転生王子の異世界無双

海凪

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第3章〜カイン学園編〜

第49話。場内脱出

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 何の音もしない廊下を静かに歩く。
 4階は巡回兵と遭遇しなかったのだが、3階に続く階段を降りてきた時、2人組の気配を察知した。

 すっ、と腕を横に伸ばして止まれの合図を出す。

「っ……」

 後続が立ち止まって息を潜める。

「なぁ、ゲパルド陛下についてどう思う?」
「おいおい、こんな所でいいのか?  誰かに聞かれたらどうするんだ」
「他の巡回もいないし、いいじゃないか」

 その誰かが居たりするんだが、視界に映らない俺たちに気付くことなく会話を始めた巡回兵。

「うーん。みんな、笑わなくなったよな」
「一番はそれだけど、あの得体の知れない違和感……みたいなのが気味悪い」
「あれか。近くに行くだけでゾワゾワする感じの」
「そうそう、陛下ほどじゃないけど親衛隊達もなんだか変だよな」

 新王ゲパルドと、その周囲を固める親衛隊の情報。
 思ってもない所で出てきたのは好都合だ。

 声を抑えている彼らの会話に耳をすませる。

「あぁ、ゲパルド陛下になってから、変わっちまったよ。ヴォルクス陛下の時は皆良い人達だったのに」
「親衛隊所属の幼馴染も穏やかなヤツだったのに、最近はずっと荒れてるぜ」
「そうなのか。でもついこの間新しく親衛隊に加入した数人は、昔から良い評判聞かなかったよな」
「そういやそいつ等からは嫌な雰囲気しなかった」

 聞き取れたのはこの辺りまでで、あとは断片的にしか聞こえなかった。
 予想外の収穫にしては上出来だろう。

 その後は、何度か巡回兵とすれ違ったが、私語をしているような兵士はなかなかいない。
 結局、情報を得られたのはさっきの一度きりだった。
 何も無いまま1階の庭に到着する。

「さて。予定通り貴族院の方々にはここで待機してもらえますか?  俺たちは地下に行きますので」
「わかりました。姫様を頼みますぞ」
「もちろんです」

 サラシャの魔法がきちんと機能しているのを確認し、俺達3人はその場を離れた。

 城内を進みながら話すのは、さっき聞いた巡回兵の会話についてだ。

「エミル、どう思う?」
「聞いた限りだと、違和感しかないね」
「そうね。あたしの知ってる彼らなら、駅前で横暴を働く隊員なんて許すはずないもの」

 俺の後ろで聞いていたルーシィは、当然以前の親衛隊の様子を知っているようで肯定した。

「何かありそうですが、今は急いだ方がいいですわ」
「そうですね」

 4階からの往復と違い、1階から地下へはすぐだった。
 地下への階段自体あまり目立たない場所にあったし、何より距離が近いので、必然的に巡回兵とすれ違う回数も減る。

 牢の見張り番は居眠りをしていたので、腰から鍵を取り、そのままサラシャが結界に閉じ込めた。

「こういうやましい事を隠すには、大体1番奥なのが定石なんだけど……壁、だね」
「壁ね」
「壁ですわね」

 手前側にあった牢は全て誰もいなかった。
 ハーフエルフ達の反応は確かにこの壁の奥にあるのだが、行き方がわからない。

「ねぇ、仕掛けがあるとかじゃないかしら? 非常時の王族用隠し通路にそういうのがあるって聞いたことがあるわ」

 そう言ったルーシィが、壁のレンガをグイグイ押し始めた。

「そういえば聞いたことがある。俺も手伝うよ」
「私もお手伝い致しますわ」

 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。
 それぞれテキトーにレンガを押していたのだが、思っより早く当たりを見つけることが出来た。

「っ、これね!」

 ルーシィの声と共に、ゴゴゴ……と重いものが擦れる音が響き、隠されていた牢屋が顕になった。

「ルーシィお手柄だね」

 ルーシィを労って、奥に広い牢の中の人影に話しかける。
 不安にさせないよう、優しい声音を意識して。

「ハーフエルフの皆様方、助けに来ました。大丈夫ですか?」
「ほ、ほんとう……? 貴方は誰?」

 恐る恐るという雰囲気だったが、期待が込められた声で返答が来た。

「ええ、本当ですよ。俺はハーフエルフのエミル。こっちは獣人のルーシィと、天族のサラシャです」
「同族? ……安心して良さそうね。来てくれてありがとう」

 話を受け入れてくれた様なので、鍵を使って鉄格子を開け、中に入った。

 エルフの系譜なら精霊召喚や強力な魔法で、簡単に脱走くらいできるが、そういう種族の為に魔封じの腕輪というものがある。

 魔力を吸収する性質を持つ魔封じの石を粉末状にして金属と混ぜ、手錠や腕輪にした拘束具の1種だ。
 これの特徴は、身につけている者のみに効果があるという事。
 魔封じの石はそのままだと周囲の魔力を吸いまくるが、粉にすると一気に効果が低くなるのだ。

