すいれん

右川史也

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終節 新しいきせつへ

第28話 慎太郎の年明け -その2-

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 一月程前には何の予定も無い年明けを予想していなかった慎太郎は、部屋に戻ると一人、『愛された花』を読み進めた。

 馴染みの無い言葉の海に揉まれながらも何かを求め、文字を追った。
 それは本の中に彼女を探すような行為なのかもしれない。

        〇

『愛された花』は『愛の苗』と所々違っていた。
 主人公の直人は一見順風満帆なのだが、実は花を愛している、という点は同じだった。

 しかし『ナオヒト』と違い、『直人』はある一人の女性から生え咲く花だけを愛していた。

 直人は彼女と花を人目につかないように世話し、彼女もまた直人に愛を示し二人は幸せな時を過ごしていった。
 だが、そんな関係を理解できない周りの人間たちは、些細なきかっけで彼らの事を知ると、騒ぎたて、晒し、介入しようとしてきた。

 二人は逃げ、新しい生活を求めて遠くの田舎町へたどり着いた。
 だがそこでは、満足な世話をする事はできなかった。次第に彼女と花は衰弱してしまい、それを見て直人も力を失ってゆく。

 直人は腕を回し彼女を抱き、それに応えるように彼女の手がそっと添えられる。
 寄り添いながら最期を迎える二人を包み込むように花は蔓を絡ませ、最後に一際美しい花々で彩った。

 ――という話だった。

        〇

 百ページにも満たない短い小説。
 しかし夕方から読み始め、気が付けば日を跨いでいた。

 主人公の特異な性癖。
 体から花を咲かす女性。

 ――それら点は『愛の苗』と相も変わらず、無視できない共感性を覚えた。

 しかし印象において、『愛された花』と『愛の苗』は全く違っていた。

 暗い狂気が漂う、猟奇的な『愛の苗』
 苦悩と健気さが巡る、悲恋の『愛された花』

 ナオヒトと直人は違う――。

 自分はむしろ直人の方に似ているのではないか、と思えた。

 でも、きっと、直人とも違う――。

 直人は花を愛し女性を愛した。
 そして花と共に弱る女性と悲しくも優しい死を選んだ。

 だけど、俺なら――。
 もし、明日香が助かるのなら、俺は――。

 そう考えると、自分の想いの大きさを改めて知る事ができた。



        〇



 二人は相手の事を考え、自分の事を探り、互いの事を想い合った。
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