彼の至宝

まめ

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「アブドゥルマリク。お前は可愛いな。私の事をただ純粋に慕っているだろう。それがどれほど私の救いになっているか分かるか」

 アブドゥルマリクはエーリクの胸に頭を擦りつけて甘えた。主人の宝玉をアブドゥルマリクは、えらく気に入っていた。この精霊は契約主以外の人間には滅多に懐かないが、エーリクだけは特別だった。彼といると穏やかな気持ちになるからだ。

「もし私が死んでしまっても、私は生まれ変わり、必ずもう一度お前の友になる」

 だからその時は待っていてくれ。
 アブドゥルマリクは彼が命を失ってからの十五年。ただひたすらに友を待ち続けた。彼が戯れに放った言葉を真っ直ぐに信じ続け、そうして今日それがようやく叶った。
 アブドゥルマリクは門扉の近くから、懐かしい友の気配を感じていた。ああ、友が帰って来たと喜び、逸る気持ちから足が絡まりそうになりながら門扉に向かって走った。そうして友の変わらぬ瞳を見た途端、ああ本当に帰って来たのだなと歓声を上げたのだった。

「ええ、ちょ、ちょっと。静かにして、静かにしてってば」

 行き成り門扉を軽々と飛び越え、大きな白い毛並みの狼がラウの前に現ると、狼は彼の胸元に頭をこれでもかと擦りつけた。その姿は何度もエーリクの記憶で見た事がある。ディーデリックの契約精霊アブドゥルマリクだ。アブドゥルマリクはエーリクに随分と懐いてはいたが、ここまで落ち着きのない奴だっただろうかと、ラウは記憶の中のアブドゥルマリクと目の前で尻尾をぶんぶんと振り回し、キュンキュンと甘えた声を出すアブドゥルマリクに随分と大きな違いがあると戸惑った。これではまるで犬のようだ。とてもじゃないが大きな力を持つ精霊には見えない。

「人違いだよ。俺はエーリクじゃない。今はしがない農夫のラウだから。ほら、エーリクはこんな不細工じゃなかっただろ」

 このまま大騒ぎをされては周囲に変に思われてしまうと焦ったラウは、自分からその正体を暴露してしまった。彼はその事に気づいていないのだが、こういう間の抜けたところはエーリクにないラウの個性だ。彼は焦ると頭が真っ白になってしまい、いらない事を口に出してしまう。
 アブドゥルマリクは彼の言葉を聞き、その意味を理解すると一度黙ったものの、すぐにほらエーリクではないかと再び歓声を上げ始めた。確かに彼の外見は変わってしまったが、それでもその瞳の輝きと彼の魂の気配は同じなのだから、これがエーリクでないというのならば何なのだろうか。
 早く邸に戻れとアブドゥルマリクは、ラウの背を鼻で必死に押し出した。けれども何時まで経っても邸に入ろうとしない彼に焦れた精霊は、ラウの胴を甘噛みし門扉を軽々と飛び越えてしまった。

「こ、こらアブドゥルマリク。離しなさい。こら、こらって」

 アブドゥルマリクは知った事ではないとラウの言うことを無視し、邸の中庭まで行くと漸くそこで彼を離した。ああ、涎でべたべたじゃないかと、ラウがアブドゥルマリクを詰ったが、それも知った事ではない。さっさと邸に戻ってこないお前が悪いのだと言わんばかりに、アブドゥルマリクは鼻を鳴らしたのだった。
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