのバイト君が意味深な事を言ってきた。
なんだよ、特別メニューって?
「うわー、お鍋ですよ?
コレ何のお肉ですか?」
「こ、コチラは【まる鍋】でござりますぅ、こ、コラーゲンたっぷりでお肌にも良いんですよ。」
あの中居サンが目を合わせてくれない?
「へぇ、そうなんですか!
で、まる鍋の【まる】って何のお肉なんですか?」
すっぽんだよな、たしか?
コレはそう言う意味だよって、姫乃サンに言うべきかな?
さすがの姫乃サンも、すっぽんは精力的な食材って知ってるとは思うんだけど?
「美味しかったですね、京多さん。」
「美味しかった…シメの雑炊が絶品でしたね。」
そろそろあのドリンクを飲んでおいた方が…
アレ、どこ置いたかな?
冷蔵庫かな?
「あ、あのそろそろ【お風呂】に入りませんか、京多サン?
湯上がりにコーヒー牛乳も用意してありましたよ?」
「コーヒー? 用意とは?」
「冷蔵庫に入っているのを確認しました。
ソレともお酒が良いですか?」
酔うとアッチがダメになる人もいるそうだ?
「いえ、昼間に結構試飲したんで、コーヒーかフルーツ牛乳が良いです。」
仕方ない、ドリンクは諦めるか?
部屋の外に小さめの【露天風呂】があった。
他の部屋からは見えない様に竹製の囲いで区切られている様だ。
「さぁ京多サン、入りましょう。」
「は、はひ。」
ついに来たか、この時が⁈
俺は先に湯船に浸かっていた、もう心臓は爆発寸前、アッチもドリンクを飲まずとも爆発寸前た!
「うわぁ~、綺麗な月ですね、京多さん?」
姫乃サンが直ぐ横に来た?
「き、き、キミの方がとても綺麗ですよょ。」
「…ありがとうございます…。」
なんか緊張してカミカミな俺、そりゃそうだろ?
今、目の前にいる姫乃サンは、バスタオルも巻かず、一糸纏わぬららら裸体なのだ…
あ、アレ?
「…姫乃サン、その傷痕、以前に比べて【綺麗】になってませんか?」
そう、以前俺は姫乃サンの傷痕を見ている。
その時とは明らかに違う、
あの胸に有った下手クソで荒い縫合痕が全く無くなった訳ではないが、今は縫合痕がほとんど目立たないくらい綺麗に縫われている。
ほかの小さな汚い縫合痕も綺麗に縫い治されていた。
これって、もしかしていすずちゃんのお父さんが…
「…あ、あのですね、私が倒れた時に五道先生が縫い直してくれたんです。
『女の子にこの雑な縫い方は気に食わない!』
って、張り切って治してくださって、
この胸の傷の部分も【お尻の皮膚】を移植して、縫い治したんですよ!」
…そうか、あの時なんであんなに長い入院していたのか?
コレが理由だったのか!
【天才外科医】って、本当にいるんだな?
「…本当に綺麗に治したんですね、この部分だけ少し肌の色が違うくらいで…神業だ。」
「あ、あの京多さん!」
つい姫乃サンの胸の傷痕に触れてしまった。
「…なるほど、じゃあこの部分はお尻とお胸のお肉で出来ているんですか?」
「ソレはちょっと違うと思います…
あ、あの、さ、触るのは構わないのデスが、ちょっとその場所は… 感じやすくて、あんッ!」
「あぁ⁈
す、すいません、つい⁈
その、傷痕って他の部分の皮膚より、薄いから感覚が敏感らしいですから…」
や、柔らかい…すべすべ。
「…絶対その知識、漫画かアニメからでしょ、京多サン?」
「はは、そんなところです。」
俺は姫乃サンと湯船の中でしばらく月を見ていた。
さすがに湯船の中でエッチな事をするのはレベルが高い。
湯当たりする前に、部屋に戻りコーヒー牛乳で水分補給した。
よ、よし!
ついに…
あ、アレ?
この瓶はバイト君にもらった…
「あ、ソレ私頂いちゃいました。
お風呂に入る前に、喉が渇いていたので…」
どうやら俺より姫乃サンの方が、準備万端の様?
