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第2章 光と陰
第58話 瀬奈の闇
伊東瀬奈は、シェアハウス2階にある6号室の住人だ。
カーテンを閉め切った薄暗い部屋で、液晶モニターの光だけが、瀬奈の顔を照らしていた。
「はぁ……また視聴者数減ってる……」
瀬奈は大きな溜め息をついた。
彼女は星城大学の1年生だが、大学にはほとんど行っておらず、昨年は単位不足で留年した。
今の彼女の生活は、この12畳の個室と、インターネットの中にあった。
彼女のもうひとつの顔、それは動画配信サイトで3万人のチャンネル登録者数を持つVtuber『SENA』としての顔だ。
高校3年から始めたゲーム実況チャンネル『SENA Channel』は、当初面白いように登録者数が伸びた。
多い時で月20万円ほどの収入があり、貧乏学生の彼女にとって、それは一つの「成功」と言えた。
稼いでいた頃に、一括で購入した高性能な機材に囲まれ、好きなゲームや服を買う余裕もあった。
しかし、それも長くは続かなかった。
次から次へと現れる新人Vtuberに埋もれ、現在の収入は月5万円にまで落ち込んでいた。
「家賃払ったら、残り3万……
これじゃ、食費だけで消えちゃうよ」
このシェアハウスは、豪華な設備にも関わらず、家賃は水道光熱費管理費込みで7万円と破格の安さだ。
現在の収入5万円に、仕送りの5万円を足しても、家賃を引けば手元には3万円しか残らない。
生活費を稼ぐために、コンビニなどでバイトを始めればいいのだが、「ネットでの成功」という蜜の味を知った彼女には、時給千円足らずで汗水垂らして働くことなど、馬鹿らしく思えた。
切羽詰まった彼女が手を出したのが、アダルトライブチャットだった。
きっかけは、ほんの出来心だった。
マスクで半分顔を隠し、肝心な部分は映らないように艶めかしいポーズを取る。
それだけで、Vtuberでは得られないほどの「チップ」が飛び交った。
(こんなに簡単に稼げちゃうんだ……楽勝じゃん)
瀬奈の金銭感覚と倫理観は、この瞬間から崩れ始めた。
最初は裸になって、大事な部分を隠しながらポーズをとるだけだったが、視聴者は新しい刺激を求めた。
その要望に応え、瀬奈はEカップの豊満な胸を強調し、大人のおもちゃを使う際どい行為でチップを稼いだ。
画面の向こうの男たちは、瀬奈の肢体に群がり、金をばら撒いた。
(男なんて、チョロいじゃん)
だが、それもそう長くは続かなかった。
アダルトライブチャットの競争は、Vtuber以上に熾烈だった。
「ワンパターンで飽きた」
「もっと過激なのお願い」
「本番はしないの?」
コメント欄に並ぶ欲望の言葉。
視聴者数は日に日に減っていき、瀬奈は焦燥感に駆られた。
(何か……もっと凄いことしなきゃ。
人がやっていないようなことを)
その時、ふと思った。
このシェアハウスの1階には、唯一の男性住人である管理人の祐希が住んでいる。
彼は、穏やかで優しい好青年だ。
(男が要るわ。それもタダで協力してくれる男が)
その時の瀬奈の思考回路は、すでに正常なものではなかった。
祐希の弱みを握り、自分の配信に従順な「男優」として出演させれば、リアルな生本番配信ができる。
そうすれば、会員限定の高額な有料配信で楽に稼げると考えた。
瀬奈はネット通販で、コンセントに差すだけで自動で動画撮影できる超小型隠しカメラを購入した。
Wifiで映像を飛ばし、動体検知で録画する高性能なものだ。
ある日の午後、祐希が大学へ行っている隙を狙い、彼女は1階へ降りた。
心臓がドキドキしたが、それは罪悪感というよりも高揚感に近かった。
幸いなことに部屋の鍵はかかっていなかった。
彼女は祐希の部屋に忍び込み、ベッドが見渡せる位置にあるコンセントにカメラを差し込んだ。
ついでに、余ったもう1台を外出中のオーナー、明日奈の部屋にも仕掛けた。
