恋愛経験ゼロの俺が、一目惚れした天使にストーカーと勘違いされた挙句、男女比1対9のハーレム・シェアハウスで一緒に住むことになった話

永遠光(とわのひかり)

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第3章 揺れる想い

第64話 6号室の新しい住人

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 7月下旬のある土曜日。
 空き部屋となった6号室の入居候補者を集め面接会が行われた。
 今回は以前から空室待ちしていた面接希望者3人の中から選考することになった。

 午前10時から、1人30分の面接がオーナー室で始まった。
 応募者は履歴書を持参し、まるで企業の入社試験のような物々しさだ。
 面接官はオーナーである明日奈と、管理人である祐希が務めた。

 面接は順調に進み、最後の候補者を残すのみとなった。

「次の方どうぞ」
 明日奈がいうと、ドアがノックされた。
 最後の面接者は入室すると静かにドアを閉め、こちらへ向き直り挨拶した。

「失礼いたします。
 星城大学1年の倉科沙織くらしなさおりと申します。
 本日は、面接の機会をいただき、ありがとうございます。
 どうぞ、よろしくお願いいたします」

 その瞬間、祐希は飛び上がるほど驚いた。

 清楚な紺色のスーツに白のブラウス。
 髪は綺麗にアップに纏められ、薄いピンク色の細縁の丸眼鏡を掛けている。  
 その女性は紛れもなく、沙織さおりだった。

「な、なんで君が……」
 祐希の口から驚きの声が漏れた。

「あら、祐希くんのお知り合い?」
 祐希のあからさまな驚き様を見た明日奈が、不思議そうに尋ねた。

 沙織は顔を上げて明日奈と祐希を見たが、その顔に驚きの色はなかった。
(僕がシェアハウスの住人で、管理人をしていることを、沙織は知っているということか……)

「うん、大学の後輩で、同じ授業で何度か一緒になったことがあって……」
 祐希は引きつった笑みを浮かべ、口からでまかせを言った。

 本当は相席ラウンジでナンパして、そのままラブホテルへ行った仲だとは口が裂けても言えない。
 でも授業で何回か一緒になったというのは嘘ではない。
 最初に講義で一緒になってから、沙織は毎回祐希の隣に座り、事あるごとに色々と絡んできた。
 それにチャットアプリ「LINK」による一日に数回の他愛のないやり取りは日常化していた。

「あら、そうだったの……奇遇ねぇ。
 星城大学って、確か1万人くらい学生いるんでしょ。
 授業で一緒になって知り合うなんて、滅多にないんじゃない?」

 明日奈は祐希を探るような視線で見た。

「そうだね、僕も驚いたよ」
 祐希は冷や汗をかきながら言った。

「それじゃ、時間もないことだし、面接始めるわね」

「はい、よろしくお願いします」

「出身は、京都なのね。
 なるほど、沙織さんには、どこか京都らしい品格を感じるわね……」
 今日の沙織は眼鏡を掛けているが、いつもの少し垢抜けない貧乏学生といった雰囲気ではない。
 メイクも完璧で、知的で洗練された女子大生といった装いだ。
  
「ありがとうございます」

「大学の成績はまだ3ヶ月だから出てないわね……
 高校時代の偏差値は幾つだったの?」

「はい、確か最後は……63だったと思います」

「へ~、沙織さんて優秀なのね」

「いいえ、そんなことないです」

 沙織は謙遜しながら、祐希をチラッと見て微笑んだ。
 その完璧な笑顔の裏に潜むあざとさを感じ、祐希は冷や汗をかいた。

「学部は祐希くんと同じ理工学部電子情報学科なのね。
 将来はSEを目指しているのかしら……」

「そうですね、まだ1年ですから、明確に進路を決めたわけではありません。
 でも、できればそちらの方へ進みたいと思っています」

「なるほどね」
 明日奈は頷くと、祐希の方を向いた。

「祐希くん、何か質問ある?」

「え~っと、立ち入ったことを聞くけど…… 今、仕送りはいくら貰っているの?」
 祐希は管理人としての務めを果たすべく質問した。

「今は、月6万円です」

「因みに現在の家賃はどれくらい?」

「今は大学近くの6畳1間のアパートに住んでます。
 家賃が5万円なので、仕送りは家賃でほとんど消えてしまいます」

「学費はどうしてますか?」

「奨学金をもらっていますが、足りない分は親が払ってくれています」

「なるほど、大変そうね。
 じゃあ、生活費はアルバイトで稼いでるってこと?」
 明日奈が気の毒そうに言った。

「そうですね、今はファミレスで週に5日ほどアルバイトしています」

「そうなの、大変ねぇ」

「このシェアハウスは家賃・共益費・管理費全部込みで7万円なのは知ってるでしょ。
 今の家賃よりも上がっちゃうけど大丈夫なの?」

 明日奈の問いに、沙織は迷いなく答えた。

「はい、アルバイトで月10万円ほど収入がありますので、それくらいなら問題ありません」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 面接が終了し、明日奈と祐希が検討した結果、6号室の入居者は、沙織に決まった。
 明日奈の最終判断だったが、3人の中で沙織が一番好印象であり、優秀で真面目そうだというのが決め手だった。

 明日奈が電話で入居決定を知らせると、沙織はすぐに準備を進め、翌週の土曜日には軽バンの引っ越し業者を利用して引っ越してきた。

 明日奈に言われて引っ越しを手伝った祐希は、沙織の荷物が思っていたよりもずっと少ないことに驚いた。
 衣服も靴も、生活用品も最低限のものしか持っていないようだった。

 その夜、沙織の歓迎会が居酒屋「百花繚乱」で開かれた。

「それじゃ、新しい住人となった沙織ちゃんの歓迎会と言うことで、乾杯するよ~」 
 明日奈が音頭をとり、みんなでグラスを合わせて乾杯した。

 宴が始まり、場が温まったところで自己紹介タイムとなった。 

 住人全員の自己紹介が終わったところで、最後に沙織の番となった。

倉科沙織くらしなさおりと申します。京都出身の18歳です。
 星城大学工学部情報工学科1年で、大学では、篠宮先輩と同じ授業を取ってます。
 この度、ご縁がありまして、このシェアハウスにお世話になることになりました。
 どうぞ宜しくお願いします」

 沙織の挨拶が終わると、みんなが拍手をした。

「沙織ちゃん、シェアハウスには篠宮が2人いるから、名前で呼んで欲しいな」
 明日奈が沙織に言った。

「分かりました。それではオーナーは明日奈さん、管理人さんは祐希先輩とお呼びしますね!」

「そうね、それでお願い」

 そこで沙織は、隣に座る祐希の方へ向き直った。
「ところで、祐希先輩は付き合ってる人いるんですか?」

 その質問に、場の空気が一瞬で固まった。

「いや、まだ付き合ってる人はいないよ」 
 祐希は冷や汗をかきながら答えた。

「それなら、私、祐希先輩の彼女に立候補してもいいですか?」
 沙織は、いつの間にか祐希の手を握りしめ、潤んだ瞳で見つめながら言った。

 その爆弾発言に、未来とさくらの表情が凍りついたのを、祐希は見逃さなかった。
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