薄幸女子、異世界で王太子妃になる。

栢野すばる

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6 レンシェン:3

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 一体……一体昨夜の僕は何を……?
 僕が飲んだアイーダの薬は、自白剤か何かなのだろうか?

 朝、玲奈の傍らで、裸で飛び起きた瞬間に思ったことはそれだった。
 あの薬。
 『疲れが取れて楽になる』とアイーダは言っていたらしい。
 疲れは……取れた。確かに結婚してから今日まで悶々と抱き続けた悩みは解消され、言いたいことも全部言えて僕はとても楽になった。
 だが、何故あんなに思ったことを全部言い、したかったことを全部してしまったのか?
 玲奈にとっては、唐突にかき口説かれ、身体を奪われて、わけが分からず嵐に巻き込まれたようなものだったに違いない。
 僕はそっとすぐ傍の玲奈を振り返った。
 玲奈は、すやすやと小さな寝息を立てている。白い顔は涙の跡が残っていて、僕の強いた行為がどれほど負担だったのか思い知らされて胸が痛んだ。同時に、薄闇の中で味わい尽くした官能が思い起こされ、空っぽになったはずの欲の器の中にどろりとした熱が再び溜まり始めた。
 愛する妻のこんな姿は誰にも見せたくない。たとえ侍女たちにであってもだ。
 僕は投げ捨てた服を慌てて羽織って、玲奈の体をそっと揺すった。
「玲奈、起きられる? 湯殿で身を清めよう」
「あ……レンシェン様」
 掠れた声で玲奈がつぶやき、頷いて身を起こそうとして再び寝台に沈み込んだ。
 きっと力が入らないのだ。抱いていこう。
 僕は体を起こし、隅の方でくしゃくしゃになっていた寝巻を、玲奈の華奢な体に不器用に着せかけた。
 寝台を降りて玲奈の体を抱き上げながら、僕はエレナが語っていた、父上の若い頃の話を思い出す。
 妻が可愛いから人に見せたくないと言い張り、手ずから母上の髪を洗っていた……という話を聞いたときは頭痛がしたが、僕は今、その父上と同じことをしようとしている。玲奈は僕の妻だから、他の人間には彼女の肌を見せたくないと思っている。
「申し訳ありません」
 小さな声で言う玲奈のこめかみに口づけし、僕は湯殿の控え室の椅子の上に玲奈を座らせて、畳んであった湯浴み着を手渡した。
「構わないよ。これを着て」
 彼女に背を向けて服を変えた僕は、湯浴み着をまとった玲奈を再び抱き上げた。
「無理に起こしてすまなかった。玲奈のことは僕が綺麗にするから」
 女性の入浴の方法などさっぱりわからないくせに僕はそう請け負う。
 頬を真っ赤に染めて僕を見上げていた玲奈が、素直にことりと僕の肩に頭をもたせかける。
 その愛らしさに僕は言葉を一瞬失ってしまった。
 父上の若かりし頃の行いに呆れたりして悪かったと思う。
「じゃあ、私も、お背中をお流しします」
 玲奈が小さな声で言って、僕の首に回している細い腕にぎゅっと力を込めた。
 なんという可愛い言葉だろう、なんという可愛い声だろう……。
 突然だが、今日は父上を囲む貴族や議員たちとの朝食会を欠席していいだろうか。僕は極地にいる間ずっと出席していなかったし、いまさら行かなくてもいいんじゃないかという気がしてきた。あの朝食会は曽祖父の代から惰性で開かれているものだと父上自身が認めておいでだったし、あんまり開催する意義がないように思うのだが。
「玲奈……」