 カインの初依頼で助けたハーフエルフ達にも取り付けられていたが、あの時は急ぐ必要があったし、外に味方が待っていたので任せた。

 しかし、今回は状況が差し迫っている訳でもないのでここで解除していこう。

「腕輪出してもらえますか?」
「えぇ」

 差し出された腕にピッタリとはまっている腕輪へ向けて、目にも止まらぬ速度で剣を引き抜いて切りつけた。

 ──パキン──

「えっ? 凄い……」
「他の方も腕輪を出してください。壊します」

 信じられない様な顔で真っ二つになった腕輪を見ている女性はルーシィ達に任せ、俺はどんどん腕輪を破壊していった。

「これで終わりっと。サラシャさん、頼みます」
「はい」

 例のごとく結界を貼り、救出したハーフエルフ達を連れて1階に移動した。

「おお姫様、ご無事でしたか!」
「当然よ。何か変わったことは?」
「いいえ、何も。強いていえばコウモリが1匹飛んできたくらいです」
「そう、ならいいわ」

 お互いの無事を確かめ合ったルーシィと貴族が、同時にこちらを見る。

「で、エミル。この後はどうするの? この人数で堀を超えるのは大変よ」
「それなんだけど、ちょっと策がある」

 これだけの人数が居るからこそ、出来るはずな作戦がある。
 声を潜めていても聞こえるように、ハーフエルフ達に近づいてから俺は話始めた。

「この中に、風の精霊と契約している人は居ますか?」
「はい」
「私も」
「俺もだ」

 その後も何人か名乗りを上げて計8人程居たので、彼らを呼んで質問する。

「シルフの風の力を借りて、堀の外へ全員を移動させたいんです。できますよね?」

 俺は精霊契約をしていないのでその力の恩恵を受けたことは無いが、母様から聞いた話から推測すると可能な筈だ。

 しかし、彼らは顔を見合わせて難しい表情をして答えた。

「それが……。毎朝魔石に魔力を込めさせられていたので魔力が少ないんです。呼び出すくらいはできますが、こんな人数を運ぶなんてとても……」

 捕まっていた経緯を考えて予測していたが、やはり魔力不足か。
 だが、それくらいなら全く問題ない。

「それなら大丈夫です。俺の魔力を渡すので手を出してください」
「えっ、君そんなことして大丈夫なのか」
「平気ですよ」

 心配そうにおずおずと差し出された手をとり、魔力を流し込んでいく。
 過剰な魔力は毒になるので控えめにしたのだが、それでもかなり多かったようだ。

「なっ! なんだこの魔力量は……君は一体……?」

 その質問には答えられないので笑って誤魔化し、次々と魔力の受け渡しを済ませていく。

「よし。では皆さん、堀の移動はお願いしますね」
「あぁ、任せてくれ」

 その返事に大きく頷き、150余名を連れて侵入してきた時と同じ場所まで来た。

 精霊使いに目配せし、召喚を始めてもらう。

「我、古より汝らと縁を結ぶ者。風を求る者なり。契約に従い顕現せよ、シルフ!」

 ふわりと優しい風が吹き、緑の光が8つ現れた。
 普段は精霊を見る力をオフにしているので久しぶりに見るが、あれが風の精霊シルフで間違いない。

「シルフ、僕達をあそこまで運んで欲しいんだ。頼めるかい?」

 1人が代表して願うと、肯定の意を示しているのか、シルフ達が明滅しながらくるくる回った。

「ありがとう、そーっと頼むよ」

 その願い通り、ゆっくりと柔らかい風で包まれた俺たちは、ふわふわと堀を越えて対岸へ着くと丁寧に降ろされた。

「ありがとう、助かったよ」

 エルフの系譜に連なるものとして、そして力を借りた者として俺もお礼を言った。
 シルフは話すことが出来ないので、チカチカと数度光ってから消えた。
 きっと元の場所に帰ったのだろう。

 さて、無事に城を脱出できたが、狐屋敷に着くまでが脱出作戦だ。
 今一度気を引き締めた。

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