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思った通りの味らしい?

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 クエストを始めたその日の夜から、畑を荒らしにきたケモノ達を弄んだ。

 依頼人が何度も修繕した柵を壊し、作物に齧り付く!

 狙い通りだ!

 「ブギィー⁈」

 「グエェー!」

 悲鳴らしき鳴き声が闇夜にこだました!


 翌朝、作物を一齧りしてあまりのにピクピク失神しているケモノ「シシカバボア」(ほぼイノシシ)と「砂穴熊」(タヌキやアライグマに近い)が一体づつ見つかった!

 おそらく他のケモノは逃げたのだろう。

 コレも狙い通り。

 「何だ、数匹逃げちまったな、勿体無い?
 肉にして食べるつもりだったんだろう、お嬢たちは?」

 「コレでいいのよ!
 数匹逃がすのが、目的なんだから!」

 「何じゃ、そりゃ?」


 あらかじめ、畑にはメイメイに調合してもらった「撃退薬」が散布されて、葉でも茎でも齧るモノなら、激辛で激苦で口の中に激痛が駆け巡るのだ。

 タケルたちの村でも辛味や苦味の強い薬草をすり潰した汁を水に混ぜて畑に撒くと、虫が付かずケモノにも荒らされなかった。

 同じ薬草はこの辺りには無かったので、似た効果のある植物をメイメイに探してもらい、メイメイオリジナルの「撃退薬」を作ってもらったのだ。

 ちなみに、薬は水で洗い流せば落ちるし、効果も五日ぐらいなのでしばらくは定期的に散布する必要がある。


 「でも、繰り返し行う事で、ケモノ達も「あの作物は食べられない!」って覚えて荒さなくなるわ!」

 確かに、今回追い払えても、又別のケモノが荒らしに来るだろう。

 「そうか!だから数匹は逃したのじゃな!

 仲間に教えさせる為に!」

 すっかりカンナを気に入った依頼人のじいさん。

 約束通りにカンナに好きなだけ作物を分けてくれた。

 「どんなに柵を強化してもケモノが荒らしに来るって事は、美味しい野菜なのよ、絶対!」

 カンナの推理は大当たりだ!

 「うま!生で齧っても美味い!」

 「おじさん、お台所貸して下さい!
 ボアの肉とこの野菜で、とっておきの料理、作ってあげます!」


 やっぱりカンナはオッさんタラシかもしれない?


 「さぁ、出来ましたよ!

 タケルのから教わった「ボタン鍋」です!

 冷めないウチに食べて下さい!」

 ボアの新鮮な肉を丁寧に処理し、新鮮採れたての葉野菜に根菜を食べやすい大きさに刻んで、グツグツ煮込む!

 「何だ、こりゃ美味いぞ!」

 「に、肉が柔らかく、それでいて生臭くないし、野菜も噛むと甘味と肉の旨味が重なって、こんな美味しい料理は初めてです!」

 じいさんもメイメイも大褒めだな!

 初めて食べる料理、コレ屋台で出せないかな?





 クエストは大成功、食材も手に入れ、次の町か村に出発となった。


 あの畑のじいさんには、念の為に「撃退薬」のレシピを教えておいた。

 他にも幾つかクエスト。こなしたが、大まか害獣退治がメインだった。

 食べられる部分以外は素材として買い取ってもらい、食材も報酬もたんまりだ!


 出発の日に、あのじいさんが見送りに来てくれた。

 ガーヴィンにと、飼い葉にもなる草を葉先の柔らかくて美味い部分だけを摘んできてくれた。

 ガーヴィンとカンナは大喜びでじいさんさんに抱きつき礼を言っていた。

 じいさん、顔が真っ赤だぜ。



 次の目的地は「市」が盛んな町らしい。

 ついたら早速、屋台に挑戦してみよう!


