恋愛経験ゼロの俺が、一目惚れした天使にストーカーと勘違いされた挙句、男女比1対9のハーレム・シェアハウスで一緒に住むことになった話

永遠光(とわのひかり)

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第3章 揺れる想い

第93話 お泊りデート(明日奈編)

 東名高速を流れるように走る高級ミニバンの助手席。
 猛暑を完全に遮断した静寂な車内で、祐希はハンドルを握る義姉・明日奈の横顔を眺めていた。
 サングラスをかけ、余裕の笑みを浮かべて高級車を操る姿は、洗練された大人の女性そのものだ。

 事の起こりは、つい1時間前。
 祐希が北海道から戻った直後のことだ。
 汗だくでシェアハウスに帰宅した祐希を待っていたのは、完璧なメイクと「お出かけコーデ」で優雅に紅茶を飲む明日奈だった。

「おかえり、祐希。待ってたわ」

 明日奈は満面の笑みで出迎えた。

「みんな実家に帰っちゃって私1人なの……
 ねえ、寂しいから、これから2人で遊びに行かない?」

 旅の疲れを癒やす間もなく、祐希は革張りのキャプテンシートに押し込まれた。

「……で、行き先はどこなの?」

 祐希が尋ねると、明日奈は嬉しそうに口元を緩めた。

「箱根。仙石原のオーベルジュを予約してあるの」

「箱根……? 予約とれたの? しかも高いんじゃ……」

「いいのよ。お金はあるのに、使う相手がいないなんてつまらないでしょ?」

 シェアハウスの美人オーナー。
 そんな彼女が、自分のためにお金と時間を使ってくれる。

「それに……あの旅館なら、誰にも邪魔されないし……
 北海道での土産話、ベッドの中でたっぷり聞かせてもらうからね」

 意味深な視線を投げかけられ、祐希は喉を鳴らした。
 高級ミニバンの助手席は、まるでファーストクラスのように身体を深く包み込み、逃げ場のない甘い密室を作り出していた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
 御殿場インターを下り、乙女峠のワインディングロードを滑らかに駆け抜ける。
 ジャズピアノが流れる静寂な空間に身を委ねていると、やがて車は仙石原の木漏れ日の中へ。
 隠れ家のような『オーベルジュ・ル・シエル』の前で、車は静かに停止した。

「着いたわよ。ここのフレンチ、一度食べてみたかったの」

 2人が店内へ入ると2階の窓際の席へと案内された。

「まずは乾杯しましょう。
 私は運転があるからノンアルコールだけど、祐希は飲んでいいわよ」

「え、僕だけ? なんか悪いよ」

「いいの。祐希は助手席に座ってるだけでいいから」

 明日奈は悪戯っぽく微笑むと、シャンパンを注文した。
 涼やかな音を立ててグラスを合わせる。

「おかえりなさい。
 祐希がいない間、寂しかったわ……」
 明日奈は嘘か本当か分からないような言葉を投げかけ、祐希を困惑させた。

 運ばれてきたのは、桃の冷製スープと手長海老のポワレ。
 洗練されたコース料理に、祐希の頬が自然と緩む。
 それを優しい目で見つめていた明日奈は、メインの「足柄牛のロースト」が届くと、肉を一切れ切り分けて祐希の口元へ差し出した。

「ほら、あーん」

「えっ、ここで!?」

「いいじゃない、誰も見てないし。……ほら、口開けて」

 有無を言わせぬ微笑みに、祐希は仕方なく口を開けた。
 柔らかな赤身肉が舌の上で解け、濃厚な旨味が広がった。

「うん、美味い……!」

「でしょ? 若いんだから、たくさんお肉食べて精をつけないとね」

 明日奈は満足そうにうなずくと、ナプキンで口元を拭った。

「このあと行く宿はね、ご飯も美味しいし、部屋に露天風呂が付いてるの。
 そこでたっぷりと、私が癒やしてあげるわ……」

 ランチを終え、店を出る頃には、祐希の頭の中はすでに、これから始まる夜への期待でいっぱいになっていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 ランチの後は、森の斜面に溶け込むガラス張りの『ポーラ美術館』でチェックインまでの時間を潰した。
 館内の静謐な空気の中、明日奈と寄り添って絵画を眺める時間は、想像以上に心が弾んだ。

