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プロローグ
Knox's Ten Commandments
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この物語はフィクションである。実際のいかなる人物、事象とは一切関係はない。
たとえ俺が本当に体験した出来事であったとしても、この小説を読む人々は決して俺と同じ体験をすることはない。だからこの日記はフィクションであるということにしておく。
―――
西暦2025年7月26日
「はぁ……」
哀しみ……いや、無気力というべき小さな吐息が俺の口から漏れた。俺は何をしているのだろう。俺が1人で適当に紙を無駄にしている間にも、同じ学年の者どもは将来へ向け専門的な知識を学んでいるに違いない。
まるで小さな雲のように、頭の中に浮かんでは消えていく子供じみた想像を文字に起こすたびに自分の拙い語彙力が情けなく思えた。
真白木慈恩、21歳。現在、大学生の俺は大きな悩みを抱えている。まだ将来何になるかを決めあぐねているのだ。選択肢の多さから理系大学を選んだものの特に物理や化学、数学などの学問に関心があるわけでもなく、反って悩みを増やしてしまっている現状。
その悩みの中で俺は特に目標もなくこうやってパソコンにつまらない小説を書きなぐっているのだ。小説家になろうと、大学を放って物書きに注力するほどの度胸はない。かと言って普通の仕事に就くようなつまらない人生を過ごしたくはない。
そんな恐怖と自尊心の狭間でただむなしく時間が過ぎるのを感じる今。
「とりあえず蒼士郎の家にでも行こう」
思いたって俺は重い腰を上げて家の玄関を開けた。
日差しが眩しい。まるでしばらく外に出ていなかった俺の白い肌焼き尽くさんとするように熱い光が体を包む。
負けるものか。この程度の苦難、何度でも乗り越えてきたのだから(ゲームの話ではあるが)
―――
ピンポーン
インターホンを鳴らすといきなりマイクのところからため息が聞こえてきた。
「なんだよ慈恩?」
明らかに喜びではなく鬱陶しいといった感じの声。せっかく来てやったんだからもうちょっと嬉しそうな声で迎えてほしいものだ。
露骨な態度に少し眉をひそめていると、蒼士郎は少し間をおいてまたため息をついた。
「……まあいいや、今開けるから待ってろ」
ドアの内側からバタバタと足音がしてガチャリとドアが開く。中から出てきたのはきっちりとしたワイシャツにネクタイをした美形の青年。俺の数少ない友人の牧田蒼士郎である。成績優秀で俺とは違い既に希望の研究室のオープンラボなどにも参加したりいろいろとやっているらしい。
「何の用だよ、今忙しいんだけど」
「家にいるじゃん」
「見えないか、この服?」
そう言うと蒼士郎はパッと両手を広げきれいなワイシャツを強調した。どういうことかと聞くとリモートで研究室の説明会に参加していたのだという。
「でも多分もう終わったんだろ?」
「ちっ、そういうところだけ鋭いんだ、お前は……」
いやな顔をしつつも俺を家に入れてくれる蒼士郎に、こういうところがみんなに好かれるところなのだろうと妙に納得した。
「で、今日は何の用だ?」
「いや、何かいいアイデアでもないかと思ってな」
「はあ? ……というか今日お前、応用化学の試験って言ってなかったか? もう終わったのかよ?」
俺は少しうろたえる。なぜなら応用化学の講義は出席率的に落とすのが分かっていたので試験を受けなかったからだ。もしそれがバレればまじめな蒼士郎は俺に説教をするだろう。それは面倒なので避けたいところだ。
「あ、ああ! バッチリよ!」
俺は嘘をついた。
「……嘘だな、お前相変わらず嘘つく時に左手の指で髪をいじる癖が出てたぞ」
すぐバレてしまった。さすがの観察眼、今まで俺の嘘を数多見ぬいてきただけある。
