どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ

文字の大きさ
58 / 68
2章-2

第22話

しおりを挟む
「魔族の極意エゴイズムにはいくつか弱点があると言ったはずじゃ。弱点はもうひとつあるのじゃ」

「もうひとつ……ですか?」

「さよう。そしてこれが現状を打破する糸口となるとワシは考えておる。魔族は……極意に対してはめっぽう弱いのじゃ」

 このこともブライが【写天三眼ザ・ヴィジョン】を使って調べたことだった。
 
「魔族の弱点はないかと探ってるうちに極意の穴を見つけてのう。ニズゼルファにこれが通じるかは分からんが、少なくとも冥界旅団の魔王相手にはこれが有効のはずじゃ」

 極意は多くの種族相手に最強の力を発揮してきたわけだが、それは魔族に対しても同じだったようだ。

「おそらくじゃが、魔王たちはそれが分かっているからお互いが戦い合わないように冥界旅団なんてものを結成して徒党を組んでおるのじゃろう」

「しかしブライ殿。魔族相手に極意が効果的だと分かったところでそれでいったいなんの意味があるのだ?」

「ガンフーはんの言うとおりや。極意は魔族しか扱えないんやで?」

「それにティムさまを助けるマキマさんの重要な役目って……いったいなんなのでしょうか?」

 幹部三人の疑問にまとめて答えるようにブライが続ける。

「うむ。マキマ嬢には【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】を使ってもらおうと思っておるのじゃ」

「【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】ですかぁ?」

「なんッスかそれ」

「わたしの所有しているスキルになります」

 ドワ太とドワ助に返答しつつ、マキマは神妙に頷く。

(そっか。【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】の存在をすっかり忘れてたな)

 実はマキマはティムやブライ同様、【闘覚解放ファイトプライド】のほかにもうひとつのスキルを所有していた。
 それがEXスキルの【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】だった。

 このスキルは、相手のスキルをコピーするという反則的な性能を有している。
 〈剣聖〉として祝福を受けた際、同時にこのEXスキルを獲得したことはマキマにとって大きな衝撃だった。

「相手のスキルをコピーする……。アニキ! すごい異能ですねぇ~!」

「んなもん使われた方はたまったもんやないやろ」

「人族がスキルを使えるってだけでも羨ましかったッスけど……。その中でもとんでもないスキルッスよ!」
 
 刀鎧始祖族エルダードワーフの三人が驚くように、このスキルを所有していることはマキマにとってかなりの負担だった。

(だってこれは禁じ手に該当する力だから)

 マキマはこれまでいちども【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】を使ってこなかった。
 
 このスキルを授かってから今まで使用する機会がなかったというのもあるが、意図してマキマはこの禁忌的な力を封印してきた。

 だからブライに言われるまでこのスキルの存在をすっかり忘れていたのだ。

(たしかにスキルはコピーできるけど)

 が、当然極意はコピーできない。
 ブライがいったいなんのためにこれを使えと言っているのかマキマには分からなかった。


 そんなマキマの思いに気づいてか、ブライは小さく首を横に振る。

「違うのじゃ。それをそのままジャイオーンに使ってほしいと言ってるわけではないのじゃ」

「ブライはん! もう少し分かりやすく言ってくれや! 時間もないねんで!」

「アニキ! この魔法陣の中では時間は止まってるんッスよ?」

「んなことは分かっとるわ! アホっ!」

「痛ぃっ!? なにも叩かなくていいじゃないッスかぁ~」

「けれどドワタン殿の言うことももっともだ。そちらの貴女も混乱してるように見える。もっと理解できるように言うべきではないか?」

 ガンフーにそう詰められ、ブライは口元のヒゲに触れながら頷く。

「たしかに皆の言うとおりじゃな。簡潔に言いすぎたかもしれん。マキマ嬢がティムさまが所有する三つ目のスキルの存在について知らなかったことを失念しておったわ」

「え、三つ目……? ティムさまはほかにもなにかスキルを所有されてるんですか?」

 マキマが把握しているのは、勇者の固有スキルである【煌世主ギラメシアの意志】とEXスキルの【オートスキップ】だ。
 このほかにもスキルを有していたとは初耳だった。
  
「さよう。不思議に思わんかったか? イヌイヌ族とドワーフ族だった彼らがこのように種族進化を果たしたことに」

「言われてみれば……たしかに不思議でした」

「これはワシの予想なのじゃが。ティムさまがそなたたちの種族進化に一役買ってたのではないかのう?」

「おっしゃるとおりです。ティムさまが我らイヌイヌ族に進化の道をもたらしてくださりました」

「せや。ワイらドワーフ族も種族進化できたんはティムはんのおかげやで!」

 それを聞いてブライは確信を抱いたようにこう続ける。

「おそらく。その際にティムさまの三つ目のスキルが使用されたはずじゃ」

「ブライ殿。それはどのようなスキルなのか?」

「【智慧の頂グレイトミラクル】といってのう。〈贈与士ギフター〉の固有スキルなんじゃが、これは『自身が持てる力を相手に分け与えることができる』という能力を持ったスキルなのじゃ」

