30 / 133
第1章 禍福は糾える縄の如し
第27話 祐希の部屋で二人きり
金曜日の夜9時過ぎ、2人はシェアハウスへ帰宅した。
バイトからの帰り道、さくらは明日行く映画を選ぼうと祐希に言われた。
「賄い、僕の部屋で食べない?
映画選ぶのにパソコン見ながらの方がいいと思ってね」
祐希の提案に、さくらは驚きながらも頷いた。
(祐希さんの部屋…!初めて入る…)
内心のドキドキを隠しながら、祐希の後に続いた。
「お邪魔します…」
さくらは緊張した面持ちで、部屋へ入った。
祐希の部屋は、意外なほど片付いていた。
白を基調とした内装は、さくらの部屋と同じだが、少し広い気がした。
天然木の家具、大きなベッドとL字型のデスク、ソファセットが置かれている。
「さくらさん、適当に座って…
賄い、レンジで温めたから、一緒に食べよう」
祐希は、ホカホカと湯気が立つオムカレーとサラダをテーブルに並べた。
オムカレーのスパイシーな香りが辺りに漂った。
カフェ・バレンシアのマスター特製の賄いだ。
「あ、ありがとうございます…」
さくらは促されるまま、ソファに腰を下ろした。
祐希もその隣に座ると、2人で「いただきます」と手を合わせ食事を始めた。
オムカレーの美味しさに自然と顔がほころんだ。
「明日の映画、何にするか決めないとね」
祐希がテーブルの真ん中にノートパソコンを置き、映画情報サイトを開いた。
「どんな映画がありますか?」
さくらが画面を覗き込んだ。
「今、話題なのは、このアクション映画かな…」
祐希は『TimeLimit100』という映画タイトルを指さした。
「アクション映画だけど、さくらさん平気?」
「あ、アクション…ですか?
私、映画って、ほとんど観たことがなくて…」
折り紙付きの箱入り娘として、純粋培養されたさくらは、小学校低学年から高校を卒業するまで、ピアノとバレエのレッスンに明け暮れ、映画など見に行く機会は皆無だった。
「アニメ映画は、さすがに嫌だよね」
さくらは、アニメ映画もほとんど見たことがなかった。
「そうですね…」
曖昧な相槌を打つのみで、さくらの反応は薄かった。
「うーん、じゃあこのファンタジーとかは?
タイトルは『月の雫と忘れられた庭園』。
映像がすごく綺麗らしいんだけど…」
「え、そうなんですか、綺麗そうですね…」
さくらは興味を示したが、まだ決めかねていた。
(さくらさん、本当に映画観たことないんだな…)
祐希がリストをスクロールしていくと、見覚えのあるタイトルが画面に表示された。
「六花の奇跡 ~もう一度、君に逢えたなら~」
「あ、これは…」
祐希が言いかけると、さくらが小さく息を呑むのが分かった。
それは、未来が祐希と観に行った映画だ。
さくらの表情が、わずかに曇った。
「……これは、いいです」
「え? あ、うん、わかった」
さらに画面をスクロールさせると、さくらが気になるタイトルを見つけた。
「あ、これっ…」
画面を指差しながら、さくらが身を乗り出した。
その瞬間、さくらの肩が、無意識に祐希の肩に触れた。
「あ、ごめんなさい…!」
さくらは慌てて体を引いた。
「ううん、大丈夫…」
祐希も不意の接触に少しドキッとした。
思わず顔を見合わせると、予想以上に距離が近いことに気づき、2人は慌てて視線を逸らした。
祐希は、その瞬間にさくらから香った甘い匂いに、心臓が高鳴るのを感じた。
(うわっ、さくらさん…いい匂い…)
「えっと…どれが気になったの?」
気まずい空気を変えるように、祐希が咳払いをして映画の話を続けた。
「あ…!祐希さん、これです…!」
さくらが指差したのは、『明日、桜の下で~君といた、春の陽だまり~』というタイトルだった。
「『明日、桜の下で』…?
