れんしう 短編

手井 或治

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1回目 冒頭一文:「僕はもう行くよ、あの街に」

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「僕はもう行くよ、あの街に」
  その声は、どこか寂しそうな声色だった。
旧市街地、放棄された区画の片隅で。
星の綺麗な日のことだった。
「本当に行かれるんですか?」
「うん、やるべき事があるからね」
きっと危険な事なのだろう。血塗れで用水路を流れてきた時は本当に肝が冷えた。
ありあわせの道具で治療して、二ヶ月半、初めての人間との生活は非常に楽しく、別れるのは名残惜しかった。
「ここなら、他の人もいません、危険もありません、何よりあの忌々しい天井もない。戻ればこの星空も見られません。危険を冒してまで街に行く必要などないでしょう?」
「街には家族も、友人も、仲間もいる。彼等を見捨てて一人だけ安穏と暮らすわけにもいかないよ」
街には人がいて、暮らしていれば関わりもある。それだけの事も、ここで暮らす私には分からなかった。
家族も、友人も、仲間も、私にはいない。唯一、貴方だけだ。なのに貴方は、街に行き、元の生活に戻るというのか。
しかし、そもそも彼は街から来たのだ。私だけのために残ることは出来ないだろう。
「そうですね、では、お元気で」
「あぁ、さよなら」
彼の向けた背に腕を突き込む。血が溢れ、彼は崩れ落ちる。
あぁ、これで。
「ずっと、一緒ですね」
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