 しかし王太子である僕が突然出席を約束した行事を欠席するなど、許されない。そんなことをしたら、まず痛くもない腹を探られ、『王太子はレナ様に骨抜きにされて責任感が無くなって云々』などと悪口を垂れ流されるに決まっている。玲奈と僕を引き離そうとしている人間たちに、隙を見せるわけには行かないのだ。
 僕は断腸の思いで玲奈を湯殿の床に座らせ、浴槽の湯をすくって玲奈の体にゆっくりと掛けた。
「熱くないか」
「はい、レンシェン様」
 たちどころに、薄い湯浴み着が水に透けて、玲奈のまろやかな体の線が顕になる。
 やはり今日は朝食会などすっぽかしても……いいのではないか……僕はもう玲奈と睦み合う以外の何もかもがどうでもよくなってきた……。
「昨日の夜言っただろう、二人のときはレンと呼んでくれ」
 そう言うと、玲奈が恥ずかしげに体を抱いて隠そうとしながら、愛らしい声で返事をしてくれた。
「は、はい……レン……様……」
 かすかに身じろぎする玲奈に、僕はそっとくちづけをした。そっと舌を差し入れると遠慮がちに応えてくれる彼女が愛おしくてたまらない。
 朝食会に行きたくない。ここに玲奈と二人で居たい。玲奈がいなくなった事が辛くてたまらず、あらん限りの予定を半年先まで詰め込んでしまった過去の僕を殴りたい。

「レン、顔色が冴えないな」
 朝食会の席上で、父上が不意に言った。特に発言を求められるでもなくおとなしく朝食を口に運んでいた僕は、慌てて顔を上げる。
「……どうした、ぼんやりして」
「いえ、失礼いたしました」
 まさか風呂での睦み合いの続きがしたいとひたすら考えていたとは言えない。僕はとっさに思いついたことを口にする。
「極地の回復が遅いことが気になっておりまして」
 よくぞ言った、自分。普段から真面目に働いているので、このようなときにも適切なそれっぽい言葉が出てくるのだ。
「まあ、そこはお前が案じても仕方ない」
 父上の言葉に僕は頷いた。
「お前が今考えるべきことは、家庭の幸せだ。国のことと同じくらい、レナのことを優先しなさい。王妃も言っていたように、異世界から来て不慣れな中で辛いこともあるだろう。自由結婚を請願してまで得た妃なのだから、一生大切にしなさい。レナを守るのはお前の義務だ」
 心のこもった父上の言葉に、胸を打たれた。
 父上は、ずっと僕を極地に送ったことを悔いていらっしゃるのかもしれない。僕に幸せになれ、と仰る言葉の裏側には、その埋め合わせのお気持ちもあるに違いない。
「ありがとうございます、父上。玲奈を優先して、万事気をつけるように致します」
 僕の言葉に、父が満足そうに頷く。
「王太子ともあろうお方が、この世界の常識も知らぬ端女を娶るなど……王子にはもっとふさわしい娘がおりましたのに……」
 案の定、ミダンティス侯爵は舌打ちせんばかりの不機嫌な表情で、ぶつぶつと呟く。
 匂わせているのは、亡くなった彼の娘のことなのだろう。
 彼には公務はもう無理なのでは……と思い目を泳がせると、視界の端で父上が小さく首を振った。
 侯爵を刺激をしてはいけないし、大きく環境を変えてもいけない。これまで通りそれなりの場には出席させ、なるべく正気の時間が長くなるように、適当に相手をすればいいのだ。皆もそうしているし、僕もそうすべきなのだろう。
 気を取り直し、僕は冷め始めた朝食のスープを口に運んだ。
 玲奈が何もしていないというのは間違っている。
 賢者の廃園の皆は、玲奈が持つ『薬の力』はとても強く、魔法という形で振るわずとも、病を駆逐できるほどのものなのだと言っていた。
 だから玲奈は、目に見える形で力を使おうとはしないのだろう……と。
 ゆえに、ミダンティス侯爵の言葉は難癖に近い。僕の妻に対する侮辱である。
