恋愛経験ゼロの俺が、一目惚れした天使にストーカーと勘違いされた挙句、男女比1対9のハーレム・シェアハウスで一緒に住むことになった話

永遠光(とわのひかり)

文字の大きさ
22 / 81
第1章 禍福は糾える縄の如し

第19話 さくらの初体験(1)

しおりを挟む
 その日の夕方、さくらはカフェ・バレンシアのカウンター席に座り、いつものように本を読んでいた。
 祐希は忙しそうにオーダーを捌いており、さくらは目の端に映る祐希を時々目で追った。

 月曜日の夕方4時を過ぎると、店内は混み始めた。
 すると美里ママが切羽詰まった様子で、さくらのところへやってきた。
「さくらさん、折り入ってお話があるんだけど、少しいいかしら」
 美里ママは、アラフォーには見えないキュートな美魔女で、この店のパティシエ兼店長だ。

「え?何でしょう?」

「ここでは話しづらいので、申し訳ないけど、中へ来てもらえるかしら?」
 美里ママは、さくらを厨房へ手招きした。

 さくらは、何の話だろうと思いながら、チラッと祐希の方を見た。
 しかし、彼はドリンク作りに集中し、こちらに気づいていない様子だった。

 厨房に入ると、マスターの七ツ森慎太郎が忙しそうに料理を作っていた。
 さくらが厨房へ入って来たのに気づくと、マスターはニコっとイケオジスマイルを見せた。
 どうやら話の内容は、マスターも承知していることらしい。

 さくらは、初めて入る厨房内を興味深げに眺めていると、美里ママが話し始めた。
「単刀直入に言うわ。
 さくらさん、あなた、この店でバイトする気はない?」

「えっ、私が…ですか?」

「そうよ、祐希くんの仕事が終わるの毎日待ってるでしょ。
 もし、その間、お店を手伝ってもらえると、とてもありがたいんだけど…」

「………」
 さくらは美里ママからの突然の申し出に戸惑い、言葉が出てこなかった。

「実は、平日の夕方からシフトに入ってくれてるパートさんがいるんだけど、その人、子供が怪我で入院するから1ヶ月ほど休ませて欲しいって連絡があったのよ…」

 美里ママの話によると、そのパートさんは小学生の子供がいて、足を骨折して1ヶ月ほど入院しなければならないそうだ。
 まだ小さいので、付き添いや身の回りの世話をしなければならず、その間休ませて欲しいと連絡があったのだ。

「ね、お願い。1ヶ月だけ、アルバイトしてくれないかしら。
 こちらの都合だから、バイト代は奮発するわよ、それに賄いも付けるわ」

「そうなんですか……
 でも私、アルバイトしたことがないんです」

「えっ、そうなの」

「はい、父がアルバイトするの許可してくれなくて」

「なるほど……お父様、厳しい方なのね。
 ん~、困ったなぁ」
 美里ママは、さくらの家庭事情を聞いて、頭を抱えてしまった。

「無理を承知で、何とかお願いできないかしら?
 パートさんが復帰するまでの間でいいから、お願い…」
 美里ママは、両手を合わせ神頼みのポーズを取った。

 美里ママの困り果てた様子に、さくらは考え込んだ。
 バイトするなど、父には絶対反対されるだろう…
 しかし美里ママは本当に困っている様子だ…
 さくらは、考えに考えた末、一つの結論に至った。

 それは、このバイトが1ヶ月間の期間限定であり、金銭目的ではなく人助けなのだと。
 さくらは、自分にそう言い聞かせ、美里ママの申し出を受けることにした。
「分かりました、その方が戻られるまでの1ヶ月間、お手伝いさせていただきます」

「ありがとう、ありがとう、さくらさん…
 お願いしておいて、こんな事言うのもなんだけど、お父様は大丈夫なの?」

「大丈夫…ではないと思いますが、常時見張られているわけじゃないですし、1ヶ月なら多分…問題ないと思います」

「え、本当?助かるわぁ。
 ほら、最近夕方から、お店、ものすごく混むでしょ、だからどうしようかと思っていたの。
 さくらさん、本当にありがとう」
 美里ママはさくらの手を取り、何度も頭を下げた。

「でも私、接客とか初めてですけど、できるんでしょうか?」

「それは大丈夫、私が基礎からしっかり教えるから、任せて」

「はい、よろしくお願いします」

「それで勝手なお願いで申し訳ないけど、バイト、今日からお願いできないかしら」

「わ、分かりました。お任せください」

「それじゃ、この制服に着替えてもらえる。
 女子更衣室は厨房の奥よ」

 美里ママは、ハンガーにかかったカフェ・バレンシアの制服をさくらに渡した。
 それは、清潔感のある白い半袖のブラウスと、落ち着いたカフェモカ色の膝丈フレアスカートの組み合わせだった。
 ブラウスの小さな丸襟と、袖口に施されたオレンジ色の刺繍が、アクセントになっていた。
 エプロンは生成り色で、胸元には『Café Valencia』のロゴが刺繍されていた。

