悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第十四章 大地母神マーテル

14-2 魔核から導き出す真実

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「まずは、リュート様に見ていただきたい物があったのです」

 そう言って、私はベオルフ様から預かってきた物をリュート様へ差し出す。
 私の手にあったのは、結晶のような物――いや、あちらの世界に出現した魔物の核となっていた物の成れの果てだ。

「魔核……? あれ? ルナの世界に魔物は――」
「ベオルフ様が向かった村で襲撃に遭ったようです。一つは、人為的に作り出された罠で、もう一つは……」

 そこまで言いかけて、私は慌てて周囲を見渡す。
 今の今まで、ここがどこか確認していなかった事に気づいたからだ。
 下手に他の人に教えられる情報では無い。
 私の様子から察したのだろう、リュート様たちがサッと動き出す。

「ダイナス、暫くは周囲に人を近づけるな」
「結界は?」
「勿論張る。用事がある場合は、イルカム経由で頼む」
「了解です」

 何やら作業をしていたらしいダイナスさんの簡潔な返事が返ってくる。

「あれ? も、もしかして……夕飯の準備……?」
「ああ、今日は黎明ラスヴェート騎士団と遠征組が張り切っているから、ルナはお休みな」
「うぅ……でも、今はもっと大事な話をしないといけませんので……我慢します」
「我慢なのかよ」

 クククッと笑うリュート様を見ながらも、私は唇――いや、嘴を尖らせる。
 リュート様と真白が張ってくれた結界の中、他の誰にも話が聞こえない状態にして、私は先程の続きを話し始めた。
 ロン兄様とテオ兄様がセッティングしてくれたテーブルセットの上にチョコンと座る。
 私の隣に、真白と蛍と六花りっかが並び、チェリシュはリュート様の膝の上から、私たちへ手を伸ばして撫でていた。
 件の核は、テーブルの上に置かれ、全員の視線を集めている。
 
「おいそれと言えないことか」
「はい。以前から、黒狼の主ハティは此方の世界にも干渉してるフシがありました。しかし、今回のことで、その疑いはより濃厚になったと……」
「へぇ? こっちへ来てくれんの? マジか……嬉しいねぇ」

 リュート様の表情が一気に魔王のソレとなる。
 結界はあっても中の様子は見えるからか、黎明ラスヴェート騎士団の面々が、一気に遠ざかった。
 さすが……みんな、慣れていますね。

「この光を失ってひび割れている魔核そのものに見える物は、私たちが根絶しようとしている【深紅の茶葉ガーネット・リーフ】を食べて変質しました。素は家畜であった牛です」
「……は? 動物が魔物に変じたってことかっ!?」
「そうなんです」
「待て待て、それ……ディードが飲まされた物だろ? ……そんなヤバイ物が、こっちにもあるってことかっ!?」

 言葉も無く全員が絶句する中、私は恐る恐る彼に告げる。

「私も取り込んでいたので……色々とある可能性が……」
「ちょっと待った。もしかしたら……ルナの中に残る呪いの根元となっている物はソレじゃねーか? ディードの方も力の大半を失っている原因をアーゼンラーナに視て貰ったらしいんだけどさ、『呪いでも受けたように力を徐々に削られ、それを奪われた』という見解だった」
「アーゼンラーナ様は、そういうことも判るのですね」
「呪いといったら、アイツの専門だ。愛情により増幅する力と相反する、憎しみによる呪いも受け持つんだよ」
 
 知らなかった事実を聞かされた私は一瞬言葉を失うが、彼女の妖艶さと謎めいた部分を考えれば納得がいく。

「まあ、そのアーゼンラーナがルナの呪いは解けないと言っていたんだから相当だ。今回のディードも同じだな。聖泉の女神なのに呪われるのもあり得ない事だが……」

 リュート様の言葉に、ロン兄様たちも深く頷く。
 どうやら、私が眠っている間に色々と調べて情報を入手していたらしい。
 リュート様らしいというか、何と言うか……。

「この魔核は完全に力を失っていると思うけど、親父はどう見る?」
「同意見だ。これほど力を失っていたら、何をしても復活することはないだろう」
「復活する可能性のある魔核とは全く別物だね」
「一回限りの魔物ということか」