 しかし、彼は心を病んでいる。何を言い返そうと、おそらく理解はされないだろう……。
 僕は食事を終え、ぶつぶつと独り言を言い続けている侯爵を横目で見ながら改めて思った。
 とにかく、どんな悪意が玲奈に向けられるにせよ、守るのは僕の仕事だ、と。
 玲奈には、できるだけ王太子宮の外に出ないようにと言っておこう。警護班や侍女たちにも、余計な来客は一切入れるなと指示をしなければ。
「では、申し訳ありませんが、別の会議がありますので失礼致します」
 雑談の時間に移行した事を見計らい、僕は父上の御前を辞去した。
 食事会を終えたあとは、短い時間だが王太子宮の内向きのことを話しあう時間になっている。
 僕の家令が本宮まで出向いてきてくれたので、僕は彼に告げた。
「玲奈のドレスだが、もう少し肌の露出を控えてくれないか」
 ……我ながら、何を言っているのだろう。だが、僕はこう見えても真剣である。
 玲奈のドレスを発注している先は、母上と妹が贔屓にしている聖王都の大店である。
 もちろん聖王家の格式も、王太子妃にふさわしい品位もしっかりと守り、高品質な美しい衣装を作ってくれている。
 あの店が作ったドレスを纏った玲奈は、どこに出しても恥ずかしくない美しい貴婦人に違いないのだが、僕としてはあんなに人前で肌を晒してほしくない。僕から言わせれば母上も妹も、いや、この王宮の女性たちは胸元を開け過ぎである。玲奈にはあんな格好をさせたくない。今朝になって、ますますさせたくなくなった。
「何か問題がございましたでしょうか? 申し訳ございません、私の確認が不足しておりまして。直ちにそのように指示しておきます」
「いや、君の確認作業には問題はない。僕の好みの問題だから……色合いや意匠は今のままでいい。僕は可愛らしい感じが好きだけど、玲奈の好みを優先してくれ」
「かしこまりました」
 それから細々としたことを話し合い、僕は立ち上がった。
 なんで今さら服の形を変えたくなったのか、と追求されなくてよかった。
 ああ、一日が長く感じる。
 玲奈のいる王太子宮に早く戻りたい。
 ……三年前の僕は、いつ自分が死ぬ番が来るのか、いつ世界が病に負けるのか、と怯えていたのに、随分と僕の人生は色合いを変えた。
 『闇が晴れる日は必ず参ります。聖女様の召喚には必ず成功します』
 そう励ましてくれたアッヘンベルガー将軍の声が、僕の心に蘇る。
 あの日々を切り抜けた褒美が、最愛の妻の存在なのだろうか?
 だとしたら、僕は、生きることを諦めなくてよかった。これほどの幸福が人生にあるとは、想像したこともなかった。
 しみじみと玲奈と過ごせる幸せを噛みしめる僕の背後に、ちょこちょこと近づいてくる影がある。
 アイーダだ。一体何の用だろう。
「ねえ、レンシェン、今話しかけてもいい?」
「少しなら……」
 また何か余計なことを思いついたんじゃないだろうな。
 そう思い言葉を濁す僕の顔を、僕そっくりの緑色をした目で覗き込みながら、アイーダが言った。
「ねえ、最近正直になれたり、言いたいことがすらすら言えるようになったりしなかった?」
 その言葉を聞いた瞬間、頭痛がした。
 やっぱり、玲奈が持っていたアレには、アイーダが何か仕込んでいたのだ。
「……何の話だ?」
 眉根を寄せた僕に、アイーダが明るい声で言う。
「効いたんだ! よかった。レンシェンは言いたいことを全部溜めこむから疲れるでしょう。だからなんでも喋れるようになる薬を作ってみたの。もちろん効果は、二十代の男性限定よ」
 何をどう怒れば良いのか分からず、僕は笑顔のアイーダを睨みつけた。
