悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第六章 いつか絡み合う不穏な影たち

本当は気づいていたこと

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『感極まるのはわからんではないが、僕の目の前で臆面もなく……』
「あ、いや、そのっ、すみませんっ」

 慌てて私から手を離したリュート様は、真っ赤になって狼狽えておりますが……なんかとても得したような気分です。
 これほど狼狽えるリュート様なんて、なかなか見られませんもの。
 可愛らしいですよね?……と誰ともなく同意をもとめてしまいます。

『とりあえず、大まかな話はした。僕の愛し子が何故狙われているかも理解したな』
「……はい。あとは、自分が置かれている状況もわかりました。ありがとうございます」

 リュート様は少しだけ沈んだ表情でそう返答し、何かを考えて唇をかみしめている様子でした。
 ……何を思いつめていらっしゃるのでしょうか。
 あまり良くない部類な気がして声をかけるために口を開くよりも早く、オーディナル様がビシッ!と音がするくらい鋭いデコピンをリュート様にお見舞いします。
 ああああぁぁぁっ!
 お、オーディナル様ああぁぁっ!?
 額を押さえて呻くように痛がっているリュート様を見下ろし、オーディナル様にしては珍しく柳眉を吊り上げて睨みつけていらっしゃいました。

『お前はそうやってまた家族に隠し事か。そうして遠ざけられた家族の気持ちも理解しようとはせず、優しさに気づきもせず、己を傷つけて悲しむ心も見なかったことにするのか』

 オーディナル様の言葉はとても厳しく、そして……確かな悲しみが含まれており、それを感じ取ってしまった私達は言葉が続きません。
 今おっしゃった言葉が事実であるなら、リュート様はご家族に何かを……いえ、きっと前世の記憶があるということを生涯隠していこうと決意されたのではないかと思います。
 オーディナル様は思考を読むことが出来ますから、それで理解してご立腹されているのでしょうか。

『このバカの考えそうなことは思考を読まずとも理解できる。そういう表情をしていたからな』
「……私の思考は読むのですね」
『僕が正確に読める相手は、僕の愛し子とその守護者だけだ』

 あ、あれ?
 そうなのですか?
 でも……オーディナル様は本当にリュート様のことを理解されているのですね。
 表情だけで考えを読むなんて、余程親しくなければ出来ない芸当ですもの……

『お前は隠し通すことで皆を守りたいと考えているのだろう。だが、それは本当に守っているのか?』

 その問いかけにリュート様は考えがまとまらず困惑したような様子を見せます。
 私はこの答えを知っているような気がしました。
 でもそれは、ラングレイの家に来たからこそ理解できたことです。
 古くからそれを見てきたようなオーディナル様の言葉は、どこから出てくるのでしょう。
 何故、そのような悲しみをたたえた瞳をされているのでしょうか。
 胸が痛くなるくらい切なく、奥にゆらめく慈愛の感情が更に苦しさを増します。

『家族がお前を思う気持ちをないがしろにしていれば、結果、一番家族を傷つけているのはお前だと何故わからない。お前はそれを知っているはずだ。己も家族も傷つけていく選択はやめることだ』
「ですが、言っても家族が傷つくのです」
『同じ傷つくならば、全てを知って承知の上で共に歩む道を選ぶ。今のお前の家族は、何も知らない庇護するべき幼子ではないのだ』

 分別ある者に対し失礼だと言わんばかりのオーディナル様の話を聞いて、リュート様は何とも言えない表情をして黙り込みました。
 そんな彼に対し、オーディナル様の言葉は続きます。

『それに、お前がこの先の未来で作り上げていく家族というものはそういうものであって欲しい。そうでなくては、僕の愛し子もいずれは傷つき疲れ果てるだろう』
「ルナ……も?」
『過去を見ることが悪いとは言わない。しかし、遠くない未来を考えているならば、考えを改めるべきだと思わないか?』

 私にはイマイチ意味が理解できない会話でしたが、リュート様にはしっかり伝わったようでハッとしたような表情でオーディナル様を見つめ、それから深々と頭を下げました。

「ご忠告、ありがとうございます」
『その考え方は根深いから、すぐに変わりはしないだろう。しかし……お前はもっと己を大事にしてくれ。そうしないと、僕の愛し子とベオルフが悲しむ』

 僕の大切な家族を悲しませないでくれと弱々しい声でそう呟いたオーディナル様は、光の粒となって消えていきます。
 その粒子に手を伸ばしたリュート様を見つめる優しくもあたたかな瞳は、確かな愛情に溢れているように感じられました。

 やはり、オーディナル様はお優しい神なのです。

「なんか……久しぶりに……すげー説教された気がする」

 俺の親父代わりの爺さんがしてくれた説教みてーだと、泣きそうな表情を無理やり笑顔に変えたような様子のリュート様の手を、私は黙って握ります。
 リュート様の心の中では様々な葛藤があり、それを私は黙って見守ることしか出来ません。