ああ、これか。レビューも良いみたいだね」
祐希が詳細をさくらに見せた。
画面には、満開の桜並木の下で見つめ合う男女のポスター画像と、短いあらすじが表示されていた。
――都会での人間関係に疲れた女性「ミオ」と、地方のガラス職人「ハル」。
桜の下での偶然の出会いから始まる、限りある時間の中で輝く愛と奇跡の物語――
さくらは、そのあらすじを食い入るように見ていた。
「……私、これが観たいです」
さくらがはっきりした口調で言った。
映画のタイトルに「さくら」という文字があるのが、気になったのかもしれない。
「わかった。
じゃあ、この映画にしようか」
「はい!お願いします」
さくらは嬉しそうに頷いた。
祐希はその場でスマホを取り出し、横浜マリンシアターのサイトで明日の座席を予約した。
「席、取れたよ。明日の13時10分からね…」
「はい!ありがとうございます!
チケット代、おいくらですか?」
「え~っと、1人1,800円だよ」
「分かりました」
さくらは、財布を取り出すと、ちょうど3,600円、祐希に差し出した。
「これ多いよ、自分の分は自分で払うから…」
「いいえ、いけません。
映画に連れてってと、お願いしたのは私なんですから、チケット代は私が払います」
さくらが頑として譲らない様子なので、祐希は昼食代を自分が持てばいいかと、その場は折れて代金を受け取ることにした。
「映画代驕ってもらって、かえって申し訳ないね」
「いいえ、これくらい、当然のことです」
明日観る映画が決まったことに安心して、2人の間の空気も和んだ。
残りの賄いを食べながら、映画への期待や、今日のバイトの話など、自然な会話が続く。
食事が終わり、さくらが「私、片付けます」と使い捨て容器を手に取った。
「映画に連れて行ってもらうんですから、これくらい当たり前です」
さくらは、まだここに居たいという気持ちを抑え、立ち上がった。
あまり遅い時間までいると、シェアハウスの他の住人に、変に勘ぐられると思ったのだ。
「ごちそうさま。お邪魔しました」
「明日、楽しみにしてるよ」
「はい、私もです!」
さくらは嬉しそうに微笑むと、祐希の部屋を出て行った。
祐希は、まだ部屋に残るさくらの甘い残り香に、一人余韻に浸っていた。
バイトからの帰り道、さくらは明日行く映画を選ぼうと祐希に言われた。
「賄い、僕の部屋で食べない?
映画選ぶのにパソコン見ながらの方がいいと思ってね」
祐希の提案に、さくらは驚きながらも頷いた。
(祐希さんの部屋…!初めて入る…)
内心のドキドキを隠しながら、祐希の後に続いた。
「お邪魔します…」
さくらは緊張した面持ちで、部屋へ入った。
祐希の部屋は、意外なほど片付いていた。
白を基調とした内装は、さくらの部屋と同じだが、少し広い気がした。
天然木の家具、大きなベッドとL字型のデスク、ソファセットが置かれている。
「さくらさん、適当に座って…
賄い、レンジで温めたから、一緒に食べよう」
祐希は、ホカホカと湯気が立つオムカレーとサラダをテーブルに並べた。
オムカレーのスパイシーな香りが辺りに漂った。
カフェ・バレンシアのマスター特製の賄いだ。
「あ、ありがとうございます…」
さくらは促されるまま、ソファに腰を下ろした。
祐希もその隣に座ると、2人で「いただきます」と手を合わせ食事を始めた。
オムカレーの美味しさに自然と顔がほころんだ。
「明日の映画、何にするか決めないとね」
祐希がテーブルの真ん中にノートパソコンを置き、映画情報サイトを開いた。
「どんな映画がありますか?」
さくらが画面を覗き込んだ。
「今、話題なのは、このアクション映画かな…」
祐希は『TimeLimit100』という映画タイトルを指さした。
「アクション映画だけど、さくらさん平気?」
「あ、アクション…ですか?
私、映画って、ほとんど観たことがなくて…」
折り紙付きの箱入り娘として、純粋培養されたさくらは、小学校低学年から高校を卒業するまで、ピアノとバレエのレッスンに明け暮れ、映画など見に行く機会は皆無だった。
「アニメ映画は、さすがに嫌だよね」
さくらは、アニメ映画もほとんど見たことがなかった。
「そうですね…」
曖昧な相槌を打つのみで、さくらの反応は薄かった。
「うーん、じゃあこのファンタジーとかは?
