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2章-2

第22話

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「魔族の極意エゴイズムにはいくつか弱点があると言ったはずじゃ。弱点はもうひとつあるのじゃ」

「もうひとつ……ですか?」

「さよう。そしてこれが現状を打破する糸口となるとワシは考えておる。魔族は……極意に対してはめっぽう弱いのじゃ」

 このこともブライが【写天三眼ザ・ヴィジョン】を使って調べたことだった。
 
「魔族の弱点はないかと探ってるうちに極意の穴を見つけてのう。ニズゼルファにこれが通じるかは分からんが、少なくとも冥界旅団の魔王相手にはこれが有効のはずじゃ」

 極意は多くの種族相手に最強の力を発揮してきたわけだが、それは魔族に対しても同じだったようだ。

「おそらくじゃが、魔王たちはそれが分かっているからお互いが戦い合わないように冥界旅団なんてものを結成して徒党を組んでおるのじゃろう」

「しかしブライ殿。魔族相手に極意が効果的だと分かったところでそれでいったいなんの意味があるのだ?」

「ガンフーはんの言うとおりや。極意は魔族しか扱えないんやで?」

「それにティムさまを助けるマキマさんの重要な役目って……いったいなんなのでしょうか?」

 幹部三人の疑問にまとめて答えるようにブライが続ける。

「うむ。マキマ嬢には【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】を使ってもらおうと思っておるのじゃ」

「【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】ですかぁ?」

「なんッスかそれ」

「わたしの所有しているスキルになります」

 ドワ太とドワ助に返答しつつ、マキマは神妙に頷く。

(そっか。【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】の存在をすっかり忘れてたな)

 実はマキマはティムやブライ同様、【闘覚解放ファイトプライド】のほかにもうひとつのスキルを所有していた。
 それがEXスキルの【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】だった。

 このスキルは、相手のスキルをコピーするという反則的な性能を有している。
 〈剣聖〉として祝福を受けた際、同時にこのEXスキルを獲得したことはマキマにとって大きな衝撃だった。

「相手のスキルをコピーする……。アニキ! すごい異能ですねぇ~!」

「んなもん使われた方はたまったもんやないやろ」

「人族がスキルを使えるってだけでも羨ましかったッスけど……。その中でもとんでもないスキルッスよ!」
 
 刀鎧始祖族エルダードワーフの三人が驚くように、このスキルを所有していることはマキマにとってかなりの負担だった。

(だってこれは禁じ手に該当する力だから)

 マキマはこれまでいちども【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】を使ってこなかった。
 
 このスキルを授かってから今まで使用する機会がなかったというのもあるが、意図してマキマはこの禁忌的な力を封印してきた。

 だからブライに言われるまでこのスキルの存在をすっかり忘れていたのだ。

(たしかにスキルはコピーできるけど)

 が、当然極意はコピーできない。
 ブライがいったいなんのためにこれを使えと言っているのかマキマには分からなかった。


 そんなマキマの思いに気づいてか、ブライは小さく首を横に振る。

「違うのじゃ。それをそのままジャイオーンに使ってほしいと言ってるわけではないのじゃ」

「ブライはん! もう少し分かりやすく言ってくれや! 時間もないねんで!」

「アニキ! この魔法陣の中では時間は止まってるんッスよ?」

「んなことは分かっとるわ! アホっ!」

「痛ぃっ!? なにも叩かなくていいじゃないッスかぁ~」

「けれどドワタン殿の言うことももっともだ。そちらの貴女も混乱してるように見える。もっと理解できるように言うべきではないか?」

 ガンフーにそう詰められ、ブライは口元のヒゲに触れながら頷く。

「たしかに皆の言うとおりじゃな。簡潔に言いすぎたかもしれん。マキマ嬢がティムさまが所有する三つ目のスキルの存在について知らなかったことを失念しておったわ」

「え、三つ目……? ティムさまはほかにもなにかスキルを所有されてるんですか?」

 マキマが把握しているのは、勇者の固有スキルである【煌世主ギラメシアの意志】とEXスキルの【オートスキップ】だ。
 このほかにもスキルを有していたとは初耳だった。
  
「さよう。不思議に思わんかったか? イヌイヌ族とドワーフ族だった彼らがこのように種族進化を果たしたことに」

「言われてみれば……たしかに不思議でした」

「これはワシの予想なのじゃが。ティムさまがそなたたちの種族進化に一役買ってたのではないかのう?」

「おっしゃるとおりです。ティムさまが我らイヌイヌ族に進化の道をもたらしてくださりました」

「せや。ワイらドワーフ族も種族進化できたんはティムはんのおかげやで!」

 それを聞いてブライは確信を抱いたようにこう続ける。

「おそらく。その際にティムさまの三つ目のスキルが使用されたはずじゃ」

「ブライ殿。それはどのようなスキルなのか?」

「【智慧の頂グレイトミラクル】といってのう。〈贈与士ギフター〉の固有スキルなんじゃが、これは『自身が持てる力を相手に分け与えることができる』という能力を持ったスキルなのじゃ」

