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商人ウィリアム
しおりを挟む「「……………はあ?!」」
「てなんでセオも驚いてんの!」
「いやいやいやいやこれは驚くっしょ!!!隊長が男から告白されたんすよ!!男から!!!前代未聞でしょ!!!!」
「うるさい!!!」
フレイアがペシッとセオの頭を叩くとセオは「いてっ」と声を上げてとりあえず黙る。
セオの言った通り、フレイア自身男に告白されたことなど人生で初めてで、どうしたらいいのか分からず視線を存分にさ迷わせてからチラリと未だ胡散臭い笑みを浮かべるウィリアムを見る。
「あのー、お気持ちはありがたいのですが、今は勤務時間内なので…」
「真面目か!!!」
「当たり前だろ!!!!!」
一旦断ろうとしたフレイアにセオが突っ込むがフレイアも負けじとまたセオの頭を引っぱたく。先程同様かなり加減をしているが、セオは大袈裟に頭を押さえる。
そんな様子を表情を変えずに見ていたウィリアムが懐を探り、1枚の紙を取り出す。
「そうですね、ではこちらをお渡ししますので、是非今度食事にでも」
「えっ、」
「もしよろしければ商会にお立ち寄りの際にお名前を仰ってくださればお通しするよう言いつけておきますので」
「え、あの」
「それではお仕事の邪魔にならないように私はこれで失礼しますね」
そう言ってウィリアムはフレイアに1枚の紙を押し付けてさっさと姿を消した。
呆然としたフレイアの手の中には彼の名刺が残された。
「いやぁ、驚きっすね~それにしても押しが強い…さすが商人」
「……」
「隊長聞いてます?」
「……」
「おーい」
「聞こえてる」
セオが立ち上がってフレイアの目の前で手を振ると、それを煩わしそうに払い除ける。
疲れからか少し動きが鈍い頭をほぐすようにこめかみを押さえて、深く息を吐き出す。
今しなければならないことをしよう。
少し頭を落ち着けて目を開く。
「この男を起こして詰所に戻ろう……」
「はい」
セオが足元に転がる男に少し大きめの声で呼びかけると男は目を覚まし、共に詰所へと向かった。
ーーーーー
ある日のこと。暖かい日差しの入る執務室で書類を整理していると、エルシーが封筒を差し出してきた。
「隊長、手紙が届いてます」
「ん?ああ、ありがとう」
手紙なんてここ数年、かつての友からしか貰ったことがなく、それらの手紙は全て寮の方に届くので、エルシーから手渡しされることなどないので、心当たりがないが宛名は自分宛になっているので、取り敢えず封を開けた。
『美しい騎士 フレイア・フローレンス様
先日はあなたと会えて、大変幸運だったと今でも感じています。
是非一緒にお食事などいかがでしょう?
宜しければロペス商会まで手紙をいただきたいです。
ウィリアム・ロペス』
「………………は?」
「どうされたんですか?」
思わず、と言ったように声を出したフレイアに対して、エルシーが心配するように声をかけた。
フレイアの手に先程渡した手紙があるのを見て、少し首を傾げる。
「いや、少し理解が追いつかなくてね」
「その手紙ですか?」
「ああ」
頭痛を抑えるかのように目頭を揉むフレイアにエルシーは声をかける。
「差出人を伺っても?」
「……ウィリアム・ロペス殿だ」
「ロペスって、あの……?」
「ロペス商会の会長ですか?!」
フレイアが名前を告げると、直ぐに思い当たったようで、エルシーは目を見開く。その場にいた補佐官のテオも話に食いついてきた。
「あ、ああ。その、ロペス商会のウィリアム殿だ…」
「どこで知り合ったんですか隊長!!」
「えっと、この前の巡回の時に……」
「なんてことだ……」
頭を抱えて項垂れるテオを見てフレイアは目を白黒させながらエルシーに助けを求めるように視線を送る。
「彼、ロペス商会の文具のファンなんですよ」
「ああ、なるほど……?」
文具のファンと言うだけでこれほど項垂れるものなのか…?と思っていたら、急にガバリと状態を起こしてフレイアの方に前のめりになってテオが話し始めた。
「ロペス商会の文具は凄いんですよ!!機能性もさることながら何よりもデザインがいい!私にも手が出る価格帯のものでも手に馴染むような素晴らしい文具が販売されているのです!!しかもそのデザインを考案したのがウィリアム・ロペス会長なんですよ!!!そんな方にお会いしたんですか?!」
「あ、ああ、そんなに凄い方だったんだな」
「そうですとも!!!ああなんて羨ましい!!!」
「テオ、落ち着いて」
今までにないほど饒舌に話すテオに少し引き気味なフレイアに対して、エルシーは冷静にテオに注意する。
きっとこの反応から見るに、エルシーは何度かこのように興奮するテオの姿を見てきたのだろう。
「それで、どう言った内容だったんです?」
少し落ち着いたらしいテオがそう聞いてきた。
「あー、うん、食事の誘い?」
「食事?!あの方と?!」
「うん」
テオはまたなんて羨ましい……と小声で言ってから空想でもしてるのか何も言わなくなってしまった。
「行きたくないんですか?」
「どうして?」
「隊長、気が乗らないなーって顔してます」
核心をついてきたのはエルシー。
確かにフレイアは気が乗らないと思っている。
自分の中には彼に対して特別な感情がないし、それなのに彼の食事の誘いに乗って気があるような素振りを見せるのは、彼に対して失礼なのでは、という気持ちがある。
「うーん、そうだね、あんまり?」
「差し支えなければ理由を聞いても?」
「…………告白をされて、」
「えっ?!」
目をまん丸にして驚くエルシーがとても可愛いな、と少し現実逃避をしながらフレイアは続ける。
「私の中にそういった気持ちがないのに受けるのは失礼じゃないかと」
「えっえっ、あっえっ、?」
「だから申し訳ないけど断ろうかなって」
「えっ、えー、」
フレイア様は団長と付き合ってるのかと思った、と小さく呟くエルシーの声は頭を悩ませるフレイアには届かない。届いていたならきっと否定しただろう。
結局フレイアはさてどうしたものか、と頭を悩ませながら返事の手紙の内容を考えるのだった。
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