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couple1 女吸血鬼と騎士
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「ねぇ、お願い」
ねだるエリーゼの視線の先には目を見開いたライセイン。
「少しだけ、血を分けてくれない?」
かつてないほど艶やかに微笑む彼女にライセインは魅入られる。
時が止まったかのように感じたが、それも一瞬。
エリーゼがライセインの襟元をめくり首を露わにした。ゆっくりと首元をさすり、あくまでもライセインの許可を待つようだ。
「ライセイン、お願い」
エリーゼはライセインの首元に唇を寄せ、ぺろりとその赤い舌で舐めた。ライセインを誘うように。
今までされたことのない行為だ。こんなエリーゼはライセインにとって初めて見るものだった。
そんなエリーゼの姿を見てライセインとて長い間耐えることはできなかった。
「おいで、エリーゼ」
上に乗り掛かっているエリーゼの体をきつく抱きしめ、もっと首に唇を近付けるかのように頭もおさえた。
「君の為ならいくらでも」
うっそりと微笑むライセインの顔はエリーゼには見えていない。
彼女は待ち望んだ渇きを癒すことに夢中になっていた。
許可が出たのだ。何週間かぶりのライセインの血。
ぷつりと彼の首に歯を突き刺す。瞬間香る血の匂いにエリーゼは頬を上気させて熱心に血を吸う。
「おいしい? エリーゼ」
「んっ、おい、し……」
「たくさん飲むといい。君の為の血だ」
「ライ、セ…イン……」
きつく血を吸われても、違う箇所を深く噛まれてもライセインは怒ることも痛がることもせず、ただ優しくエリーゼの頭を撫で、髪をすく。
しばらく吸い続け渇きも薄くなってきた頃。
もういい、と告げようとエリーゼはライセインから少し距離を取る。
「ライ、」
「もういいの?」
「う、うん、ありがとう……」
「遠慮しなくていいんだよ。もっと吸っても」
「い、いい! これ以上吸うとライセインが……」
「君が離れていくくらいなら、君に血を吸われて死んだほうがマシだよ」
「!!」
ライセインの言葉に驚き、エリーゼは言葉に詰まった。
「ねえ、エリーゼ。最近どうしたの。私をあんなに避けて。なにがあったの、話してごらん?」
「……」
「エリーゼ」
「…………から」
「ん?」
「私の存在はいつか邪魔になると思ったから」
初めの曖昧さが嘘のようにエリーゼははっきりと述べた。
その内容にライセインは目を見張った。
「前に、あなたの婚約者だと名乗る人に会ったの」
「私に婚約者などいない!」
「ええ、私も多分違うなって思って言わなかったんだけど、」
「……それで?」
ライセインはエリーゼの話を聞く態勢に入った。
「もし、本当に婚約者がいたら、将来的にできたら、私は邪魔なんだろうなって」
「そんなこと……!」
「だからね、ライセインの婚約者様の為に私はライセインにあまり関わらない方がいいと思っ」
話の最中てエリーゼは何も話せなくなってしまった。ライセインに口を塞がれたのだ。それも、彼の口で。
「ぅんっ、ライ、セイン…!」
「っエリーゼ、エリーゼ、エリーゼ、エリーゼっ!」
何度も何度も何度も何度もライセインはエリーゼの名を呼ぶ。その合間にエリーゼに口付けてはきつく抱き締める。
エリーゼには口を挟む隙もない。
「エリーゼ、エリーゼ」
「ライセイン……」
「エリーゼ、愛してる、愛してるんだ、エリーゼ」
「!!」
ライセインが口にした言葉にエリーゼは思考が停止した。
きつく抱き締めても口付けをしても何の反応も返さなくなってしまったエリーゼを流石におかしく思ったのか、訝しげな顔でライセインはエリーゼの顔を覗き込んできた。
「エリーゼ?どうしたの?」
「っ、ライセイン、あの、その、愛、してるって、」
「ん?うん、愛してるよ、エリーゼ。誰よりも、何よりも」
「っ!」
信じられない。急に愛を告げられても。
しかし心配気に見つめてくるライセインの瞳を見ていると少しずつ今の現実を受け入れられるような気がしてくる。
「エリーゼ。エリーゼは私のことをどう思っているの?」
「ぁ、わ、わたしは、」
「うん」
「わたしも、ライセインのこと、す、好き、よ」
「っ」
顔を真っ赤にしたエリーゼを見つめていたライセインは我慢ができなくなったかのように再びぎゅうぎゅうときつく抱き締めた。
「エリーゼ、私のエリーゼ。私だけの……」
「ら、ライセイン?」
「愛してる」