「ちょっとごめんな」

 そう一言添えてから私を抱き寄せたリュート様は、深い呼吸を数回繰り返したあと、ぽつりぽつりと言葉をこぼしはじめました。

「オーディナルが言ったようにさ……生涯黙っている方が良いって思ったんだよな……」

 やっぱり……
 そんな言葉が私の中に浮かびます。

「でもさ、説教されて……結果、一番家族を傷つけているのは俺なんだって……知った。いや、本当は気づいていたんだ。前世でも家族が俺の無茶を止めてくれた……けど、意地になっていたんだ」

 偏見の目から妹を守るため、仕事ばかりで疲れている母を守るため、何不自由無い生活をさせたいと願い、体を気遣うこともなく突っ走るだけ突っ走ったんだというリュート様の不器用な生き方に胸が痛みました。
 生涯そうして生きて死んだリュート様を前世の家族はどう感じたのでしょう。
 自分たちのせいで……と責めたのではないでしょうか。
 オーディナル様はそれを知っているから怒っていらっしゃるのかどうかわかりませんが、ただ……家族の気持ちを思うとやるせない気持ちになります。

「本当はわかっていたのにな……こんなことをしても、母や妹は喜ばないって……」

 わかっていた。
 だけど、止められなかった。
 だって、甘えられる人がいなかったから、オーディナル様のようにお説教をしてくれる人もいなかったから───

「同じ過ちを繰り返すところだったな。俺は何も見えていなかった……いや、家族の優しさに甘えて見えていたのに気づかないフリをしていた」

 ズルイよな……と自嘲気味に笑うリュート様の言葉を否定するように首を左右に振ります。
 リュート様はただ守りたかった。
 その思いだけで走り続けてきたけど、もう良いのだとオーディナル様が止めてくださったのです。
 立ち止まって考えても良いと、機会を与えてくださったのではないでしょうか。

「俺は臆病だから……家族に全てを話すのが怖い」
「誰だって怖いです。自分の言葉で関係性が変わってしまうかもしれないことを恐ろしく思わない人はいません」
「……そっか」
「そうですよ。私だってベオルフ様にお話する時は覚悟がいりましたしドキドキしちゃいましたもの」

 あの時はすごくドキドキしましたよね……よく話せたものです。
 でも、どこかで大丈夫だという予感があったからですよね……あちらの家族に話せと言われたら、もっと難しかったはずですもの。

「ベオルフによく話せたな。ルナのほうが勇気あるよ。俺よりも精神的に強いよな」
「そのかわり、肉体的な強さは皆無です……」
「それでいいんじゃねーかな。可愛くて」
「可愛らしさはもっと違うところで発揮したいですよっ!?」
「全部可愛いから問題ない」

 リュート様?
 それはちょっと違うような……
 と……いうか……えっ?
 ぜ、全部ですか?
 全部可愛いって……ちょ、ちょっと照れちゃいますよっ!?

「このふっくらした耳たぶも可愛いし」

 ちゅっという音とともに耳たぶへ感じる柔らかな感触に「ひぁ」と変な声が漏れましたが、それが楽しかったのか低い笑い声が聞こえました。
 も、もうっ!
 真面目な話をしておいて、私をからかうとはっ!
 リュート様も油断できませんね。
 あっちでもこっちでもいじられる運命なのでしょうか……

「俺……決めた。万全の準備を整えて、家族とキュステにだけは話すようにする」
「だったら、外に情報がもれないように気をつけないといけませんね」
「そうだな。アレンの爺さんに手伝って貰って、場を設けよう。相手は狡猾だからな……油断がならねぇ」

 リュート様のおっしゃる通り、相手はオーディナル様に匹敵する力を持つ者。
 黒狼なんて目じゃありません。
 こちらの世界にも干渉できる力を持っていたことを考えれば、間違いなく1人で太刀打ち出来るようなレベルではないでしょう。

「よし、そうと決まったら、エネルギー補給が必要だよな」
「そうですね。良いレシピを覚えてきたんです。きっとリュート様が喜んでくださる物ですよ」
「そっか、それは楽しみだな」

 抱きしめられている状態からリュート様を見ようと試みたのですが、身動きが取れないくらい強い力で抱きしめられ、どうしたのかしらと内心首を傾げていると、耳たぶに再び柔らかな感触がしたと同時に低い声が響きます。

「心のエネルギーを満たすのは……料理だけじゃ足らねーな」

 背筋をぞわぞわと駆け上がる悪寒にも似た何かに体を震わせ、恐る恐るリュート様の顔がある方へ視線を向けると、それはもう言葉には言い表せないほど艷やかに微笑んでいらっしゃいました。
 見てはいけなかったやつです。
 間違いない。

「だからさ、ルナ。俺に癒やしをちょうだい?」

 とろけてしまいそうな甘い声から紡がれる言葉に胸がドキドキうるさくなり、石化されたように動きを止めてしまった私はさぞ滑稽だろうと思いながらも、彼から次に出てくる言葉をただ待つのでした。

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