PK以外に興味なし

えるだ~

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魚の恐怖

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「と、いう訳で戦士系のプレイヤーを相手にする時は急接近してきたりするスキルもあるから、注意が必要と」
 そんな感じでミラが二人に色々と教えていた。
「よし、これであたしが教えられることは全部かな」
「はーい」
「あの、質問いいですか?」
「ん?どうしたリコちゃん」
「ミラさんは何でジャックさんにスキルが進化することを教えてなかったんですか?」
 コノハとジャックの会話を思い出して、リコそう質問した。
「スキルの進化?その要素は知らないな・・・アップデートで追加させる隠し要素なんかも多いし、その類いかな?私も今運営がどう動いてるのかは分からないし」
「ふーん・・・そう言えば、何であんたはジャックを鍛えたの?」
 トゲが何の気なしにそう聞いた。するとミラがニヤっと笑う。
「あたしね、本当は育成ゲームが好きなんだよ。でもこのゲームを作ることになってね、ぶっちゃけモチベ上がらなかったんだ。でもね」
 ミラが一枚の写真を取り出す。そこには顔の隠れたプレイヤーが写っていた。二年前のジャックだ。
「ゲームのサービスが開始して、不具合はないかとあたしがゲームをしていると、統一性のない防具を着て街中でプレイヤーを襲っている彼を見付けた。特に何の意味もなく、楽しいという理由だけでプレイヤーを殺して他者の努力をパァにするまるで殺人鬼。あたしはこいつを見付けた瞬間に理解したよ。こいつは化けるってね」
「だから育てたの?」
「えぇ、面白そうだったからね。ゲームをやる動機なんてそんなもんでしょ」
「・・・確かに」
「さて、休憩はお終い!ここからは実戦有るのみよ」
「実戦ですか?」
「そうよ。さ、行くわよ」
 ミラが二人を連れて歩き出した。



