神狩人(パイロット版)

龍神静人

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神狩人

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 彼女が最後に言い残した言葉。


 それを聞いたのはいつだっただろうか。


 もう思い出すこともできない程の永い時間が流れたと思う。


 幾多の人々との出会いと別れ。結局は孤独になってしまう僕の心に小さく暖かな火を灯して、いつも隣に寄り添ってくれた彼女を僕は自らの手で殺めてしまった。


 今日に至るまで彼女の最後の言葉を忘れたことは一度もない……ないのだが、忘れてしまえればどんなに楽かと思ってしまう。そんな自分が酷く憎い。


 ああ、君と一緒に生きてきた時間がこんなにも愛おしく思えるのに、思い出すたびに胸が苦しい。胸が締めつけられる。


 今も君は僕の中に生き続けているのだろうか。

 君と出会ってから今日まで僕はまだこの世界でちゃんと生きているよ。君が望んだ形なのかどうかは分からないけれど、それでも僕は今も生き続けている。


 君が最後に言った言葉を信じて、これからも生きていく。ずっと、ずっと……。



□□□


 今いる場所はずっと北にある国。その国内でも最高の標高を誇る山を登っている。

 目の前の視界を真っ白く塞ぐ吹雪は、身体の芯まで凍らせようとしている。膝下まで届く雪を踏みしめながら、ゆっくりと重い足を上げながら歩いて前へ進んでいく。

 獣の毛皮で作られた防寒着を着込んで、フードを深く被り腰に身に着けていた一振りの刀は、背中に背負っている。背中越しに僅かに冷え切った刀の冷たい感触を感じながら、激しく吹雪いている雪山を登り続ける。

 今回の獲物は、この雪山の頂上にいる。

 ひたすら吹雪きの中を積雪を掻き分けながらゆっくりと進んでいく。時折、傍らで一緒に歩いている彼女の姿を幻視する。君も一緒に歩いてくれていると思うと、冷え切った心の中心に仄かに火が灯り暖かくなる。それだけで僕は歩みを止めることなく前へ進める。

 さぁ、行こう。きっともうすぐ着くよ。君の欠片を取り戻そう。



□□□



 雪山の頂上には、一つの古城がある。数年前から主を失った城は朽ち果てており、鉄壁と謳われた城壁には無数の亀裂が走っており、所々崩れ落ちている。城門は開きっぱなしのため、そのまま城内へと入っていく。

 城内は真っ白な雪景色であり、吹雪いていた風は今にも崩れそうな城壁が遮ってくれているので外ほど激しくはない。城の中庭だったのだろう、中央に噴水の跡があり、周りには円を描くように植木が裸で立っていた。葉はすべて枯れ落ちており枝だけの存在であるが、かすかな生命を感じさせるような存在感を静かに放っていた。

 こんな環境にされても自然の木々は逞しく生き延びていくものだ。

 朽ち果てた庭園跡を通り過ぎ、しばらく城内を歩いていく。両脇に大きな円柱が聳え立つ広い通りを抜けて、城の中へと入っていく。

 高い天井に出来ている幾つもの亀裂の隙間からこぼれるように弱い光が入ってくる廊下を歩く。すると、自分の周りに何色もの光が輝き、歩いている廊下が明るくなった。

 それは、赤、青、緑の三色の紐のような形をしたモノ達が自分の右腕、左腕、右足に纏わりつくように這っている。強弱をつけた輝き、何かを僕に知らせているように蠢き、輝く。

 わかっているさ。僕の獲物が近くにいるのだろ。

 そう言うと、三つの輝きは消え、また薄暗い廊下へと戻った。僕も感じているさ。この気配は近くにいる。おそらくこの先に見えている扉の向こうだ。

 僕は扉を開いて、その中に入る。

 元は豪華であったであろう朽ち果てた廊下を進んでくる途中に何かを信仰していたと思わせる像らしきもの等を見てきたので、中に入ってそこが教会であることは容易に想像がついた。長椅子も祭壇もボロボロで原型を留めていないが祭壇があったであろう場所に一人の男が立っていた。
 
 僕の獲物だ。

 すると、赤い輝きを放つモノが右腕に巻きつきながら何かを主張し始めた。

 今回は、お前の出番はないよ。僕だけでやれる相手さ。

 赤い輝きは徐々に明るさを弱め名残惜しそうに消えていった。

『待ってましたよ。意外と遅かったですね。貴方は我々の間ではかなり有名ですから、いつ来るのかと指折り数えて待ってました』

 自分が僕よりも比較にならない程の高位の存在であると主張するように放たれる無遠慮な神威。しかし、こいつは本物ではない。強制的に人々に自分を神として崇めさせて神格化した神もどきだ。

「お前の 神魂かみだまを回収しに来た」

『私を殺して奪うのでしょ? やってみてください』

 男はお前にできるのか? と言わんばかりである。しかし、僕はそれよりも気になった事を聞いた。

「お前の周りで氷漬けにされている女達はなんだ」

『ああ、これですか。最初に私に願いを聞き入れてもらうためにこの城の人間達が生贄に捧げてきた女達です。どうです? 美しいでしょう。氷漬けなのだから死体は腐ることはない。永遠に美しい女性の裸体を眺めていられるというものです。すばらしいアイデアです』