隠しても無駄だと思い俺は試験をさぼってきたことを告白する。すると蒼士郎の口から大きい”はー!?”がおよそ5秒ほど放たれ、その後あまりの驚きに目を見開き信じられないという顔で俺の方を見た。
「慈恩……、お前はもうだめだ……」
雰囲気的に何か怒鳴るような感じはない。どうやら説教を受けることは避けられそうだ。だが蒼士郎の顔を見て俺はそれ以上の何か大切なものを失ったように感じだ。
―――
蒼士郎の家に転がり込んでからすでに2時間が経過していた。
「はあ、俺はどうすればいいと思う?」
漫画を読み終えた俺は自分でも唐突と思える問いを投げかけた。
「まずはその漫画を読むのをやめたらどうだ?」
俺の悪い癖だ。どうすればわからないとき、すぐに空想の世界へ逃げ込んでしまう。
「大学が嫌ならやめればいいんだ。俺が嫌いなのはそのどっちつかずの対応だよ。話を描くのが好きなら、本気でそれに向き合うべきなんだ。何事にも、勇気を持って行動するんだよ」
「そんなことができるならとっくに大学なんてやめてる。そんな行動力は俺にはないんだよ、お前みたいにな」
「じゃあどうすればいい?」
「何か想像力を掻き立てるような、そんな話ができれば、頑張れる気がする」
「気がするって……。じゃああれでいいじゃん、ええと……異世界転生!」
俺は最後の一言に対し全力で拒絶反応を示す。
「絶対、嫌だ!! 想像力って言ってるだろ、なんで既存のジャンルを言うんだよ」
あまりの大声に蒼士郎はいら立ちの表情を見せた。
「なんだよ、こっちは協力してやってんのに」
「いや、悪い。まあな、異世界転生自体は否定しない。むしろ最初にそのジャンルを開拓していった人たちとか、そこに要素を掛けて新しくしたりする人たちは尊敬してる」
「じゃあなんでそんなに嫌なんだ?」
「追放、無双、ハーレム、そして過ぎるご都合展開。とにかく今の有象無象のテンプレートが気に入らない」
「なるほどな。それならこれまでにない異世界モノならいいってことだろ?」
「まあ、それは、そうだけど」
蒼士郎は簡単に言うがことはそう単純ではない。娯楽が飽和している現代社会において新たな試みでもって人々を惹きつけるのはそうやすやすとできることではない。だからこそ成功したジャンルの模造品がこれだけ多く生成されてしまっているのだ。
「そう簡単にアイデアが出てくるなら苦労は……」
「うーん、異世界探偵、とかどうだ?」
蒼士郎の提案に俺は言葉が止まった。魔法世界の推理小説、確かにそんなものは見たことがない。だがそれはノックスの十戒に反することになる。
ノックスの十戒とはその名の通りノックスという人物が推理小説に定めた10個のルール。
1.犯人は、物語の当初に登場していなければならない。ただしその心の動きが読者
に読みとれている人物であってはならない。
2.探偵方法に、超自然能力を用いてはならない。
3.犯行現場に、秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない。
4.未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない。
5.主要人物として「中国人」を登場させてはならない。
6.探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない。
7.変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない。
8.探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。
9.相棒や助手は、自分の判断を全て読者に知らせねばならない。また、その知能
は、一般読者よりもごくわずかに低くなければならない。
10.双子や一人二役は、予め読者に知らされなければならない。
このように10個のルールがあるわけだがこのうちの2番は異世界や魔法というものが完全に否定されてしまっている。
「無理だろ。魔法によるトリックとか」