明日奈は祐希の義理の姉だから、何かネタになるものがあるかもしれない。
それからしばらくの間は、瀬奈は自室で録画データの監視を続けた。
でも映し出される映像は、何の変哲もない大学生の日常だった。
明日奈にしても、特にネタになるようなことは何もなく、瀬奈は動画を見るのに飽きてしまった。
隠しカメラのことなど忘れかけていたころ、明日奈の部屋で深夜の時間帯に長時間の録画データが残っていることに気づいた。
瀬奈が、動画ファイルを開くと、そこには信じられない光景が記録されていた。
「……え!」
それは、ベッドの上で全裸となり、指先で自らを慰めているオーナー明日奈の姿だった。
しばらくすると、祐希が部屋に入ってきた。
最初は驚いていた明日奈だったが、何ごとか会話しているうちに、あろうことかベッドで祐希の上に乗り、濃厚な性行為を始めたのだ。
「嘘……義理の姉弟なのに……」
その背徳的な映像に、瀬奈は下腹部の疼きを抑えきれなくなっていた。
呆れる気持ちよりも、思惑通りの動画が入手できた満足感の方が強かった。
この動画があれば、祐希も明日奈も、自分の意のままだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その夜、日付が変わった深夜0時過ぎ。
祐希の部屋のドアがノックされた。
「……はい」
「祐希さん、起きてますか? 瀬奈です」
ドアを開けると、そこにはパジャマ姿の瀬奈が立っていた。
「ごめんなさい、こんな夜中に。
今、動画配信中なんですが、ネットの調子が悪くて……ちょっと見て欲しいんですけど」
ITに強い祐希は、シェアハウス内では頼りにされていた。
祐希は疑うことなく、瀬奈の部屋へと向かった。
6号室に入ると、そこには複数のモニターと本格的な配信機材が並んでいた。
「で、どういう症状?」
「えっと、とりあえず、これを見て」
瀬奈は、デスクトップにある動画ファイルをダブルクリックした。
モニターに映った映像を見た瞬間、祐希の顔から血の気が失せた。
「な……ッ!?」
そこに映っていたのは、明日奈と自分の禁断の情事だった。
「よく撮れてるでしょ?」
「お前……盗撮したのか!?」
「し~、大きな声を出すと、みんな起きちゃうよ?」
瀬奈は悪びれる様子もなく、不敵な笑みを浮かべた。
祐希は猛烈な怒りを覚えたが、すぐに事の重大さに気付いた。
もし、この動画が流出したら。
自分はともかく、明日奈の人生は終わるだろう。
そしてシェアハウスも間違いなく崩壊する。
「……何が目的だ」
「さすがね……話が早くて助かるわ。
あのね、私の動画ライブ配信に今から出演してほしいの」
「は?」
「今から『アダルトライブチャット』の生配信で、私とエッチしてほしいの……」
それは耳を疑う要求だった。
祐希が口を開きかけた瞬間、瀬奈は冷たく言い放った。
「断れば、この動画を今すぐネットにばら撒くわ。
SNS、動画サイト、掲示板……明日奈さんの顔も名前もバッチリ分かるようにしてね。
今、ここにある動画を削除してもダメよ。
バックアップはクラウドにあるんだから」
それは、あまりにも非情な脅しだった。
明日奈を守るためには、瀬奈の要求を飲むしかない。
祐希は腹を括った。
「……分かった。やればいいんだろ」
「ふふ、そう言うと思ってた……」
「でも一つ条件がある。顔は絶対出さないこと。
そして終わったら、その動画を目の前で削除しろ」
「いいよ。私の言う通りにするならね」
瀬奈はクローゼットから、黒い目出し帽を取り出し、祐希に渡した。
「じゃあ、これ被って。
余計なことは喋らないでね。
私とタダでエッチできるんだから、ラッキーくらいに思えばいいのよ。
今回うまくいったら、また呼んであげるからさ」
祐希はそれに答えず、無言で目出し帽を被り、ライトが灯るベッドの上へと移動した。
