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第四章 心を満たす魔法の手
愛らしいものに弱いのです
しおりを挟むあらあら? とお母様が興味深げにテオ兄様とサラ様を見ていますが、口元を手で押さえて嬉しそうに微笑んでいらっしゃいます。
あ、やっぱり気になりますよね。
テオ兄様はサラ様がふらつくので手を取り、支えてあげているみたいですけど……やはりリュート様のお兄様です!
そういう行動がスマートですよね。
「ほら、何をもだもだしておるのだ」
「いえ、あの、その……でも……」
「ええい、埒が明かん!ルナ、その姿がアレン様が言っていた指輪の効果なのか?」
レオ様がイーダ様の手を引き、ズイッと前へ出てきました。
いつものイーダ様らしくないご様子ですが、神力にアテられてつらいのでしょうか。
「変化の指輪で、私の世界の創造神オーディナル様の御使いである、聖獣カーバンクルに変じております」
「聖獣……神獣ではないのか」
「私の世界では、神格化しておりませんから聖獣扱いですね。でも、私に呪いをかけた黒狼の主にとって、とても厄介な存在みたいですよ?」
ちょっぴりいたずらっぽく告げると、レオ様もニヤリと笑い「そうか」とおっしゃってくださいました。
やられっぱなしではないと理解してくださったようです。
「で、イーダ。お前はいつまでそうしているつもりだ」
「あ……えっと……その……る、ルナ?」
「はい」
「はうっ……か……可愛すぎます……な、撫でてもよろしくて?」
「どうぞ、存分にモフってください」
どーんと来いというように手を広げると、イーダ様は顔を輝かせて嬉しそうに私を抱き上げて恐る恐る抱きしめてくださいました。
もふもふでしょう?
「ふわふわ……こんな手触り、今まで感じたことがないわ。ふわふわでサラサラで……しかも、こんな可愛らしい……聖獣……ですわよね。この世界では、それだけ魔力があったら神獣だと思われてしまいますわ」
「それはルナが変じておるからじゃ。あちらの世界のカーバンクルはどうかわからぬ」
確かに、私が変じることによって違いはあるかもしれません。
ということは、エナガも……?
「イーダ様、そこの椅子に私を置いてください。もう1つに変じてみます」
「もう1つ?」
「はい!そちらもどう感じるのか教えていただけたら嬉しいです」
「わ、わかりましたわ」
椅子に降ろされた私は、そのまま指輪の力を発動させ、人型に戻ること無くエナガに変じることができました。
魔力の流れが前よりスムーズですし、ふわりと舞う光の粒子が大きくて数が多いような?
「ほう、やはり以前とは違うようじゃな」
「確かに……前回の変身とは全く違う魔力の流れだ」
以前の変身を見ていたアレン様とリュート様が口々にそう言いますが、私自身もそれを強く感じておりました。
そして、ソッとベオルフ様の魔力が包み込んでくれたような気配が……な、何の効果でしょう。
もしかして、変化の指輪が変に干渉を受けないようにしているのでしょうか。
ベオルフ様の魔力は、相手の術を無効化したり弱体化させるような働きがありますものね。
「うん?……いま一瞬……いや、気のせいか?」
どうやらリュート様も感じたようで、首を傾げて私の方をジッと見ていらっしゃいました。
それよりも気になることが……チェリシュ、何ですか?その格好は。
「いつでも大丈夫なの!」
「と、飛びませんから、さすがにこんな人が多い室内では練習しませんよっ!?」
「しないの?」
「危ないですからね?」
「あぶないのはダメなの!」
なるほど、私が飛ぶと思ってボールを受け取るような格好をして構えていたのですね。
あの「キャッチなの!」は可愛いけれども、こんなところで飛ぶ練習をしたら、リュート様が心配しますもの。
あぶないあぶないと二人で笑い合っていると、リュート様が優しく私とチェリシュの頭を撫でてくださいました。
「そうだな。飛ぶ練習は広いところでやろうな」
「はいっ」
「あいっ」
私達3人の様子を見ていたアレン様は、そうじゃな……と呟きます。
「ルナであったら、そう言う。何故気が付かなかったのか……すまんな、ルナ。気づいてやれなかったわい」
「いえ、私も操られていることに気づきませんでした。相手は狡猾です。私がおかしいと思ったら、どうか止めてください。悔しいのですが、今の私ではそれに気づけ無いのです……」
悔しくて仕方ない私の羽毛が、何故かぼんっと膨らみます。
えっ……ど、どうしてそうなったのですか?
「ぷっ……」
「リュート様!」
「ぼんっ!なのっ」
「チェリシュまで!」
あああああ、もーっ!どうしてそうなったのですかーっ!