タイトルは『月の雫と忘れられた庭園』。
映像がすごく綺麗らしいんだけど…」
「え、そうなんですか、綺麗そうですね…」
さくらは興味を示したが、まだ決めかねていた。
(さくらさん、本当に映画観たことないんだな…)
祐希がリストをスクロールしていくと、見覚えのあるタイトルが画面に表示された。
「六花の奇跡 ~もう一度、君に逢えたなら~」
「あ、これは…」
祐希が言いかけると、さくらが小さく息を呑むのが分かった。
それは、未来が祐希と観に行った映画だ。
さくらの表情が、わずかに曇った。
「……これは、いいです」
「え? あ、うん、わかった」
さらに画面をスクロールさせると、さくらが気になるタイトルを見つけた。
「あ、これっ…」
画面を指差しながら、さくらが身を乗り出した。
その瞬間、さくらの肩が、無意識に祐希の肩に触れた。
「あ、ごめんなさい…!」
さくらは慌てて体を引いた。
「ううん、大丈夫…」
祐希も不意の接触に少しドキッとした。
思わず顔を見合わせると、予想以上に距離が近いことに気づき、2人は慌てて視線を逸らした。
祐希は、その瞬間にさくらから香った甘い匂いに、心臓が高鳴るのを感じた。
(うわっ、さくらさん…いい匂い…)
「えっと…どれが気になったの?」
気まずい空気を変えるように、祐希が咳払いをして映画の話を続けた。
「あ…!祐希さん、これです…!」
さくらが指差したのは、『明日、桜の下で~君といた、春の陽だまり~』というタイトルだった。
「『明日、桜の下で』…?
ああ、これか。レビューも良いみたいだね」
祐希が詳細をさくらに見せた。
画面には、満開の桜並木の下で見つめ合う男女のポスター画像と、短いあらすじが表示されていた。
――都会での人間関係に疲れた女性「ミオ」と、地方のガラス職人「ハル」。
桜の下での偶然の出会いから始まる、限りある時間の中で輝く愛と奇跡の物語――
さくらは、そのあらすじを食い入るように見ていた。
「……私、これが観たいです」
さくらがはっきりした口調で言った。
映画のタイトルに「さくら」という文字があるのが、気になったのかもしれない。
「わかった。
じゃあ、この映画にしようか」
「はい!お願いします」
さくらは嬉しそうに頷いた。
祐希はその場でスマホを取り出し、横浜マリンシアターのサイトで明日の座席を予約した。
「席、取れたよ。明日の13時10分からね…」
「はい!ありがとうございます!
チケット代、おいくらですか?」
「え~っと、1人1,800円だよ」
「分かりました」
さくらは、財布を取り出すと、ちょうど3,600円、祐希に差し出した。
「これ多いよ、自分の分は自分で払うから…」
「いいえ、いけません。
映画に連れてってと、お願いしたのは私なんですから、チケット代は私が払います」
さくらが頑として譲らない様子なので、祐希は昼食代を自分が持てばいいかと、その場は折れて代金を受け取ることにした。
「映画代驕ってもらって、かえって申し訳ないね」
「いいえ、これくらい、当然のことです」
明日観る映画が決まったことに安心して、2人の間の空気も和んだ。
残りの賄いを食べながら、映画への期待や、今日のバイトの話など、自然な会話が続く。
食事が終わり、さくらが「私、片付けます」と使い捨て容器を手に取った。
「映画に連れて行ってもらうんですから、これくらい当たり前です」
さくらは、まだここに居たいという気持ちを抑え、立ち上がった。
あまり遅い時間までいると、シェアハウスの他の住人に、変に勘ぐられると思ったのだ。
「ごちそうさま。お邪魔しました」
「明日、楽しみにしてるよ」
「はい、私もです!」
さくらは嬉しそうに微笑むと、祐希の部屋を出て行った。
祐希は、まだ部屋に残るさくらの甘い残り香に、一人余韻に浸っていた。
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」
「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」
「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
マカロニ
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?