ライセインはまたエリーゼに口付けをした。
そうして、夜は更けていく。
あの日の夜、口付け以上の関係に進むことはなかったが、同じベッドで一緒に眠った。
眠る時にライセインはぽつりぽつりと自分のことを話してくれた。
エリーゼに一目惚れしたこと。
エリーゼが他の人の吸血をするところを見かけて吸血鬼だと知ったこと。
それを見て嫉妬したこと。
エリーゼが吸血した人の体に痕が残らないようにしていること。
いつも謝っていたこと。
本当はもっと吸いたいはずなのに相手を慮ってあまり吸わないようにしていること。
それを聞かされたエリーゼは嬉しさ半分、恥ずかしさ半分で顔が真っ赤になっていると自覚していた為、両手で顔を思わず覆ってしまった。
いつのまにかヒートアップしてそのまま延々と続くライセインの話を子守唄にいつしかエリーゼは寝てしまった。
「なんで、私を偽の恋人にしたの?」
翌日、一緒に朝食を食べている時、エリーゼがそう聞けばライセインはちょっと目を逸らしながら答えてくれた。
「急に告白しても、君は受け入れないと思ったんだ。だって、君にとって私は初めて会った男だったでしょう?」
「……そうかも知れないわ」
「君は用心深いからね」
ははっ、と笑い声を漏らしながらライセインは朝食を頬張る。
「君が店であった彼女。あの人に迫られて困っていたのは事実だったし、彼女を退けるためにも、偽の恋人という役割を君にあげたほうが君も納得して付いてきてくれるかと思ったんだ」
「……確かにそうかも知れないわね」
確かにライセインが偽の恋人として契約を提案しなかったらエリーゼは彼についてこなかっただろう。無償で血を貰うことは好きではない。それもずっととなればエリーゼはライセインに多大な罪悪感を持ってしまうだろう。
そして、いつかはライセインの前から消える。
それがライセインには予想できてしまった。だから、彼女に恋人という役を与えて自分のそばに置き、離れていかないようにしたのだ。
そんな計画も結局はエリーゼが違う方に誤解をしたために危うくなってしまったわけだが。
「あなたって、本当に私のことが好きだったのね」
エリーゼは呆れたように笑った。
「もちろん」
ライセインはエリーゼを手に入れられた喜びから心からの笑みをこぼした。
これは、血を欲する優しい女とそんな彼女を囲いたい男の話。
ねだるエリーゼの視線の先には目を見開いたライセイン。
「少しだけ、血を分けてくれない?」
かつてないほど艶やかに微笑む彼女にライセインは魅入られる。
時が止まったかのように感じたが、それも一瞬。
エリーゼがライセインの襟元をめくり首を露わにした。ゆっくりと首元をさすり、あくまでもライセインの許可を待つようだ。
「ライセイン、お願い」
エリーゼはライセインの首元に唇を寄せ、ぺろりとその赤い舌で舐めた。ライセインを誘うように。
今までされたことのない行為だ。こんなエリーゼはライセインにとって初めて見るものだった。
そんなエリーゼの姿を見てライセインとて長い間耐えることはできなかった。
「おいで、エリーゼ」
上に乗り掛かっているエリーゼの体をきつく抱きしめ、もっと首に唇を近付けるかのように頭もおさえた。
「君の為ならいくらでも」
うっそりと微笑むライセインの顔はエリーゼには見えていない。
彼女は待ち望んだ渇きを癒すことに夢中になっていた。
許可が出たのだ。何週間かぶりのライセインの血。
ぷつりと彼の首に歯を突き刺す。瞬間香る血の匂いにエリーゼは頬を上気させて熱心に血を吸う。
「おいしい? エリーゼ」
「んっ、おい、し……」
「たくさん飲むといい。君の為の血だ」
「ライ、セ…イン……」
きつく血を吸われても、違う箇所を深く噛まれてもライセインは怒ることも痛がることもせず、ただ優しくエリーゼの頭を撫で、髪をすく。
しばらく吸い続け渇きも薄くなってきた頃。
もういい、と告げようとエリーゼはライセインから少し距離を取る。
「ライ、」
「もういいの?」
「う、うん、ありがとう……」
「遠慮しなくていいんだよ。もっと吸っても」
「い、いい! これ以上吸うとライセインが……」
「君が離れていくくらいなら、君に血を吸われて死んだほうがマシだよ」
「!!」
ライセインの言葉に驚き、エリーゼは言葉に詰まった。
「ねえ、エリーゼ。最近どうしたの。私をあんなに避けて。なにがあったの、話してごらん?」
「……」
「エリーゼ」
「…………から」
「ん?」
「私の存在はいつか邪魔になると思ったから」