 ロン兄様とテオ兄様がお父様の言葉に続く。
 みんな魔核をずっと見てきた人たちだ。
 その人達が言うのだから、間違いは無いだろう。

「んー……【黄昏の紅華アディ・モネス】の改良版みたいな【深紅の茶葉ガーネット・リーフ】も気になるが……俺、こっちの方がマジでヤバイと思うんだよなぁ」

 そう言って、リュート様は術式らしきものが刻まれた魔核を手に取る。

「コレ、魔核じゃねーだろ」
「なに?」
「え……魔核じゃ無いの?」

 テオ兄様とロン兄様が驚いている中、何故かお父様だけは黙ったままリュート様が持つ術式を刻まれた魔核を睨み付けていた。
 そういえば、オーディナル様も魔核だと断言はしていなかった。
 あくまでも『魔核のようなもの』という表現であったことを思い出す。

「成分は分析しないと断定できねーけど……おそらく、コレの主成分は人の魂の欠片だ」
「……え?」

 これには、全員が絶句した。
 リュート様は厳しい表情で術式が刻まれた魔核を見つめながら、淡々と話を続ける。
 
「魔力のパターン。波長っていうのかな……命ある生き物が放つ波ってのがあるんだけど、コレはそれに酷似した波長を今も放っている」
「え、待ってリュート。コレは……力を失っているのに?」
「魂の欠片だって言ったろ? 封じられているんだよ。この中に一部であろうとも魂が……素となった魂は、一部欠損状態なのか、それとも粉々に砕かれたのか……。普通の状態じゃねーのは確かだ」
「そんなことが……人間にできるのかい?」

 ロン兄様の疑問はもっともだ。
 コレを人の魂だと断じたリュート様にも疑問を覚えるが、黒狼の主ハティにそれほどの力があるとは思えない。
 いよいよ、神話の時代にオーディナル様と敵対していたという『魔神』の存在が濃厚になってきた気がする。

「普通の人間にはできないっていうか……倫理的なストッパーがかかるだろうさ。術式を極めれば、そういう踏み込んじゃいけないところの知識も得る。神々が術式を極める者を警戒するのは、創造神だけが知る真理に辿り着く可能性があるからだ。そして、人はそれを容易く他者へ使い、私利私欲を満たす。そういうヤツを監視するのも神の役目だからな。事実、そういうことをして封じられた馬鹿は多い」
「リュートは……大丈夫なのか?」
「ん? ああ、俺の場合は客観的に見ても一番危険な人間だから、神々が側に居て監視している――と、術式や魔法、神殿に仕える者たちには思われているんじゃねーかな」

 だからか――と、私は納得してしまった。
 リュート様がどれほど十神と仲睦まじくとも、それは十神が監視するために表面上の付き合いをしているだけだと考えているのだ。
 だからこそ、彼への敵対を辞めない。
 彼らには都合が良いように解釈した『神の代わりに監視している』という大義名分があるのだから……。
 
「まあ、それは良いんだよ。そんなことよりも……」
「いや、良くは無いだろ」

 すかさずお父様がツッコミを入れるけれども、リュート様はシレッとした顔で魂の結晶を封じ込めた魔核を手のひらに乗せて、全員に見せる。

「この術式、ルナの世界の物にしては此方のルールに則って刻み込まれている。術式のタイプはかなり古い。『太古の術式』と呼ばれる物だ」

 リュート様の言葉に、お父様の表情が固まった。
 それを知りながら、彼は語るのを辞めない。
 視線はお父様へ固定したまま、リュート様は厳しい視線で言葉を紡ぐ。

「火、水、土、風の四属性。光と闇。朝と夜の理を刻む術式を『太古の術式』と言う。そして、この術式の最大の特徴は、『魔属性がある』ということだ」

 その言葉を聞いたお父様は無言で立ち上がる。
 そして、リュート様が持つ結晶を睨み付けた。
 憎しみ、哀しみ、絶望――全てを内包した視線は、術式が刻まれた魔核へ注がれる。

「リュート……まさか、コレを創ったのは――ジュストだと言いたいのか」

 ドクンっと心臓が大きく音を立てた。
 今――なんて?

「俺は、人の倫理に反したこんな邪法を使う男を一人しか知らない。術式という物は、それぞれ特徴が出る物だ。それは、属性の解釈が人によって違うからだと考えている。俺は、ヤツが刻んだ……完成された術式を知らない。だから、断定はできないが……可能性は高いと思っている」

 真っ直ぐに――淀みの無いリュート様の言葉にショックを受けたのはお父様だけではない。
 私も絶望的な思いを抱き震える体をどうすることもできずにいた。
 
「黒狼の主ハティが……ジュスト・イノユエ――」

 此方の世界で多くの人の命を奪った者。
 人を人と思わず、自分の探究心が赴くままに命を奪い続けた者が、ベオルフ様の敵となっている――
 その事実が、ただ恐ろしい。
 そしていつか、彼もジュストの魔の手にかかるのでは無いかと考えるだけで、心が不安に塗りつぶされていくのであった。

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