恋愛経験ゼロの俺が、一目惚れした天使にストーカーと勘違いされた挙句、男女比1対9のハーレム・シェアハウスで一緒に住むことになった話

永遠光(とわのひかり)

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第2章 光と陰

第57話 三姉妹

「お待たせしました。
 カフェ・バレンシア特製フルーツパフェです」
 あかりの席にゆいがフルーツパフェを運んできた。

「うわぁぁ~、美味しそう!」

 グラスの中で、みずみずしい果実が光を浴びて煌めいていた。
 大きくカットされたパイナップルやメロン、真っ赤なイチゴに、色とりどりの果実。
 中間にある純白生クリームの層が、その鮮やかさを引き立てる。
 その鮮やかな彩りは、グラスの底まで続いていた。

 あかりがフルーツパフェに見とれていると、ゆいが遠慮がちに話しかけた。
「あの……祐兄ゆうにいの妹さんですよね。
 私、この店の娘のゆいといいます」

「あ~、あなたがゆいさんですか!
 話は兄から聞いてます」

「実は私、兄弟がいなくて、祐兄ゆうにいを実の兄だと思ってるんです……
 だから、本当の妹さんに悪いかなぁって……」

「そんな、悪いだなんて……
 私、全然気にしませんから」
 その言葉に結の顔が、ぱあっと明るくなった。

「ありがとうございます、嬉しいです。
 あの……『あかり』さんのことも『お姉さん』って呼んでいいですか?」

「もちろん……
 私、末っ子だから『お姉さん』って呼ばれるのが、夢だったの……」
 あかりは、嬉しそうに言った。

「やったぁ! 嬉しい……
 あかり姉さん! ありがとう」
 2人は笑顔で握手した。

「……いいなぁ。その『お姉さん』って言う響き……」
 さくらは、2人を見て、羨ましそうに呟いた。

「じゃあ、さくらさんも私の『お姉さん』になってください!」
 ゆいが言った。

「え、いいの!?
 ……ゆいちゃん『お姉さん』って、呼んでくれるの!?」
 さくらは嬉しそうに微笑んだ。

「ふふ、と言うことは私が『次女』ですね。さくらお姉さん……」
 あかりがさくらに言った。

あかりちゃんまで……嬉しい!」
 さくらは頬を染め、微笑んだ。

「これで私たち、三姉妹になりましたね」
 3人は手を取りあって喜んだ。

「あらあら、ゆい、一度に2人もお姉さんができて良かったわねぇ……
 三姉妹誕生のお祝いに、このケーキ、プレゼントするわね」
 美里ママは、あかりとさくらの前に、いちごショートケーキを置いた。

「え、いいんですか?
 ありがとうございます!」
 2人の声が重なった。

「わぁ、すごい……!
 私、さっきパフェにするか、ケーキにするか迷ってたんです。
 両方食べられるなんて、感激です……!」
 あかりは目を輝かせて、ケーキを頬張った。
 さくらも目を細め、嬉しそうにケーキを口に運んだ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 夕方5時を過ぎると店内は満席となり、祐希はカウンターの中で忙しそうにドリンクオーダーを捌いていた。
 その様子を見ながら、あかりが唐突に質問した。
「さくらさん……今、付き合ってる人いるんですか?」
 
「そんな人、いないよ。
 私の高校、女子校だったから、恋愛もしたことないし……
 それに、父が厳しすぎて、付き合うなんて絶対許してくれないから」

「え、そうなんですか?……
 それは、ちょっと過保護すぎじゃないですか?」

「そうなの……
 この前も、父が電柱の陰で私の帰りを待ってて、警察に不審者と間違われて連れて行かれちゃったの……」
 さくらは、父のストーカー騒動の一部始終をあかりに話した。

「ま、マジで……? 
 お父さん、いくらなんでもヤバすぎません?」

「そうなの、だから私、一生お嫁に行けないかも……」
 さくらは、ため息をついた。

あかりちゃんは、彼氏いないの?」

「私も彼氏いません……
 それに付き合ったこともないんです」

「そうなんだ、こんなに可愛いのにね……」
 さくらの言葉に、今度はあかりがため息をついた。

「私、小さい頃からお兄ちゃんが大好きで、結婚するのが夢だったんです。
 でも小学生になって、兄妹は結婚できないって知った時はショックでした。
 だから今は、少しでも近くにいようって思ってるんです。
 兄と同じ大学を受験するのも、実はそのためなんです」