「いやできる。読み手がしっかりと理解できる魔法の仕組みを考えてやればきっとできる。まあこの間、真理が推理小説読んでてそんな話をしたんで、興味本位ってのもあるけど」
「ううん……」
「先のビジョンがないなら、とりあえず頑張ってみろよ。どうせやることなくて暇だろ?」
酷い言いようだ。……でもたしかに、このままぐだぐだ同じような話ばっかり書いてても何も始まらないのは紛れもない事実。挑戦しないと成長なんてできない。
俺は決意を固め立ち上がる。
「ちょっとBO〇KOFFで推理小説買ってくるわ」
「お、いいね!」
蒼士郎はそう言うと何やら机の中から何かを取り出し俺に向かって投げかけた。それは銀色のペンダントでトップの飾りには表に”J”、くるりと回せば裏には”M”と彫られていた。どうやら少し前のイギリス旅行で俺のための土産として作ってくれていたらしい。
”Jion-Mashirogi”ってことか、プレゼントにもセンスがあふれてる。
俺は蒼士郎にありがとうと伝え玄関の扉を開けて目的地へと走り出す。左手を少し振る蒼士郎は笑顔とともにまだ何か俺を憐れむような感じがして俺は少し腹が立った。
―――
B〇OKOFFについた俺は普段、推理小説などはあまり読んだことがないためどれが良いかを決めるのに難儀していた。
「日本人の有名な推理小説作家と言えば、東野圭吾とかか。俺でも知ってる。海外で言えばやっぱり……」
目の前に並ぶシリーズの一番端を本棚から取り出す。
”シャーロック・ホームズの冒険”
アーサー・コナン・ドイル。推理小説の金字塔、シャーロック・ホームズシリーズ。やはり最初に読むのはこれだろう。
会計を済ませ店を出る。あたりは夕暮れすら過ぎてすっかり黒く染まっていた。目の前の赤信号の前に俺は街灯の光を頼りにホームズの小説をぺらぺらとめくる。
堅苦しい言葉で普段あまり小説を読まない俺にはかなり読みづらい、と予想をしていたのだが意外にもそんなことはなかった。それどころか今まで触れてこなかったような文章を見て飲み込まれるが如く頁が進む。
もともとミステリーや謎解きは好きなほうであったので、コツさえつかめればこの難題も攻略できるかもしれない。希望的観測に基づくその想いは突如鳴り響く不可解な音に妨げられる。
トラックに轢かれた、などという単純な話ではない。その音は信号を渡った先、5階建てほどのビルの外付けの階段の先から聞こえてきた。
「上、じゃない。下か?」
そう感じて、視線を下へやるとその階段が地下にも続いているのが見える。俺は本を閉じてバッグへとしまい、好奇を持って階段を下って行った。一歩、また一歩と足取りが重い。段々とその奇妙な音が大きくなっていく。
「シャー……、シャー……」
機械音とも、自然のなす音とも取れないような不気味な音。ようやく音が聞こえてくる扉の前に辿り着く。幸いにもその扉は半開きで俺はその先をスパイ映画さながらにのぞき込んだ。
「あれは?」
そこから見える景色は大小さまざまな見たこともないような機械群、そしてその中央に鎮座する不思議な光を放つ台座だった。
俺は部屋の中に誰もいないことを入念に確認し、音をたてないようにその部屋へと入った。普段の俺ならば決してこんなことはしないだろう。だが、その日に限っては蒼士郎の言葉が頭を支配していた。
”何事にも、勇気を持って行動するんだよ”
もしかしたら私有の研究室で立ち入り禁止かもしれないが、この経験が小説に生きるかもしれない。些細な言葉が俺の中で大きな意味を持っていた。
部屋に入り、周りにある機会を片っ端から調べていく。一応理系大学で実験も行ったことのある身だが、どれもこれも用途の想像すらつかなかった。そしてついには中央の台座へとたどり着く。
紫色の輝きはその異質さを際立たせ、その光が描く輝線はまるで何か文字のような複雑に曲がりつながっている。
「この円、……まるで」
指先で光に触れた瞬間だった。光がひと期は眩しく発光する。それと同時に後頭部に鈍い痛みが走った。
