れんしう 短編

手井 或治

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8回目 お題「かぜ」

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風上に向かって、風は吹かない。
誰に聞くまでもない、分かりきった事実だ。

僕には幼馴染がいる。
気移りしやすく、周囲を一切顧みない女の子だ。
中学に入るか入らないかの頃から彼女の周りは惚れた腫れたで大騒ぎだった。
わざわざ僕のところまで「この子と付き合う」なんて報告しにきたかと思えば翌日か翌々日にはもう別れて、その翌日には新しい相手を連れてくるなんてペースで気移りしていた。
僕は、毎回毎回紹介されるものだから彼女の恋愛歴については彼女より詳しいのではないかというくらい覚えている。というより、彼女は分かれた相手のことなどいちいち覚えていないのだ。
それほど簡単に人間関係も捨て去る彼女だけれど、僕は十年来の友人で、一緒に居られる事が嬉しかった。
だから、それ以上は望まない。

風上にいては、風は向かって来ないのだから。
風下にいけば、風は移ろい去ってしまうから。
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