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第4章 魔女討伐にいこう

冷たい雪の中

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 俺は、クルミの割れる音と共に、暗闇から解放された。
 おそらく、ソエルがくれた『変わり実』の効果だろう……俺は一命を取りとめたようだ。
 雪の冷たい感触が皮膚から伝わってくる。どうやら俺は、雪の中に埋められているらしい。

 意識が暗闇にあった時、昔の記憶が教えてくれたもの。それは今の俺の境遇だった。
 俺は、アポロスに妬まれていたのだ。

 警戒するべきだった。
 見抜けなかったのは、俺の未熟さが生んだ結果だ。
 爽やかな言葉に惑わされ過ぎた。

 アポロスは、何故『勇者は俺でなければならない』と、自分を縛るのか……勇者になって世界を変える? 一体何がしたいのか……。
 その偏った考えに殺されかけた俺には、奴が異常な考えの持ち主にしか見えなかった。
 第一、『とても良い仲間』と言っておきながら、平気でその仲間を殺す奴が作る世界なんて見たくもない。

 だが、今はそんな事はどうでもいい。
 奴らは、ご丁寧に俺の腕からウォームリングを抜き取っていた。
 このままでは寒さで凍死してしまう。せっかく拾った命をまた散らす事になっては元も子もない。
 まだ痺れ薬のせいで思うように動かない不自由な体を、俺は一生懸命動かし、芋虫のように外へ這い出ようとした。
 それ程深くは埋められていないようだ。

 ──出れる!──

 そう思った次の瞬間、何かが崩れる音がし、俺の体は下へと落ちて行った。
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