恋愛経験ゼロの俺が、一目惚れした天使にストーカーと勘違いされた挙句、男女比1対9のハーレム・シェアハウスで一緒に住むことになった話

永遠光(とわのひかり)

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第1章 禍福は糾える縄の如し

第29話 初デート(さくら編2)

 レストランを出て横浜マリンシアターへ到着すると、上映開始5分前だった。
 館内はほぼ満席で、二人は中段右寄りの席に座った。

 間もなく場内は暗転し、映画が始まった。
 スクリーンには、タイトルが映し出され、美しいテーマ曲が流れ始めた。
『明日、桜の下で ~君といた、春の陽だまり~』

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 主人公は、都会の暮らしに疲れた25歳の女性「ミオ」。
 舞台は、桜の名所として知られる東北地方の温泉街。
 ミオが1週間、湯治に訪れるシーンから始まる。

 彼女が満開の桜並木に感動していると、27歳の男性「ハル」と出会う。
 その時のお互いの第一印象は、最悪なものだった。

 その翌日、ガラス工房の吹きガラス体験で、2人は生徒と指導役として再会する。
 ガラスを上手く吹けないミオを、ハルは根気よく指導した。
 負けず嫌いのミオは、温泉滞在中に作品を完成させようと、連日ガラス工房に通った。

 ミオの熱心さに感心したハルが、根気よく指導するうちに2人はお互いに惹かれていった。
 1週間が過ぎ、新たな活力を見出したミオは、また夏に来ると言って、東京へ帰っていく。

 季節は移ろい7月、ミオは4日間の休みを取り、温泉街へやって来た。
 吹きガラス上達に情熱を燃やし、ミオは炎天下の中、連日ガラス工房へ通う。

 ハルの熱心な指導により、作品が完成した後、2人は喜びあい、夏祭りの夜に結ばれる。
 翌日ミオは、再会を約束して東京へ帰っていった。

 10月、ミオは再び温泉地を訪れ、ハルのガラス工房へ通った。
 ある日、ハルはミオを紅葉狩りに連れていった。
 色鮮やかな紅葉を見ていると、急にハルが倒れ救急車で運ばれる。

 翌日、精密検査が行われた。
 診断の結果、ハルは急性白血病と診断され、余命6ヶ月と宣告される。
 ハルは入院し、抗がん剤治療を受けることとなる。
 彼の妹が付き添うことになり、明日から仕事のミオは心配しながら東京へ帰った。
 
 それから2ヶ月後の12月、再び温泉地を訪れたミオ。
 ガラス工房を訪れると、そこにはハルの姿があった。
 ハルは退院したが、抗がん剤治療は続いていた。
 その苦しさを押して、ガラスを作り続けるハルの姿、それを見守るしかないミオの葛藤が描かれ、客席からはすすり泣く声が聞こえた。

 1月、雪景色の中、病状が悪化し入院したハルに、見舞いに来たミオが優しく口づけし「春に満開の桜の下で会いましょう」と涙をこらえて約束する。

 月日は流れ4月、約束の日時。
 ミオは桜並木の下で待つが、ハルの姿はない。
 桜の花びらが舞う中、ミオが涙を流す。
 やはり、無理だったのか……

「ミオ」
 その声に振り向くと、そこには奇跡的に回復したハルの姿があった。
 満開の桜の下での再会。
 ハルが差し出したのは、彼が作ったガラスの指輪。

「結婚しよう」とハルがプロポーズ。
 涙ながらに頷くミオ。
 桜吹雪の中、2人は強く抱きしめ合った。
 エンドロールと共に、感動的な主題歌が流れた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 場内が明るくなっても、観客は感動の余韻に浸っていた。
 祐希が隣を見ると、さくらがハンカチでそっと目元を押さえていた。
「…とても、いい映画でした」
 さくらが、涙声でつぶやいた。

「映像も綺麗だったし、ストーリーも最高に良かったね」
 2人は、感動の余韻に浸りながら、映画館を後にした。

 駅へと向かい歩いていると、さくらが振り返った。
「祐希さん、ショッピングモールに寄ってもいいですか?」

「いいよ、寄っていこうか」

 2人は映画館に隣接するショッピングモールへ入った。
 明るく開放的な空間に、お洒落なショップが並んでいた。
 さくらは目を輝かせ、ウィンドウを眺めた。

 彼女は、アクセサリーショップの前で足を止めた。
 ガラスケースの中に飾られた、イルカのイヤリングに目を惹かれているのだった。
 イルカが小さなマリンブルーの石を抱えた、可愛らしいデザインは、彼女によく似合いそうだと祐希は思った。

