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第2章〜冒険者編〜
第27話。ルーシィの思い
しおりを挟む「獣人国は、王が世襲制ではないの。王が死ぬか、毎年開かれる獣王祭で敗北すると、勝者が王になれるわ。あたしの家系は皆強くてほぼ世襲制みたいなもので、5代続いて王を排出していたのよ。けれど、今年の獣王祭で別次元の強さを持った得体の知れない獣人に、王だった父様が負けてしまったの」
つまり、ルーシィは獣人国前王の娘ってことだったのか。手紙を読めていた時点で、ルーシィもそれなりの家系なのは予想していたけど。別次元の強さを持つ獣人も気になるが、ルーシィに続きを促した。
「獣人は戦闘民族って、前に言ったでしょ? 王を純粋な強さで決めたりすることからもわかると思うけど、獣人にとって強さは絶対なのよ。新王の命令で、あたし達前王の一族は全員平民になったわ。それまであたしは一人っ子だったし、一族の中でも飛び抜けて強かったから、わがまま放題に育てられていたの。魔法を使えるから特別扱いされてたのもあるわね」
国で一番強い王の家系でも、抜きん出て強かったのか。通りで俺の戦闘について来れるわけである。普通のちょっと強い程度の子供なら絶対に有り得ない。
そして、初対面時の上から目線ぶりはその教育方法のせい、というわけか。納得した。
「最初は使用人も居ないし、家も小さいしで苦労してたけど、母様も父様も、一族の皆も協力して暮らしてたわ。父様の治世が良かったから、街の人達も優しくしてくれていたの。けれど、ある日の夜。全てが変わってしまった」
新王に今までの生活を取り上げられ、それでも助け合って暮らしていたルーシィの一族。彼らを襲ったのは一体何なのか……。
「そう、あの日。あたしの誕生日を祝う為に、一族皆がそれぞれの小さい家から、あたしと母様と父様が住んでいる家に集まってた。城で祝ってた時と違って、ケーキなんて無いし、豪華な食事もなかったけど楽しかったわ。そして、もうお開きの時間になったときよ。アイツらが来たのは」
ここからか。その記憶を夢に見て、宿屋で泣いていたルーシィ。その光景が思い出される。そして、ずっと聞けずにいたこと。もう準備は出来ている。
「アイツらはいきなり現れたのよ、本当に。最初に数人殺されて、咄嗟に皆応戦したけど、弱い人からどんどん殺されていって。あたしは怖くて動けなかった。けれど、あれ程強かった父様が殺されて、母様があたしを守って切られて、逃げて、って言ったのよ。自分が死にそうなのに、あたしを逃がすために! それを聞いて、あたしはやっと動き出したわ。幻覚魔法で自分を隠して逃げ続けた」
自分の誕生日に、親戚全員を殺された。その悲しみはどれ程だっただろうか。家族を殺され、逃げる事しか出来なかった悔しさはどれ程だったろうか。大切な家族を置き去りにした痛みはどれ程だったろうか。
それを思うと、俺はどう声をかけて良いかわからなくなってしまった。
「ずっとずっと森を逃げ続けて、幻覚魔法も魔力切れで使えなくなって。氣も尽きて。とうとう歩くのも辛くて座り込んでしまったの。そしたらもう、立ち上がるなんて出来なかった。どれくらいかわからないくらい、ずっと泣いたわ。
そしたら、人族が現れて。幻覚魔法で隠れようとしたけど魔力がなくて、使えなかった。けど、魔法を使おうとしたのに気づかれて、珍しいからって……それで…………」
ルーシィの大きな金色の瞳が潤み始めた。けれど、雫が零れ落ちることはなく、唇を強く噛んでこらえている。
「ふ……っ。それで、人攫いに捕まって。2日程度かしら? あの暗い地下室に居たわ。そこから逃げたところで、もう母様達には会えない。ずっと死んだ目をしてたと思う。そんなときよ、エミルが助けてくれたのは」
眦から溢れて頬を伝いそうになった涙を拭い、ルーシィは悲しいような嬉しいような不思議な笑みを浮かべた。