それは、まるでアダルトビデオの撮影現場のような、日常では考えられない光景だった。
カーテンを閉め切った薄暗い部屋で、液晶モニターの光だけが、瀬奈の顔を照らしていた。
「はぁ……また視聴者数減ってる……」
瀬奈は大きな溜め息をついた。
彼女は星城大学の1年生だが、大学にはほとんど行っておらず、昨年は単位不足で留年した。
今の彼女の生活は、この12畳の個室と、インターネットの中にあった。
彼女のもうひとつの顔、それは動画配信サイトで3万人のチャンネル登録者数を持つVtuber『SENA』としての顔だ。
高校3年から始めたゲーム実況チャンネル『SENA Channel』は、当初面白いように登録者数が伸びた。
多い時で月20万円ほどの収入があり、貧乏学生の彼女にとって、それは一つの「成功」と言えた。
稼いでいた頃に、一括で購入した高性能な機材に囲まれ、好きなゲームや服を買う余裕もあった。
しかし、それも長くは続かなかった。
次から次へと現れる新人Vtuberに埋もれ、現在の収入は月5万円にまで落ち込んでいた。
「家賃払ったら、残り3万……
これじゃ、食費だけで消えちゃうよ」
このシェアハウスは、豪華な設備にも関わらず、家賃は水道光熱費管理費込みで7万円と破格の安さだ。
現在の収入5万円に、仕送りの5万円を足しても、家賃を引けば手元には3万円しか残らない。
生活費を稼ぐために、コンビニなどでバイトを始めればいいのだが、「ネットでの成功」という蜜の味を知った彼女には、時給千円足らずで汗水垂らして働くことなど、馬鹿らしく思えた。
切羽詰まった彼女が手を出したのが、アダルトライブチャットだった。
きっかけは、ほんの出来心だった。
マスクで半分顔を隠し、肝心な部分は映らないように艶めかしいポーズを取る。
それだけで、Vtuberでは得られないほどの「チップ」が飛び交った。
(こんなに簡単に稼げちゃうんだ……楽勝じゃん)
瀬奈の金銭感覚と倫理観は、この瞬間から崩れ始めた。
最初は裸になって、大事な部分を隠しながらポーズをとるだけだったが、視聴者は新しい刺激を求めた。
その要望に応え、瀬奈はEカップの豊満な胸を強調し、大人のおもちゃを使う際どい行為でチップを稼いだ。
画面の向こうの男たちは、瀬奈の肢体に群がり、金をばら撒いた。
(男なんて、チョロいじゃん)
だが、それもそう長くは続かなかった。
アダルトライブチャットの競争は、Vtuber以上に熾烈だった。
「ワンパターンで飽きた」
「もっと過激なのお願い」
「本番はしないの?」
コメント欄に並ぶ欲望の言葉。
視聴者数は日に日に減っていき、瀬奈は焦燥感に駆られた。
(何か……もっと凄いことしなきゃ。
人がやっていないようなことを)
その時、ふと思った。
このシェアハウスの1階には、唯一の男性住人である管理人の祐希が住んでいる。
彼は、穏やかで優しい好青年だ。
(男が要るわ。それもタダで協力してくれる男が)
その時の瀬奈の思考回路は、すでに正常なものではなかった。
祐希の弱みを握り、自分の配信に従順な「男優」として出演させれば、リアルな生本番配信ができる。
そうすれば、会員限定の高額な有料配信で楽に稼げると考えた。
瀬奈はネット通販で、コンセントに差すだけで自動で動画撮影できる超小型隠しカメラを購入した。
Wifiで映像を飛ばし、動体検知で録画する高性能なものだ。
ある日の午後、祐希が大学へ行っている隙を狙い、彼女は1階へ降りた。
心臓がドキドキしたが、それは罪悪感というよりも高揚感に近かった。
幸いなことに部屋の鍵はかかっていなかった。
彼女は祐希の部屋に忍び込み、ベッドが見渡せる位置にあるコンセントにカメラを差し込んだ。
ついでに、余ったもう1台を外出中のオーナー、明日奈の部屋にも仕掛けた。
明日奈は祐希の義理の姉だから、何かネタになるものがあるかもしれない。
それからしばらくの間は、瀬奈は自室で録画データの監視を続けた。
でも映し出される映像は、何の変哲もない大学生の日常だった。
明日奈にしても、特にネタになるようなことは何もなく、瀬奈は動画を見るのに飽きてしまった。
隠しカメラのことなど忘れかけていたころ、明日奈の部屋で深夜の時間帯に長時間の録画データが残っていることに気づいた。
瀬奈が、動画ファイルを開くと、そこには信じられない光景が記録されていた。
「……え!」
それは、ベッドの上で全裸となり、指先で自らを慰めているオーナー明日奈の姿だった。
しばらくすると、祐希が部屋に入ってきた。
最初は驚いていた明日奈だったが、何ごとか会話しているうちに、あろうことかベッドで祐希の上に乗り、濃厚な性行為を始めたのだ。
「嘘……義理の姉弟なのに……」
その背徳的な映像に、瀬奈は下腹部の疼きを抑えきれなくなっていた。
呆れる気持ちよりも、思惑通りの動画が入手できた満足感の方が強かった。
この動画があれば、祐希も明日奈も、自分の意のままだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その夜、日付が変わった深夜0時過ぎ。
祐希の部屋のドアがノックされた。
「……はい」
「祐希さん、起きてますか? 瀬奈です」
ドアを開けると、そこにはパジャマ姿の瀬奈が立っていた。
「ごめんなさい、こんな夜中に。
今、動画配信中なんですが、ネットの調子が悪くて……ちょっと見て欲しいんですけど」
ITに強い祐希は、シェアハウス内では頼りにされていた。
祐希は疑うことなく、瀬奈の部屋へと向かった。
6号室に入ると、そこには複数のモニターと本格的な配信機材が並んでいた。
「で、どういう症状?」
「えっと、とりあえず、これを見て」
瀬奈は、デスクトップにある動画ファイルをダブルクリックした。
モニターに映った映像を見た瞬間、祐希の顔から血の気が失せた。
「な……ッ!?」
そこに映っていたのは、明日奈と自分の禁断の情事だった。
「よく撮れてるでしょ?」
「お前……盗撮したのか!?」
「し~、大きな声を出すと、みんな起きちゃうよ?」
瀬奈は悪びれる様子もなく、不敵な笑みを浮かべた。
祐希は猛烈な怒りを覚えたが、すぐに事の重大さに気付いた。
もし、この動画が流出したら。
自分はともかく、明日奈の人生は終わるだろう。
そしてシェアハウスも間違いなく崩壊する。
「……何が目的だ」
「さすがね……話が早くて助かるわ。
あのね、私の動画ライブ配信に今から出演してほしいの」
「は?」
「今から『アダルトライブチャット』の生配信で、私とエッチしてほしいの……」
それは耳を疑う要求だった。
祐希が口を開きかけた瞬間、瀬奈は冷たく言い放った。
「断れば、この動画を今すぐネットにばら撒くわ。
SNS、動画サイト、掲示板……明日奈さんの顔も名前もバッチリ分かるようにしてね。
今、ここにある動画を削除してもダメよ。
バックアップはクラウドにあるんだから」
それは、あまりにも非情な脅しだった。
明日奈を守るためには、瀬奈の要求を飲むしかない。
祐希は腹を括った。
「……分かった。やればいいんだろ」
「ふふ、そう言うと思ってた……」
「でも一つ条件がある。顔は絶対出さないこと。
そして終わったら、その動画を目の前で削除しろ」
「いいよ。私の言う通りにするならね」
瀬奈はクローゼットから、黒い目出し帽を取り出し、祐希に渡した。
「じゃあ、これ被って。
余計なことは喋らないでね。
私とタダでエッチできるんだから、ラッキーくらいに思えばいいのよ。
今回うまくいったら、また呼んであげるからさ」
祐希はそれに答えず、無言で目出し帽を被り、ライトが灯るベッドの上へと移動した。
それは、まるでアダルトビデオの撮影現場のような、日常では考えられない光景だった。
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