23 / 133
第1章 禍福は糾える縄の如し
第20話 さくらの初体験(2)
祐希は、さくらが何も言わずにいなくなったので、トイレにでも行ったのかと思っていた。
しかし、30分以上経っても彼女は戻ってこなかった。
さすがに戻ってくるのが遅いと、祐希が心配し始めた頃、さくらはカフェ・バレンシアの制服を着て美里ママと共に現れた。
さくらが戻って来なかったのは、美里ママがカフェでバイトするよう口説いていたからに違いない。
祐希はそう確信した。
「祐希くん、さくらちゃんの制服姿、どう?」
カフェ・バレンシアの制服を身に纏ったさくらを見て、祐希の思考は停止した。
白いブラウスにカフェモカ色のスカート、生成りのエプロンという組み合わせは、彼女のために誂えられたかのように似合っていた。
その姿は、ユニフォームのカタログに載っているモデルのようだった。
しかも長い黒髪をハイポジションの細ポニーテールにして、その完璧な立ち姿に祐希の心は鷲掴みにされた。
「祐希くん……祐希くん、大丈夫?」
美里ママの言葉で祐希は正気に戻った。
「だ、大丈夫です。
ちょっとびっくりしただけです……
でも、なんで、さくらさんが制服を?」
祐希が尋ねると、美里ママが悪戯っぽく微笑み、ウインクした。
「ほら、パートの鈴木さん、息子さんが骨折で入院して、1ヶ月くらいお休みさせて欲しいって電話があったの。
だから、さくらちゃんに、ピンチヒッターをお願いしたわけ!」
「それならそうと、先に僕に言ってくださいよ。
急にいなくなって、戻ってこないから心配したじゃないですか…」
「祐希さん、心配かけてごめんなさい」
さくらが謝った。
「ううん、悪いのは先に言わなかった私よ。
ごめんね、祐希くん、許して……」
美里ママは悪びれた様子もなく、祐希にウインクして誤魔化した。
その時、ホール係の結からドリンクオーダーが入った。
「オーダー入ります、メロンソーダ、いちごパフェ、1番テーブルです」
祐希は、現実に引き戻され、溜まったオーダーをこなしていった。
接客が初めてのさくらに、ホール係の仕事が務まるのか祐希は心配だった。
さくらは、初めは緊張していたものの、美里ママのお手本通り、そつなく接客をこなしていった。
ドリンクを運ぶ手つきは、まだおぼつかないものの、その一生懸命な姿は見ていて微笑ましかった。
祐希はカウンターの中から、時折彼女の仕事ぶりを見守った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
午後8時過ぎ、カフェ・バレンシアは閉店の時刻となった。
祐希が後片付けを終えるころ、さくらは結と一緒にテーブルを拭き終えるところだった。
「さくらさん、お疲れ様です!
初めてなのに上手でしたよ!」
結が明るい笑顔でさくらをねぎらった。
「いえいえ、失敗ばかりで迷惑かけてごめんなさい。
結ちゃん、色々教えてくれてありがとう」
「いいえ、分からないことあれば、いつでも聞いて下さい」
「さくらさん、初めてのことばかりで大変だったと思うけど、今日は本当に助かったわ、ありがとう」
美里ママもバイト初体験のさくらに感謝の言葉を述べた。
厨房の片付けを終えたマスターも、ホールへ出てきて礼を述べた。
「さくらさん、突然無理なお願いをして申し訳ないけど、1ヶ月間、よろしく頼みます」
帰り際、美里ママがマスター特製の賄いを、さくらと祐希に渡した。
「今日は頑張ってくれたから、お礼の意味を込めて賄いもスペシャルよ」
「ありがとうございます。
帰ってから食べるのが今から楽しみです」
着替えを終えた祐希とさくらは、店主一家に挨拶して通用口から外へ出た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カフェ・バレンシアのドアを開けると、ひんやりとした夜風が、頬に心地よかった。
2人分の賄いの紙袋を提げ、祐希とさくらは並んで星ヶ丘駅へと歩いた。
「さくらさんが、カフェの制服を着て現れた時は本当にびっくりしたよ」
「何も言わずいなくなって、ごめんなさい」
「ううん、あれは美里ママの確信犯的犯行だと思うんだ」
「え、そうなんですか?」
「そうさ、きっとさくらさんの制服姿を、いきなり僕に見せて、その反応を楽しもうっていう魂胆だよ」