「この城は昔、緑豊かな山に立てられた平和を象徴する城だと聞いていたが、この辺り一帯を氷雪地帯に変えたのはお前だな」

『ええ、もちろん。私が手に入れた神魂は、それ系統の神魂らしくてね。しかも当時の私は、上手く手加減できずにこの有様です。そのため次第に皆、死に絶えてしまいました。悲しいことです』

「そうか」

 僕は毛皮を脱ぎ捨て、背負っていた刀を手に取り鞘から抜いた。抜き身の刀は天井から零れ落ちる光に照らされて白く輝く。

『神殺しの刀。美しいですね。それに斬られるのも良いかもしれません』

 男の立っている場所の周辺から冷気が漂い始めて、今いる教会全体の温度が急激に下がる。

 僕は白い息を一つ吐くと、男との間合いを一気に詰めて刀を一撃見舞う。しかし、男の前に形成された巨大な氷の柱によってその斬撃は男には届かなかった。

『自由に身体を動かせないんじゃないですか? この低温度です。普通の人間だったら凍えて身動き一つ出来ないはずですからね。やはり貴方は化け物ですね。化け物が神を退治しようとは、なんとおこがましい』

「お前は神じゃないだろ。元は人間のはずだ。しかも到底、神になれるような聖人ではない。ただの人間だったはずだ」

 何本もの氷の柱が宙に浮かび、僕の方へ向かって飛んでくる。それを退けて男の間合いを再び詰めていく。そして、男の心臓目掛けて刀を突く。

『素晴らしですよ。あの氷の柱を全て避けて私の懐まで接近できるとは』

 男は今度は自分との間に猛烈な吹雪を起こして刀の突きの軌道を無理やり変えた。

 ちっ、曲がりなりにも神って事か。

 軌道を変えられてそのまま横を通過しようとしている僕の右腕を切り落とそうと男は、氷の刃を形成して振り下ろす。僕は無理な体勢から右腕を曲げてそれを刀の刃で受け止める。刀の刃に接触しても切れない氷かこれは驚きだ。しかし、

「もう、残された時間は少ないようだな。身体が崩れかけているぞ」

 そう、男の身体の肌が硬質化して剥がれ落ち始めている。神通力を使い過ぎたのだ。今となっては祀り崇めてくれる人間は存在しない。そうなれば神もどきの末路は二つだ。そのまま消えて消滅するか、神落ちの化け物へと変貌を遂げるかだ。

『あなたがこれまで回収したという神魂があればもう数百年生きながらえる事ができると聞いてましたが、どうやら私自身が時間切れのようですね』

 男の体表がどんどん剥がれ落ちていく。

『私は本当に神になりたかったんですよ。そして人々を幸せにしたかった……。どこで道を間違えたのでしょうね。こんなはずではなかったのに。――やはり聖人に相応しい人間が神になるべきなのでしょうね。私には欲が強すぎたかもしれません。自分の絶大な力に溺れてしまった』

『さあ、殺してください。私は化け物になってまで生き続けたくはない。貴方に消されることを望みます。それだけの事をしてしまいましたからね。できれば、彼女達は丁重に埋葬して欲しいですね』

「ああ、もちろんだ」

『……さあ、殺してください。神殺し

 僕はそう聞いたか、それとも聞く前だったのか。男の心臓を刀で貫いた。刀の先には神魂が刺さっていた。身体から神魂が取り出された、その瞬間男の身体は粉々に崩れ落ちた。


「人間が神になれるわけがないんだ……」


□□□


 ―おい、なんか今回はやっと俺の出番だと思ったら全然ないじゃんよ。―

 僕一人で出来ると言ったろ。確かに今回は、氷雪地帯だったからお前の出番はあったかもしれないが、僕はお前を示現化して使う気はないよ。

 ―ふん、まだ昔の事を怖がっているのか? まぁ否応無く俺の力が必要な時は来るがな。それまでがんばって死ぬなよ。―

 ああ。

 死なないさ。全ての神魂を回収するまでは。死ねない。

 僕はお前らのエサ。お前らは僕の僕(しもべ)なんだから。

 僕の魂が尽きたとき、神であるお前らには死が訪れる。

 気がつくと、朽ち果てた城の周辺に積もっていた雪は消えていた。吹雪きも治まり空からは雲の隙間から太陽の光が漏れ始め、太陽も顔を出し始めた。

 氷雪地帯は、なくなり元の環境に戻ったけど、この城は朽ちていくだけだな。人がいなくなって置いてけぼりをくらったモノは寂しいものだ。せめて彼女達の墓には花を沢山植えておくかな。元の環境に戻ったのなら数年で緑は戻るだろ。

 そして、僕は回収した神魂を胸に押し込んだ。神魂は胸に沈み込むように消えていった。

 君の欠片をまた一つ取り戻したよ。

 
 神魂を全てを回収し終わったら君に会いに行けるかな……。

 

  
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