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ゲイチャット
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年明け下級生と行く産科実習。新しい命と人生の岐路に立つ人たち、それを取り巻く不安と恐怖。そんな環境に身を置くことが怖くて絶望する。怖い。今の自分にはそんな辛い思いをしてまで乗り越えなければならない理由もない。乗り越えたらこの先の人生は明るいのだろうか。逃げる理由はいくらでも湧く。それでも立ち止まることも逃げることも地獄につながるに違いない。産科と地獄、どちらが居心地よいだろう。
押しつぶされそうになりながらこたつの中で寝そべり、体を起こすこともできずにスマホを開く。「誰か助けてくれ。」そんなことを思いながら出会い系アプリを探していた。LGBT専用のアプリに登録し、プロフィールを公開した。レズビアンばかりで男性は少ない。声はかからず声もかけず。すぐにゲイ専用アプリをダウンロードする。体が女の自分は需要がないだろうし、心無いことを言われるのが怖い。プロフィール画像は最も痩せていた自信のあるものにする。アイコンに切り取ると顔面ドアップになるが、まあ仕方ない。ここでは飢えた受け側の人たちが悲壮感あふれる言葉でタチを誘いまくっている。プロフィールを見漁っていると、身長、体重、どこに住んでいるかを書いている人が多い。なるほど、体型が重要なのか。画像は明らかに加工してあるものや顔を隠しているもの、引きで後ろ姿などが多い。私も身長、体重を記し、「FtMG」と追加。画像はそのままで。
Twitterのように何気ないことをつぶやいて、タイムラインに表示されやすくする。誰かのつぶやきに反応する。そんなことをしていると声がかかるようになった。東京のどこに住んでいるか、いつ会えるか聞かれる。「FtMGのGってなに?」と興味を持ってくれる。中には外国人もいる。みんなのつぶやきを見ていると、「精器を突っ込まれたい」的な内容がほとんどで、自分なんか会ったらがっかりされると思った。だから声をかけてきた人には必ず「体は女だけど大丈夫か」と聞いた。去っていく人もいれば、バイセクシャルでボーイッシュな女を歓迎する人もいる。しかし大抵は「すぐやれる人」を求めて声をかけてきた。言葉を選び、嫌われないように「ゲイの方々はFtMは無理?」とつぶやくと、個人あてに「少なくとも僕は無しかな」と優しいひとが返してくれた。わかっていたことながら少し希望をなくす。ゲイアプリでありながら女の子やバイセクシャル、ストレートと思われる人が結構いて、その人たちからはオファーが絶えなかった。あまりにも「即やり希望」が多いため、プロフィールに「真剣なお付き合いを求めている」と付け足した。
苦しい実習の日の朝たばこを吸いながらやり取りするのがルーティーンになった。どんな人と出会えるのかわくわくした。ある人とは実習が終わって家族が寝静まってから電話をした。あるひととは深夜に会った。初対面の人の車に乗るのは少し怖かったがもうどうでもよかった。
土曜日の朝、20代前半の男性から「おはようございます。よかったら話しませんか!!」とメッセージがきた。「おはようございます。ありがとう。学生さん?」と返すと、「ああ、ありがとうございます! 社会人です泣 バナナさんも?」と返ってきた。このような声のかけ方はこのアプリで初めてだったので、「即やり希望ではなさそうだ」と警戒せずに話ができた。ただ舐められないように強気な口調で絵文字はほとんど使わなかった。しばらくは相手から趣味の話や自炊するかどうかなど、どんな生活をしているのかを伺うような質問がきて、だらだらと会話した。
この若い男の子こそが、私の真っ暗な人生に糸を垂らした神様である。
押しつぶされそうになりながらこたつの中で寝そべり、体を起こすこともできずにスマホを開く。「誰か助けてくれ。」そんなことを思いながら出会い系アプリを探していた。LGBT専用のアプリに登録し、プロフィールを公開した。レズビアンばかりで男性は少ない。声はかからず声もかけず。すぐにゲイ専用アプリをダウンロードする。体が女の自分は需要がないだろうし、心無いことを言われるのが怖い。プロフィール画像は最も痩せていた自信のあるものにする。アイコンに切り取ると顔面ドアップになるが、まあ仕方ない。ここでは飢えた受け側の人たちが悲壮感あふれる言葉でタチを誘いまくっている。プロフィールを見漁っていると、身長、体重、どこに住んでいるかを書いている人が多い。なるほど、体型が重要なのか。画像は明らかに加工してあるものや顔を隠しているもの、引きで後ろ姿などが多い。私も身長、体重を記し、「FtMG」と追加。画像はそのままで。
Twitterのように何気ないことをつぶやいて、タイムラインに表示されやすくする。誰かのつぶやきに反応する。そんなことをしていると声がかかるようになった。東京のどこに住んでいるか、いつ会えるか聞かれる。「FtMGのGってなに?」と興味を持ってくれる。中には外国人もいる。みんなのつぶやきを見ていると、「精器を突っ込まれたい」的な内容がほとんどで、自分なんか会ったらがっかりされると思った。だから声をかけてきた人には必ず「体は女だけど大丈夫か」と聞いた。去っていく人もいれば、バイセクシャルでボーイッシュな女を歓迎する人もいる。しかし大抵は「すぐやれる人」を求めて声をかけてきた。言葉を選び、嫌われないように「ゲイの方々はFtMは無理?」とつぶやくと、個人あてに「少なくとも僕は無しかな」と優しいひとが返してくれた。わかっていたことながら少し希望をなくす。ゲイアプリでありながら女の子やバイセクシャル、ストレートと思われる人が結構いて、その人たちからはオファーが絶えなかった。あまりにも「即やり希望」が多いため、プロフィールに「真剣なお付き合いを求めている」と付け足した。
苦しい実習の日の朝たばこを吸いながらやり取りするのがルーティーンになった。どんな人と出会えるのかわくわくした。ある人とは実習が終わって家族が寝静まってから電話をした。あるひととは深夜に会った。初対面の人の車に乗るのは少し怖かったがもうどうでもよかった。
土曜日の朝、20代前半の男性から「おはようございます。よかったら話しませんか!!」とメッセージがきた。「おはようございます。ありがとう。学生さん?」と返すと、「ああ、ありがとうございます! 社会人です泣 バナナさんも?」と返ってきた。このような声のかけ方はこのアプリで初めてだったので、「即やり希望ではなさそうだ」と警戒せずに話ができた。ただ舐められないように強気な口調で絵文字はほとんど使わなかった。しばらくは相手から趣味の話や自炊するかどうかなど、どんな生活をしているのかを伺うような質問がきて、だらだらと会話した。
この若い男の子こそが、私の真っ暗な人生に糸を垂らした神様である。
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