ロード・オブ・ファンタジア

月代 雪花菜

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どっちが好み?

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 あのあと、何故か互いの母同士が電話越しに意気投合し、ハルくんと結月ちゃんは家へお泊りすることに決定した。
 どうしてそうなった……
 祖父母が使っていた部屋があるし、親子3人には広く感じる家に住んでいるため、急な来客や宿泊で困ることはない。
 もし困るとするなら、お泊りに必要な物を持ち込めていない二人のほうだろう。
 服や下着などの問題もあるだろうから、近所の衣料品を取り扱っている店に行くしかないかと考えながら、目の前の寿司を食べる。
 近所の寿司店が宅配してくれたものだが、これがまた旨い。
 新鮮なネタとシャリが丁度よいバランスである。
 特に好きなネタはハマチだ。
 濃厚な脂の旨味が何とも言えない。
 結月ちゃんはサーモンが好きなのだろうか、好物は最後まで取っておくタイプのようである。
 綾音は一番初めに食べてしまう為、マグロは既になくなっていた。
 一人前ずつ頼んで良かった……そうしないと、綾音に全員分のマグロを食べつくされていただろう。
 母は玉子が好物で、表情で判断することは難しいが、普段より咀嚼回数が多いのでわかりやすい。
 ハルくんはコハダが好物なのだろう。
 ふにゃりと表情が緩むので、こちらもわかりやすかった。
 綾音もそれがわかっているのだろう、自分の寿司のネタからコハダを選んでマグロとチェンジすることを要求している。
 それを快く受け入れたハルくんは幸せそうだ。

 ふむ……
 無言で俺の寿司の中から玉子を取り出して母のところへ移動させたあと、下手に気を使わせたらアレなので、サーモンを一貫だけ結月ちゃんのところへ移動させる。
 ビクッと体を震わせた彼女は、どうしてわかったのっ!? という驚きの表情でこちらを見上げたが、視線を彷徨わせたあとにハマチを一貫移動させ「物々交換ですね」と笑ってくれた。

 なんだ……俺もバレバレか。
 それが何だかくすぐったくも嬉しく感じた。
 少しずつ彼女の好みを知っていくことに喜びを覚えていると、目の前の綾音がニヤニヤ笑っていることに気づくが、全力でスルーする。
 下手に視線を合わせたり焦ったりすると、調子に乗るだろうからな。

 一人前では多少物足りない俺のことを理解していた母が多めに頼んでくれていたので、ペロリと食べてしまった一人前の寿司を盛っていたトレイを片付けて、具がたっぷりはいっている輪切りにされた太巻きにも手を伸ばした。
 イカやマグロやサーモン、きゅうりにトビコ、玉子といった具材が入っていて見た目にも鮮やかだ。
 一人前を食べきってお腹いっぱいになったらしい結月ちゃんと綾音と母はお茶を飲み談笑をはじめ、ハルくんと二人で海鮮太巻を食べながら、その会話に耳を傾ける。
 久しぶりに感じる楽しい夕食の時間を満喫している、そんな時だった。
 玄関のチャイムが鳴り、母が来客対応をしていると、綾音がお泊りセットをどうしようかと結月ちゃんに尋ねる。

「寝間着はお兄ちゃんの服を借りればいいけどさー」
「え……ええっ!? あ、あの……いえ、そ、そんな……ご、ご迷惑に……」

 綾音の発言で脳裏に浮かんだイメージが衝撃的で、思わずむせた俺は慌てて茶を飲んで喉に詰まった寿司を流し込む。

「お、お前なぁっ」
「だってー、ユヅは私の服だとキツイし、お母さんのもそうだと思うのよねぇ」

 確かに家の女性陣は小柄だ。
 結月ちゃんにはキツイかもしれない。

「に、肉付きが良くて……すみません」
「違う違う、ユヅは胸が人一倍発育しているからキツイだけだよー」

 我が妹のフォローになっていないフォローが炸裂し、男の俺たちは何を言って良いのかわからない。
 ハルくんも妹のデリケートな部分に触れたくないのか、無言でお茶を飲んでいた。
 下手なことを言って睨まれたり幻滅されたりしたら本当に泣けてくるから、話を振られないよう静かにていたのに、妹はこちらを見てニヤリと笑う。

「だから、お兄ちゃんのシャツを貸してあげてね」
「……お、おう」
「Tシャツでもワイシャツでもいいけど、どっちが好み?」
「おーまーえーはーっ! 一度本気でシメとかねーといけないようだなっ!」
「じょ、冗談だってっ!」

 真っ赤になって隣で小さくなっている結月ちゃんと、片手で目元を覆って俯いているハルくん。
 どっちにしても、俺のイメージが妹によって酷いものへと塗り替えられている気がしてならない。
 綾音、お前の中の俺はド変態なのか?
 しかも、その勝手なイメージを二人に植え付けないでくれっ!

「楽しそうで何より。あと、お泊りの着替えは心配いらないようだ」

 はい?
 玄関から帰ってきた母の手には、大きなバッグが2つ……
 どこから?

「あ、あれ? それは、家にある私の鞄……」
「僕のも……ま、まさか、母が来たんですかっ!?」
「忙しいみたいで、荷物だけ持ってきてくれた。良い母」

 え……えっと……これってどう考えたら良いの?
 俺とハルくんは顔を見合わせ、頬を引きつらせる。

 【両親公認、家族づきあい】なんて単語が頭の中に浮かんだが、これは俺にもあてはまるのだろうか……
 上機嫌な様子の母と、戸惑っている俺たちと、「やっぱり空母さんはわかっているわー」と呑気に言っている綾音。
 とりあえず、どっちの家にも言えることだが、女性は強い。
 それを知りつつも、結月ちゃんが俺の母と妹に毒されないことを願い、心のなかで『これからもずっと、今のように可愛らしい君で居てくれ』と祈った。

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