「あの薄暗さの中で、あなたの目は凄く輝いてたわ。それに、武器無しで戦う獣人と同じ様に、無手で戦っていた。何故かわからないけど、あなたが父様に重なって見えたの。種族も、強さも、背の高さだって全然違うのに不思議よね。
あの時は一緒に捕まってたハーフエルフに手を引かれて、そのまま出てきちゃったけど。ギルドでもう一度あなたを、その瞳を見て、一緒に居たいと思ったの。そうしたら、もう会えない父様と一緒に居られるような気がして」
ルーシィは俺の1歳か2歳くらい歳上に見える。その父親ということは、20代後半から30代のはずだ。獣人が人間並みの寿命なら、だけど。
その年齢の大人と重ねられたのは、喜べばいいのか落ち込めばいいのか迷うけれど。ルーシィが俺を父親に重ねて、それで失意の底から立ち上がれたのなら、俺は構わない。むしろそれで良かったと思う。
「帰る家もないし、獣人国に戻るのも怖かったから、ギルマスに身寄りがないと言って、エミルと一緒に居られるように頼んだの。
その……最初はエミルみたいな、あたしより年下の子を父様と重ねてしまったのが、なんだか悔しくてキツく当たってたと思うわ。ごめんなさい」
「全然大丈夫だよ。たしかに、最初は結構ツンツンしてたよね。でもダンジョン入ってから? 急に優しくなった気がするんだけど」
「それは! えっと……それは…………」
「ん? どうしたの?」
ここまで、ほぼ途切れることなく話していたルーシィが、顔を真っ赤にして口ごもる。1分程口を開けたり閉じたり忙しなかったが、俺がじっと待っていると、覚悟を決めた表情で答えた。
「その……。討伐作戦で怖がられたり、死者の数に落ち込んだりして、でも立ち直って。ダンジョンの中でずっと2人きりだったし、一緒に戦ったり、沢山話したりしてるうちに、なんだか……えっと……」
またもや、口を閉じてしまった。再び、じっとルーシィの言葉を待つ。今度はもっと長かったけど、彼女はちゃんと伝えてくれた。
「エミル、が……その。ずっと一緒に居たい人になったの。何をするのも、何処に行くのも、一緒がいいわ。あたし……エミルが、その……好き、よ」
そうだったのか。思い返せば、思い当たる節はある。宿屋の前で俺とぶつかって、激しく動揺し、真っ赤になっていた。ダンジョン内部では膝枕をしてくれたし、脱出時はがっちり抱きついていた。
あれ? もっとあるかと思ってたけど、案外これだけか。自信なくなってきたぞ……。
最初はルーシィのことが、あまり好きではなかった。でも今はそんなことない。励ましてくれたり、元気づけてくれたし、好感を持っているレベルだ。けれど、ルーシィの好きに真正面から向き合えるほど、俺の想いは強くない。
それに、身分差が邪魔をする。獣人国前王の娘とはいえ、今は平民。対して俺は神魔国第二王子。どれだけ願っても、周りがそれを許しはしないだろう。
「ごめん、ルーシィ。俺もルーシィのことは好きだ。けど、愛してるって言えるほど強い想いじゃない。一緒に居たら楽しいし、2人で笑い合えたら凄く幸せだ。でも俺は、きっと父様に決められた相手と結婚することになる。俺じゃあ、君を幸せにできない」
そう伝えるとルーシィは一瞬俯いたが、すぐに顔を上げた。
「なら、あたしはエミルに愛してるって言わせてみせるわ。エミルの周囲だって納得させてみせる」
力強く言い切った彼女の瞳は、今まで見た中で一番強い輝きを放ち、飲み込まれそうなほど透き通っている。
その美しさに惚けていたら、彼女の姿が一瞬視界から消え、俺の頬に何か柔らかいものが当たった。
「幻覚魔法? それに、今の……」
再びルーシィが姿を現し、悪戯っぽく笑った。
「ふふっ、そうかもね」
俺とルーシィは2人して真っ赤になってしまった。多分、耳まで赤いんじゃないかと思う。
完全に2人の世界に入っていたら、アドルの声が。
(い~な~! い~な~! ねえねえ、俺も混ぜてよ! 恋愛の先輩が色々教えてあげちゃうよー!)
