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悪魔と人間が共に手を取り合い共闘する事を決めた頃、王国一の力の持ち主である王子は悪魔の妨害により魔法を遮断されていました。

王子の魔力を遮断する程の力となるとアデルだけの魔力とは違います。アデルはそもそも魔力そのものは強い方ではないからです。他の悪魔の力も加わっているのでしょう。

魔法が使えないとなると王子が王宮に戻ってくるまで早くとも5日はかかってしまいます。
だから、アデルはゲームの期限を3日と指定してきたのでしょう。ゲームを邪魔されず、楽しめる為に。そして確実にアステリアを連れて帰る為に。

王様も王妃様も王子もいない無法地帯と化したこの王宮で、問題を起こしてはいけません。
何事もなかったかのようにするのが王太子妃であるアステリアの使命でもありました。

何事もなかったかのように、今日もアステリアは王太子妃の教育を受けるテーブルにつくのです。
そう、何事もなかったかのように……
そうしなければならないのに…


『なんであんたがいるのよ…ッ!』

アステリアは銀の園庭でナリスの教育を受ける為にテーブルについていましたが、予期せぬ客に頭をかかえる事になったのです。

オールバックにまとめた赤メッシュの入った黒髪にルビー色の瞳は、王国の黒く威厳のある軍服によく映えていました。

「似合ってんだろ?俺って何でも着こなせるんだなァ。ね?ナリス嬢。」

これ見よがしに長い足を組んだアデルは王国の軍服を身に纏うと、当たり前のようにナリスと同じテーブルについていました。

『ええ、とてもお似合いです。アデル様は我が国の服もバッチリ着こなされていますね。王太子妃様もそう思いませんか?』
『え?あ、まぁ……』
『……?どうされました?王太子妃様のご友人だと聞いたのでお連れしたのですが、いけませんでした?』

頬をひきつらせるアステリアを見て、ナリスは自分がとった行動が正しかったのか不安になりました。

何故か“たまたま”魔法が使えなくなったナリスは、馬車で王宮に移動中、“たまたま”王宮近くでアデルに会い、アステリアの友人だという話を信じ、連れてきてしまったと言うのです。
その“たまたま”が故意に作られたものだとアステリアでも分かりました。ですがナリスに非はありません。トリスタンも後ろに控えたまま、口を出す素振りもありませんでした。

「気にしなくていいですよ、ナリス嬢。私達は友人と言っても兄妹のようなものですので、今さらソレからの、薄ら寒い誉め言葉などいりません。それに、急に押し掛けて迷惑だったかもしれませんね。」
『薄ら寒いだなんて、私は本気で似合っていると思っておりますわ。それに、王太子妃様のお兄様のような方でしたら、我が国の貴賓ですもの。迷惑だなんておっしゃらないで。』
「そんな温かな言葉をくれるのはナリス嬢だけです。妹の側に貴女のような女性がいてくれて良かった。これからも妹を宜しくお願いしますね。」

アデルはナリスの手を両手で強く包み込むと、見たこともない優しい微笑みをナリスに向け、ナリスもまた獲物を見つけたようにそのしたたかな瞳でアデルを捕らえていました。

『もちろんです!王太子妃様の結婚式は一緒にお祝い致しましょう。ぜひ、その時は我が商団の見繕った服をお召しになってくださいね!』

ナリスはアデルを商団の広告塔に狙っていたのです。アデルも簡単に“もちろん”と答えている始末。
そこに心がこもっていないのはアステリアには分かりました。

「結婚式かぁ、楽しみだなぁ。恥をかかないようにしないとな、王太子妃様?」
『そうですわね。しっかりみっちり叩き込まなくては。』

いつの間にか話の矛先はアステリアに向き、ナリスは目を輝かせます。教育を受ける為に銀の園庭に来たので、指導を受けるのはいいのですが、アデルの視線に耐えながらというのが気が重くて仕方ありません。
とは言え、昨日既に鬼の特訓を受けた身。
アステリアはそこそこテーブルマナーに自信がついていました。

『さぁ、お立ちください。王太子妃様。』
『え?』

テーブルマナーで立つ?
そういうシーンをするのかと思い、アステリアが重たい腰を上げるとナリスはアステリアの手を引き、テーブルからどんどん離れて行きました。

そして始まったのは鬼特訓は昨日のテーブルマナーとは違うものだったのです。
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