 

 道中で屋台に向いてる料理を考えているカンナ。

 「う~ん、皿や器に盛るのは器代がかかるし、洗って繰り返し使うのも手間だし…手掴みで食べられる様なモノが良いよね。

 食べやすい様に肉も野菜も細かく切って…、
 溶けるくらい柔らかくなる様に煮込んで…、
 そうだ!
 肉饅頭の時みたいに、皮で包んで「蒸し焼き」、「揚げ焼き」も良いかも?」


 「カンナさん、自分の世界に入ってしまってます?」

 「ああなると、もうアイツが納得したモノが出来るまで、コッチの都合はお構い無しだ。」


 「試食が楽しみですね。」


 目的の町に着く頃には、バカ売れ間違い無しの屋台料理が出来るだろう。




 その頃、目的の町にはこれからになる少年と女性がそれぞれトラブルに巻き込まれていた。




 少年は家族を亡くし、生きる為に盗みを働いていた。


 女性は魔法と武道を学び、父を傷つけた悪党を追っていた。


 

 町に着いた俺たちは直ぐに商業ギルドに顔を出して、市に参加出来ないか聞きてみた。

 案の定、ギルドに登録しているお陰で簡単な手続きだけで出店出来るそうだ。


 「食べ物のすぐ横で、ポーションを売るとは何かですね?」

 などと言いつつも、嬉しそうなメイメイ、可愛い尻尾と耳が浮かれ動いている♡


 「す、すまない。

 二店舗分場所取りするつもりだったんだけど、ちょっと申し込みのが遅かったらしく、空いている場所がどれも一店舗分だけだって。」
 
 「いえ、達らしくて面白そうデス!」


 「二人とも、喋くってないで、準備、準備!

 …あっ! 忘れてた、メイメイはに着替えてね!」

 「はぁ?」

 あぁ、ついに「取っておきたいトッテオキ」の出番が来てしまった!




 「いらっしゃっいませー!
 栄養満点、元気が出る肉饅頭ですよー!」

 「い、い、いらっしゃ……せ…。」

 「メイメイ、声が小さいよ!もっと大きな声で!」

 「か、カンナさん、このに何の意味が有るのですか⁈」

 「…客寄せ?」

 メイメイのじいちゃんが見たら殺到するかな?

 頭の中のオッさんが以前教えてくれた「コスプレ」と言う衣装をに着てもらった。

 「ごめんね~、衣装メイメイの文しか間に合わなくて!

 いや~、私が着るつもりで用意していたんだよ?
 でも、メイメイの方がそうだから、寸法直しして、改めての分を作るだったんだけど、料理の改良で時間掛けてたら、間に合わなくなたゃってね、テヘペロ♡」

 「お、おかしいデスよね?

 私が着る着ないは別にして、あえて丈を直さずに、新しくの分を作る方が時間間にあったんじゃないですか?」

 「それだと、間に合わなかったらメイメイにないじゃない?」


 「カ、カンナさ~ん!」


 メイメイが着ている衣装は貴族の屋敷にいるメイドさんの衣装の様だけど、明らかにスカート丈や色んな所が短い!

 それに裾の部分にはヒラヒラのフリルが施してある。

 身軽そうでリリカル、小柄なメイメイが更に可愛らしい!

 普段の少年か女の子かわからない冒険者の服に比べれば、千倍可愛いと思う。

 コレもカンナの計算だ。

 いくら美味い料理でも、初めて見るモノは誰でも躊躇して近づいて来ない。

 可愛いメイメイで人目を引いて、まずはに食べてもらわないと!