そのあとのことはよく覚えていない。ただ最後に俺の血にまみれたシャーロック・ホームズの小説を見て、光に包まれる中でその本が何者かに取り上げられていたことだけは覚えていた。
たとえ俺が本当に体験した出来事であったとしても、この小説を読む人々は決して俺と同じ体験をすることはない。だからこの日記はフィクションであるということにしておく。
―――
西暦2025年7月26日
「はぁ……」
哀しみ……いや、無気力というべき小さな吐息が俺の口から漏れた。俺は何をしているのだろう。俺が1人で適当に紙を無駄にしている間にも、同じ学年の者どもは将来へ向け専門的な知識を学んでいるに違いない。
まるで小さな雲のように、頭の中に浮かんでは消えていく子供じみた想像を文字に起こすたびに自分の拙い語彙力が情けなく思えた。
真白木慈恩、21歳。現在、大学生の俺は大きな悩みを抱えている。まだ将来何になるかを決めあぐねているのだ。選択肢の多さから理系大学を選んだものの特に物理や化学、数学などの学問に関心があるわけでもなく、反って悩みを増やしてしまっている現状。
その悩みの中で俺は特に目標もなくこうやってパソコンにつまらない小説を書きなぐっているのだ。小説家になろうと、大学を放って物書きに注力するほどの度胸はない。かと言って普通の仕事に就くようなつまらない人生を過ごしたくはない。
そんな恐怖と自尊心の狭間でただむなしく時間が過ぎるのを感じる今。
「とりあえず蒼士郎の家にでも行こう」
思いたって俺は重い腰を上げて家の玄関を開けた。
日差しが眩しい。まるでしばらく外に出ていなかった俺の白い肌焼き尽くさんとするように熱い光が体を包む。
負けるものか。この程度の苦難、何度でも乗り越えてきたのだから(ゲームの話ではあるが)
―――
ピンポーン
インターホンを鳴らすといきなりマイクのところからため息が聞こえてきた。
「なんだよ慈恩?」
明らかに喜びではなく鬱陶しいといった感じの声。せっかく来てやったんだからもうちょっと嬉しそうな声で迎えてほしいものだ。
露骨な態度に少し眉をひそめていると、蒼士郎は少し間をおいてまたため息をついた。
「……まあいいや、今開けるから待ってろ」
ドアの内側からバタバタと足音がしてガチャリとドアが開く。中から出てきたのはきっちりとしたワイシャツにネクタイをした美形の青年。俺の数少ない友人の牧田蒼士郎である。成績優秀で俺とは違い既に希望の研究室のオープンラボなどにも参加したりいろいろとやっているらしい。
「何の用だよ、今忙しいんだけど」
「家にいるじゃん」
「見えないか、この服?」
そう言うと蒼士郎はパッと両手を広げきれいなワイシャツを強調した。どういうことかと聞くとリモートで研究室の説明会に参加していたのだという。
「でも多分もう終わったんだろ?」
「ちっ、そういうところだけ鋭いんだ、お前は……」
いやな顔をしつつも俺を家に入れてくれる蒼士郎に、こういうところがみんなに好かれるところなのだろうと妙に納得した。
「で、今日は何の用だ?」
「いや、何かいいアイデアでもないかと思ってな」
「はあ? ……というか今日お前、応用化学の試験って言ってなかったか? もう終わったのかよ?」
俺は少しうろたえる。なぜなら応用化学の講義は出席率的に落とすのが分かっていたので試験を受けなかったからだ。もしそれがバレればまじめな蒼士郎は俺に説教をするだろう。それは面倒なので避けたいところだ。
「あ、ああ! バッチリよ!」
俺は嘘をついた。
「……嘘だな、お前相変わらず嘘つく時に左手の指で髪をいじる癖が出てたぞ」
すぐバレてしまった。さすがの観察眼、今まで俺の嘘を数多見ぬいてきただけある。
隠しても無駄だと思い俺は試験をさぼってきたことを告白する。すると蒼士郎の口から大きい”はー!?”がおよそ5秒ほど放たれ、その後あまりの驚きに目を見開き信じられないという顔で俺の方を見た。
「慈恩……、お前はもうだめだ……」
雰囲気的に何か怒鳴るような感じはない。どうやら説教を受けることは避けられそうだ。だが蒼士郎の顔を見て俺はそれ以上の何か大切なものを失ったように感じだ。