 一通りの展示を見終えると、2人は建物を囲む遊歩道へ足を踏み入れた。
 ヒグラシの声が響く緑のトンネル。
 すれ違う人もいない静寂の中で、不意に明日奈の指が祐希の手のひらに絡められた。

「ここなら、誰も見てないわ」

 恋人繋ぎだ。
 その手は柔らかく、少しだけ冷たい。

「なんか……悪いことしてるみたいだね」

「ふふ、悪いこと? 義理の姉弟が仲良く散歩してるだけじゃない」

 言葉とは裏腹に、明日奈は握る手にぎゅっと力を込めた。
 それ以上、彼女は余計なことを口にしない。
 けれど、その少し寂しげで幸福そうな横顔が、言葉にできない想いを物語っていた。

 祐希は何も言えず、ただその手を強く握り返した。
 森の空気をたっぷりと吸い込み、散策を終える頃には、午後3時を回っていた。

「さて……そろそろ行きましょう。ここから宿まではすぐよ」

 再び車に乗り込み、木々のトンネルを抜けた先に、その宿はあった。
 全室が離れ形式の、隠れ家のような高級旅館。
 重厚な門構えには『箱根仙石原 別邸「森の雫」』と、控えめな看板が掲げられている。
 車寄せで停車すると、女将が静かに歩み寄り、深く頭を下げた。

「いらっしゃいませ。お待ち申し上げておりました」

「お世話になります」

 明日奈がスタッフに車の鍵を預けると、2人は中居に先導され、敷地内の最奥に佇む一室へと案内された。
 重厚な門扉をくぐり、踏み込みから畳の香る主室へと上がる。
 祐希は、その先に広がる空間に息を呑んだ。

「うわ……ひっろ……!」

 天井の高い主室の奥には、一段高くなった板間に贅沢な寝具が設えられた寝室があった。
 そして何より目を引いたのは、月見台のようなウッドデッキだ。
 深緑しんりょくに突き出すように作られた総檜そうひのきの露天風呂は、源泉で満たされ、ふちから滔々とうとうと溢れ出す微かな湯の音が、辺りの静寂を際立たせていた。

 仲居が下がり、部屋に2人きりの静寂が訪れる。
 すると明日奈は縁側に立ち、艶めいた声で祐希を振り返った。

「素敵なお部屋ね……
 ここなら、どんなに大きな声でも、誰にも聞こえないわよ。
 まずは浴衣に着替えましょうか」

 その瞳はもう「義姉」のものではなく、1人の「女」のものだった。
 明日奈は衣裳箪笥いしょうだんすから藍色と藤色の浴衣を取り出すと、藍色を祐希に手渡した。

 そして、祐希の目の前で背中のファスナーに手を回した。
 サマーニットが肩から滑り落ち、続いてフレアスカートが足元へと舞い落ちる。
 あらわになったのは、繊細なレースのランジェリーに包まれた豊満な身体。
 彼女は視線を逸らさず、シュルリと音を立ててストッキングを脱いだ。

「……ずるいよ、明日奈」

 微笑みながら祐希を一瞥し、彼女は藤色の浴衣を素肌の上に羽織った。
 明日奈は呆然とする祐希の前に立ち、甲斐甲斐しく彼の帯を整え始める。
 密着した距離から漂う甘い香りと、帯を締めるふりをして腹筋をなぞる温かい手のひら。
 明日奈の手は浴衣の上から、膨らみ始めた股間に触れた。

「あら、こんなに元気なの……
 着替えで、もう興奮しちゃった?」

 明日奈は下から覗き込むようにして、悪戯っぽく微笑んだ。
 目の前でランジェリー姿を見せつけられ、理性を保てという方が無理だ。

「……明日奈が、見せつけるからだろ」

「ふふ、ごめんね。
 夕食まで時間あるし、1回しよっか……」

「え……?」
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