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第十一章 命を背負う覚悟
11-44 襲撃(リュート視点)
しおりを挟む合流が出来たのは良いが、俺が帰ってきたことで微妙な諍いが起こるようになってしまった。
魔法科の連中は、エイリークの影響を強く受けているのか、聞く耳など持ちはしない。
一応言っておくが、あの教師は俺へ敵愾心をむき出しにするけれども、公私混同はしない人物だ。
特に、魔物が関わる事件に関しては、不本意であっても俺と協力をするくらいの理解力はある。
何でも盲目に信じれば良いというものではないんだけどな……
視界が遮られ、フォローが難しくなる森を徹底的に避け、一度海岸方面へ移動しているのだが、なんだか嫌な予感がする。
周囲を見渡すが、相変わらず魔法科と聖術科が遅れているだけで、他は何も無い。
「俺が後方へ回った方が良いだろうか……」
「白の騎士団がいるから大丈夫でしょう」
悪先はそういうが、俺としては足りないような気がしてならない。
元クラスメイトの数名を後方へ回す指示を出す。
出来るだけ温厚な面々を行かせたが、魔法科の連中と険悪な状態が続いているので、一定の距離を取らせて配置しておいた。
これで、後方は黒の騎士団別部隊がカバーし、魔法科を守るように動いている聖術科のフォローに、白の騎士団が専念できるというものだ。
後方はこれでカバーできている。
しかし……
「何か……落ちつかねーな」
俺の言葉に、元クラスメイトたちが反応して辺りを見渡す。
「今のところ、問題はないみたいですが……」
「ルナ様がいないから、落ち着かないとか?」
「ありえそう……」
そんな軽口を叩いているが、彼らの目は真剣だ。
周囲を警戒し、防衛範囲を徐々に広げている。
「リュート……襲撃が来ると思っているのか?」
レオの言葉に俺は頷く。
この感覚は間違いない。
何か起こる前の静けさだ。
空気がピリピリして、殺意のような物が微かに感じられる。
ただ、姿が確認出来ないのは奇妙であった。
「……サーチをかけたけど、何も引っかからなかった」
トリスの言葉に頷く。
そう――何も無い。
一見、何も無いのだ。
だが、俺の頭の中に警鐘が鳴り響く。
危険だ、気をつけろと――
おそらく、この場でこの危機感を覚えているのは俺だけだ。
俺の反応を見て、元クラスメイトたちやロン兄は動いてくれているが、明確な何かを感じているわけでは無い。
研ぎ澄まされた感覚に引っかかる何かがあるのに、掴めないもどかしさで苛立ちすら覚える。
「お姉様、大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
イーダを見ていたら判るが、全員が疲労困憊状態だ。
狙うなら今だろう。
このタイミング……いや、もっと良いタイミングがあるとすれば何だ?
「さすがに、森が近くなりますねぇ」
悪先の言葉を聞いてトリスがサーチをかける。
ゾワリとした。
全身が総毛立つような何かを感じ、俺は言葉を放つことなく、無詠唱で魔法の盾を主体とした物理結界魔法を広範囲に展開する。
「敵襲っ!!」
俺が大きく叫ぶが、誰にも見えていなかった。
敵の姿も、何が起こったのかも理解出来ずに動きを止めて呆然としている。
だが、判っている俺だけが走り出す。
全員が認識したときには、空から数多の矢が降り注いだ。
魔法に阻まれ、殆どが無力化するが、結界を突き抜けてくる物もあった。
それにより、怪我人が出てしまうのは致し方ない。
結界で全て防げなかったのは悔しいが、明らかに威力の違う矢が混じっているのを全て判断して弾き飛ばすのは難しいのだ。
できる限り防いだが、この襲撃で軽度の怪我を負った者が多数出た。
狙っていた――
奴等は、俺たちの進路から最適解を導き出し、そこで身を潜めて待っていたのだ。
そして、本人達は姿を見せずに矢で射る。
魔法なら探知されやすい。
だが、物理的な攻撃であれば、その分発見は遅れると知っていたのだ。
物理結界だって万能では無い。
同じ場所を攻撃されれば消失する。
流石に広範囲の結界だったためにボロが出た。
俺の「敵襲」という声に反応できた人が、ごくわずかだったのも致命的だ。
最前列は俺がいたから狙ってこない。
だったら、どこを狙う?
答えは簡単だ、俺から一番遠い場所――最後尾だ!