 確かに玲奈と仲良くなれたのはあの薬のおかげなのだが……そして僕が言いたいことを溜め込むのも昔からの悪い癖なのだが……だが、あんないきなり思ったことを何でも喋り、そして、実行してしまう薬なんて危険すぎる。
「じゃあ、知り合いのご夫婦にあの薬を配ろうっと。それで検証結果をまとめて、夫婦不和の特効薬は会話なのだという論文を書くわ」
「待て!」
 僕は慌てて、ウキウキと出て行こうとするアイーダの肩を捕まえた。
「何?」
「あんな薬をやたらめったら配るな! アレは自白剤に近いものだ!」
「どうして? 無害なのよ? 無害な自白剤系の薬品ってすごいと思わない? ちなみに効果は今は半日程度だけれど、将来的には一生続くように処方を組み替えられればと思っているの。言いたいことを言えるって素晴らしいわよ。正直は美徳よね」
 アイーダの邪気のない笑顔に、僕は首を振ってみせた。
「あのな、基本的に君は言いたいことを言いすぎだ。それに、あんな薬をやたらめったらばら撒くな。あと、処方をそんな末恐ろしいものに変更するのはやめてくれ」
「どうしてよ。わからないわ。いい薬よ。貴方も実感したでしょう?」
 不機嫌なアイーダに、僕は首を振ってみせる。
 天才独特の感性で、やりたい事をやりたい放題してしまう従姉妹を止めるのは僕の義務だ……。
 何でそんなことが僕の義務なのだ! 僕は昔から貧乏くじしか引いていないような気がする。我が身の不運を嘆きつつ僕は言った。
「あんな薬をばらまいたら、賢者の廃園の、君の自由研究用の予算を削るからな」
 その言葉は、効果てきめんだったようだ。みるみる膨れた顔になり、アイーダは僕にぷいと背を向けて、部屋を出ていってしまった。
 ああ、一気に疲れた……。

 長い長い一日が終わり、ようやく開放された僕は、騎士たちと他愛無い話をしながら王太子宮に戻った。
「それにしてもようございましたね、玲奈様が戻られて。私も情けない話、仕事を優先しすぎて妻に出ていかれた事があるのです」
 聖王宮に戻ってからずっと僕に付いてくれている近衛騎士が、不意にそう言い出した。
「出て行かれてしばらくは飯が喉を通りませんでな。いや、何度も妻の実家に頭を下げに行ってようやく何とかよりを戻しましたが……普段おとなしい女性は、不満をギリギリまで溜め込みますからなぁ」
 なんという胃が痛くなるような話をしてくれるのだ。
 そう思いながらも、僕は外面的には穏やかに見えるであろう笑顔で、話の続きを促す。
「今はうまくやっているのか」
「はい。我ながら大げさなのではと思うくらい、妻の機嫌を取っております。家事と子育てに感謝し、一番大変なのはお前だと呪文のように唱えて。もちろん休日はずっと子供たちの相手を朝から晩まで、もう腰が痛くなるまで努めておりますれば」
「なるほどね……君は父親の鑑だ。僕の口からで良ければ、日頃の苦労を褒め称えてあげよう」
 僕の言葉に、騎士たちが笑い声を上げる。話を切り出した近衛騎士も、まんざらではない笑顔をみせている。
「妻に伝えます。王太子様が私の献身ぶりをお褒めくださったと」
 再び、皆から笑い声が上がった。
 同じように笑いながらも、僕は考えた。
 僕の妻はどうだろう、と。大人しい玲奈は、きっと不満などぎりぎりまで口にしないに違いない。
 また出て行かれたらどうしよう。
 そう思ったら不安になってきた。
 宮の入り口で、一日警護を務めてくれた騎士たちにねぎらいの言葉をかけ、僕はそのまま宿直をしてくれる騎士たちと共に控えの間へと入った。
 いつものように、玲奈が階段を降りて僕を出迎えてくれるところだった。