「アドルさん……」
「エミル? 勇者アドルがどうかしたの?」
雰囲気ぶち壊しである。俺たちの関係は所謂恋人ではないので、そういう雰囲気もなにもないのだが。それでも物申したい気持ちは膨らむ。
「はぁ……ルーシィ。今日はもう休まない? カインまで1日半はかかるし、お互い情報を整理する時間が必要だと思うんだけど」
アドルへの文句を堪え、休息を提案する。ルーシィは表面上すんなり納得しているが、正直俺は今日はもう情報過多すぎて休みたい。案外ルーシィもそうだったようで、すぐに賛成してくれた。
刀を無限収納にしまい、俺は自分が座っていた広めの背もたれに横になる。ルーシィも同様だ。そこからは特に話すことなく、ダンジョン攻略で疲れていたのも相まって、すぐに眠ってしまった。
翌々日の夜明けをすぎた頃。
カインに到着した俺たちは、まず宿屋に向かった。魔導列車の中やダンジョンの中では、駅の街で買ったスープや保存食を食べていたので、星の海亭の料理が恋しくなったのだ。
「おはようございます。 女将さ~ん!」
「エミル君!? こんなに長い間どこに行ってたんだい! もう帰ってこれないのかと思って心配してたんだよ」
ドアを開けて厨房奥へ声をかけると、女将さんが急いだ様子で出てきてくれた。
長い間……。魔導列車で往復3日。ダンジョンの中で多分1日か1日半くらい。合計4日と少し。人によっては長い間居なかったと思うだろう。それにしては、ちょっと大袈裟な気もするけど。
「ちょっと、ヒシュリムのダンジョンに行ってたんです。何も言わずに出て行って、すみませんでした」
「無事に帰ってきてくれたならいいんだよ。何か食べるかい?」
まさにそれを食べるため、ギルドに行く前に寄ったのだ。
「食べるわ! 今日の料理は何!?」
俺より先に、ルーシィが答えていた。効果音を付けるなら、ズズィッって感じに身を乗り出して。駅の街では買い食いしていたし、今の様子を見ると、ルーシィは食べることが好きなのかもしれない。単に星の海亭の料理が美味しすぎるだけかもしれないが。
「そりゃ、あとのお楽しみさ。座って待ってな」
暫く待っているとリアが起床してきたようで、水を持ってきてくれた。
「リアちゃん、いつもありがとう」
「ありがと」
「はーい! すっごく心配してたんだよ? 冒険者さんはたまにそうやって、ずっと帰ってこない時があるから。次はちゃんと教えてね」
「そうするよ」
ずっと帰ってこない……要するに、依頼失敗での死亡だろう。そうならないように、各々自分に合った難易度で選んでいるが、どうしてもそういうことは起こってしまう。
そうこうしているうちに、料理が出来たようだ。両手に皿を持った女将さんが、ニコニコ笑顔でやってくる。
「今回はオークのひき肉を使ったボロネーゼだよ! これもダンジョン食材だ。たんとお食べ!」
俺たちが行ったダンジョンにはオークは居なかった。別次元ダンジョンではなく、本来のダンジョンなら居るのだろうか? 是非とも乱獲したい。
「美味しそうですね! いただきます」
「これよ、これ! 待ってたわ!」
パスタ3、4本をフォークに取り、皿の手前側でクルクルと巻き付け、それを一度で口に入れる。
感想は語るまでもないだろう。そこには美味さしかない。ひき肉を噛んだ時のホロホロとした食感。若干のトマトの酸っぱさに、パスタの塩加減。
俺も相当早かったと思うが、ルーシィの方が早く食べ終わった。
「口にあったようで何より。少し食休みしてきたらどうだい? ちゃんと部屋を掃除しといたからさ」
「ご馳走様でした。じゃあ少し休んできます」
「美味しかったわ。次も期待してるわね」
俺たちは2階の突き当たり、借りている部屋へ向かう。ドアを開けると、忍び装束を纏った2人組が俺の前に跪いた。
ここでは誰に見られるかわからない。取り敢えず部屋の中に入ってドアを閉め、発言の許可を出した。
「許す」
「第二殿下、陛下からのご伝言がございます」
ダンジョンでのひと騒動が終わったと思ったら、父様からの使者。服装を見る限り、裏の者……情報部隊の一員だろう。
俺は騒動に好かれているのかと、冒険者になってから度々思っていたが、これはもう確定だな。
「聞こう。なんだ?」
さてさて。何が語られるのやら。
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