 そのすぐ近くでは、祐希が忙しそうに働いている。
 あかりは、彼に話を聞かれないようさくらに顔を寄せ、兄へのあふれる想いを、そっと打ち明けた。

 さくらはあかりの話を複雑な思いで聞いていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 カフェ・バレンシアは午後8時に閉店した。
 片付けが一段落したところで、祐希はあかりをマスターに紹介した。

「マスター、僕の妹のあかりです」

「初めまして、あかりです。
 いつも兄がお世話になってます」
 あかりは丁寧にお辞儀した。

 マスターの七ツ森慎太郎ななつもりしんたろうは、穏やかに目を細めながら頷いた。
「ああ、祐希くんから聞いてるよ。
 遠いところ、よく来たね」

「ケーキ、ご馳走様でした。すっごく美味しかったです!
 お店の雰囲気もとっても素敵で…… 私、このお店、大好きになりました!」

「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ」
 マスターはイケオジボイスで礼を述べた。

「あの……もし大学に合格したら、このお店でアルバイトさせてもらえませんか?」

「ははは、それは嬉しいな。
 先のことだから約束はできないけど……
 その時に空きがあれば、お願いするね」

「やった~! これで受験勉強、頑張れます!」
 あかりは嬉しそうに、ガッツポーズした。

あかり姉さんがバイトに来てくれたら、私も嬉しいな!」
 横で聞いていたゆいも、あかりの手を握り、手を取り合って喜んだ。

「あらあら、今からアルバイトの約束してるの……
 でも、あかりちゃんなら、私も大歓迎よ」
 美里ママは、嬉しそうに笑った。

「そうそう、祐希くんこれ……
 売れ残りで申し訳ないんだけど、よかったらシェアハウスのみんなで食べて」
 帰り際、美里ママがケーキと賄い弁当が入った大きな紙袋を祐希に手渡した。

「いつも、ありがとうございます、美里ママ」

 その夜、シェアハウスではあかりの送別会が開かれた。
 ラウンジには、カフェ・バレンシア特製ケーキに加え、各自が持ち寄ったピザやハンバーガー、唐揚げなどが並べられた。

 ささやかながらも温かい送別会にあかりは涙ぐみながら誓った。
「絶対に合格して、またここに来ます!」
 賑やかな笑い声と共に、あかりのシェアハウス滞在最後の夜は更けていった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 翌朝、祐希とさくらは、あかりを柏琳台駅まで見送りに来ていた。
 慌ただしく行き交う通勤客の足音や、アナウンスが構内に響き渡る。
 そんな周囲の喧騒から切り離されたように、三人の間だけ、静かな時間が流れていた。
 あかりは兄の袖を掴んだまま、なかなか改札を通ろうとしない。

「お兄ちゃん……私、帰りたくない……」
 別れが寂しくて、あかりは兄に抱きつき、人目も憚らず大粒の涙をこぼした。

あかり、泣くな。またすぐに会えるから……」
 祐希は妹の頭を優しくポンポンと撫でた。

「そうよ、月ちゃん。
 春になったら、また会えるんだから」
 さくらも優しく背中をさする。

「でも、まだ9ヶ月もあるんだよ、長すぎるよ」

「あれ、そういえば言ってなかったっけ?
 お盆に1週間くらい帰省するから、すぐにまた会えるぞ」
 祐希は思い出したように言った。

「えっ、本当!?
 お兄ちゃん、それ早く言ってよぉ……」
 あかりが涙を拭いながら、嬉しそうに笑った。

「ああ。だから、1ヶ月の辛抱だ」

「寂しくなったら、いつでも電話してこい」
 祐希はあかりの肩を優しく抱いて慰めた。

「うっ……うん……電話するね。
 私、絶対、絶対合格して……ここに戻ってくるから!」

 あかりは涙を拭いながら、意を決したように改札を通り抜けた。
 そしてゲートの向こうで振り返り、大きく手を振ると駅の奥へと走り去った。
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