「可愛い…」 小さくつぶやく声が、祐希にも聞こえた。
 しかし、その値札を見て、さくらはすぐに諦めたようだった。

 さくらが、別のショップを見ていると祐希がこう言った。
「ちょっとトイレに行ってくるね」
 そう言って祐希はさくらのもとを離れた。

 しばらく経って戻ってきた祐希は、小さな紙袋を持っていた。
「はい、これ」

「何ですか、これ?」

「さっき、欲しそうにしてたから…」
 差し出された紙袋を、さくらが受け取った。
 中には、イルカのイヤリングが入っていた。

「え、祐希さん、これ…! さっきの…!」

「映画に誘ってくれたお礼だよ。
 さくらさん、これ気に入ってたみたいだから」

「え、そんな…悪いです。
 こんな…高価なものを…」

「そう言わず、受け取って。
 僕がプレゼントしたいんだから…」

「あ…ありがとうございます。
 私の宝物にします!」
 さくらは、嬉しさに頬を染め、小さな声で呟いた。

「さて、そろそろ帰ろうか…」
 祐希が促すと、さくらはうなずいた。

 二人が駅へと向かう途中、臨港パークの海沿いに出た。
 ちょうど太陽が、対岸のビル群の向こうへ沈んでいくところだった。
 空と海が燃えるようなオレンジ色に染まり、観覧車や高層ビルのシルエットが美しく浮かび上がっている。

「綺麗……」
 さくらが思わず足を止め、その景色に息を呑む。

「うん、今日の夕焼けはすごいね…」
 祐希も隣で同じ景色に見入った。

 しばらくの間、2人は刻々と変わる空を眺めていた。
 夕陽が完全に沈み、空に一番星が瞬き始めた。
 2人の間にロマンチックな雰囲気が漂った。

「……帰りたくなくなっちゃいますね」

「そうだね……
 どこか泊まっていく?」

「え…」
 祐希の言葉にさくらがフリーズした。

「ははは、冗談冗談。
 さあ、暗くなってきたから、帰ろう」
 祐希とさくらは、再び駅へと歩き出した。

 さくらは、先ほどの祐希の言葉にドキドキしていた。
 (祐希さんって、ああいう冗談言う人だったんだ……
 でも、本当に泊まっていこうと言われたら、私どう答えたんだろう…)

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 電車で柏琳台駅に着いたのは、夜8時過ぎだった。
 帰りが遅くなったので、コンビニで弁当を買った。
 そしてシェアハウスへと続く道を2人で歩く。
 辺りはすっかり暗くなり、静かな時間が流れている。

「今日は、ありがとうございました。
 本当に楽しかったです。
 プレゼント、嬉しかったです」
 さくらが心からの感謝の言葉を伝えた。

「僕も楽しかったよ。
 あのイヤリング、きっと似合うと思うよ」
 祐希も笑顔で答えた。

 その時、2人は同じことを思っていた。
 (さくらさんと手を繋ぎたい……)
 (祐希さんに手を繋いでもらいたい……)

 祐希は、意を決して言った。
「さくらさん……
 ここから先、暗いし、
 危ないから、手を繋がない?」

「そ、そうですね、お願いします」
 さくらは、顔を真っ赤にしながら、手を差し出した。
 祐希は、さくらの手を優しく握った。
 2人はドキドキしながら、お互いの手の温もりを感じて歩いた。
 シェアハウスまでの道のりが、いつもよりずっと短く、そして永遠のように感じられた。
 やがてシェアハウスの明かりが見えてきた。

「祐希さん、お休みなさい」

「それじゃ、また明日」

 玄関前で手を離し、挨拶してそれぞれの部屋へ入った。

 さくらは、部屋へ戻り、部屋着に着替えた。
 そして2階の共用バスで浴槽に漬かりながら、今日一日の出来事を思い出した。

 楽しかったレストランでの食事。
 ロマンチックで感動的だった映画。
 祐希からのサプライズプレゼント。
 一緒に見た感動的な夕焼け。
 初めて繋いだ祐希の温かくて大きな手。

 どれを思い出しても、胸がキュンキュンするのだ。
 この甘く切ないときめきは、一体何なのだろう。
 純粋培養された箱入り娘であり、恋愛未経験の彼女にとっては難問だった。

 そして考えた末に一つの可能性に辿り着いた。
「もしかして、私、祐希さんに恋してるのだろうか……」
 さくらは、そう思い始めていた。
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