寝室には一つの布団に二つ枕が並べられて…
あれ、いつの間に?
「京多さん…その、優しくしてください…ね。」
「…わ、わかりました、お、お任せください!」
…まぁそのなんだ、
全年齢なんで、あえて細かい事は言わないけど、
初めて同士、無事に初体験を終えた。
失敗しなくてよかった。
そして、すごく気持ち良かった。
朝、同じ布団の中、隣で寝息を立ててる姫乃さんの寝顔を見ながら昨晩の事を思い出す…
「あ、おはようございます、京多さん。
あ、あのお元気そうですけど、もう一度しますか?」
「…お、お願いします。」
「…あ、おはようございます、お客様。
…遅い朝食ですが…」
「あ、朝風呂に入っていたんだ。」
例のバイト君がダルそうなわりには、真面目に大浴場の掃除をしていた様だ、今は脱衣所にある冷蔵庫に飲み物を補充していた。
「…アレ、効きました?」
「いや、飲んでないし?」
「…なんでも女性にも効くそうですから、好評なんです。」
やけに姫乃サンが積極的だったのはその所為か?
「…あと、あのドリンクって、【子宝の湯】って温泉地で作られているんで、【安産】のご利益も有るとかで…」
「そんなの飲まそうとしたのかよ!」
「あくまでご利益です。
…俺も疲れた時にたまに飲んでますし。」
「飲んでのかよ!」
「彼女が飲んでたんですよ、最初は。
アイツ、以前は疲れやすくて…」
「彼女?」
「あのポニテの中居ですよ、俺たち付き合ってるんで…」
「…何をツッコんでいいやら、わからんよ?」
「…ツッコむなんて?
お客様、朝からお盛んですね?」
「うるさいよ!」
一泊の温泉旅行だったが、随分と内容の濃い旅行だった。
帰る際にあの中居サンと姫乃サンが抱き合って別れを惜しんでおられた。
ゆりゆりかな?
「ノンちゃんも頑張ってくださいね。」
「姫乃サン、また二人っきりで来て下さいね!」
「…俺らもハグしときます?」
「するか!
世話になったな、また来るよ。」
取り敢えず、駅の売店て土産を買ってのんびり家路につく。
「最近は、冷凍みかんって売ってないんだな?」
「ほら京多サン、お土産にコレもらいましたよ。」
あの中居サンがくれたらしいモノ、ソレはあのドリンクだった。
…本当にもう!
「…ったく、何からツッコんでいいやら?」
「…つ、突っ込むなんて!
もぅ、京多サンのエッチ、電車の中ですよ。」
…俺が悪いのかな?
「…でも、コレで京多サンのお嫁さんに一歩近づけました。」
「…ん、何か言いました?」
「いえ、なんでも無いデスよ。
ねぇ京多サン?」
「ハイ?」
「次に来る時は【新婚旅行】でしょうか?」
「えっ?
その前に来ましょうよ、皆んなでとか、猫たちを連れてとか?」
「いえ、二人っきりの旅行って意味ですよ。」
「なら尚更デス!
また、直ぐ来ましょう!
…来月くらいとか?」
今度は俺がドリンクを飲んでおかないとな!
「…えっと、姫乃ちゃん?」
「ハイ、何か異常がありましたか、命先生?」
今日は姫乃サンの定期検診の日だ、いすずちゃんの歳の離れたお姉さんで、姫乃サンの主治医【五道 命】先生が神妙な顔している?
「姫乃ちゃん、アナタ【妊娠】してるわ。
おめでとうって事で良いのかしら?」
「…【妊娠】って、つまり…
赤ちゃん、私、京多サンの赤ちゃんが授かれたんですね!」
「…喜んでばかりはいられないの。
アナタの身体は過去の手術で、無事に出産出来るか…
ソレより順調に胎児が成長出来るか…
もうしばらく様子を見て、判断しましょう。」
「…判断って?
どういう意味ですか?」
「アナタな命の危険がある場合は、堕胎を勧めるわ… 悲しいけど。」
俺がその事を知ったのは、その暫し経ってからだった。
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