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第4章 光風霽月
第108話 全治3ヶ月
10月2日(木曜日)
昨夜、祐希の意識が戻ったことは、さくらから明日奈に伝えられていた。
その吉報を受けた祐希の両親と妹の月は、明日奈とともに朝一番で病院へ向かった。
誰よりも早く病室へ到着した月は、ベッドの祐希に飛びつかんばかりの勢いで泣き叫んだ。
「お兄ちゃんのバカバカ!
死んじゃうかと思ったんだからぁ!」
「痛い、痛いって月、それが病人に対する態度か?」
妹の精一杯の愛情表現に苦笑する祐希だが、その目は潤んでいた。
月の後から両親と一緒に駆けつけた明日奈も姿を見せた。
「祐希……。母さん、この1週間、ホント生きた心地しなかったわ」
母は目頭を押さえ、祐希の生還を喜んだ。
「祐希、お前よく1人で女性2人を守り抜いたな……大した奴だ」
父は顔をクシャクシャにしながら、自らの命を顧みず男気を見せた息子を称えた。
「父さん……心配かけて、ごめん。
でも、あの場から逃げ出す選択肢なんてなかったよ。
さくらと沙織を『絶対に守らなきゃ』って思ったから」
それを聞いた明日奈が堪えきれず、ベッドの傍へ歩み寄った。
「祐希くん……。さくらちゃんのボディガードを押し付けてしまったばかりに……
こんな酷い目に遭わせてしまって、本当にごめんなさい」
明日奈は声を震わせ、目頭を押さえながら祐希に何度も頭を下げた。
「明日奈さん、ボディーガードは僕が納得して引き受けたことだし、今はシェアハウスの管理人なんだから。
唯一の男として、住人を守るのは当然の務めだよ」
祐希は、誇らしげに微笑んだ。
「祐希くん、生きて戻ってきてくれて……本当にありがとう……」
明日奈は祐希の手を両手で包み込み、声を殺して泣いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
午前10時を過ぎた頃、担当医の成瀬医師が看護師を伴い姿を現した。
ベッドサイドには、父・幸希と母・祐子が丸椅子に腰掛け、月と明日奈は窓際で立ったまま医師を迎えた。
「皆さん、お揃いですね。
では、最新の検査結果が出ましたので、今後の見通しを含めてご説明します」
成瀬医師はタブレット端末の画像を示しながら、落ち着いた口調で話し始めた。
「まず、最も懸念されていた頭部の状態ですが、CT検査の結果、脳の腫れは完全に引いています。
意識もはっきりしており、脳外科的な心配はもうありません」
その言葉に、母の祐子は胸を押さえて安堵の吐息を漏らした。
「次に左腹部の刺し傷です。幸いにも筋肉の層で止まっており、炎症も起きていません。
創部の塞がりも順調ですので、経過を見ながら近日中に抜糸しましょう」
「左腕の骨折についてはどうですか?」
明日奈が、三角巾で吊るされた祐希の腕を見つめながら尋ねた。
「上腕骨の金属プレートによる固定状態は良好です。
明日から専門の理学療法士によるリハビリテーションを開始する予定です」
成瀬医師は一度言葉を切り、家族全員を見渡して、治療方針を告げた。
「傷の回復と左腕のリハビリには、それなりの時間が必要です。
全治3ヶ月の見込みですが、まずは1ヶ月ほど入院して様子を見ましょう」
「退院まで1ヶ月……ですか……」
成瀬医師は退院までの検査・治療・リハビリ等の計画について時間をかけて説明してくれた。
医師の説明が終わると、父・幸希が居住まいを正して口を開いた。
「先生、詳しい説明をありがとうございます」
「いえ、祐希くんは本学の優秀な学生だと聞きました。
優秀な人材は貴重ですからね。
それにしても、傷が急所から外れていたのは不幸中の幸いでした」
「はい、おかげさまで命拾いしました。
先生……本当に、ありがとうございます」
「では、お大事に……」
成瀬医師は、安堵の表情を浮かべる祐希とその家族に軽く会釈すると、病室を後にした。
「……祐希、今の話を聞いて安心したよ」
父は少し言いづらそうに視線を息子へと向けた。
「実はな、父さんと母さんは仕事があるから、月と一緒に日曜日の飛行機で札幌へ戻ることにしたんだ」
「そうか……仕事だもんね。わかったよ」
「もしかすると退院まで、来られないかもしれないが……しっかり治すんだぞ」
祐希は、父の言葉に深くうなずいた。
「えっ、そんなの嫌だよ!
私はここに残ってお兄ちゃんの面倒みる!」
月は父の言葉に、全く従うそぶりを見せなかった。
「月、何言ってるんだ。お前だって月曜日から学校だぞ……
受験生なんだから、そんなに休んでいられないだろ」
父は月をなんとかなだめて、札幌に連れて帰ろうと必死だった。
「だって、お兄ちゃんが退院するまで、傍にいて看病したいんだもん。
それに札幌に帰っても、心配で勉強なんて手につかないよ……」
その様子を見かねた明日奈が義父に助け舟を出した。
「月ちゃん、後は私たちに任せて。
祐希くんの身の回りの世話は、シェアハウスのみんなで交代でするから大丈夫よ。
それに、出席日数が足りなくなって卒業できなかったら、お兄ちゃんと同じ大学にいけなくなるよ」
「……うぅ、それを言われたら、言うこと聞くしかないじゃん。
わ、わかったよ、帰るよ、帰ればいいんでしょ。
明日奈さん、お兄ちゃんのこと……よろしくお願いします……」
月は消え入りそうな声で、明日奈に深々と頭を下げた。
昨夜、祐希の意識が戻ったことは、さくらから明日奈に伝えられていた。
その吉報を受けた祐希の両親と妹の月は、明日奈とともに朝一番で病院へ向かった。
誰よりも早く病室へ到着した月は、ベッドの祐希に飛びつかんばかりの勢いで泣き叫んだ。
「お兄ちゃんのバカバカ!