 今日の彼女は髪をおろし、小さく後ろで結い上げて青い花を飾っている。ドレスも花と同じ青色で、夢のように愛らしかった。まるで僕の人生に訪れた幸福の象徴のようだ。ただやはり、僕の目には胸元が開き過ぎのように思える。
「おかえりなさいませ、レンシェン様」
「ただいま、玲奈」
 一応人前なので、玲奈への過剰な接触は控えて頬に接吻するにとどめた。
「夕食はお召し上がりになりましたか?」
 ああ、僕の妻はそんなことまで気にしてくれるのか……内心こみ上げる感動を必死に飲み込み、僕は努めて冷静な声で答えた。
「食事会があったから大丈夫だよ」
 玲奈の壊れ物のような肩を抱き、僕は部屋の前で騎士たちを振り返った。
「君たちももう大丈夫だ。明日もまた宜しく頼む」
 そう告げて部屋の中に入り、錠を下ろすやいなや、僕は玲奈の体を抱き寄せて、甘い唇に接吻した。
 何をしているのだろう。玲奈の望む『素敵な王太子様』は、こんな茶の中で溶け崩れた砂糖のような男ではないはずなのに……。
 だが玲奈は優しいので、素直に僕のすることに身を委ねてくれた。
「あの、湯殿の準備は整っております」
 玲奈が僕の腕の中で、蚊の鳴くような声で言った。白い耳朶がほんのりとバラ色に染まっている。
 朝、玲奈と別れがたくて何度も接吻しながら『今夜僕が戻ったら、さっきの続きをしよう』と繰り返した僕の意を汲んでくれたのだろう。
「ありがとう」
 そう言って僕はもう一度玲奈に接吻した。ああ、玲奈は何と愛らしく可憐で優しく清楚な女性なのだろう……僕は玲奈の腰を引き寄せ、そのまま湯殿へ向かうことにした。
 今日は呆れるくらい、玲奈と過ごすことしか考えていなかったのだから許して欲しい。

「レン……様……」
 そして、僕は当然のように朝の続きを始めた。
 向い合って玲奈を僕の上に座らせ、やわらかな肉体を堪能しながら番い合う。
 玲奈の白い肌に湯気が絡みつき、身体に引っ掛けただけの湯浴み着が、裸の姿よりも欲望をそそる。
「んっ、レン様、ダメ、抜いて……」
 僕から逃れようと、玲奈が虚しく腰を浮かせようとする。僕はその細い腰を抱いたまま、玲奈の身体をゆるゆると上下させた。赤く染まった乳房の先が僕の身体に擦り付けられて、ことばにならないくらい気持ちいい。
「あ、あ……レン様ぁ……っ」
 玲奈か僕の肩を掴んで、いやいやと首を振った。だが、蜜を滴らせる秘裂はしっかりと僕を飲み込んだままだ。
 明るい湯殿で体をつなぐことを恥じらう姿が、僕にはたまらなく色っぽく見える。
「玲奈」
 顔を伏せようとする玲奈の小さな顎をつまみ、僕は玲奈の顔を覗き込んだ。
「気持ちいい?」
「っ、は、はい……でも、私……」
 粘り気のある水の音が、玲奈の足の間から聞こえてくる。
 伝わってくる感触に伴って発せられるその音は、控えめに言っても最高だった。
「やめたいのか? こんな音をさせているのに?」
 僕の意地の悪い言葉に、玲奈の白い肌は、鎖骨まで赤く染まった。
「こんなに僕を締め付けているのにか?」
「あ、あの、あ……ああっ」
 どうやら、玲奈は、問いつめられると感じる性質らしい。
 真っ赤な顔で、少しずつ自分で身体をゆすり、動き始める。
 その動きが僕にとってもたまらなく気持ちよく、僕は空いている方の片手で玲奈の手を握りしめた。
 小さな手だ。桜色の爪が愛らしい。
「な、なんで、こんな……気持ちいいの……かな……」
 玲奈が繋いだ手を振りほどき、僕の首筋にしがみつく。
 とろけるような肌の感触を全身で味わう体勢になり、僕は陶然となりながら朱に染まった耳に囁きかけた。