最後尾にいた元クラスメイトたちは、既に戦闘に突入している。
白の騎士団も応戦しているが、武装したラミアは強い。
実戦経験の少ない聖術科と魔法科からは悲鳴が上がるが、今は構っている暇も無かった。
『リュート様! 後方は俺たちに任せてください! やれます!』
混乱する場でも冷静な判断を下した、後方の元クラスメイトたちから通信が入る。
「判った。くれぐれも無理はするなよ! ロン兄が増援を送ると言っているから、もう少し堪えてくれ!」
『了解!』
降り注ぐ矢の雨を無効化している状況では、他の魔法を使う余裕が無い。
風で全てを一纏めにしようとしても、矢に何かコーティングされているのか、思うように動かず、弾くこともできないのだ。
それぞれの責任者が声を大にして指示を出しているが、その声は届いていない。
まさしくパニック状態である。
俺は中央に陣取り、より強い魔法を展開するが、混乱して頭を抱えてしゃがみこむ生徒が多く、格好の的となっている状態にフォローが追いつかない。
「しゃがむな! 立て! 頭上から降り注ぐ矢を、それぞれ迎撃してくれ!」
叫んでも、あちらこちらで泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
魔物との戦闘が未経験で、このラミアに当たったことは本当に運が無いと同情するが、そんなことを言っている場合でも無いのだ。
「泣いている暇があったら戦え! 全員死にたいのかっ!」
正気を保てている者が俺と同じようなことを叫びながら迎撃しているが、ラミアは後方に襲撃をかけているだけで、別部隊は相変わらず矢の雨を降らせてくる。
味方に当たっても問題ないとでも思っているのか、全く容赦が無い。
「こんな矢……燃やし尽くしてやる!」
魔法科の誰かが叫ぶ。
何を馬鹿なことを――と、叫ぶ前に業火が空を覆い尽くした。
矢は燃え、灰となることなく、火矢となって降り注ぐ。
「馬鹿……がっ!」
物理的な防御だけで良かったところに火魔法が付与された状態になり、魔法に相対する属性を付与していくが間に合わない。
至る所で悲鳴が上がる。
そして、一番大きな矢が結界を突き抜けてきたのを確認した俺は、その着地点にいるだろう人を突き飛ばすことしか出来なかった。
直後、左肩に激痛が走る。
「ぐっ……負けるかあぁぁぁぁっ!」
激痛を精神で押さえ込み、氷魔法で一気に冷やして出血を止める。
アイギスも貫通するほどの矢だ、物理防御に長けた結界魔法をすり抜けても当然だと冷静に判断して、俺が負傷したことを合図にしていたのか、横っ腹を狙うように新たなラミアの集団が姿を見せた。
「あの矢は、物理系の結界で防げ! 誰でも良い! 出来るヤツは魔法で防ぐんだ!」
俺が負傷したことで視線が集まったのだろう。
呆けたように座っていた連中が、やっとのことで動き出す。
「属性魔法はラミアに使え! 矢は物理系の結界だ! 頭を働かせろ! 考えて動け! 止まるな! 止まったら死ぬぞ!」
激痛をねじ伏せるよう、声の限りに叫ぶ。
「上空の矢を迎撃している者をフォローしろ! 真っ先に狙われる可能性があるから、絶対に守れ! 上空の結界が無くなったら、射貫かれるだけだぞ!」
これが普通の矢だったら簡単な話だったが、何かで強化された矢が絶え間なく降り注ぐのだ。
一人で対処出来る量では無い。
考えろ、どうする。
どう対処する。
痛みと出血が多かったことで意識がもうろうとして、考えがまとまらない。
『リュート様――』
ルナの声が聞こえた。
心配して泣きそうな声――
そうだ。
帰らなければ……怪我なんてしたと悟らせてはいけない。
彼女が待っている。
その時の俺は獣になったような気分だった。
高らかに吼え、横から槍を持って突撃してきたラミアの一団へ斬り込んだ。
手にした三日月宗近・神打を振るい、ラミアを確実に仕留めていく。
的確に急所を狙い、どうすれば効率よく倒せるか、命を奪えるのか――それだけを考えて切り捨てていく。
恐怖に歪むラミアの顔を見ても、心は動かない。
いや、今は動かすべきでは無いと判っているから、無慈悲に命を刈り取る。
やらなければ、やられるだけだ。
それが、魔物との戦いなのだから……
片腕一本でラミアの集団に斬り込む俺を、他の連中はどう見るだろう。
ルナは……?
ズキリと心が痛んだ。
しかし、俺はそれを無視して、三日月宗近・神打を振るい続ける。
良心が痛んでも、心が悲鳴を上げても、それは全て生きている証だ。
生きているからこそ言えることだ。
死んだら何もできないのだから――
移動するたびにラミアが悪魔でも見るような目で俺を見る。
そうだな……俺はお前達にとって、悪魔のようなものだろう。
いや、そうでなければならないのだ。
俺は、お前達魔物が畏怖し、恐怖する存在であり続ける。
だから、存分に恐れおののき、震えて後悔しろ。
ここで、俺たちを襲った事を……そして、俺に出会ったことを――!
切り捨てられ、核を砕かれて命が果てる。
ラミアたちが、死の間際に呪いの言葉を吐いた。
「化け物」と――
今の俺は無慈悲な化け物だろう。
でも、そんな化け物でも、帰る場所はある。帰りたい場所があるのだ。
全員で帰る。
必ず!
『リュート様、頑張ってください! 化け物だなんて思いません。貴方は……誰よりも優しくて、勇敢で強くて、カッコイイです!』
都合の良い幻聴だな……
俺の願望か、それとも、神々の悪戯か。
こんな俺の姿を見ても、ルナがそう言ってくれる事を、心の何処かで願いながら、目の前のラミアを躊躇いも無く葬り続けた。
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