 ミラ達がプレイヤーを探して歩いていると、ミラにジャックからチャットが届いた。
「ん?」
 チャットボードを開き、文章を読む。
『二人の調子はどうだ?』
 ミラも返信する。
『いい感じ 今から実戦特訓 プレイヤー探す』
『俺も合流しようか?』
 ジャックのPK術に関してはもはやミラを越えていると判断し、オーケーする。
『そうしよう 今グラ山近く』
(これだけじゃ分かんないか)
 そう思い、詳しい座標を送ろうとした。その時、
「!」
 横から何かが飛んで来て、ミラの顔を掠めた。
「んっ!?」
「何々?」
 三人が飛んで来た物を見るが、そこには抉れた地面があるだけだった。だが、
「濡れてる」
「よぉよぉお嬢ちゃん達」
 声のした方を見ると、水色の装備に身を包んだ男が歩いて来ていた。
「俺ガブ!俺とデートしてくれんなら殺さないであげるよ~」
「・・・キモ」
「うっ」
 トゲの呟きによりガブはダメージを受けた!
「ま、まあそうだよな、ゲーム内でナンパしてんだもん・・・ま、なんにしろ殺すだけだがね」
 ガブの周囲に大きな針状の水が出現する。
(水魔法か)
「〈アクアジャベリン〉!」
 そして合計12の水槍が、三人目掛けて放たれた。
「これぐらい避けれるわよね?」
「もちろん」
「が、頑張ります」
 水魔法は水温によって様々な効果を与えれたり、回復もある程度できたりするが、速度が低いことで知られる。なんのひねりもなく真っ直ぐ飛んで来るだけの水魔法を避けるなど、造作もないことだ。
 ミラもヒョイッと体を動かし、水槍を回避する。が、
「!?」
 回避し、今横を通過している水槍から、何かが飛び出した。
「ちっ!」
 ミラは小太刀を引き抜き、何個かいるそれを切る。そしてそれがボトッと地面に落ちて、ようやくそれが何なのか判明した。
「・・・魚?」
「いや、刃魚の子供だ」
 そこに落ちていたのは鋭い牙とヒレを持つ刃魚の子供だった。全長は10センチほど。水槍から出てきたようだったが。
「フフフッ、ビックリしたか嬢ちゃん」
 ガブが両手で水の球を作り出す。よく見ると、その球の中にも無数の子刃魚が泳いでいた。
「なるほど、水の魔術師でありながら召喚術を習得してるのね・・・昔は別種の術をたくさん覚えるなんて考えられなかったんだけど・・・中々いい戦術ね」
「だろ?自作した作戦が活きるのは気持ちがいいなぁ!」
 ガブがその水の球を空目掛けて放り投げる。そしてある程度上がると、空中でその球が弾け、子刃魚が降ってくる。
「フィッシャーレインだ!」
「リコ!」
「〈鉄壁〉ぃ!」
 二人がリコの盾の下へ入り、降り注ぐ子刃魚から身を守る。
「喰らえっ!」
 そして盾の下からトゲが矢を放つが、
「〈アクアシールド〉!」
 ガブが水を自分の正面に散らすと、その水が盾となって展開し、矢を防いだ。
「甘い甘い!〈アクアビーム〉!」
 今度は極太の水の光線をガブが放ってくる。
「〈鉄壁〉!」
 またリコが攻撃を防ぐべくスキルを使用する。
「うっ!」
 光線の勢いが強く、リコが押されている。今のうちにトゲとミラが接近しようとするが、
「!」
「またかっ!」
 極太の水の中からまた刃魚が飛び出して来た。しかも今度は成体だ。
「ぐっ!」
 そして刃魚の一匹がトゲの肩に噛みついた。
「クソっキモい!」
  トゲは剣で刃魚を切って肩から引き剥がすが、彼女の肩には刃魚の牙が刺さったままだ。
 刃魚に噛み付かれると、引き剥がすまで継続的にダメージを喰らう。そして引き剥がせたとしても牙が残り、それを取り除くまではそれによって受けたダメージを回復できない。
「発動中動けないデメリットを持つ光線技を召喚した魔物でカバーね、なるほど良くできてる。・・・でも?」
「魔法や術を多く覚えてる奴はその分接近されたら弱い。だったっけ?」
「正解」
 トゲがポーチから何か玉のような物を取り出す。
「じゃあこうする!」
 そしてその玉をガブ目掛けて放った。
「〈アクアシールド〉」
 何か分からないが、取り敢えず防御しようと魔法を使う。が、
 玉はガブに当たる前に弾け、眩しく光った。
「! 閃光玉か!」
 閃光玉は爆発して激しく発光し、見た者の視界を一時的に奪う道具。水魔法の盾に視界を塞ぐ効果はなく、この閃光玉は防げない。そして、
「〈浮天〉」
 ミラの声。ガブはスキルを使用したと判断し、視界が潰れていながらも魔法を使う。
「〈アクアフィールド〉!」
 ガブの周囲の地面に水が張られる。そしてその水の中にも刃魚が泳いでいた。この水溜まりに足を踏み入れようものならズタズタにされるだろう。
 だが、視界を回復したガブが見たのは、空から落下してくるミラだった。
「はぁ!?」
「もらった!」
 ミラが落下の勢いのまま小太刀を振り下ろし、強烈な一撃をガブに喰らわせた。
「ぐっ!」
 ガブのHPが大きく減り、水溜まりに召喚した刃魚達が消滅する。
 そうして安全な水溜まりに着地したミラは、怯んでいるガブの腹に後ろ蹴りをお見舞いした。
「ぐえっ!」
 ガブは後方に吹っ飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がる。
「ナイストゲ!」
「ナイススキル」
 ミラが使用したスキル〈浮天〉は、瞬時に地上から数十メートルの空中まで移動するという効果を持つ。本来は逃走の際や障害物を飛び越える際に使用されるスキルだ。
「いってーなぁ」
 ガブかユラリと立ち上がる。
 もう残りHPは少ないはずだ。ガブの逃走を考えたミラは、また面倒な魔法を発動される前にガブに近付こうとする。
「おい嬢ちゃん、奥義って知ってるか?」
「奥義?」
 聞き覚えのない単語に興味を引かれたミラは足を止めた。
「自分の戦闘スタイルを確立してその技を使い続けると、その技を超強化したような特別な技が使えるようになるっつう隠し要素だ。それを奥義と言うんだが──」
 ガブがニヤりと不気味に笑った。
「──俺はそれが使える」
「!」「!」「!」
 何かヤバい事をしようとしている。そう気付いた三人が全力でガブに向かって走り出す。
 が、もう遅い。
 ガブがパンッと手を叩いた。
 
    
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