 僕に戒められたまま、玲奈が弱々しくつま先で床を蹴る。
 不器用に身体を上下させながら、玲奈が息を弾ませ始めた。
「あ、あ……レン様の、硬い……っ」
 まだこういう行為に慣れていない玲奈の身体は小刻みに震え、痛いほどに僕を締め上げている。
 小さな耳を噛みながら、僕もそろそろ苦しくなってきたな、と思った。
「あ……ああっ……」
 僕にすがりつき、ぎこちなく腰を振りながら玲奈が訴える。
 僕は、玲奈の華奢な体を湯殿の床に組みしき、脱ぎ捨てた湯浴み着を彼女の頭の下にまるめて敷いた。
「この体勢は痛い?」
 玲奈が拳で涙を拭いながら首を横に振る。僕はほっとして、玲奈の足を膝に手を掛け、大きく広げさせた。
 ……素晴らしい眺めだ。
 はだけた湯浴み着が濡れてまとわりいている様子がたまらない。
 耐え難くなってきて玲奈を強く突き上げると、彼女は背をのけぞらせて身を捩り、なんとも甘い啼き声を上げた。
「レン、様、もっと、優しくして……」
 彼女を穿つ勢いを慌ててゆるめ、僕は可能な限りゆるやかに、焦らすように、淑やかにとじ合わされた彼女の秘裂を開いてゆく。
 だめだ、玲奈があまりに可愛くて淫らで、どうしてもほんの少しいじめたくなってしまう。
「い、いや、なに、これ……あ、ああ……」
 玲奈の大きな目から、つっと涙が伝い落ちた。
 同時に、温かな粘膜が、僕を絡め取ろうと強く収縮する。なんという貪欲な力強さだろう。僕まで天国に連れて行かれそうなくらいの気持ち良さだ。
「あ、あぁ……だめ、だめ……っ」
 淫らに開かれた玲奈の足がガタガタと震え、僕を引きずり込むように柔らかな膜が力強く引き絞られた。つながった場所から、玲奈の熱い蜜がどっと溢れ出す。
「ひっ、ああ……っ……あ……」
 必死で声を抑えながら、玲奈が手の甲で顔を隠す。
 全身の肌をほのかに色づかせ、玲奈の身体が弛緩した。
 絶頂に達して痙攣する玲奈の身体に、僕は覆いかぶさった。あまりの気持ちよさに、僕の意識まで遠のきそうになる。
 訳がわからなくなるほど何度も彼女の身体の中を行き来し、温かな玲奈の奥で、僕も果てた。
 力の入らぬらしい腕で僕を抱きしめながら、玲奈が涙声で囁く。
「私……レン様が好き……」
 言われるまでもなく僕もだ。大好きだ。愛している。
 温かいとはいえ、いつまでも玲奈を石の床に寝かせておく訳にはいかない。僕は慌てて重い体を引きずり起こし、玲奈の身体を膝の上に抱えた。
「玲奈、どこも痛くない?」
 頷く玲奈を片腕で抱きしめ、僕は手を伸ばして、桶で浴槽の湯をすくう。
「大丈夫です」
 僕に甘えるようにしなだれかかったまま、玲奈が恥ずかしげに湯浴み着の前を掻き合わせた。
 ……可愛い……。
 何度もお湯をかけて玲奈の身体を清めながら、僕は艶めかしい柔らかな姿に見とれた。
「私、嬉しいです」
 ぼんやりしている時に玲奈が突然そんなことを言ったので、僕は疲れも忘れ、にわかに色めき立ってしまった。
「何が嬉しいの?」
 勢い込んで尋ねる僕に驚いたように目を丸くした玲奈が、不意にこぼれるような笑顔を浮かべた。
「レン様と仲良くなれた気がして嬉しい……。私、前から、レン様がとても好きだったから」
 何だそれは……。
 なぜそんなに可愛い事を言うのだ?
 ほんの少し僕から目をそらし、頬を染める様子が本当に愛らしすぎる。
 僕は誘われるように手を伸ばし、玲奈の顎を捉えて、また唇を重ねた。

 こうして妻に頭を蕩かされてしまった僕は、生涯父上を笑えない男になったのだ。
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