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第3章〜カイン学園編〜
第44話。噴水と時計塔
しおりを挟む「待たせて悪かったな……って、何があった?」
先生達が来たので、さっきの出来事を報告した。彼らも俺たちと同じように衝撃を受け、固まる。背伸びして目前で手を振り再起動させ、一応遠足のしおりには書いてあるが、今後の行動について確認した。
倒れた屋台の獣人は他の屋台の獣人達が助けに来てくれたので彼らに任せ、俺達はここに来た本来の目的に戻る。
「リカルド先生。ちょっとひと騒動ありましたが予定は変わりませんよね? この後は時計塔の見学ですけど」
「そうだな。その前に案内人を紹介するぞ。兎の獣人、ヤビットだ。俺が冒険者やってた頃の知り合いでな。建物の説明とか色々してくれるらしいから引っ張ってきた。聞き逃すなよ」
「あはは、そんなに詳しいわけじゃないんだけどね。せいぜいが道案内と、獣人国民なら誰でも知ってるようなことを教えてあげられる程度さ。よろしく!」
リカルドに紹介された彼は、白い髪に赤い瞳をしており、頭にこれまた白くて長い兎の耳が生えた若い男性だった。これで髭の生えた筋骨隆々なオジサンとかだったら、誰得だよ! って感じだけどヤビットは爽やかな顔立ちの細身だから大丈夫だ。
「さて、まずは時計塔だったよね? 行く途中に噴水広場もあるから一緒に説明しようか。ついてきて」
先生達も含め、僕達35人越えの集団がぞろぞろとついて行く。獣人国は鎖国というほど厳しくはないが、他種族の入国者を拒否している為、獣人だらけ。俺達が珍しいらしく、周囲の視線を集めまくっている。
駅前の大通りをずっと進んでいくと開けた場所に出た。中央に噴水があるので、ここが噴水広場で間違いないだろう。
「ここが噴水広場さ。以前は恋人達でとても賑わっていた場所なんだけど、今はだいぶ寂しいことになってるね。この噴水へ恋人と手を握りながら貨幣を投げ込めば、一生を添い遂げられると噂なんだよ」
トレビの泉みたいだな。たしかあれは硬貨を2枚入れると恋人と一緒にいられるんだったけか。写真で見たトレビの泉は海神ネプトゥヌス、豊穣神ケレス、健康神サルスの彫刻があったが、この噴水にはない。
幼いながらも恋愛感情をもつ生徒がいるのか、少し頬が赤い子もいる。ルーシィはどうなのか気になって隣の彼女を見てみると、何か考え込んだ様子で眉間に皺を寄せて目を閉じていた。
「ルーシィ、どうしたの? 大丈夫?」
「…………」
「ルーシィ?」
「……っ、ごめんなさいね。呼んだかしら?」
「難しい顔してるから心配になって。ベスティエに着いてからずっとそうだったけど、何考えてたの?」
一度目は無反応だったけど二度目の呼びかけでは反応してくれたルーシィが、俺の耳に口を寄せてこそこそ話をしてきた。
「父様の時代なら奴隷なんて有り得なかったのよ。今でも奴隷なんて貴族達が猛反対するはずなのにおかしいわ。それに街の皆の顔も暗いし……」
辺りを見渡すと、ルーシィの言う通り皆暗い顔で活気がなく、そもそも出歩いている人達の数が少ない。特に老人と子供に至っては1人も見かけられず、20代~40代の人ばかりだ。
「獣人国も貴族いるんだね。街の皆の顔が暗いのはやっぱりさっきの親衛隊のせいか、政治自体が悪化しているのかだよね」
「王を排出した家は貴族になれるわ。過去に何人排出したかで序列が決まったり、何十代も王が出ないと平民に戻ったりするけど。政治に関してはなんとも言えないわね。これは王も一応参加するけど、基本は貴族院任せだから、王が代替わりしてもそうそう悪い方向には傾かないはずなのよ」
だとしたら今の状況はなんだ。貴族院は一体何をしているのか。現地人に聞きまわるのが一番手っ取り早いけど、今は集団行動中。やれるとしたら明日の班行動時だろうな。
「そろそろ時計塔へ案内しよう。もう見えてるけど」
ヤビットが指さした方向に視線を向けると、煉瓦でできた高さ15mくらいの塔が見えた。
この街はカインと違い住宅と店が混在しているようなのだが、屋台と同じく店も静まり返っている。そもそも開いていないところも多い。
「この時計塔は毎日3時間おきに鳴るのさ。0時、3時、6時って感じにね。リカルド、今日は中に入るんだよね?」
「おう、頼んだ」
あれの中に入れるのか、凄いな。
時計が設置された面の逆側に入口があり、そこから中へ。内部は大小様々な歯車が重厚な音を立てながらゆっくりと回転している。壁の内側グルりと回るように備え付けられた階段を登り、上へ行く。
「手すりあるけど気をつけてね。もし、落ちて歯車に挟まったりしたら助からないから。手足がちぎれるくらいならまだいいけど、胴体が押しつぶされながら泣き別れするよ」
「「「ひっ」」」
それを聞いて一瞬で青ざめた子供達が怯えた声を上げる。かく言う俺もその一人だ。想像してしまった。
「あはは、そんなに怖がらなくても大丈夫さ。壁際に寄って歩いて、目線をずっと前に向けてればいいだけの事さ。それに、落ちそうになったら彼が助けてくれるよ。な、リカルド?」
「当然だ。これでも俺は元Aランク2級の冒険者だからな。それに、生徒を守るのも先生の仕事のうちだ。安心しろ」
ダンジョンの最下層まで行くような冒険者なら妥当のランクだな。
それを聞いたみんなは安心できたようで、まだ多少ビクビクしているが普通に階段を上り始めた。一番上に辿り着くと尖った天井が屋根になっていて、壁が吹き抜けになっているデザインだった。頬に感じるそよ風が心地いい。
「この塔は街の中心にあってね。その鐘の音は街の一番端まで届くんだ。そろそろ9時の鐘が鳴るから耳を塞いでおいた方がいいよ」
首都だけあってこの街は相当広い。その街の端まで届くような音をこんな近くで聞いたら、お耳さんが一大事だ。
ハーフエルフ特有の少し尖った耳をしっかりと押さえた。ヤビットやルーシィの様な押さえにくい形をした耳はどうやって押さえているんだろう? 気になって見てみたら、2人とも耳をペタンとさせてその上から押さえていた。
直後、カチッと針が動く音と共に、ゴーンゴーンと低くい音が長く響いた。
「相変わらず渋くていい音だね。さて、そろそろ降りようか。次の見学はお城だからね。っといっても外から見るだけだけど」
いよいよベスティエの城か。俺が獣人国の見学で結構楽しみにしていた場所。神魔国の城は主に大理石と魔法金属でできていたけど、この国はどうだろうか? 期待に少し足を弾ませながら階段を降りていった。
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