 俺が食べて美味い美味いと言ってもだってバレバレだ。


 「お、美味しそうな匂いね、一つ頂ける?」

 しかし、予想に反して最初に食い付いて来たのは育ちの良さそうな若い女性だった。

 「い、いらっしゃっいまちぇっ!」

 「あ、噛んだ。」

 「うぅ~(T ^ T)」

 「あらあら、ふふふ。」

 お客様第一号の女性が、思わず微笑んでしまう。

 「お嬢ちゃん、初めてみる料理だけど、コレはどんなお料理なのかしら?」

 優しくメイメイに語りかける様子にうっとり見惚れてしまうカンナ。

 そして、ひたすら肉饅頭を揚げているタケル。


 そして、挫けず説明しようとするメイメイ。

 「ハイ、この料理は「肉饅頭」と言いまして、上質なシシカバボアの肉と野菜を程良くにして、とろける程に煮込んだ具材を小麦粉で作った皮で包み、蒸し焼きにしたモノと高温の油で揚げたモノです。

 締めの調理方法が違う事で、別の食感が楽しめますので、両方食べ比べてみるのをお勧めします。」

 メイメイが説明している間にも、蒸篭から立ち込める湯気の香りや、ボアの脂も入れた植物油から立ち込める香ばしい匂い。

 「どうぞ、出来立てをお召し上がりください。」

 紙の小袋に包んで、女性に渡すと、いつの間にか集まっていた人だかりが、彼女が食するのを待っている。

 鼻腔を刺激する二種類の香りに負け、先ずは蒸し饅頭から食べてみる。

 パクっ!

 「まぁ、パンとは違う表面はしっとりとした舌触りにふわっとした皮、中は柔らかい肉と野菜が歯が当たる度に細かく砕けて、まるで上質なシチューを手掴みで食べている様に濃厚な肉汁と野菜の旨みが口の中に溢れて…、

 こちらの油で揚げた方は…

 まぁ、サクサクッとした表面の食感が中のシチューを吸った皮とが口の中でまざりあうと、同じ味のハズなのに又別の味に感じるのは、揚げた時の油の所為かしら?
 香ばしくって、後引く美味しさね!」

 すでに、メイメイとこの女性の説明で、野次馬たちは口の中はヨダレが溢れてそうだ!

 「ねぇちゃん、オレにも一つくれ!」

 「コッチは蒸したのと揚げたの、両方くれ!」

 「お姉さん、出来立て下さい!」

 最初のお客様があの人で良かった!

 俺がやったんじゃ、

 「あ~、うまい!」ぐらいしか言えないしな。

 

 肉饅頭をを求めて俺たちの屋台の前に人集りが出来てしまった。

 充分捌ける人数だか、人集りから少し離れた所でオレより年下下手するとメイメイよりも若い少年がコチラを伺っている。

 見たところ、腹が空いているが金はない…みたいな?

 収穫祭の時によく見かける孤児の様に、

 俺の視線の先に、カンナも気がついたらしく、

 「ねぇ、ソコの君!」

 「えっ⁈ オ、オイラの事かい?」


 「そ、キミキミ!

 ちょっと手伝ってくれない?

 お礼はするから?」

 カンナは少年の視線の先が、屋台のお客のサイフだと気付いた。

 「早く早く!このままじゃ暴走が起こっちゃうから!」

 「わ、わかったよ。」

 周りの大人に気づかれない様にしていたのに、注目を浴びてしまった。

 断り辛い状況だ。


 カンナは少年に揚げ終わって、油を切っていた饅頭をトングで紙袋に詰める簡単な仕事を頼んだ。

 売れ行き好調で、それだけでもかなり助かる!

 「お疲れ様!

 じゃ、メイメイは「ポーション販売」ね!」

 「ハイ、おまかせ下さい!」


 「えっ?お姉ちゃん、ポーションも売るのかい?」

 「今日一日で稼げるだけ稼ぎたいの、何しろ長い旅路だからね。」


 「最初はポーションも一緒に売るつもりが、饅頭揚げたり、蒸したりが忙しくて、ポーションに手が回らなくてな!」

 
 肉饅頭は仕込んだ分、全て売り切れて、メイメイはポーション販売にし始めた!

 メイド服のままで⁈

 
 饅頭が売り切れても、暫く人集りが消えないのはメイメイの衣装のお陰か?