―――
蒼士郎の家に転がり込んでからすでに2時間が経過していた。
「はあ、俺はどうすればいいと思う?」
漫画を読み終えた俺は自分でも唐突と思える問いを投げかけた。
「まずはその漫画を読むのをやめたらどうだ?」
俺の悪い癖だ。どうすればわからないとき、すぐに空想の世界へ逃げ込んでしまう。
「大学が嫌ならやめればいいんだ。俺が嫌いなのはそのどっちつかずの対応だよ。話を描くのが好きなら、本気でそれに向き合うべきなんだ。何事にも、勇気を持って行動するんだよ」
「そんなことができるならとっくに大学なんてやめてる。そんな行動力は俺にはないんだよ、お前みたいにな」
「じゃあどうすればいい?」
「何か想像力を掻き立てるような、そんな話ができれば、頑張れる気がする」
「気がするって……。じゃああれでいいじゃん、ええと……異世界転生!」
俺は最後の一言に対し全力で拒絶反応を示す。
「絶対、嫌だ!! 想像力って言ってるだろ、なんで既存のジャンルを言うんだよ」
あまりの大声に蒼士郎はいら立ちの表情を見せた。
「なんだよ、こっちは協力してやってんのに」
「いや、悪い。まあな、異世界転生自体は否定しない。むしろ最初にそのジャンルを開拓していった人たちとか、そこに要素を掛けて新しくしたりする人たちは尊敬してる」
「じゃあなんでそんなに嫌なんだ?」
「追放、無双、ハーレム、そして過ぎるご都合展開。とにかく今の有象無象のテンプレートが気に入らない」
「なるほどな。それならこれまでにない異世界モノならいいってことだろ?」
「まあ、それは、そうだけど」
蒼士郎は簡単に言うがことはそう単純ではない。娯楽が飽和している現代社会において新たな試みでもって人々を惹きつけるのはそうやすやすとできることではない。だからこそ成功したジャンルの模造品がこれだけ多く生成されてしまっているのだ。
「そう簡単にアイデアが出てくるなら苦労は……」
「うーん、異世界探偵、とかどうだ?」
蒼士郎の提案に俺は言葉が止まった。魔法世界の推理小説、確かにそんなものは見たことがない。だがそれはノックスの十戒に反することになる。
ノックスの十戒とはその名の通りノックスという人物が推理小説に定めた10個のルール。
1.犯人は、物語の当初に登場していなければならない。ただしその心の動きが読者
に読みとれている人物であってはならない。
2.探偵方法に、超自然能力を用いてはならない。
3.犯行現場に、秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない。
4.未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない。
5.主要人物として「中国人」を登場させてはならない。
6.探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない。
7.変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない。
8.探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。
9.相棒や助手は、自分の判断を全て読者に知らせねばならない。また、その知能
は、一般読者よりもごくわずかに低くなければならない。
10.双子や一人二役は、予め読者に知らされなければならない。
このように10個のルールがあるわけだがこのうちの2番は異世界や魔法というものが完全に否定されてしまっている。
「無理だろ。魔法によるトリックとか」
「いやできる。読み手がしっかりと理解できる魔法の仕組みを考えてやればきっとできる。まあこの間、真理が推理小説読んでてそんな話をしたんで、興味本位ってのもあるけど」
「ううん……」
「先のビジョンがないなら、とりあえず頑張ってみろよ。どうせやることなくて暇だろ?」