「それは、ちょっと意地悪ですね」
「美里ママって、一見真面目そうに見えるけど、根っからのサプライズ好きで、その反応を見て楽しむタイプだから」
「分かりました。
今度から気をつけます」
「それにしても可愛かったなぁ…」
祐希は遠い目をして何かを思い出していた。
「え、何がですか?」
祐希は自分の心の声がつい漏れてしまったことに気づいた。
しかし、今さらもう誤魔化せない。
「あ、いや、さくらさんの制服姿、よく似合ってたなぁと思ってね」
「あ、ありがとうございます」
(祐希さん、今、可愛いって言ったよね…)
さくらは予期せぬ祐希の褒め言葉に、頬を染め下を向いた。
まもなく駅へ到着した2人は、ちょうどホームに入ってきた電車に乗り、空いている席に座った。
それから15分ほどで柏琳台駅へ到着した。
時刻は夜8時40分を少し回ったところだ。
駅前の繁華街を抜け、シェアハウスへと続く少し暗い路地に入る。
街灯がぽつぽつと道を照らす中、2人の足音だけが静かに響いた。
「さくらさん、今日は疲れたでしょう」
祐希が隣を歩くさくらに、ねぎらいの言葉をかけた。
「はい…足はパンパンですし、想像以上に疲れました。
私、ホール係のお仕事、ちゃんとできてましたか?」
「中から見てたけど、ちゃんと仕事できてたよ」
祐希の言葉に、さくらも安堵した。
「あ、ありがとうございます…。
でも、祐希さんの仕事ぶりも、早くて正確でかっこよかったです」
今度は祐希が照れる番だった。
「そ、そうかな? まあ、あれは仕事モードだから…」
そこで言葉が途切れた。
昼間の喧騒が嘘のような静かな夜道。
初めて一緒に働いたという共有体験と、少しだけ踏み込んだお互いへの褒め言葉が、2人の間の雰囲気を甘酸っぱいものに変えていた。
しかし、30分以上経っても彼女は戻ってこなかった。
さすがに戻ってくるのが遅いと、祐希が心配し始めた頃、さくらはカフェ・バレンシアの制服を着て美里ママと共に現れた。
さくらが戻って来なかったのは、美里ママがカフェでバイトするよう口説いていたからに違いない。
祐希はそう確信した。
「祐希くん、さくらちゃんの制服姿、どう?」
カフェ・バレンシアの制服を身に纏ったさくらを見て、祐希の思考は停止した。
白いブラウスにカフェモカ色のスカート、生成りのエプロンという組み合わせは、彼女のために誂えられたかのように似合っていた。
その姿は、ユニフォームのカタログに載っているモデルのようだった。
しかも長い黒髪をハイポジションの細ポニーテールにして、その完璧な立ち姿に祐希の心は鷲掴みにされた。
「祐希くん……祐希くん、大丈夫?」
美里ママの言葉で祐希は正気に戻った。
「だ、大丈夫です。
ちょっとびっくりしただけです……
でも、なんで、さくらさんが制服を?」
祐希が尋ねると、美里ママが悪戯っぽく微笑み、ウインクした。
「ほら、パートの鈴木さん、息子さんが骨折で入院して、1ヶ月くらいお休みさせて欲しいって電話があったの。
だから、さくらちゃんに、ピンチヒッターをお願いしたわけ!」
「それならそうと、先に僕に言ってくださいよ。
急にいなくなって、戻ってこないから心配したじゃないですか…」
「祐希さん、心配かけてごめんなさい」
さくらが謝った。
「ううん、悪いのは先に言わなかった私よ。
ごめんね、祐希くん、許して……」
美里ママは悪びれた様子もなく、祐希にウインクして誤魔化した。
その時、ホール係の結からドリンクオーダーが入った。
「オーダー入ります、メロンソーダ、いちごパフェ、1番テーブルです」
祐希は、現実に引き戻され、溜まったオーダーをこなしていった。
接客が初めてのさくらに、ホール係の仕事が務まるのか祐希は心配だった。
さくらは、初めは緊張していたものの、美里ママのお手本通り、そつなく接客をこなしていった。
ドリンクを運ぶ手つきは、まだおぼつかないものの、その一生懸命な姿は見ていて微笑ましかった。
祐希はカウンターの中から、時折彼女の仕事ぶりを見守った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
午後8時過ぎ、カフェ・バレンシアは閉店の時刻となった。
祐希が後片付けを終えるころ、さくらは結と一緒にテーブルを拭き終えるところだった。
「さくらさん、お疲れ様です!