「自身が持てる力を…………あ」

 ここで霧丸がなにか気づいたように声を上げた。

「我々イヌイヌ族はティムさまからレベルを分け与えていただき、蒼狼王族サファイアウルフズへと種族進化することが叶いました。ひょっとするとブライさんがおっしゃるようにティムさまはそのスキルを使ったのかもしれません」

「ワイらはたくさんの武器や資材をティムはんに買ってもらって進化できたさかい。そのスキルは関係ないのかもしれへんけど……。力を相手に分け与えることができるなんて、これもなかなかすごいスキルやで」

「コピーするスキルと力を分け与えるスキルか。我の予想が正しければ、ひょっとして……」

「気づいたようじゃな。もう答えを口にすると、マキマ嬢にはこの【智慧の頂グレイトミラクル】をコピーしてもらいたいのじゃ」

「コピーするのはいいんですけど。いったいなんのためにでしょうか?」

 この段階になってもマキマはブライが言おうとしていることがまだ理解できなかった。

 だからブライは最後のピースをはめるように、なるべく分かりやすい言葉で伝える。

「そなたの【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】をティムさまに与えてほしいからじゃ」
 
 そこでようやくマキマはピンとくる。
 どこか焦燥感を抱きながら続きの話に耳を傾けた。

「【波紋の呼吸ブレスオブウォーター】をティムさまが所有すれば、【煌世主ギラメシアの意志】が働いて、もしかするとジャイオーンの極意をコピーできるなんてことがあるかもしれんのでのぅ」

「そんなことが可能なんッスか!?」

「本当ならすごいですけどぉ……」

「うむ。スキルと極意は表裏一体の存在なのじゃ。勇者として再覚醒したティムさまなら極意をコピーすることだってきっとできるはずなのじゃ」

「ですがブライさん。それを成し遂げるためにはどこかで時間を作らなければならないのではないでしょうか?」

「たしかに霧丸はんの言うとおりやな。今ティムはんは魔王と戦ってる最中なんやで?」

 ざわざわと場が騒がしくなる中。
 ブライは笑みを浮かべてなんでもなさそうに口にする。

「そこはワシが魔王の気を引くつもりじゃ。マキマ嬢が覚悟を決めたようにそれくらいのことワシだってできるはずじゃからな」

「ブライさま……」

 それがどれほど危険な行為か。
 当たり前だがブライには分かっていた。
 
 ひょっとすると命を落とすことだってあるかもしれない。
 さっきマキマはそんな決意のもと魔王の気を引くと発言したのだ。

(でも、このアイデアがジャイオーンを倒すことができるかもしれない可能性を秘めてるのもまた事実なんだ)

 魔王を倒せるかもしれないということは、ウェルミィを救えるかもしれないということ。
 神聖騎士隊の隊長としてどの選択を選ぶのが正しいかは明白だった。

「案ずるでない。先ほども言ったとおり、極意は長時間連続で使うことはできないのじゃ。老いぼれはまだ死んだりせん。姫さまがひとり立ちするまでワシの知恵を活用してもらおうと思っておるからのう~」

「そういうことでしたら蒼狼王族族長として某も力をお貸しいたします」

「そうだな。このまま街の外へ逃げるわけにはいかぬ。我にもオーガ族首領としての誇りがあるぞ」

「もちろんワイもや! 霧丸はんとガンフーはんにだけかっこいい思いはさせへん! 力になってみせるで~!」

「ですねアニキっ!」

「オイラたちも少しは役に立つッスよ~!」

 全員がブライに向けてサムズアップする。

「まさか協力してもらえるとは思ってなかったのじゃ……。本当にいいのかのう?」

「当然だ。助けてもらった恩を返すまでのこと。礼には及ばん」

「せやせや! これもなにかの縁やで。ここは助け合いといこーやないか!」

「……うむ。そなたたちの勇気、心から感謝するのじゃ」

 まだ会って間もないはずなのに。
 皆の間にはこれまでずっと過ごしてきたかのような暖かさがあった。

「というわけです、マキマさん。魔王のことは我々にお任せください」

「皆さん……」

 全員がこう言っている以上マキマにはなにも言えなかった。
  
(それよりも今は……。自分のすべきことに集中しなくちゃ)





 そのあと。

 話がまとまってからの皆の行動は早かった。

「マキマ嬢、ワシらが先行してジャイオーンの気を引きつけるのじゃ。そなたはティムさまを探して隙をみてスキルを渡すのじゃ」

「分かりました。皆さんどうかご無事で」

 ブライの合図をきっかけに全員は魔法陣の外へと飛び出す。
 
 好き放題暴れまわる魔王に一矢報いるための戦いが今はじまろうとしていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

処理中です...