 饅頭を並べていた場所に各種ポーションの瓶を並べてみると、

 「なんだい、お嬢ちゃん?
 食べ過ぎた時の胃薬ポーションかい?」

 途端に冷やかしの笑い声が起こるも、メイメイは

 「さてお立ち合い!」

 ヤジられてもお構い無しでを述べ始めた!

 「コチラに並べたポーションは、がギルドに卸しているポーションと同じ製法で作られていますが、魔術が練習で作ったモノなので、お安く販売出来ます!」

 「そんな効くが、どうかわからないモノに金など出せるか⁈」

 当然の反応だか、ソレが狙いだ!

 「コチラは

 本命はコチラ、わたくし「医療ギルド所属、薬学ランクAのメイメイ」が製造した「ハイ・ポーション」デス!

 これを本日この場で、おひとつ銀貨一枚で致します!

 あ、は美味しいデスよ、保証します!」

 
 「はあぁ~?」

 この子は何を言っているんだ?

 ハイポーションとは、

 「上位回復薬」を意味する!

 本来なら金貨10~20枚は取られても当たり前な値段だ!

 ソレが銀貨一枚とは偽物と言って売っている様なモノだ!

 いや偽物でも、もっと吹っかけ無いと騙して売る事も出来無いぞ?

 ソレもメイド服のお嬢ちゃんが作ったなら、回復すら出来ないかもだ?


 なるほど、それでオマケ付きなのか?

 「本日はこの町での商売と言う事で、マケにマケて銀貨一枚にオマケのポーション2本付けてのご案内デスが、には数に限りが有りますのでお早めにどうぞ!」
 

 そう言って金のギルド章を掲げるメイメイ!

 
 「おい、あのギルド章本物ホンモンだぜ!」

 「でも、だぞ?
 
 効くとはかぎらないし、
 銀貨一枚でも安すぎなのはそういう事だろう?」

 「そうか!ソレでオマケなのか?」

 最初のウチは皆んな、疑いのマナコで見ていたが、

 「さっきの「マンジュウ」って奴もマジ美味かったからな?

 試しに買ってあげてもいいじゃないか?」


 そう言って、気の良さそうなおじさんが一つ買ってくれた。

 それを合図の様にオレも俺もと売れ始めた。




 そして、

 「私にもそのポーション、一つ頂けないかしら?」

 最初に肉饅頭を買ってくれたお姉さんだ!


 「あ、あの~、ソレが既には、無くなってしまい、私が作った
ハイポーションしかありませんが、ですか?」


 「いや、そのポーションが欲しいのだけど?」


 メイメイさん、まさかここまで行くとは思わなくて少々テンパリ気味の様?



 代わりにカンナが対応した。


 「ハイ、オマケが無くなってしまったので、銀貨一枚でハイポーション2本にマケて置きますので、またのお越しを!」

 「ふふ、可笑しな屋台ね?

 どうもありがとう、頂くわ。」



 
 この日の売り上げは上の上と言ったところだ!


 「オウ、少年助かったぜ!

 コレ、お礼だ!

 持ってけ!」

 
 そう言って、銀貨5枚に銅貨十数枚と、少し揚げ過ぎて焦げてる揚げ饅頭とトングで強くつまんで皮が破けた蒸し饅頭を袋に詰めて、少年に渡した。


 「えっ?
 こんなにたくさん⁈」

 「ん、足りないか?

 あと何人いるんだ、お前のは?」


 「えっ⁈」

 「ねえ君、名前は?

 私、カンナ、あの子はメイメイで、あっちのはタケルね!」

「お、オイラはエイジ、あ、あの…?」

 「ねえエイジ、明日も手伝ってよ、お礼は今日と同じでいいかな?」


 「えっ、ほ、本当⁈」


 「ええ、お願い!」


 そんなやり取りを先程の女性が見ているのに、タケルは何か起こる事を予感した、

 コレ絶対騒動が起こる奴だ!

 とさ。
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