39 / 53
どっちが好み?
しおりを挟むあのあと、何故か互いの母同士が電話越しに意気投合し、ハルくんと結月ちゃんは家へお泊りすることに決定した。
どうしてそうなった……
祖父母が使っていた部屋があるし、親子3人には広く感じる家に住んでいるため、急な来客や宿泊で困ることはない。
もし困るとするなら、お泊りに必要な物を持ち込めていない二人のほうだろう。
服や下着などの問題もあるだろうから、近所の衣料品を取り扱っている店に行くしかないかと考えながら、目の前の寿司を食べる。
近所の寿司店が宅配してくれたものだが、これがまた旨い。
新鮮なネタとシャリが丁度よいバランスである。
特に好きなネタはハマチだ。
濃厚な脂の旨味が何とも言えない。
結月ちゃんはサーモンが好きなのだろうか、好物は最後まで取っておくタイプのようである。
綾音は一番初めに食べてしまう為、マグロは既になくなっていた。
一人前ずつ頼んで良かった……そうしないと、綾音に全員分のマグロを食べつくされていただろう。
母は玉子が好物で、表情で判断することは難しいが、普段より咀嚼回数が多いのでわかりやすい。
ハルくんはコハダが好物なのだろう。
ふにゃりと表情が緩むので、こちらもわかりやすかった。
綾音もそれがわかっているのだろう、自分の寿司のネタからコハダを選んでマグロとチェンジすることを要求している。
それを快く受け入れたハルくんは幸せそうだ。
ふむ……
無言で俺の寿司の中から玉子を取り出して母のところへ移動させたあと、下手に気を使わせたらアレなので、サーモンを一貫だけ結月ちゃんのところへ移動させる。
ビクッと体を震わせた彼女は、どうしてわかったのっ!? という驚きの表情でこちらを見上げたが、視線を彷徨わせたあとにハマチを一貫移動させ「物々交換ですね」と笑ってくれた。
なんだ……俺もバレバレか。
それが何だかくすぐったくも嬉しく感じた。
少しずつ彼女の好みを知っていくことに喜びを覚えていると、目の前の綾音がニヤニヤ笑っていることに気づくが、全力でスルーする。
下手に視線を合わせたり焦ったりすると、調子に乗るだろうからな。
一人前では多少物足りない俺のことを理解していた母が多めに頼んでくれていたので、ペロリと食べてしまった一人前の寿司を盛っていたトレイを片付けて、具がたっぷりはいっている輪切りにされた太巻きにも手を伸ばした。
イカやマグロやサーモン、きゅうりにトビコ、玉子といった具材が入っていて見た目にも鮮やかだ。
一人前を食べきってお腹いっぱいになったらしい結月ちゃんと綾音と母はお茶を飲み談笑をはじめ、ハルくんと二人で海鮮太巻を食べながら、その会話に耳を傾ける。
久しぶりに感じる楽しい夕食の時間を満喫している、そんな時だった。
玄関のチャイムが鳴り、母が来客対応をしていると、綾音がお泊りセットをどうしようかと結月ちゃんに尋ねる。
「寝間着はお兄ちゃんの服を借りればいいけどさー」
「え……ええっ!? あ、あの……いえ、そ、そんな……ご、ご迷惑に……」
綾音の発言で脳裏に浮かんだイメージが衝撃的で、思わずむせた俺は慌てて茶を飲んで喉に詰まった寿司を流し込む。
「お、お前なぁっ」
「だってー、ユヅは私の服だとキツイし、お母さんのもそうだと思うのよねぇ」
確かに家の女性陣は小柄だ。
結月ちゃんにはキツイかもしれない。
「に、肉付きが良くて……すみません」
「違う違う、ユヅは胸が人一倍発育しているからキツイだけだよー」
我が妹のフォローになっていないフォローが炸裂し、男の俺たちは何を言って良いのかわからない。
ハルくんも妹のデリケートな部分に触れたくないのか、無言でお茶を飲んでいた。
下手なことを言って睨まれたり幻滅されたりしたら本当に泣けてくるから、話を振られないよう静かにていたのに、妹はこちらを見てニヤリと笑う。
「だから、お兄ちゃんのシャツを貸してあげてね」
「……お、おう」
「Tシャツでもワイシャツでもいいけど、どっちが好み?」
「おーまーえーはーっ! 一度本気でシメとかねーといけないようだなっ!」
「じょ、冗談だってっ!」
真っ赤になって隣で小さくなっている結月ちゃんと、片手で目元を覆って俯いているハルくん。
どっちにしても、俺のイメージが妹によって酷いものへと塗り替えられている気がしてならない。
綾音、お前の中の俺はド変態なのか?
しかも、その勝手なイメージを二人に植え付けないでくれっ!
「楽しそうで何より。あと、お泊りの着替えは心配いらないようだ」
はい?
玄関から帰ってきた母の手には、大きなバッグが2つ……
どこから?
「あ、あれ? それは、家にある私の鞄……」
「僕のも……ま、まさか、母が来たんですかっ!?」
「忙しいみたいで、荷物だけ持ってきてくれた。良い母」
え……えっと……これってどう考えたら良いの?
俺とハルくんは顔を見合わせ、頬を引きつらせる。
【両親公認、家族づきあい】なんて単語が頭の中に浮かんだが、これは俺にもあてはまるのだろうか……
上機嫌な様子の母と、戸惑っている俺たちと、「やっぱり空母さんはわかっているわー」と呑気に言っている綾音。
とりあえず、どっちの家にも言えることだが、女性は強い。
それを知りつつも、結月ちゃんが俺の母と妹に毒されないことを願い、心のなかで『これからもずっと、今のように可愛らしい君で居てくれ』と祈った。
110
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる