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第2章〜冒険者編〜
第19話。ツンデレのデレと現実
しおりを挟むウォーレンさん達をギルドに連れてきた俺達は、各々回復薬を使ったり、包帯を巻いたりと治療をしていた。俺は怪我はしたが、既に全部治っているのでその必要はない。
一旦着替えて、戦闘で所々切れてしまった服を、裁縫道具を借りて繕っていた。
あれ? 今なんか男のくせに裁縫? とか思われた気がするな。しょうがないじゃん……王子教育の必須項目だったんだよ。あの頃は、こんなのいつ役に立つのか、前世の病院でちょこちょこ学んでいた英語並に意味不明だったが、こうして役に立っている。
もしかしたら、王は俺が冒険者をすることを、予測していたのかもしれない。
「エミル~まだなの? 何時までやってるのよ。とっくに待ちくたびれちゃったわ! それに、なんなのよあの人たちは! なんでエミルを避けてるのよ!」
忘れていた。いや、俺も自分でそれはどうなんだ、と思ったけどさ。
今隣に、宿屋に居る筈のルーシィが居る。俺達討伐隊が帰還した時、ギルドで低ランク冒険者と共に待っていたのだ。顔を合わせた瞬間「なんで置いてくのよ!」と、怒られてしまった。一体君はどこまで付いてくるつもりなのか。困ったものだ。
それにしても、意外だ。そういうことに無頓着そうなのに、俺が避けられている事に気付いた。ギルド内には人がごった返しになっているのに、俺の半径3m以内に誰も寄ってこないので、わかりやすいが。
「いや、ちょっと力を出しすぎちゃって。怖がられちゃったんだよ」
「それだけじゃわかんないわよ。ちゃんと1から10まで説明しなさいよね!」
「はぁ……」
「ねぇ、今ため息吐いた? ねぇ」
仕方なく俺は、討伐戦時に起きたことを詳しく説明した。適当に説明してもよかったのだが、ルーシィの目がそんな事は許さんと、雄弁に語っていた。
「はぁ? なにそれ」
全ての説明を聞いたルーシィは、眉を吊り上げて怒りをあらわにして立ち上がった。
「あなた達……なによ。なによそれ。助けてもらったんじゃないのっ? 守ってもらったんじゃないの!?それなのに怖い? エミルが、あなた達の恩人が。その力を自分達に向けると本気で思ってるのっ!? ふざけんじゃないわよっ!!!
エミルもエミルだわ! 明らかに落ち込んでるくせに、平気な顔しないでよ!」
「ごめん、ルーシィ。そんなつもりじゃなかったんだけど」
「そう言われると、言い返せねぇが……」
「頭ではわかっているのですけれど」
「やっぱ、怖いもんは怖いよな」
そんなに落ち込んだ顔していたのか。気づかなかった。いつもよりため息が多いのは自覚していたけど。
俺はともかく、冒険者達の反応を見たルーシィは、酷くつらそうな顔をして、ギルドの外に走って言ってしまった。数分前まで騒がしかったギルド内に、沈黙が訪れる。
居たたまれなくて、俯きながら視線を下に向けた。その時、床に水滴が落ちているのに気づく。水? いや、ギルドに水道は無いし、水を飲む人も居ない。俺の汗でもない。だとしたらその水滴は何か?