翼をパタパタさせてリュート様の手をついばみます。
そんな私のささやかな抗議を受け、なんとか笑いをこらえようとしていらっしゃいますが、体をくの字に折り曲げて次の瞬間、吹き出すように笑いだしてしまいました。
「その姿も愛らしいのぅ」
羽毛を膨らませて怒っている私をヒョイっと手のひらに乗せた愛の女神様は、よしよしと宥めるように撫でてくださいます。
やっぱり愛の女神様のナデナデは気持ち良いですね。
「本当に……可愛いなぁ、ルナちゃんは小さな毛玉みたいな小鳥にもなれるんだね」
ロン兄様が顔を近づけ、麗しい笑顔をくださったあと、よしよしと愛の女神様の次に撫でてくださって、近づいてきたお父様とお母様もしきりに可愛いとエナガの姿を褒めてくださいます。
やっぱりエナガは、どの世界にいっても可愛いという認識ですよね。
「奥様はホンマに可愛いもんをよう知ってはるなぁ……でも、飛ぶ練習はだんさんがおるところで、僕か爺様がサポートできる体制やったら尚ベストやね」
「そうじゃな。多少風を操る術は持っておるからな」
「お気遣いありがとうございます。無理せずに練習したいと思いますので、ご協力お願いいたします」
ぺこりと頭を下げたのですが、わかってくださったでしょうか。
なにせ、丸いもので……
どうやら伝わったみたいで、アレン様とキュステさんは、同じような表情で目を細めて頷いてくれました。
とても似ている表情だったので、やはり祖父と孫なのだなぁと感じます。
「イーダ様、この姿はどうで……しょ……イーダ様?」
何故後ろを向いてしゃがみこんで顔を覆っているのですか?
「あー、気にするな。悶ておるだけだ。アレは無類の可愛い物好きだからな」
レオ様が呆れた様子でため息を付きました。
可愛い物が好きすぎて……つまり、私がリュート様の麗しい笑顔にやられた時のような状態なのですね。
それは……た、大変です。
あまり刺激をしないように、ソッとしておきましょう。
「りゅ、リュート様、その丸っこいモフモフなルナ様をこちらにも……ぜひモフらせてええぇぇっ」
「……ほう?」
あ……し、失言くんがリュート様のスイッチを押したみたいですよ。
でも、どちらかというと……スイッチよりも地雷でしょうか。
「あの人さ、リュートの地雷をピンポイントで踏むのが趣味なの?」
ボリス様が呆れた顔をしてそう言うと、私の尾羽根をきゅっと指でつまみました。
「ひゃあっ!」
「あれ?こんなところにも神経が通ってるの?」
「ボーリースーっ!テメーっ!」
「あ……やばっ!こっち来た!」
どうやら地雷を踏むのではなく踏み抜いたのはボリス様のようですね。
室内から外へ出て黒の騎士団の方々を巻き込み、ボリス様とリュート様の鬼ごっこが始まりました。
意外と素早いですね、ボリス様!
……いえ、アレはリュート様が手加減しているのでしょうか。
「リュートは戯れる相手が沢山いて良かったねぇ」
「楽しそうで何よりだな」
用意された椅子に座っているサラ様が笑い、傍らに立っているテオ兄様も和やかな笑みを浮かべていらっしゃいました。
な……なんだか妙に絵になるお二人ですね。
大人の恋人同士のような、しっとりした雰囲気といいますか……ジーッとサラ様を見つめていたら、サッと視線をそらされました。
どうやら、いろいろ楽しいお話ができそうです!
綾音ちゃんの恋バナをよく聞いていましたが、この分だとサラ様からも聞けそうですよね。
「イーダ様、そろそろ酵母に手を加えたいので人型に戻るのですが……」
「え、ま、待って!」
がばっと立ち上がったイーダ様は、愛の女神様から手のひらに乗せられたエナガ姿の私を眺め、嬉しそうに頬を緩めます。
本当に愛らしいものがお好きなのですね。
「どうですか?神獣っぽいですか?」
「いいえ、この姿は普通の小鳥に見えますわね」
やっぱり、カーバンクルが特別なのでしょう。
エナガまで神獣の類だと思われたら、すぐに私だとバレてしまいますもの。
逃げるときに使う姿は、こちらの方がいいかもしれません。
「ふふ、トリスに拗ねられてしまいそう。大人数で伺ったら迷惑でしょうからって遠慮してくれたのに……」
「すぐに元気になって、トリス様にもこの姿を披露できるようになりますね」
「無理をしてはいけませんわ」
「そうだな。ルナはリュートに似て、すぐに無理をするところがあるようだしな」
イーダ様とレオ様に無理は良くないと言われてしまいました。
無理しているつもりはないのですが、そう見えるのでしょうか……
「チェリシュ、その手に持っているヤツは何なんだい?」
大事そうに抱えている瓶が気になったのか、サラ様が首を傾げて質問し、私が口を開くより先に、チェリシュが瓶を掲げて可愛らしい笑みと共に返答します。
「ふわふわなパンを作るの!ベリリのパンなの!」
「ああ、この前ギルドで言っていた物ができたんだね」
「はい。まだここから少しだけ手を加えようと考えております」
へぇ、これにねぇ……と、瓶の中身を見てしゅわしゅわしているなとチェリシュと仲が良さそうに笑い合っている様子を見ていた私の耳に、あの失言グセの人の声が飛び込んできました。
「良いんっすか?パンの形を変えたら、大地母神の神官どもがうるせぇんじゃねーっすか?」
「あ、この馬鹿!」
え……?
大地母神様の神官がうるさいって……どういうことですか?
黒騎士の彼の方を見ると、他の仲間達に口を塞がれていますが、申し訳ございません……シッカリ聞いてしまいました。
どういう意味なのでしょう。
まさか、リュート様が知らなかった……なんてことはないですよね。
私が知るには都合が悪い、もしくは知らないほうが良かったと考えるほうが自然でしょう。
リュート様の方を見ると、ボリス様を追いかけていたはずの彼は、ガックリと肩を落としてから失言してしまったらしい彼の頭を軽くポカリと叩いて、こちらへ歩いてきます。
その足取りは、どこか重く……嫌な予感が胸を過りました。
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