 着替えを終えたさくらが、更衣室から出てきた。
「ど、どうでしょうか……?」

「さくらちゃん、とてもよく似合ってるわ!」
 白いブラウスが彼女の清楚な雰囲気を引き立て、フレアスカートが動くたびに軽やかに揺れる。
 キュッと結ばれたエプロンのリボンが、彼女の細いウエストを強調していた。
 長い黒髪は、邪魔にならないようにハイポジションのポニーテールに結い上げられている。

「やっぱりスタイルが良いから、どんな制服でも完璧に着こなしちゃうわね!」
 美里ママは満足そうに頷きながら、さくらの制服姿を褒めた。

「それじゃあ、早速だけど接客の基本を教えるわね」
 美里ママは、ハンディターミナルを取り出した。

「これがオーダーを取るハンディターミナル。
 まず、お客様のテーブル番号を入力して…
 メニューを選んで、数量を入れるの、慣れれば簡単よ」
 美里ママの指の動きを、さくらは真剣な眼差しで追った。

「お客様が来店して席に着いたら、笑顔で『いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?』って聞いて。
 オーダーを受けたら、最後に復唱して確認すること。
『ご注文を繰り返します。カフェラテお一つと、本日のケーキセットでよろしいでしょうか?』って。
 これが一番大事よ」

 次に美里ママは、銀色の円形トレイを手渡した。
「これがトレンチ。
 料理やドリンクを運ぶ時に使うのよ。
 最初は空の状態で持ってみて。
 ポイントはね、手首じゃなくて肘から先全体で支える感じで持つと安定するのよ」
 さくらはトレンチを持ち、美里ママの言う通りに重心を意識してみた。

「メニューは、コーヒーや紅茶、ジュースみたいなドリンク類と、パスタやサンドイッチのフード類、あとはうち自慢のケーキやパフェね。
 細かいメニューは、そのうち覚えていけば大丈夫だから」

 美里ママは説明を終えると、さくらの肩をポンと叩いた。
「よし、基本はこれくらいかな。
 あとは実践で慣れてもらうしかないわね。
 ほら、よく言うでしょ。
 習うより慣れろって…
 失敗してもいいから、まずはやってみましょう。
 困ったら、いつでも私か祐希くんに聞いて」

「はい! 頑張ります!」
 さくらのアルバイト初体験が、今始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

普段高校生ゲーム実況者として活動している俺だが、最近仲良くなりつつあるVTuberが3人とも幼馴染だった件について。

水鳥川倫理
青春
主人公、目黒碧(めぐろあお)は、学校では始業時間になっても現れない遅刻常習犯でありながら、テストでは常に学年トップの高得点を叩き出す「何とも言えないクズ」として教師たちから扱いにくい存在とされている。しかし、彼には誰にも明かせない二つの大きな秘密があった。 一つ目の秘密は、碧が顔を隠し、声を変えて活動する登録者数158万人を誇るカリスマゲーム実況者「椎崎(しいざき)」であること。配信中の彼は、圧倒的なゲームスキルと軽妙なトークでファンを熱狂させ、学校での「クズ」な自分とは真逆の「カリスマ」として存在していた。 二つ目の秘密は、彼が三人の超絶可愛い幼馴染に囲まれて育ったこと。彼らは全員が同じ誕生日で、血の繋がりにも似た特別な絆で結ばれている。 習志野七瀬(ならしのななせ): 陽光のような明るい笑顔が魅力のツンデレ少女。碧には強い独占欲を見せる。 幕張椎名(まくはりしいな): 誰もが息をのむ美貌を持つ生徒会副会長で、完璧な優等生。碧への愛情は深く、重いメンヘラ気質を秘めている。 検見川浜美波(けみがわはまみなみ): クールな外見ながら、碧の前では甘えん坊になるヤンデレ気質の少女。 だが、碧が知らない三重目の秘密として、この三人の幼馴染たちもまた、それぞれが人気VTuberとして活動していたのだ。 七瀬は元気いっぱいのVTuber「神志名鈴香」。 椎名は知的な毒舌VTuber「神楽坂遥」。 美波はクールで真摯なVTuber「雲雀川美桜」。 学校では周囲の視線を気にしながらも、家では遠慮なく甘え、碧の作った料理を囲む四人。彼らは、互いがカリスマ実況者、あるいは人気VTuberという四重の秘密を知らないまま、最も親密で甘い日常を謳歌している。 幼馴染たちは碧の「椎崎」としての姿を尊敬し、美波に至っては碧の声が「椎崎」の声に似ていると感づき始める。この甘くも危険な関係は、一つの些細なきっかけで秘密が交錯した時、一体どのような結末を迎えるのだろうか。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

処理中です...