その答えに思い当たったとき、俺は勢いよく立ち上がり、ギルドの外へ。ルーシィを追いかけた。
「はっ、はぁ……はぁ、ルーシィ!!」
「来ないでよ! なんで来るのよ!」
「だって、君――」
「うるさい!」
ギルドを出てすぐに正面と左右の道を確認したのだが、既にルーシィはおらず、見つけられなかった。
仕方なく、なけなしの魔力を使って気配察知を発動。ルーシィを見つけられたのはいいが、身体強化分の魔力が残っていなかった為、素の体力で追いかける羽目になってしまった。
俺の魔力は限界。体も疲労状態。かたや、獣人特有の氣を使用して走る少女。追いつける訳がない。そこで、俺は無限収納の袋からロープを取り出した。
宿に泊まった初日に、袋から出して確認していたアレだ。神魔国を発つ時、必要になるかもしれないから一応持っていこう。程度に考えていたのだが、役に立ってよかった。
早速ロープを思い切り投げて、ルーシィに巻き付けた。転ばないよう、腕を狙って。
「せぃっ! よし、捕まえたよ」
「きゃっ! ちょっと、離しなさいよ!」
「話したら逃げるでしょ」
「当然よ!」
「じゃあ離さない。ねぇ、なんで泣いてたの」
「はぁ? そんなわけないじゃない」
たしかに、俺は直接ルーシィが泣いているところを確認したわけではない。だが、涙以外にあの床の水滴を説明できない。と、思う。だから追いかけた。そんなわけないとルーシィは言うけれど、それは嘘だ。だって……。
「目元、赤くなってるよ」
「え、嘘っ? あっ……」
「ほらね。泣いてたでしょ? で、どうしたの?」
「それは……」
ルーシィが言い淀んでいるので、3m程開いていた距離を詰め、近くに寄る。それでも言わない。
「はぁ……」
「なによ、ため息なんてついちゃって」
「ルーシィって、強情だよね」
「ごう、じょう?」
「イジっぱりってこと。こんなに聞いてるのに教えてくれない。」
「イジっ!? はぁ、………………のよ」
「え?」
「だから! あんたが怖がられて、悲しい顔してるのを見るのが嫌だったのよ! 別にあんたの為を思って言ったわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよ! あたしが嫌だっただけだから!」
「そう?じゃあそういうことにしておくけど」
つまり、俺の為に泣いてくれたのだろうか?
ツンデレのデレ、到来? ……おっと、こんなことを考えては彼女に失礼だな。うん。
ものはついでと、宿屋で泣いていた件も聞きたいが、今はそんな雰囲気じゃない。もう少しだけ、待とう。
「まぁ、いいわ。で? これからどうするのよ? 宿屋に戻るわけ?」
「いや、一回ギルドに戻らないと。明日のCランク昇格試験の時間を聞かなきゃ」
「そ。じゃあさっさと戻るわよ。ついてきなさい!」
「あ、待ってよ!」
「待たないわ。競走よ!」
「えぇっ? 無理無理! もう魔力ないよ!」
「しーらない!」
そして、ギルドに戻ってきた俺達。もうヘトヘトだし、手っ取り早く済ませたい。早速、エイミーさんに聞いてみることにする。
「エイミーさん、明日のランク試験について聞きたいんですけど」
「あ、エミル君。それのことなんだけど」
「どうかしたんですか?」
いつも微笑みを絶やさないエイミーが、暗い顔をして、口をつぐんでいる。少し逡巡した後、ゆっくりと話し出した。
「その……ごめんね、エミル君。今回の討伐作戦で、沢山のBランク冒険者が亡くなってしまって。今回の試験は出来なくなってしまったの。ほら、Cランク試験の試験管はBランク冒険者でし――」
「何人、亡くなったんですか」
「えっと、討伐戦参加者300人の内、Aランクの死者は0だけど、Bランクは38名。Cランクは79名よ」
「そ、んな…………」
Aランク参加者3名。Bランク50名。Cランク247名。その内、生きて帰ってこれたのは、183名。特に被害が大きかったBランクに至っては、8割近い死亡率である。
これでは、試験などやっている場合ではない。ただでさえ、そう多くはないBランク冒険者。それがごっそり減ったのだ。依頼が滞るし、そうしたら魔獣被害も増える。
最後のゴブリンゾンビ発生時、ある程度の被害は予測していた。だが、これ程までとは思っていなかった。いや、思いたくなかった。
「おれ、が……おれがもっと、早く……ゴブリンキングにトドメを刺していれば……」
キングが叫び出す前に、俺がちゃんとトドメを刺せていれば。剣が砕けていなければ。もっと訓練していれば。もっと、俺が強ければ。挙げればキリがない。
「エミル君……」
「エミル? 一旦宿に帰りましょうよ! そうしましょう! ええ、そうした方がいいに決まってるわ! だって、あたしもう疲れちゃったもの。エミルだってそうでしょ!?」
「…………あぁ」
それからの俺は、どうやって宿まで帰ってきたのか覚えていない。多分、ルーシィが連れて帰ってきてくれたんだろうけれど。そんなのどうでも良くなるくらい、頭の中が真っ白で、上の空だった。当然、眠れるはずもない。
大好きなお風呂魔法、ウォッシャーも使わず、横になりもしないで、一晩が明けた。
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