「自身が持てる力を…………あ」

 ここで霧丸がなにか気づいたように声を上げた。

「我々イヌイヌ族はティムさまからレベルを分け与えていただき、蒼狼王族サファイアウルフズへと種族進化することが叶いました。ひょっとするとブライさんがおっしゃるようにティムさまはそのスキルを使ったのかもしれません」

「ワイらはたくさんの武器や資材をティムはんに買ってもらって進化できたさかい。そのスキルは関係ないのかもしれへんけど……。力を相手に分け与えることができるなんて、これもなかなかすごいスキルやで」

「コピーするスキルと力を分け与えるスキルか。我の予想が正しければ、ひょっとして……」

「気づいたようじゃな。もう答えを口にすると、マキマ嬢にはこの【智慧の頂グレイトミラクル】をコピーしてもらいたいのじゃ」

「コピーするのはいいんですけど。いったいなんのためにでしょうか?」

 この段階になってもマキマはブライが言おうとしていることがまだ理解できなかった。

 だからブライは最後のピースをはめるように、なるべく分かりやすい言葉で伝える。

「そなたの【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】をティムさまに与えてほしいからじゃ」
 
 そこでようやくマキマはピンとくる。
 どこか焦燥感を抱きながら続きの話に耳を傾けた。

「【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】をティムさまが所有すれば、【煌世主ギラメシアの意志】が働いて、もしかするとジャイオーンの極意をコピーできるなんてことがあるかもしれんのでのぅ」

「そんなことが可能なんッスか!?」

「本当ならすごいですけどぉ……」

「うむ。スキルと極意は表裏一体の存在なのじゃ。勇者として再覚醒したティムさまなら極意をコピーすることだってきっとできるはずなのじゃ」

「ですがブライさん。それを成し遂げるためにはどこかで時間を作らなければならないのではないでしょうか?」

「たしかに霧丸はんの言うとおりやな。今ティムはんは魔王と戦ってる最中なんやで?」

 ざわざわと場が騒がしくなる中。
 ブライは笑みを浮かべてなんでもなさそうに口にする。

「そこはワシが魔王の気を引くつもりじゃ。マキマ嬢が覚悟を決めたようにそれくらいのことワシだってできるはずじゃからな」

「ブライさま……」

 それがどれほど危険な行為か。
 当たり前だがブライには分かっていた。
 
 ひょっとすると命を落とすことだってあるかもしれない。
 さっきマキマはそんな決意のもと魔王の気を引くと発言したのだ。

(でも、このアイデアがジャイオーンを倒すことができるかもしれない可能性を秘めてるのもまた事実なんだ)

 魔王を倒せるかもしれないということは、ウェルミィを救えるかもしれないということ。
 神聖騎士隊の隊長としてどの選択を選ぶのが正しいかは明白だった。

「案ずるでない。先ほども言ったとおり、極意は長時間連続で使うことはできないのじゃ。老いぼれはまだ死んだりせん。姫さまがひとり立ちするまでワシの知恵を活用してもらおうと思っておるからのう~」

「そういうことでしたら蒼狼王族族長として某も力をお貸しいたします」

「そうだな。このまま街の外へ逃げるわけにはいかぬ。我にもオーガ族首領としての誇りがあるぞ」

「もちろんワイもや! 霧丸はんとガンフーはんにだけかっこいい思いはさせへん! 力になってみせるで~!」

「ですねアニキっ!」

「オイラたちも少しは役に立つッスよ~!」

 全員がブライに向けてサムズアップする。

「まさか協力してもらえるとは思ってなかったのじゃ……。本当にいいのかのう?」

「当然だ。助けてもらった恩を返すまでのこと。礼には及ばん」

「せやせや! これもなにかの縁やで。ここは助け合いといこーやないか!」

「……うむ。そなたたちの勇気、心から感謝するのじゃ」

 まだ会って間もないはずなのに。
 皆の間にはこれまでずっと過ごしてきたかのような暖かさがあった。

「というわけです、マキマさん。魔王のことは我々にお任せください」

「皆さん……」

 全員がこう言っている以上マキマにはなにも言えなかった。
  
(それよりも今は……。自分のすべきことに集中しなくちゃ)





 そのあと。

 話がまとまってからの皆の行動は早かった。

「マキマ嬢、ワシらが先行してジャイオーンの気を引きつけるのじゃ。そなたはティムさまを探して隙をみてスキルを渡すのじゃ」

「分かりました。皆さんどうかご無事で」

 ブライの合図をきっかけに全員は魔法陣の外へと飛び出す。
 
 好き放題暴れまわる魔王に一矢報いるための戦いが今はじまろうとしていた。
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