初めてなのに上手でしたよ!」
結が明るい笑顔でさくらをねぎらった。
「いえいえ、失敗ばかりで迷惑かけてごめんなさい。
結ちゃん、色々教えてくれてありがとう」
「いいえ、分からないことあれば、いつでも聞いて下さい」
「さくらさん、初めてのことばかりで大変だったと思うけど、今日は本当に助かったわ、ありがとう」
美里ママもバイト初体験のさくらに感謝の言葉を述べた。
厨房の片付けを終えたマスターも、ホールへ出てきて礼を述べた。
「さくらさん、突然無理なお願いをして申し訳ないけど、1ヶ月間、よろしく頼みます」
帰り際、美里ママがマスター特製の賄いを、さくらと祐希に渡した。
「今日は頑張ってくれたから、お礼の意味を込めて賄いもスペシャルよ」
「ありがとうございます。
帰ってから食べるのが今から楽しみです」
着替えを終えた祐希とさくらは、店主一家に挨拶して通用口から外へ出た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カフェ・バレンシアのドアを開けると、ひんやりとした夜風が、頬に心地よかった。
2人分の賄いの紙袋を提げ、祐希とさくらは並んで星ヶ丘駅へと歩いた。
「さくらさんが、カフェの制服を着て現れた時は本当にびっくりしたよ」
「何も言わずいなくなって、ごめんなさい」
「ううん、あれは美里ママの確信犯的犯行だと思うんだ」
「え、そうなんですか?」
「そうさ、きっとさくらさんの制服姿を、いきなり僕に見せて、その反応を楽しもうっていう魂胆だよ」
「それは、ちょっと意地悪ですね」
「美里ママって、一見真面目そうに見えるけど、根っからのサプライズ好きで、その反応を見て楽しむタイプだから」
「分かりました。
今度から気をつけます」
「それにしても可愛かったなぁ…」
祐希は遠い目をして何かを思い出していた。
「え、何がですか?」
祐希は自分の心の声がつい漏れてしまったことに気づいた。
しかし、今さらもう誤魔化せない。
「あ、いや、さくらさんの制服姿、よく似合ってたなぁと思ってね」
「あ、ありがとうございます」
(祐希さん、今、可愛いって言ったよね…)
さくらは予期せぬ祐希の褒め言葉に、頬を染め下を向いた。
まもなく駅へ到着した2人は、ちょうどホームに入ってきた電車に乗り、空いている席に座った。
それから15分ほどで柏琳台駅へ到着した。
時刻は夜8時40分を少し回ったところだ。
駅前の繁華街を抜け、シェアハウスへと続く少し暗い路地に入る。
街灯がぽつぽつと道を照らす中、2人の足音だけが静かに響いた。
「さくらさん、今日は疲れたでしょう」
祐希が隣を歩くさくらに、ねぎらいの言葉をかけた。
「はい…足はパンパンですし、想像以上に疲れました。
私、ホール係のお仕事、ちゃんとできてましたか?」
「中から見てたけど、ちゃんと仕事できてたよ」
祐希の言葉に、さくらも安堵した。
「あ、ありがとうございます…。
でも、祐希さんの仕事ぶりも、早くて正確でかっこよかったです」
今度は祐希が照れる番だった。
「そ、そうかな? まあ、あれは仕事モードだから…」
そこで言葉が途切れた。
昼間の喧騒が嘘のような静かな夜道。
初めて一緒に働いたという共有体験と、少しだけ踏み込んだお互いへの褒め言葉が、2人の間の雰囲気を甘酸っぱいものに変えていた。
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」
「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」
「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
マカロニ
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?