初めの曖昧さが嘘のようにエリーゼははっきりと述べた。
その内容にライセインは目を見張った。
「前に、あなたの婚約者だと名乗る人に会ったの」
「私に婚約者などいない!」
「ええ、私も多分違うなって思って言わなかったんだけど、」
「……それで?」
ライセインはエリーゼの話を聞く態勢に入った。
「もし、本当に婚約者がいたら、将来的にできたら、私は邪魔なんだろうなって」
「そんなこと……!」
「だからね、ライセインの婚約者様の為に私はライセインにあまり関わらない方がいいと思っ」
話の最中てエリーゼは何も話せなくなってしまった。ライセインに口を塞がれたのだ。それも、彼の口で。
「ぅんっ、ライ、セイン…!」
「っエリーゼ、エリーゼ、エリーゼ、エリーゼっ!」
何度も何度も何度も何度もライセインはエリーゼの名を呼ぶ。その合間にエリーゼに口付けてはきつく抱き締める。
エリーゼには口を挟む隙もない。
「エリーゼ、エリーゼ」
「ライセイン……」
「エリーゼ、愛してる、愛してるんだ、エリーゼ」
「!!」
ライセインが口にした言葉にエリーゼは思考が停止した。
きつく抱き締めても口付けをしても何の反応も返さなくなってしまったエリーゼを流石におかしく思ったのか、訝しげな顔でライセインはエリーゼの顔を覗き込んできた。
「エリーゼ?どうしたの?」
「っ、ライセイン、あの、その、愛、してるって、」
「ん?うん、愛してるよ、エリーゼ。誰よりも、何よりも」
「っ!」
信じられない。急に愛を告げられても。
しかし心配気に見つめてくるライセインの瞳を見ていると少しずつ今の現実を受け入れられるような気がしてくる。
「エリーゼ。エリーゼは私のことをどう思っているの?」
「ぁ、わ、わたしは、」
「うん」
「わたしも、ライセインのこと、す、好き、よ」
「っ」
顔を真っ赤にしたエリーゼを見つめていたライセインは我慢ができなくなったかのように再びぎゅうぎゅうときつく抱き締めた。
「エリーゼ、私のエリーゼ。私だけの……」
「ら、ライセイン?」
「愛してる」
ライセインはまたエリーゼに口付けをした。
そうして、夜は更けていく。
あの日の夜、口付け以上の関係に進むことはなかったが、同じベッドで一緒に眠った。
眠る時にライセインはぽつりぽつりと自分のことを話してくれた。
エリーゼに一目惚れしたこと。
エリーゼが他の人の吸血をするところを見かけて吸血鬼だと知ったこと。
それを見て嫉妬したこと。
エリーゼが吸血した人の体に痕が残らないようにしていること。
いつも謝っていたこと。
本当はもっと吸いたいはずなのに相手を慮ってあまり吸わないようにしていること。
それを聞かされたエリーゼは嬉しさ半分、恥ずかしさ半分で顔が真っ赤になっていると自覚していた為、両手で顔を思わず覆ってしまった。
いつのまにかヒートアップしてそのまま延々と続くライセインの話を子守唄にいつしかエリーゼは寝てしまった。
「なんで、私を偽の恋人にしたの?」
翌日、一緒に朝食を食べている時、エリーゼがそう聞けばライセインはちょっと目を逸らしながら答えてくれた。
「急に告白しても、君は受け入れないと思ったんだ。だって、君にとって私は初めて会った男だったでしょう?」
「……そうかも知れないわ」
「君は用心深いからね」
ははっ、と笑い声を漏らしながらライセインは朝食を頬張る。
「君が店であった彼女。あの人に迫られて困っていたのは事実だったし、彼女を退けるためにも、偽の恋人という役割を君にあげたほうが君も納得して付いてきてくれるかと思ったんだ」
「……確かにそうかも知れないわね」
確かにライセインが偽の恋人として契約を提案しなかったらエリーゼは彼についてこなかっただろう。無償で血を貰うことは好きではない。それもずっととなればエリーゼはライセインに多大な罪悪感を持ってしまうだろう。
そして、いつかはライセインの前から消える。
それがライセインには予想できてしまった。だから、彼女に恋人という役を与えて自分のそばに置き、離れていかないようにしたのだ。
そんな計画も結局はエリーゼが違う方に誤解をしたために危うくなってしまったわけだが。
「あなたって、本当に私のことが好きだったのね」
エリーゼは呆れたように笑った。
「もちろん」
ライセインはエリーゼを手に入れられた喜びから心からの笑みをこぼした。
これは、血を欲する優しい女とそんな彼女を囲いたい男の話。
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