酷い言いようだ。……でもたしかに、このままぐだぐだ同じような話ばっかり書いてても何も始まらないのは紛れもない事実。挑戦しないと成長なんてできない。
俺は決意を固め立ち上がる。
「ちょっとBO〇KOFFで推理小説買ってくるわ」
「お、いいね!」
蒼士郎はそう言うと何やら机の中から何かを取り出し俺に向かって投げかけた。それは銀色のペンダントでトップの飾りには表に”J”、くるりと回せば裏には”M”と彫られていた。どうやら少し前のイギリス旅行で俺のための土産として作ってくれていたらしい。
”Jion-Mashirogi”ってことか、プレゼントにもセンスがあふれてる。
俺は蒼士郎にありがとうと伝え玄関の扉を開けて目的地へと走り出す。左手を少し振る蒼士郎は笑顔とともにまだ何か俺を憐れむような感じがして俺は少し腹が立った。
―――
B〇OKOFFについた俺は普段、推理小説などはあまり読んだことがないためどれが良いかを決めるのに難儀していた。
「日本人の有名な推理小説作家と言えば、東野圭吾とかか。俺でも知ってる。海外で言えばやっぱり……」
目の前に並ぶシリーズの一番端を本棚から取り出す。
”シャーロック・ホームズの冒険”
アーサー・コナン・ドイル。推理小説の金字塔、シャーロック・ホームズシリーズ。やはり最初に読むのはこれだろう。
会計を済ませ店を出る。あたりは夕暮れすら過ぎてすっかり黒く染まっていた。目の前の赤信号の前に俺は街灯の光を頼りにホームズの小説をぺらぺらとめくる。
堅苦しい言葉で普段あまり小説を読まない俺にはかなり読みづらい、と予想をしていたのだが意外にもそんなことはなかった。それどころか今まで触れてこなかったような文章を見て飲み込まれるが如く頁が進む。
もともとミステリーや謎解きは好きなほうであったので、コツさえつかめればこの難題も攻略できるかもしれない。希望的観測に基づくその想いは突如鳴り響く不可解な音に妨げられる。
トラックに轢かれた、などという単純な話ではない。その音は信号を渡った先、5階建てほどのビルの外付けの階段の先から聞こえてきた。
「上、じゃない。下か?」
そう感じて、視線を下へやるとその階段が地下にも続いているのが見える。俺は本を閉じてバッグへとしまい、好奇を持って階段を下って行った。一歩、また一歩と足取りが重い。段々とその奇妙な音が大きくなっていく。
「シャー……、シャー……」
機械音とも、自然のなす音とも取れないような不気味な音。ようやく音が聞こえてくる扉の前に辿り着く。幸いにもその扉は半開きで俺はその先をスパイ映画さながらにのぞき込んだ。
「あれは?」
そこから見える景色は大小さまざまな見たこともないような機械群、そしてその中央に鎮座する不思議な光を放つ台座だった。
俺は部屋の中に誰もいないことを入念に確認し、音をたてないようにその部屋へと入った。普段の俺ならば決してこんなことはしないだろう。だが、その日に限っては蒼士郎の言葉が頭を支配していた。
”何事にも、勇気を持って行動するんだよ”
もしかしたら私有の研究室で立ち入り禁止かもしれないが、この経験が小説に生きるかもしれない。些細な言葉が俺の中で大きな意味を持っていた。
部屋に入り、周りにある機会を片っ端から調べていく。一応理系大学で実験も行ったことのある身だが、どれもこれも用途の想像すらつかなかった。そしてついには中央の台座へとたどり着く。
紫色の輝きはその異質さを際立たせ、その光が描く輝線はまるで何か文字のような複雑に曲がりつながっている。
「この円、……まるで」
指先で光に触れた瞬間だった。光がひと期は眩しく発光する。それと同時に後頭部に鈍い痛みが走った。
そのあとのことはよく覚えていない。ただ最後に俺の血にまみれたシャーロック・ホームズの小説を見て、光に包まれる中でその本が何者かに取り上げられていたことだけは覚えていた。
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