死んじゃうかと思ったんだからぁ!」
「痛い、痛いって月、それが病人に対する態度か?」
妹の精一杯の愛情表現に苦笑する祐希だが、その目は潤んでいた。
月の後から両親と一緒に駆けつけた明日奈も姿を見せた。
「祐希……。母さん、この1週間、ホント生きた心地しなかったわ」
母は目頭を押さえ、祐希の生還を喜んだ。
「祐希、お前よく1人で女性2人を守り抜いたな……大した奴だ」
父は顔をクシャクシャにしながら、自らの命を顧みず男気を見せた息子を称えた。
「父さん……心配かけて、ごめん。
でも、あの場から逃げ出す選択肢なんてなかったよ。
さくらと沙織を『絶対に守らなきゃ』って思ったから」
それを聞いた明日奈が堪えきれず、ベッドの傍へ歩み寄った。
「祐希くん……。さくらちゃんのボディガードを押し付けてしまったばかりに……
こんな酷い目に遭わせてしまって、本当にごめんなさい」
明日奈は声を震わせ、目頭を押さえながら祐希に何度も頭を下げた。
「明日奈さん、ボディーガードは僕が納得して引き受けたことだし、今はシェアハウスの管理人なんだから。
唯一の男として、住人を守るのは当然の務めだよ」
祐希は、誇らしげに微笑んだ。
「祐希くん、生きて戻ってきてくれて……本当にありがとう……」
明日奈は祐希の手を両手で包み込み、声を殺して泣いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
午前10時を過ぎた頃、担当医の成瀬医師が看護師を伴い姿を現した。
ベッドサイドには、父・幸希と母・祐子が丸椅子に腰掛け、月と明日奈は窓際で立ったまま医師を迎えた。
「皆さん、お揃いですね。
では、最新の検査結果が出ましたので、今後の見通しを含めてご説明します」
成瀬医師はタブレット端末の画像を示しながら、落ち着いた口調で話し始めた。
「まず、最も懸念されていた頭部の状態ですが、CT検査の結果、脳の腫れは完全に引いています。
意識もはっきりしており、脳外科的な心配はもうありません」
その言葉に、母の祐子は胸を押さえて安堵の吐息を漏らした。
「次に左腹部の刺し傷です。幸いにも筋肉の層で止まっており、炎症も起きていません。
創部の塞がりも順調ですので、経過を見ながら近日中に抜糸しましょう」
「左腕の骨折についてはどうですか?」
明日奈が、三角巾で吊るされた祐希の腕を見つめながら尋ねた。
「上腕骨の金属プレートによる固定状態は良好です。
明日から専門の理学療法士によるリハビリテーションを開始する予定です」
成瀬医師は一度言葉を切り、家族全員を見渡して、治療方針を告げた。
「傷の回復と左腕のリハビリには、それなりの時間が必要です。
全治3ヶ月の見込みですが、まずは1ヶ月ほど入院して様子を見ましょう」
「退院まで1ヶ月……ですか……」
成瀬医師は退院までの検査・治療・リハビリ等の計画について時間をかけて説明してくれた。
医師の説明が終わると、父・幸希が居住まいを正して口を開いた。
「先生、詳しい説明をありがとうございます」
「いえ、祐希くんは本学の優秀な学生だと聞きました。
優秀な人材は貴重ですからね。
それにしても、傷が急所から外れていたのは不幸中の幸いでした」
「はい、おかげさまで命拾いしました。
先生……本当に、ありがとうございます」
「では、お大事に……」
成瀬医師は、安堵の表情を浮かべる祐希とその家族に軽く会釈すると、病室を後にした。
「……祐希、今の話を聞いて安心したよ」
父は少し言いづらそうに視線を息子へと向けた。
「実はな、父さんと母さんは仕事があるから、月と一緒に日曜日の飛行機で札幌へ戻ることにしたんだ」
「そうか……仕事だもんね。わかったよ」
「もしかすると退院まで、来られないかもしれないが……しっかり治すんだぞ」
祐希は、父の言葉に深くうなずいた。
「えっ、そんなの嫌だよ!
私はここに残ってお兄ちゃんの面倒みる!」
月は父の言葉に、全く従うそぶりを見せなかった。
「月、何言ってるんだ。お前だって月曜日から学校だぞ……
受験生なんだから、そんなに休んでいられないだろ」
父は月をなんとかなだめて、札幌に連れて帰ろうと必死だった。
「だって、お兄ちゃんが退院するまで、傍にいて看病したいんだもん。
それに札幌に帰っても、心配で勉強なんて手につかないよ……」
その様子を見かねた明日奈が義父に助け舟を出した。
「月ちゃん、後は私たちに任せて。
祐希くんの身の回りの世話は、シェアハウスのみんなで交代でするから大丈夫よ。
それに、出席日数が足りなくなって卒業できなかったら、お兄ちゃんと同じ大学にいけなくなるよ」
「……うぅ、それを言われたら、言うこと聞くしかないじゃん。
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